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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
33/40

五年後

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 街道を歩きながら、女の子は何度も私に頭を下げました。

 というのも、私が森を散歩している途中悪漢から女の子を助けたからです。

 そして今私は彼女を家に送っているところなのです。別の場所に向かっていたようですが、そこよりも彼女の家の方が近いのでそちらの方へ行きました。


「もういいですから。頭を上げて下さい」


 ああ、あと前回――の最後を除く――から五年くらい経ち、私もとうとう十歳になりました。身長も伸び、出るとこは出てたり、前よりも大人っぽくなりました。


「いや、でもやっぱり……」

「次頭を下げたら、今度はあなたに剣を向けて、それ以上頭を下げられないようにしますからね」

「は、はいぃ」


 私の大人の対応のお陰で彼女はその後謝ることはありませんでした。

 しばらくして、目的地に着きました。かなり大きな街で、壁で囲まれているうえに兵士らしき人が門の前で見張っていました。

 壁を通り抜けて街に入り、女の子の家まで無事に着きました。両親から感謝され、お礼として銀貨を十枚貰いました。お金は一応貰おうと思っていましたが、銀貨十枚はさすがに予想外でした。銀貨一枚ほどあれば慎ましく暮らせば二~三週間はもつほどのお金。それが十枚とは、彼女の家庭は結構裕福だったようです。


「たくさん貰ったせいで報酬を引き上げるのを忘れてしまいました。次は失敗しません」

『それは難しいと思うぜ?』


 頭の中からルシファーが話しかけてきました。


『いいか? たとえ働けるような年齢になったとしても所詮は子供。あの時報酬を吊り上げようとしても向こうは子供のわがままみたいなもんだと考えるさ』

『だったらルシファーがなんとかして下さいよ。悪魔でしょ。その黒い羽と紅い眼は飾りですか』

『俺が言ったら吊り上げるどころか脅迫になっちまうだろ。というか俺は悪魔じゃない。天使だ』


 どっちも似たような気もしますけどね。


 その後私は何でも屋に足を運びました。盗賊から剥ぎ取った物を換金するためです。普通は商会などでした方が良いのですが、私はまだ子供で、顔も知られていません。そんな私が換金を頼んでも誰も取り合ってくれないので、こうして年齢性別問わず何でも換金してくれるこの店に来たのです。


「おじさんこれ買って下さーい」


 私はカウンターの上にナイフ、革の服などを置きました。全部盗賊から剥ぎ取った物です。


「お嬢ちゃん。ここに来る度いつもそんな物持って来るが、いったいどうやって手に入れてるんだい?」

「お父さんとかお母さんの物を少し貰ってるんです」


 川で血や泥を洗い流したのでそれなりに見た目は良くなっているはずです。


「ハッハッ! それでまたここに来たわけだ! まだ子供なのに偉いなぁ!」

「子供じゃないしっ、もう働けるしっ」


 盗賊の持ち物は全部で銅貨一枚で売れました。ついでに銀貨を一枚だけ銅貨二十三枚――手数料が銅貨二枚なので実際は二十一枚――に交換してもらいました。これでパンでも買いに行きましょう。


 パンを食べながらうろうろしていると、大きな籠を背負ったハッシュと出会いました。ハッシュはたまに私の家に来て一緒に勉強とかしてくれます。初めて会った時は同じくらいの身長だったのに、今ではハッシュの方が目でわかるくらい高いです。


