第2話 プラント怪物大暴れ2
「プラント怪物を囲む画面ベクトル上の各ポイントのビルにそれらしき影があります。地上部隊が何とかしてくれます」
「おーまーえー」
エディと船を操作しかけたとたん、Drモロンがクリンクの手をぎゅっと握った。そういえば、彼に後ろから羽交い絞めというか、抱きしめられたままだった。
「心が痛まないか?たとえ相手が機械でも」
「うちは民間で、本来戦闘はしないですから」
「でも撃ってるじゃないか」
「暴れるプラントを止めるためです」
「プラントだってイキモノだ」
「これ以上暴れ回られたら、町も壊れるし、多くの人の命が危険になります」
「多くの人が危険にさらされたら、お前は人だって、宇宙人だって撃つのか?」
「撃ちません」
「なぜ戦闘機に乗っている?」
「利便上ですよ。多様な用途をかなえる機器を搭載した船なので」
「お前はそれでも人の子か」
「相手は暴走した機械です。とにかく、離して下さい」
「お前がワシの言うこと聞くのなら、離してやる」
「ええい、エディ。行くよ」
操縦桿を動かし、船を再びコロンビアの町へ向ける。
「各救援隊、苦戦中」
連絡が回った戦闘機がシールド破壊へ向かうが、ビルからの攻撃、暴れるプラントからの攻撃で二の足を踏んでいる。
「流れ弾が矢の雨だ」
「プラント怪物に峻烈な熱放射反応と、強い磁場あり。徐々に形態が変わっています」
「Drモロンの頭脳と、都市一つ分の電力で出来た体だわ。また変わってくるわ」
「これ以上ややこしくならないうちに、止めるしかないですね。でも、どーします?近づくことさえ出来ない」
と、その時、南側のシールド発生源だったビルが爆発した。
(地上部隊、一部シールド解除成功)
「了解、切れた間から中へ入る」
クリンクが報告し、エディが信じられないものを見るような顔つきで、町とクリンクを見る。一機が入った後、続いてクリンクも入った。
「まだ半分以上、シールド残ってますから、中へ入れば・・・」
言う間に、中へ入った。
「中へ入れば逃げ場が」
案の上、上からも下からも砲撃による火の嵐である。
「プラントの触手を交わして、どこが中枢部か走査」
「ラジャ」
ひやりとする。汗の浮かんだ額に当たったのは、伝う汗でもない。何か硬いものだ。
「この船いただいた」
Drモロンが、何か持っている。額に当たっているのは、硬い棒・・・のようなものだ。
「あーーー操縦桿を引っこ抜いた」
「ヒーヒッヒ」
気づくと、今まで手元にあったレバーがない。むなしく手が空をよぎる。
折れた鋼芯がこめかみに思い切り押し付けられれば、肉にぐりぐりと食い込んで痛い。
「船を下に付けろ」
Drモロンはプラント怪物の体の隙間を指図した。
「お断りします」
「では、気持ちよく眠ってワシに船を渡すか、お前がここから出て行くかだ」
「あなたを逃すと余計に事態が悪くなる」
「あの怪物は傑作じゃないか。ワシのものにするのじゃ。こんなまっとうな星で、くそつまらん仕事に従事するのではなく、もっと働き甲斐のあるところへ連れて行ってやる」
「どんな星であれ、おそらくどの星も地獄と化すでしょうね」
「連続砲撃を受けています。自動回避飛行でも滅多打ちの状態。姿勢制御できません。ひっくり返りそうです。おまけに操縦桿が欠損」
「音声入力に切り替えて」
「こんな中へ入るからじゃ」
「エディ、お前が操縦して」
「了解、操縦をエディに切り替えます」
クリンクは操縦席から立ち上がり、出口へと向かった。Drモロンは背中を硬い棒でつつく。
とにかく、このおじさんを何とかしなければと思った。
出たところに昇降口のドアがある。クリンクは意を決するように思い切って開けた。
「降りるのか」
Drモロンは圧倒的に自信があるせいか、クリンクを面白そうに見ている。
こんなおじさん、ここから落ちても大丈夫だろうな。
と、クリンクまで悪魔の心が告げた。
ここまで来たものの、何も考えてなかった。
自分は無事ではすまないだろう。ただ、パイロットスーツなので、万一に備えてパラシュートは背負っている。
かといって、飛び降りるわけにはいかず・・・
銃弾の飛び交う地空上である。
下の町はプラント怪物や建物がくっつきあって要塞を作り、触手のように見えるパイプが戦闘機を追っている。
上はまだシールドが張っていて、打ち付ける砲弾が爆発して、炎上している。
