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マリアの独り言  作者: 藤高 那須
第一章 始まりは産声から 幼少期編
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行先不明

 ムムルさんと一緒にあの木まで行くことになったのですが、一つ問題がありました。

 頭だけのムムルさんをどうやって運ぶか、まだ始まってもいないのに、私達の前に壁が立ちはだかりました。

 ムムルさんの顔は結構大きいです。私の顔二つ分あります。

 そういえば、ポケットの中に何か包むものがあったはずです。手で探ると、大きな布がありました。これならムムルさんを担いで歩くことができます。


「き、気をつけるんじゃぞ」


 呼吸はできるように、顔は出しておきます。

 そしてようやく、出発することができました。


「ねー、日が暮れそうだよ」

「大丈夫じゃ。道中、危険など起こらぬし、マリアもワシも今は疲れることはない。よって休む必要もない」


 自信ありげに言っていたので、私はムムルさんを信じることにしました。


 夜になりました。ムムルさんの言う通り、後ろに重い荷物を担いでいるのに、一向に疲れる感じがしませんし、危険な動物もやって来ませんでした。

 ですが夜は思った以上に暗く、足元がよく見えず危なかったので、結局休憩して一夜を明かすことにしました。


「ムムルさん」


 暗闇の中で、私はムムルさんの名前を呼びました。


「なんじゃ」


 顔は見えませんが、その声は大きかったです。向こうも眠れないのかもしれません。


「ここっていったいどこなの?」

「そうじゃなぁ。まあ、マリアがいた所から遠い場所でもあるし、近い場所でもある」

「どっちなの?」

「どっちもじゃよ。こっちとあっちの距離感はあやふやで、目と鼻の先にあったものが、いつの間にかずっと遠くにある。逆もまた然り。そういう場所なのじゃよ、ここは」


 それじゃあ、ここから出たら、もしかすると私のいた所のすぐ側に着くかもしれないし、ずぅっと遠くに着いてしまう可能性もあるわけですね。というか、あの木にたどり着いても、帰れるわけではありません。もし帰れなかったら、私はどうしたらいいのでしょうか。

 そんな不安を他所に、私は眠りにつきました。


 夜が明け、私はムムルさんの指示に従って歩き始めました。


「この中に入るのじゃよ」


 そしてとうとう、大きな穴の前に着きました。

 高さ三メートル、幅四メートルの大穴でした。


 穴の中に入ると、所々に光の点々があって明るくなっていました。よく見ると、ふよふよ動く光があります。どうやら光っているのは虫みたいです。虫以外にも、植物の葉っぱも光っています。そのお陰で穴の中は明るいです。


 進んで行くうちに、壁や地面がヌルヌルしてきました。上から水滴が落ちてきたり、辺りに水溜まりが出てきました。


「ちょっと寒いかも」

「まあ奥まで進んだからの。安心せい、そろそろ着くぞ」


 ムムルさんの言う通り、しばらくして目的地にたどり着きました。


「すごい」


 まさにその一言に尽きました。

 洞窟を進んだ先には川が流れていました。

 その川の流れは速く、思わず耳を塞ぐほど轟音を出しています。


「それで、どうするの?」

「ここに飛び込むんじゃよ」


 ……


「……」

「別にただ飛び込むわけではないぞ。ワシの力を使って溺れたり体が濡れたりしないようにする」

「それで、なんでここに飛び込むの?」

「これはあの木に向かって流れている。少し休憩を挟みながら、水の流れにまかせて移動するのじゃ」

「それで、どこに着くの?」

「目的地の、どこかじゃ」

「……」


 ムムルさんの説明を聞いて、私はもう一度川を見ました。

 手を突っ込んだだけで体が飲み込まれそうなほど速く、岩を簡単に砕きそうなほど力強く流れています。


「――――――。よし、これでもう飛び込んでも大丈夫じゃぞ」


 簡単に言ってくれますね。飛び込むのは私ですよ。わかってるんですか。


「マリアよ、ここに飛び込まなくともそのうち着くかもしれんが、とてつもなく時間がかかるぞ。さあ、行くか、引くか、どっちじゃ」

「……」


 今の私には、帰る場所がありません。それにムムルさんは良い人だと思います。


「死なば諸共ぉ!」


 私はムムルさんを信じて、川に向かって大きく飛びました。



「ブクブクブクブクブクブクブクブクゥ」


 私は口を両手で塞いで、足をばたつかせていました。

 体はどんどん流され、口から空気が抜けていきます。


「溺れんから、安心せい」

「あんじんでぎないぃぃぃ!」


 水の中にいると認識すると、どうしても上へ行こうとしてしまいます。水の中では呼吸はできないと体と頭の両方が覚えているからです。

 私は全身を使って暴れました。こんなことに意味がなくても、そうせざるおえなかったのです。


「いい加減にしろい!」


 ムムルさんに頭突きされてしまいました。


「なにするの!」

「ほれ、大丈夫じゃろ」


 言われてはっとしました。確かに呼吸できます。


「なんで息できるの? あと、首だけなのに移動してる」

「全部ワシの力じゃ」

「私にもできる?」

「できるかもしれんが、かなり限定されるかもしれんな」


 できるんですか。これがあれば自由に水の中を移動できます。


「さあ、そろそろ到着じゃ。準備するのじゃ」

「うん!」


 ムムルさんが言うには、この先に大きな穴があるらしく、そこに侵入して一旦この川から脱出するようです。水の中にずっといると後で水から出た時に体が重く感じるようなので、水の中に慣れないように体を休ませるようです。

 私はムムルさんの髭を掴んで、大きな布で包みました。これで私が失敗しても、ムムルさんと一緒にそのまま流されることができます。これで離れ離れになってしまうと、私もムムルさんも困ってしまいます。


「今じゃ!」


 掛け声を聞いた瞬間、私は思いっきり体を横に反らして場所を移動しました。

 そこにタイミングよく大きな穴が現れ、私達は吸い込まれていきました。

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