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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
27/40

ただいま

今回すごいスラスラ書けた。

「……」


 『マリアを元の場所に帰す』。ムムルさんはそう言いました。

 ほとんどアテもなくうろうろしている内に出会ったムムルさん。首だけだったのが、今では私の首が痛くなるくらい顔が高い位置にあります。

 全体的に危険だったのか危険じゃなかったのかよくわからない旅を思い出し。そして私は言いました。


「そういえばそれが目的でしたね」

「何忘れとるんじゃ!」


 いや、だってさっきまであんなことが起こっていたんですから、うっかり忘れてしまうことだってあるでしょう?


「はぁ~。それじゃあついて来るんじゃ」


 ついて来る。と言っても歩幅がありすぎるので肩に乗っての移動です。


「揺れる揺れる」

「どこかに掴みなさ痛たたたたたたっ!!」

「これで安心」


 揉み上げ辺りから伸びる髪の毛を掴んで落ちないようにしました。


 移動にはそれほど時間がかかりませんでした。というより、場所は私達が落ちた穴でした。


「ここで戻れるの?」

そのま前にお主にして貰わなければならぬことがある」


 そう言ってムムルさんが私の前に差し出したのは、穴に紐を通してムムルさんの首に提げられた、私の顔くらいの大きさの金属で出来た銀色の容器と、私の手の平くらいの長さの小さな銀スプーンでした。この大きさでよく持てましたね。


「この容器の中には向こうの泉の水が入っている。とても強い力を持つ水じゃ。お主が戻った時に何か役立つかもしれん」

「こっちのスプーンは?」

「スプーンの方ではない。ここに入っている水じゃ」


 スプーンを受け取り、じっと眺めると、確かに水が入っていました。すごく透明でよく見えなかったけど、スプーン一杯程の水がありました。


「ワシの泉の、最後の水じゃ」

「え? じゃああの泉は……」

「あれはたまたま近くにあっただけじゃ。この泉の水は今までたくさんの奴らが飲んでいっての。もうこの通り、すっからかんじゃよ」

「これが最後なんだね。……いいの?」

「ああ。というよりお願いじゃ。その水を飲んで、この泉をお主が終わらせて欲しい」


 何か思い出のようなものがあると思っていましたが、そうではなかったようです。私はスプーンの中にある水をじっと見ました。


「ムムルさん」

「なんじゃ?」

「なんで私はここに来たの?」

「……」


 私は今まで疑問に思っていたことをムムルさんに聞きました。ムムルさんならきっと知っているだろうと思ったからです。


「それは教えられん」

「えー」

「だがこれだけは言っておく。お主は来るべくしてここに来た」

「……」

「お主がここに来ることは、お主が産まれる前からとっくに決まっていたことなんじゃ」


 生まれる前に決まってたとは、凄いというより怖いですね。私生まれてなかったらどうしたんですか。

 ムムルさんはその大きな指で私の頬を撫でました。


「これからお主に降りかかる災難は、ワシ等のせいでもある。じゃから……」

「?」


 ムムルさんの指が僅かに震えました。顔を見ると、ムムルさんは涙を流していました。


「こんな、小さな体にっ、ワシ等はどれだけっ! 重荷を背負わせるようなことをしなくてはならんのじゃ! こんな無垢な子供の顔を! 涙でぐしゃぐしゃにしなくてはならないんじゃっ!」

「ムムルさ――」

「すまん! すまん!」


 私はムムルさんの指にそっと手を当てました。


「よくわからないけど、私は大丈夫だよ」

「マリア……」

「確かに大変なことが起こるかもしれない。たくさん泣いてしまうかもしれない。でも、それはムムルさんのせいじゃない。全部私のせい。私が重荷を背負うのも、私が泣いてしまうのも、私のせいで、私の勝手」