「どうした?パイロットだろ?レディには難しすぎる状況か?」
「ええ、こんな中、誰でも死にますからね」
「さあ、船から下りろ」
「降りろったって、ここ、何メートル上か分かってます?」
「じゃあ、眠るほうがいいか?」
「あの、私で楽しんでますか?」
背中を押されて、昇降口の開閉部の縁に立ってみると、下界は町の上空で、追い落とされた戦闘機がくるくる回って墜ちていっている。
「早く飛び降りて見せてくれ」
「い、いやいや、ちょっと待って。心の準備が」
「心の準備だって?ワシだって心の準備くらいしたいわっワシはいつだって準備できておらずに、いっちゃん最初からいきなりだったわい!さあ!」
「いや、ちょっと」
降りろ降りないになって、開閉部間際で押し合いになり、ついにクリンクも爆発した。
「いー加減にして!町が滅ぶかって時に」
「はよせえ!」
と。
Drモロンのほうが先に落ちた。
「あ!」
と思った時はもう遅い。足を踏み外したDrは背中から手足をばたつかせて落下していった。
「ドクター!」
一応、世界の一流の技術者で、有名な学者である。余命短い年老いた老人である。Drモロンのことだから、たぶん老いたぐらいで、老い先短くないかもしれない。落下しても、大丈夫かもしれない。
それでも、困ったことにカガミ・ケイの父親である。
仕方ない。
一瞬後、クリンクは決断を下し、空へ飛び出した。
「エディ、空中回収の用意」
エディが慌てて返事する間もなく、両手を体側部にたたんで、落下速度を速めて落ちた。
空気の波が、体中と顔を打ち付ける。呼吸も出来ないくらいの空気抵抗の中を、身一つで落下していく。
「Drモロン、捕まって!」
手を伸ばしたとき、恐怖で引きつったと思われたDrモロンの顔が急ににやっと変わった。
「はーはっはっは。ワシが船から落下したぐらいでじたばたもがくと思ったか?手薄な備えで、ワシが男、7人の敵がいる世界を生き抜いて来れたと思ったか?」
と言うなり、Drモロンの白衣が広がり、手足に伸びて、ふわりと体が浮いた。背中からプロペラまで出て来くる。
「はーっはっは。お前の負けだな」
形勢逆転。
落下し続ける要救助者は、クリンクのほうだ。
「待って」
クリンクはバシッとDrモロンの腕を掴んだ。これでクリンクの落下も止まる。
再び形成逆転。
ただ、重みが増したので、小さいプロペラでは浮力が足りず、二人とも墜ち始めた。
「何をするのじゃ!」
「あなたをここで逃すわけにはいかない」
「ワシの邪魔をするな!」
「プラント怪物を所持されたら困ります」
「おーのーれえ。小娘だからと甘く見ておったら調子に乗りおって。かくなる上は、死んでも仕方ないと覚悟せえ」
Drモロンに突きつけられた銃口は、クリンクの眉間に当てられた。
「連射モード、脳みそ破壊モード、超音波モード、ガンマ線、レーザーモード、忙しくてどこに設定したのか忘れたから、当たれば分かる。赤外線モードなら、体熱感測定じゃ」
「ひええええ、止めてください」
「さらばじゃ、ケイの恋愛対象物程度の小娘よ。命短し恋せよ乙女とは、本当じゃったな」
「あなたが私を殺さなきゃいいのでは?」
「生者必滅の理」
Drモロンの手に力がこもって、眉間に押し付けられた銃口がぴたりと照準を定める。
一瞬後、Drモロンがクリンクの視界から消えた。
どこかで見たことがあると思ったら、ヴェガ航空宇宙局の船だ。丸い円盤状の胴体に、両翼がついている。銀色の胴体に赤いラインが入った機体は、戦火をくぐり抜けてきた傷まみれで、煤が付き、幾筋も摩擦した傷がついている。下腹部からロボットアームの手が伸びて、その手の中でDrモロンがもがいている。
「――カガミ君」
操縦席手前の大窓から、乗組員達が手を振っている。
「クリンク隊員、Drモロンは頂いた」
カガミから耳の通信端末に音声が入る。返事を返す間もなく、後方からエディが船を操縦して、開いた昇降口の口にクリンクを収容した。
「父がすまない。こちらは引き受けた。君は引き続きプラント怪物の阻止に当たってくれ」
操縦席に再び戻ったとき、前操作画面の右上にカガミの顔が現れた。
クリンクはどきりとした。
どうしてどきりとしたのだろう?おまけに長いこと会ってなかった気がした。
離れていた時間が、見に痛いほど感じることをクリンクは知った。
ええと、先程あったときはどうしてたっけ?彼は怒っていたのではなかったっけ?
