追憶
第四話です。
R15指定の範疇だと、思いたい・・・・・・
今日もよろしくお願いいたします!
1
「既に戦端が開かれている、隊長を捕まえて、なぶり殺しにしよう」
「そして、俺たちの真の目的を国民に問う・・・・・・手はずとしては十分過ぎるな」
村木敦と同期の隊員の大矢久がそう言いながら、並び立ち、グロック17のマガジンを装填して、安全装置を外す。
「なぁ」
「何だよ」
「何で、あの女を殺さなかった」
大矢にそれを聞かれた、瞬間、村木は自分の眉が動くのを知覚した。
「必要が無いからだ」
「女だから、無駄な殺生をしたくなかったからか? あの女、美人だったからな」
「余計なことを言うと、隊長と一緒に殺すぞ」
大矢は苦笑いを浮かべる。
「はい、はい」
「おちょくっているのか、俺のことを」
「いや、シリアスそのものだぜ、菅原のために俺たちは決起したんだ、今更、金だ何だと言う奴はまとめて、殺す準備は出来ているぜ」
そうだ。
俺たちの純粋なる、崇高な目的。
全ては彼女の為なんだ。
彼女を殺した、日本政府とアメリカ政府への復讐。
その罪を犯した、世界の支配者たちに対する、国民、いや、世界への審判を問う。
俺たちが東京駅占拠を働いた、真の目的はそれだ。
「全ては彼女の為に・・・・・・だろう」
大矢に言われるまでもない。
俺はこの任務が終わった後で、死んでも構わないとも思っている。
彼女のいない、人生にも興味は無いし、彼女を奪った国家を許すことは出来ないからだ。
「行くぞ、素人どもをなぶり殺しだ」
「あぁ」
村木と大矢は戦線へと参戦をすると、すぐにM4アサルトライフルを構えて、素人同然の新兵たちを射殺し始めた。
時刻は午後一時二分。
東京駅占拠から八時間が経過しようとしていた。
2
菅原との出会いは防衛大学校での入学式の時だった。
村木が防衛大学に入った理由はただ一つ、進学する費用が無かったからだ。
ただ、高校では成績が良かったので、在学中には給与も降りる、防衛大学しか、進学においては選択肢が無かったとしか言えないのだ。
これから、地獄のような訓練が始まるのか・・・・・・
入学式の予行演習も最悪だった。
教官には怒鳴られ、凄まれ、今のご時世ではそうそうないが、殴られそうな雰囲気だった。
とんでもないところに入ったな・・・・・・俺。
そう思っていた時に彼女はいた。
切れ長の目に色が白く、黒々としたショートカットのキレイな髪。
一言で言わなくても、美人ではあった、彼女だが、淡々とした様子で、教官の指示を聞いていた様子に村木は心を奪われていた。
「お前・・・・・・あの子に惚れたろ」
隣にいる、同学年の有街がそう声をかける。
「何だよ、お前」
「いや、あれだけの美人ならば、心奪われない方が、おかしいぜ、インポだぜ」
「下ネタを言うなよ・・・・・・入学式だろう」
村木はそう言って、そのままトイレへ行こうとしていた。
「待てよ・・・・・・何処に行くんだよ」
「トイレだよ」
村木の自衛官としてのキャリアはこうして、始まったのである。
時は西暦二〇一六年四月。
まだ、東京駅占拠は起こる前の頃の話しである。
3
当然ながら、防衛大学での訓練はハードなもので、戦闘訓練だけではなく、座学も当然ながら、ある。
しかし、一般的な大学とは違うのは後ろの席で、寝ている奴は内職に恋人とイチャイチャをする学生などは皆無で、皆が皆、集中をして、目の前の講義に対して、必死でノートを取っていた。
学級崩壊に悩むクラスとかを抱えている教師とかは泣いて喜ぶ展開だよなぁ・・・・・・
それもこれも、ここが通常の大学ではなくて、職業軍人たる士官を育てる大学であるからなのであることが一つ。
あとは単純に教官が怖くて、普通に寝ている奴なんかいたら、ドツかれるどころの騒ぎでは無いし、それを試すかと言われたら、試す度胸も自分たち、学生には無いわけで・・・・・・
「ディエン・ビエン・フーにおける五十五日戦争において、フランス軍に敗因があるとすれば、何が考えられると思う? 菅原学生、答えてみろ」
質問に答えられなければ、これまた、ドツかれる。
菅原は余裕で答えられるだろう、優等生なんだから。
問題は俺に質問が来た時なんだよな・・・・・・
村木がそう思っていた時だった。
隣に座っている、有街が紙くずを寄越す。
サンキュー・・・・・・下ネタの有街!
何故、そんなことをするかは知らないが、恩に着る。
「同戦争下における、敗因としてはフランス軍の装備の充足さから来る、慢心と現地の亜熱帯を気候を無視した、作戦体形にあると思われます」
「よろしい・・・・・・では、次だ。村木学生」
来た。
「その上で聞くが、君はこの戦争下における、フランス軍の最大の弱点は何だと考えるか?」
心臓が高鳴る。
「同戦争下における、フランス軍最大の弱点は補給を完全に空輸に依存した事です」
「よろしい、同戦争下において、フランス軍はーー」
あぁ、助かった・・・・・・
さぁ、何が目的だ? 有街?
