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The Poilot    作者: 銀川プリムラ
第4部
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13/15

第1話 プラント怪物大暴れ1

「クリンク~」

 ライラックが走りよってきた。

「もう馬鹿馬鹿馬鹿~、心配したんだから~」

 お気軽ライラック。

クリンクは思いっきり彼女を抱きしめた。飛び込んできたまま、ライラックは抱きついてきた。クリンクは受け止めた。

 ああ、生きてるんだ。

という実感。

クリンクはほっとした。良かった。本当に良かった。帰って来れて。

 ライラックに教えられた船の恋愛沙汰話も今は、心温まる。洗濯男と検査室のおばさんの噂話がこれほど温かいとは思わなかった。

「うん、ごめんね」

「一人でかっこつけないでよ。今度私に任務を命じられたらどうするのよ」

 ライラックが怒った。この会社にいる限りは、あり得ないわけでないから、ライラックの言っていることはあながち見当違いではない。

「そのときは、ライラックも立ち向かうしかないのよ」

「嫌よー絶対嫌」

「嫌ったって、急に突然来るんだからね」

「ねえ、レッド見たの?」

「そう来ると思った。まあね」

 悲鳴。鼓膜をつんざく。

「なあんですってえ!」

 姉御のナオコも、ヘッドフォン片手にどこからか飛び出してきた。

「ご苦労だったな」

 課長の伴野が外へクリンク達の様子を見に来た。

「ねえねえ、レッドって本物はどうだった?」

 ライラックとナオコが鼻息荒く、近づいてくる。

 クリンクはおかしくて笑いがこみ上げてきた。

 おかしくて、安堵した。

「レッドなんか、ただのおっさんだぜ」

「うるさい、あんたは黙ってて」

 ライラックの横から、哨戒機に乗っていて、立ち寄ったミッツが横槍を入れてくる。

「おい、バスの様子と、外務大臣がどこへ入ったか、教えろ」

 伴野がくいくいと手で招く。

「クリンク局員、本船救急車が来ますので、詳しいことを聞きたいと電話が」

「え、あ、はいはい」

 クリンクはあちこちからの質問に答えなければならならなかった。しばらく嫌になるくらいひっぱりだこである。そういえば忘れていたが、マイリーはブリッジに入るといきなり睨んで来る。

 どうせならこれぐらい男性からモテたい。いっそのこと。そうすればマイリーには睨まれることはないだろう。これが仕事の必要上であることが悔しい。

「おい、よく運転できたな。名ドライバーでもああは行かないぞ」

「よく帰って来たな」

 他の仲間にもつぎつぎと声を掛けられる。

「コロンビア政府、地下シェルターに何か隠してやがるな」

「モヤシ船長が怒ってますよ。誰だ勝手なことしたやつって」

「バスの助手席を壊したのは誰です?弁償かもしれないから、詳しいこと聞きたいって経理から言われました」

「え?」

無事帰還と同時に、またいつもの日常が戻ってきた。





「現地に応援が欲しい」

 救援要請が入った。

 コロンビアの町に居座ったプラント怪物に出発した先遣隊が意外と苦戦しているらしい。

 ないと思われたレッドロースター号の現地召集が下った。

「やれやれ」

 乗員たちは、レッドロースター号の任務が終わったと思っていた。

 乗員も無事。

 大臣を送り届けることに成功。

逃げ遅れたバスを回収し、大臣の安否確認などしている間に、大木と馬場をナミアダ号へ小型ボートで搬出した。

いったん、レッドロースター号は帰還の途に着く。と誰もがそう思った。

言われてない任務を引き受け、どたばたとしたところである。

ナミアダ号に帰り、ことの顛末を船長に報告して、次はそれからだと言いたいところだ。

「モヤシ船長も気が利かないって言うか。次から次へとよくもまあ」

 ライラックがつぶやいた文句も、この度はあえて見過ごされた。

「現地からの応援要請だ。コロンビアへ向かうぞ」

 空に浮き上がり、伴野が針路を示す。

「なあに、一発ぶち込んでやれば黙るさ」

 気をとりなすように言う伴野に、乗員たちは仕事に集中して、ぶつくさ言う文句もなくなりかけていた。

「急ごう。仲間が待っている」

「時速900キロ。町まで急行します」

 レッドロースターの乗組員は、引き続いてコロンビアの町へ向かった。

 晴れ渡った空の中を走る。

 最初は一点の粒だったものが、瞬く間に近づいては過ぎていく。

操縦席の前窓の大きな窓に、町がきらりと光った。

鋼鉄の造形物を組み合わせて作り上げた、人間の町が見えてきた。

「コロンビアの町へ近づいた。各員戦闘配置につけ」

「了解」

 顔を引き締めた乗組員達は、了承の合図を送った。と、その時だった。

「何だ?」

 何か音がする。

 戦隊が小刻みに震えているような気がする。

ぎ、ぎっと大きな音がした。

「きゃああああ」

「おつぎはなんだ?」

「どうした、後部デッキ?」

「なにか、何かが」

 声が途切れる。

「モニターにD3の映像表示」

 見えた画像は・・・

 黄色い目をらんらんと光らせる白髪の老人の顔のアップが、カメラへ向かってぬうっと現れる世にも怖ろしい映像だった。

「ひーっ!」

「Drモロン再び発見!また侵入されています」

 後部のから悲鳴の報告の声が上がった。

(そういや、こいつのことを忘れてた)

 とその場にいた乗組員全員が思った。

「非常事態」

「大気が非常に薄いので、穴が開いたら危険だ。早く外へ追い出せ」

「え?課長、捕まえるのでは?」

 驚いた部下が聞くと、課長伴野は不敵な笑みを浮かべて、言い放った。

「我々の船が落とされたらまずいだろ。あいつはもう乗せないほうがいいのだ」

 部下隊の脳裏に、先程の逃走劇が思い浮かぶ。老人と見て侮っていては痛い目に合う。ナミアダ号に入れて、船に何箇所穴が開いたことか。

 蹴落として来い。ということか。

 この高度から、人間を。

 悪魔の決断に違いあるまい。

 致し方・・・・ない。

 だろう。

 と思われる。

「りょ、了解しました」

 と数人がデッキへ向かったので、

(えーっ!)