「じゃが、お主にはお主が想像していることよりもっと――」

「私の重荷も、傷も、涙も、全部全部私のもの。ムムルさんはまったく関係ない! 私の大切なものを、勝手にムムルさんのものにしないで!」

「っ!」


 私の体、私の人生、私の想い。そこには誰の入る余地もありません。もし他人のものにしてしまったら、もう私ではなくなってしまう。


「だから自分のせいだとか言って泣かないで。でも、もし私が大変な目にあっていたら、その時は助けて欲しいの。重荷を一緒に持って欲しいし、泣いた時には慰めて欲しい。傷ができたら、魔法で治して」

「……」

「私の人生はこれから。例え大変なことが起きても、頑張って乗り越えるあ安心して?」


 そして私はスプーンの水を飲みました。


「……マリア」

「なに?」

「ありがとう」


 ムムルさんはそう言うと、両手を私の左右に置き呪文を唱えました。すると両手の中が光に包まれ、私は中からその光景を見ていました。

 周りが光でいっぱいになり何も見えなくなった時、私の頭に激痛が走りました。あの時の痛みと同じ、中で何か暴れるような感覚。


「耐えるんじゃ! 耐えてくれマリア!」


 外からムムルさんの声が聞こえます。私は下唇を噛んで必死に痛みに耐えました。

 頭の中でいろんな光景が出てきます。森、海、塔、山、荒野、屋敷、お城。どこも暗くて恐ろしい場所でした。景色だけじゃありません。虫や動物に植物、様々な生き物が生活する光景が頭の中に入ってきます。

 今周りがどうなっているのか気になり、私は目を開けました。やはり変わらず周りは真っ白でした。しかし自分の体を見て驚きました。だんだん体が薄くなっているのです。


「き、きえ、消えちゃう!」

「安心するんじゃ! 元の場所に戻ろうとしているだけじゃ。体が完全に消えれば痛みもなくなる!」

「き、消える前に痛いのなくならないの!?」

「なるが、死ぬぞ!」

「頑張る!」


 少しずつ、少しずつ体が消えていきます。ゆっくりと消えていくのがとてももどかしいです。何十分経ったのか、私の体はもう消えかかりそうなところまできました。


「ぬおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 向こうでムムルさんが頑張っています。


「ムムルさん!」

「なんじゃ!」

「私からも! ありがとう!」


 そして、私の体は完全に消えました。





††††††††††




 体がだるい。喉もカラカラです。目をゆっくり開けると、光で目が焼けそうになりました。


「んむ」

「マリア!」

「起きたのかい!?」

「なんと!」

「あっ、あぁ」


 うるさいです。もう少し……。


「あと五分」

「起きろ!」


 この声はルシファーですね。わかりましたよ。起きますよ。


「……お母さん?」


 目の前には、涙を流しているお母さんと、さらに鼻水を垂らしているお父さんとお爺様がいました。あと少し後ろにハッシュ。


「マリアァ!」

「来ないで!」


 お母さんが抱きつこうとしたので、私は手で制しました。


「私は、怒ってるの」

「ど、どうしたのマリア?」


 みんなが同様しています。ルシファーだけは天井で事の行く末を見守っていました。


「お父さんとお爺様は仕事でいないし。お母さんはお家にすらいない。食事やお風呂にはメイドと執事しかいない」

「マリア、私はね、とても大事な用事があったの。それはマリアにとっても大事なことなのよ」

「僕もマリアに会えなくて悪かったよ。でも今僕は領地の経営を頑張らないといけないんだ」

「儂もコイツを一人前にしなければならない。それが終わったとしてもまだまだやるべきことがあるんじゃ」


 みんなは少しずつ私に近づこうとしましたが、これ以上来ないようにとみんなを睨みつけました。


「違うだろ」


 みんなの後ろでハッシュがそう呟きました。


「俺は家族が誰もいなくなったことはないけどさ、マリアの思っていることはわかる。あんたらはマリアのためとか言って全然マリアをわかってあげてないし、領地の経営とかよくわからんけど、マリアと一緒にいることができない理由にはならないだろ?」