有街はニタニタと笑うだけだが、とりあえず、見ないことにした。
ふと、菅原を見ると、こちらを見て、不敵に笑っていた。
何だ・・・・・・あいつ。
外を見ると、桜の花びらが散っていた。
西暦二〇一六年四月二二日。
この時の村木は青春を歩み始めたばかりだった。
4
「いやぁ・・・・・・俺のおかげだなぁ! 村木学生君よぉ!」
まるで、悪代官のような笑いを有街はするが、俺はそれを横目に自販機で、茶を買う。
「目的はなんだ?」
「えっ? 聞きたい?」
「・・・・・・内容による」
「夏休みになったら、一緒に出かけなーい?」
「断る」
すると、有街が「えっ?」とオーバーな表情を見せる。
「俺はその時には・・・・・・」
「実家に帰る?」
「いや、帰らん、親とは仲が悪い」
「じゃあ・・・・・・俺と一緒に東京観光に行こうぜ!」
「断る!」
そのようなやり取りをしている時だった。
「おっ! 東京観光? 私も連れて行って、貰えるとありがたいなぁ」
菅原だ。
凄く、気さくな感じで話しかけているぞ
「菅原ぁ、どこに行きたい?」
「そりゃあ、原宿とか渋谷でしょう」
「いや、いや、そこはトラディショナルに浅草だろう」
「ダッサ、あんた、外人が選ぶところだから、そこ」
ちょっと、待て・・・・・・
何で、有街が菅原と話しが出来ているんだ?
「有街、有街、ちょっと、来い」
「おぉぉぉ、何だ、何だ」
俺は有街と肩を組む。
「お前、何で、菅原と普通に話し出来ているんだ?」
「そりゃあ、防大は女子が極端に少ないから、菅原はオープンなものよ、お前だけだよ、話しかけられないの」
えっ?
俺だけ、置いてきぼりかよ・・・・・・
「ねぇ? まだぁ?」
「おぉぉ、菅原ぁ、紹介しよう、俺の親友の村木敦君だぁ」
誰が親友だ!
だが、菅原の目の前なので、あまり、横柄な態度は取れなかった。
「よろしく、奥手の村木君?」
そういう、菅原は意地の悪い笑みを浮かべていた。
こいつ・・・・・・自分が美人であることを自覚しているな。
阿漕な女だ・・・・・・
とりあえず、俺は菅原に適当な敬礼を返した。
「それ、だいぶ、緩めたでしょう? 教官が見たらーー」
「分かったよ」
これが俺と菅原の初めての会話だった。
西暦二〇一六年四月二二日の夕方。
村木が初めて、女子と話した瞬間だった。
5
ふと、銃撃戦の最中で、菅原との出会いの記憶が走馬灯のように流れた。
俺は死ぬのか?
そうは思っていたが、現実の世界では武装した素人たちを次々と、惨殺していく、自分がいる。
「気を付けろ、何か、新兵器まで、投入されているらしい」
新兵器・・・・・・
菅原を死に追いやった、ソルブスとか言う、新型機動兵器か。
「そいつは俺にやらせろ・・・・・・菅原を殺した兵器ならば、俺が倒す!」
すると、大矢が村岡の肩を持つ。
「死に急ぐなよ・・・・・・そんな、ヤバい兵器だったら、お前一人じゃあ、倒せない・・・・・・それに今は隊長を確保して、俺たちの真の狙いを国民に審判してもらうのが優先事項だ。そんな勝てもしない化け物を相手にして、死ぬんじゃない」
それもそうか・・・・・・
確かにあの兵器に生身で勝つ方が無理があるか。
すると、無線に通信が入る。
(ゴミバコから、カラスへ、片付けたぞ、どうする? オクレ)
有街からだった。
「カラスからゴミバコへ、隊長を探せ、なぶり殺しにするぞ、オワリ」
そう言って、村木は通信を切った。
「行くぞ、あの腐った野郎だけは許さない」
「同感だよ」
そう言って、村木と大矢の二人は東京駅の構内にブーツの音を響かせながら、走り始めていた。
時刻は午後二時十二分。
東京駅占拠から、八時間七分が経過していた。
6
防大は夏休みに入った。
一年生の自分たちは外出許可が下りて、浅草へと向かっていた。
「結局、浅草に行くのかよ」
菅原がぶつくさと文句を言う。
俺と有街と菅原の三人は防大の制服姿だった。
「ジャンケンで勝った結果だ」
「私は原宿が良いと言ったんだけど」
「ならば、村木と行けば良いだろう」
えっ?
村木が顔を赤らめると、菅原は「嫌だぁ、村木、めっちゃくちゃ、顔を赤くしているじゃん!」と背中を叩き始める。
菅原って・・・・・・気さくどころの騒ぎじゃないのよね。
何というか・・・・・・軽いのか?