と、クリンクは慌てて席から立ち上がった。無茶だ。いくらDrモロンであっても、限界がある。Drモロンだからでは済まない問題だ。

「ひーひいぃっひ」

 クリンクは後部デッキの格納室へ駆けつけた。

「Drモロン!ちょっと待ったあ!」

 Drモロンを止めるためか、仲間を止めるためか、自分でもどっちを言ったか分からない。

「む、小娘」

 側面の天井付近から光が漏れていた。そこから、Drモロンが穴を手でこじ開け、侵入しようとしているところだった。先に駆けつけた乗組員三人は床に倒れている。催眠ガスか何かでDrモロンに眠らされたようだ。

「船に侵入しないで下さい!」

 全くどこから現れたのか、鋼鉄の船に生身一つで入ってこようとするとは、本当に人間か?

「ワシは世界のドクターだぞ」

「裏黒い噂で有名な」

「命令を受けるいわれはない」

「誰だろうと、船を壊す人を許すことは出来ません」

「いーんだ?ケイにお前のことを良く言ってやらん。ひがみっぽくて、我侭で、きかん気な扱いにくい心の汚い小娘じゃと言ってやる。嫌われるぞ?」

「えーどーぞ」

「いーや、そうじゃ。全世界にお前の悪口を言ってやる。いや、お前のかーちゃんの悪口を言ってやる」

「言ってる間に侵入しようとしています?」

「この船は逃走用に丁度良い大きさじゃ。ワシがうまく奪ってやるので、ひっこんどれ」

「そんなこったと思いましたよ。おとなしく控えているわけにはいられない」

「そうじゃな。お前さんも黙ってやられるタマでない」

 ギイギイいわせながら、壁をめりめりと切り裂き、搭乗口ドアまで開けようとしている。

「さーせーるーかー」

 鋼鉄製の壁を閉じようとしても、クリンクの力では元に戻せない。小さな扉を閉めようと取っ手を引っ張るだけで精一杯だ。

「小悪魔め、ワシの邪魔をするか」

「そっちこそ邪魔をしないで下さい」

 と、室内の内線呼び出しのランプが光った。

「クリンク局員!船が失速中です。エンジンも一時停止。墜ち続けています」

「こっちは侵入阻止中。他スタッフへ頼む」

「船長も他も修復にエンジン室に飛んでいて、操縦は私一人で」

 エディは機械の癖に頼りない声を上げる。最新鋭のくせに、頭が回りすぎるせいか、自信がないらしい。

「わかった、行く」

 こうなったら、仕方ない。Drモロンに構わず、クリンクは操縦席へと走った。

「へーへっへ」

 後ろでDrモロンの声が聞こえたが、もう止めるのは間に合わない。

「傾いている。右側に何かある。Drモロンが乗ってきた船か何かに違いないわ。船尾から失速反転しかけてる」

 と薄い大気の雲が切れた。

 成層圏の下は、コロンビアの町だ。

 町の中心で異様な物体が出来ているのが、肉眼でも確認できる。

「あれは・・・」

 あまりの異様さにクリンクは声を漏らした。

「ほう」

 Drモロンがクリンクの背後から絡み付いてくる。抱きしめて、動けなくさせる気だ。目下非常事態である。相手しているのがややこしい。

 機体の姿勢を立て直した。

 内線から何も声がしない。船の中はひっそりとして、走り回る人間も、操縦室に駆けつけてくる人間もいない。おそらくDrモロンに、してやられた。

 Drモロンはにやりと黄色い目を光らせる。

「眠ってもらっただけじゃ。だいたい男は好かんし、若い女は少ない。もう一人、髪が紫色の子がよさげじゃったが、軽薄そうなので、わしのタイプではなかった」

「わ、私も眠ったほうがいいでしょうか?」

「お前は機械だから、起きていろ。何かの役に立つ」

「右へ急旋回」

 クリンクは煙が立ち上る南側を避けて、大きく旋回して獲物に近づいた。

「エンジン回復。伴野課長が治してくれましたな」

 エディが言う。その皆は、帰ってこないところを見ると、今は船底部で眠っているのだろう。

「ターゲット捕獲」

 レーダー操作パネルで自動標準装置がインプットされた目標物を捕らえた警告音がすると、クリンクは右手前のジョイスティックに手を伸ばした。一瞬後、連射弾が飛んだ。攻撃命令が出ている。

 高エネルギー弾のタマをまともに喰らってもびくともしない。

「高粒子バリアのパワーフェンスだ」

 Drモロンが目を歪める。

「ブリッジ。敵は高い機密性のある壁で防御中」

(地上部隊進行中。先にシールドの根幹を絶つ)

「了解」

 クリンクはいったん上昇した。

「シールド発生源はどこだ?」

 いびつに形が変わってしまったコロンビアの町を見下ろす。


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