傍らにはDrモロンをがっちり抱えている。
もう怒ってない。いつもの彼に戻っている。むしろ、機嫌が良い。
気のせいでなければ、とても。
クリンクはほっとした。
「了解」
とだけ告げる。
即時通話画面が切れる。
「エディ、前方プラント大暴れに、集中攻撃用意」
操縦席の正面画面から見える状況は最悪だ。
化学工場が暴走し、人間の町のために造られたパイプライン、ケーブルが寄り集まって一つの体を作っている。
体はどこまでも伸びて、あらゆる所から鉄の手が振り回されている。
今は機械が町を支配している。どこまでも触手を伸ばし、機械の体をつくる一部となって町は一個の集合体になりつつある。
「総攻撃第一回開始しました」
プラントの集合体は、集中砲火を浴びて炎上し始める。
町は破壊的被害を受けている。けれど、あいつは決してわざと暴れているわけではない。逃げ惑う人々を襲っているわけでもない。
「第二回攻撃開始命令。クリンク局員?」
「うん?」
「行きますか?」
エディが気配を敏感に察し、クリンクの返事を請うた。
返事するより先に、ふたたび攻撃が始まった。
エディの操作で、船は進み出す。命令を受けたエディは実行するしか選択肢はない。
「突撃開始します、クリンク局員」
「分かってる」
「狙い定めて撃ってください」
攻撃の用意をする傍ら、前方のプラント怪物に目を凝らした。
集中砲火とプラント怪物の攻撃で、一面火の海だ。浮上も下降も容易に出来ない。
「攻撃してください」
鋼鉄の集積体に近づいたとき、ふいに機体のバランスが崩れた。同時に、操作機器に電光が走り、各画面が点滅する。
一瞬後、ジ、ジと、途切れ途切れに入る音が耳のHMDに流れた。
「何かのメッセージです」
「何の言葉だった?」
「判別できませんでした」
「攻撃中止、浮上しろ」
「え?総攻撃中ですよ?」
ぽかんとしたエディを待たずに、クリンクは修復されたスロットを引いた。
「わ、わわあ」
打ち込んで傍らを通過するはずが、巨体を駆け上がるのだから、無茶なのは無茶だった。
上へ行くほど、出口は閉じていく。
プラント怪物の腕が組み重なって、出口を塞いで行こうとしている。
「攻撃用意、攻撃しなければ、衝突します。中止命令を撤回してください」
「攻撃するな」
「どうやって出るんです?もう捕まってますよ!」
「しらん」
「クリンク局員!」
巨大なプラント生物の体のすぐ脇を通っていく。ビルの壁、モノレールの腹部、化学工場のプラント、ベルト、車、あらゆるものを呑み込んで出来上がった体。
「エディ」
「何です?」
クリンクは見た気がする。ビルにしたら何回になるか分からないが、何十階かの階に知性のある何かがいて、目が合った気がした。
「・・・あれは」
「あ、開きます」
ハッと上を見ると、クリンクを通すようにだけ、隙間が開いていく。
「やっぱり・・・」
「もしかして、我々を通してくれているんですか?」
エディも何か気づいたようだった。
「先程のメッセージの出所を追ってみます」
「頼んだ」
空へ出た。
入れ替わりに強烈な熱線パルスが放擲された。遥か上空に銀色に輝く物体が浮かんでいる。
「ああっ!」
「地球の防衛軍の母艦です」
急停止し、再び見たときはプラント怪物の姿は様変わりしていた。体から力を失ったように集合体は、肉片を剥落させて崩れていく。
「――遅かった」
「見ての通り、中枢系が大打撃を受けました。制御機能を喪失して、立ち上がれません」
「救援隊同盟が地上に降りてきて、事態を収束させるだろう。その前に我々は行く」
「え?どうするんです?」
「探さねばならないものがある」
着地しようとして、地上へ向かうクリンクをエディは静かな目で見守っていた。