「何言ってるの。私はちゃんとマリアのことを理解しているわ」

「そ、そうだぞ! 領地の経営をさっさとできるようにならないと領地の未来どころか僕の頭髪的な未来も大変なことになるんだぞ!」

「ジルシュ、お前は黙れ! だがな、本当に忙しいんじゃよ。マリアと一緒に遊べるような時間はないんじゃ」

「別に遊んでくれなくてもいい!」


 私は大声で言いました。


「遊んでくれなくてもいい。本を読んでくれなくてもいい。一緒に外でピクニックもしてくれなくてもいい。でも、でもぉ……」

「マリア……」

「誰も、誰もいないんだよ? 目を開けても、食事しても、何していても、ずっと、ずっとひとりなんだよ?」

『っ』


 みんなが苦しそうな顔になりました。私は少し嗚咽しながら続けました。


「夜寝ていても、誰もいない。ルシファーはどこにもいないから使えないし」

「おい」

「たまに思うんだよ。もしこのまま私が消えても、お母さん達は気づかないのかなって。このまま死んじゃうんじゃないかって……」

「……」

「お母さんと一緒に寝た時のことを思い出して眠るけど、だんだん思い出せなくなってきてる。お母さんやお父さんの思い出が消えて、何もかも忘れちゃうのかなって怖くなる」


 私は震える自分の体を抱き締めて丸く縮こまりました。


「でもね。わかってるんだよ。お父さんとお爺様は仕事があるし。お母さんもお母さんで忙しいって。でもやっぱり……」


 私は今まで言わなかった言葉を吐き出しました。


「寂しいよ」

「マリア!」


 お母さん達が私を優しく抱き締めました。そして思い出しました。あの時のお母さん、お父さん、お爺様と一緒に寝た日のことを。


「ごめんね。ごめんねぇ」

「いい父親になろうと思っていたけど、すっかり忘れていたよ」

「一人は寂しいよな。すまん、まだこんなに小さいのに、一人にさせてしまって」


 私だけじゃなくて、お母さんも、お父さんも、お爺様も泣いていました。お互いの顔を見て、最後はみんな笑っていました。


『お帰り、マリア』

「ただいま」




 その後、私は馬車で家に帰りました。


「ハッシュ」

「ん?」

「ありがとう」

「はっ、当たり前だ。俺はお前の友達第一号だろ?」

「うん」

「あとこれ」


 ハッシュが私に渡したのは、手の平くらいの大きさの黒い石でした。


「これ何?」

「この前拾った。母ちゃんは捨てろ捨てろってうるさかったから、やるよ」

「うん」

「また、会えるよな」

「会えるよ。それまで手紙書くからね」

「それじゃ。読めるように勉強すっか」


 そうして私はハッシュに見送られて村を去って行った。

 私の手には黒い石、そして肩に提げた銀色の容器を持っていました。





††††††††††





「行ったか……」


 大きな穴の側で、一人の巨人が呟いた。白く長い髭を生やし、背中にはもう一つの右腕と巨大な目があった。


「マリア」


 巨人は一人の少女の名を呼んだ。体は小さかったが、頭の良く、そしてとても大きな子供だった。


「『重荷を一緒に持つ』か……」


 巨人は天を仰ぎ、目を瞑った。


「すまんが、できそうにないの」


 直後、巨人の背後に向かって何かが飛んで行き、巨人の胸に穴を空けた。

 巨人はドサッと横に倒れ、それ以降巨人の目が開くことは二度となかった。

さて、これでなんとか一段落です。今後しばらくは日常回です(たぶん)。


次回、読者もたぶん忘れてた、作者はすっかり頭から消えていた。あの人の登場です。


誤字脱字増字それ以外にも『ここどうなの?』的なのがあれば感想にアドバイスお願いいたします。

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