「仕事? それとも帰り?」

「帰りだ。母ちゃん達には言うなよ? 内緒で働いてるんだからな」

「……ふ~ん」


 ほうほう、内緒ですか。


「な、なんだよ。手なんか出して」

「銅貨一枚」

「はぁ!?」


 うるさいです。ほら、周りが見てるじゃないですか。


「冗談ですよ。お金が必要なんでしょう? そんなむごい・・・ことはしませんよ」

「な、ならいいんだ」

「まあ帰りなら都合がいいです。一緒に食事でもしましょう」


 私達はすぐ近くの店で食事をすることにしました。この店は親子連れがよく来るので私達でも安心して入ることができます。大きい人ばっかりだと色々と危ないので。


「臨時収入があったので、今回は私の奢りでいいですよ」

「う~ん、金を使うのは嫌だが、奢られるのもなぁ」


 木製のスプーンでスープをすくってはお皿に戻すのを何度も繰り返し、飲むべきか葛藤しているハッシュ。やはり奢られるのは好きではないのでしょうか。


「いいんですよ。しばらくは会えないですから」

「え、どういうことだ?」

「魔法学園の入学試験を受けに行くんですよ」


 五年前にお母さんに勧められた学園なのですが、そこでは屋敷にはない様々な本があり、さらに私と同じように魔法が使える人達が集まる場所のようです。

 そこへ行くと言うとハッシュは突然席から立ち上がりテーブルを叩きました。


「ま、魔法学園って十二歳から入学するんじゃなかったか?」

「いろいろルールが変わったようですよ。入学は今年で十歳になる人は認められるようになったらしいです」

「まじか」


 ハッシュはゆっくりと席に座って頭を抱えました。


「……いつ出発するんだ?」

「一週間後です」

「そうか、わかった」


 ハッシュは顔を上げて、私に礼を言った後店を出て行きました。


「……スープ、飲んでないよ?」





†††††





 ……まずい


 まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい……


「まずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅい!」


 俺はマリアと別れ、一目散に森の中を突っ走っていた。走りながら俺は『そういえばスープ飲むの忘れていたな~』と今の俺の心境とかけ離れたことを考えていた。切羽詰まった状況になるとどうでもいいことを考えてしまう。

 とにかく俺は全速力でマリアの家へ走った。


 しばらくして門が見えた。門の上のログベールの家紋がある。なんとか着いたようだ。

 一先ず汗を拭いて門を開けようとすると誰かに頭を殴られた。後ろを振り向くとシュトールさんがいた。


「ハッシュ様。たとえ貴方様がお嬢様のお友達であるとしても、そうやって堂々と、かつ無遠慮に屋敷の中へ入ることは許されませんぞ」

「はい、すいません」

「よろしい。さあ、屋敷に入りなさい。ジルシュ様はいつもの部屋におられます」

「ありがとうございます」


 門をくぐり、屋敷に入ろうとしたところでシュトールさんに呼び止められた。


「あとハッシュ様」

「なんですか?」

「次屋敷に入る時は金貨三枚相当のお召し物を……」

「持っているとでも?」


 この屋敷は昔マリアと一緒に探検したことがあるから大体の部屋割りは覚えている。俺はマリアのお父さんのジルシュさんの部屋へ向かっていた。


「ジルシュさん!」

「ああハッシュ君か。どうしたんだい?」

「学園が十歳から入学できるようになったって聞いてないぞ!」

「え、てっきり知ってるんじゃないかと」

「田舎なめんな! そんな情報が入るくらいなら俺の村はもっとでかくなってるハズだ!」

「不思議だよね。ここから一番近くにあるのに」


 とにかく、今はそんなことを言っている場合ではない。俺はジルシュさんに詰め寄り頭を下げた。


「お願いします! いつか必ず返すので、学園の入学金を貸して下さい!」

「……そうか、マリアと一緒に行きたいわけだね」

「はい」


 ジルシュさんの顔を見る。さっきのヘラヘラした顔から真剣な顔に変わっていた。初めて会った時はこんな顔はしなかったが、最近になってよく現れてきた。


「マリアは、貴族だ」

「はい」

「それだけじゃない。君の知らないたくさんの秘密がマリアにはある。それによって君にも被害が及ぶ可能性がある」

「……五年前倒れたあいつに、俺は何もしてやれなかったんです。俺は田舎者だから、見守ることしか出来なくて……。でも今は違います。マリアと一緒に勉強して、なんとか同じ所に来れた気がするんです。今度こそはあいつが大変な目に遭ったら助けてやりたいんです!」

「……そうかい。わかったよ。馬車まマリアと一緒に乗るといい。出来る限りの支援はしよう」

「ありがとうございます!」

「あと、試験を受ける前に君には王都で行ってもらいたい所がある。マリアが知っているだろうから、連れてってもらうといい」

「本当に、何から何まで」

「いいんだよ。君は少し、僕に似ているから」


 何か懐かしいものを見るようにジルシュさんを俺を見てきました。ジルシュさんにも、俺みたいだった時期があったのだろうか。


「ちなみに入学金は必要ないよ」

「ほ、本当ですか!?」

「うん。だからお金の心配はしなくてもいいよ」

「そうね。今は自分の命の心配をした方がいいわよ」

「……へ?」


 ジルシュさんの背後には、瞳孔が開き、恐ろしい笑みを浮かべてジルシュさんを見るクレアさんがいた。気のせいだろうか、髪の毛がうねうね動いているような。


「あなた、さっきあなたがメイドに色目を使ったと聞いたんだけど?」

「ハッシュ君。やはり先立つ物は必要だと思うから、お金をあげようじゃないか。いくらがいい? なぁに、お礼はいらないよ。今の状況をなんとかしてくれるなら――」

「私の話聞いてる?」


 ジルシュさんの頭をがっしり掴み持ち上げるクレアさん。その恐ろしい光景を見て、俺は廊下に出て、ゆっくりと扉を閉めた。しばらくして、屋敷中に誰かの断末魔が響き渡った。

地の文をマリアの一人称にすると、『ですます』が多くなっちゃうな……。

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