「おっ、外人ども! ジャパニーズ軍人さんのお通りだぁ!」
外交問題になるぞ・・・・・・・
そう言った後で参拝やら、食事やらを済ませた後で、菅原が「銭湯に行きたいなぁ・・・・・・」と言い出した。
「横須賀でも行けるだろう?」
「いや、いや、東京の下町で行く銭湯が格別なんだよ・・・・・・」
そう言えば、菅原は何処の出身なんだ?
「菅原って、東京の出身だっけ?」
「正解、ついでに言えば、下町ね」
そう言って、菅原は歩き始める。
家はそんなに裕福ではないのかな・・・・・・
防大にはいるぐらいだから、優秀だけど、進学の費用が無いことは考えられるし、自分もそうだけど・・・・・・
菅原のことを知りたい。
村木には必要以上にそのような欲求が襲っていた。
「めちゃくちゃ、尻に引かれているじゃん、村木」
「うるさい」
「早く、行くよぉ!」
「何処に行くんだよぉ!」
「押上! スカイツリーの麓まで、行く」
そう言って、菅原は京成電鉄浅草駅へと入る。
下町育ちのお姫様か・・・・・・
「早く、行くよぉ!」
「はい、はい」
そう言って、村木と有街は菅原の後に続く。
浅草の街では何処からか、セミの鳴き声も聞こえてきた。
西暦二〇一六年、八月二日。
村木はこの時、たしかに青春を謳歌していた。
7
その後、数年が立ち、防大でも無事に卒業を向かえて、村木たちは陸上自衛隊に幹部として入隊することになった。
卒業式の日。
世間はコロナ渦に入り、卒業式も自粛になったが、俺たちは極秘で有街の実家に入り浸り、卒業パーティーを行っていた。
見つかれば、懲罰もんだな・・・・・・
防大名物の帽子飛ばしをしたかったのが本命だが、俺たちは同期生同士で親睦会を開いていた。
有街の父親が日の丸鉢巻を締めて、泣きながら、喜んでいる。
菅原とはこれから、会えずか
「菅原・・・・・・」
「何だい?」
菅原はワインの鮮やかな赤色をグラス越しに眺めていた。
何処か、その表情が艶めかしく見える。
「もう、会えなくなるな」
そう言うと、菅原は口笛を吹く。
そう言った、俺は自嘲気味に笑った。
「・・・・・・今度、どっか、行こうか?」
菅原がそう言う。
「いいの? 俺で」
「いやぁ、適当な人選だよ、ただね・・・・・・」
菅原は俺の肩を掴む。
「ヤラせないよ」
俺は赤面するのを知覚した。
「するわけないだろう!」
「ウソォ? 私とエッチしたくて、仕方ないって、顔を在学中からしていたけどなぁ? 村木三等陸尉は?」
菅原は意地の悪い笑みを浮かべる。
「何を言っているんだよ・・・・・・」
「私のおっぱいばかり見ていたじゃん?」
「んなわけあるかぁ!」
「ちなみにサイズは軍人としては白兵戦に不利なサイズである、Fカップだけど・・・・・・ウッソ! 村木、勃起してんじゃん!」
菅原が下品な大きな笑い声を響かせる。
「お前・・・・・・」
「純情ねぇ・・・・・・でも、残念だけど、あんたとはヤラないよ」
「はたから見ると、そういう風にエロいことを言って、俺を挑発しているようにしか思えないけどな?」
「ヤリたい?」
菅原は自分の胸を指差して、サディスティックに笑う。
「・・・・・・ヤリたい」
「えぇ? じゃあさぁ・・・・・・」
菅原は俺の耳に囁く。
「レンジャー試験を私よりも先に受かったら、ヤッテも良いよ? しかも、中出しでね? どんな変態プレイも受け入れて良いけど、私よりも成績の悪い、村木三等陸尉じゃあ、無理かなぁ?」
菅原が俺の耳に息を吹きかける。
赤面をする俺だが、すぐに怒りが込み上げてきた。
この野郎・・・・・・バカにしやがって!
「本当に・・・・・・レンジャー受かったら、中出しとか色々な変態プレイをしても良いんだな?」
「どうせ、出来ないけどね?」
「ぜってぇ、孕ませてやる!」
そう言うと、菅原は俺を鼻で笑った。
「あくまで、私よりも先にレンジャーに受かったらだけどね? そしたら、何度でも、あんたとの子どもを孕んでも良いよ? そのまま、結婚する?」
「いいぜぇ・・・・・・犬並に子どもをポコポコ作らせて、産ませてやるよ」
村木と菅原でそう言い合っていると、同期の大矢が「お前ら・・・・・・卑猥だぞ」と言い出す。
「お前! 聞いているんじゃねぇよ!」
「いや、というか、普通に中出しセックスしたいならば、付き合って、結婚しろよ、お前ら・・・・・・」
それを聞いた、菅原は「ナンセンス!」と言い出す。
「好きでもない、男の子どもを孕んでしまうかどうかの瀬戸際という戦場での死を体感できるプレッシャーを感じながら、自衛官をやりたいんだよ・・・・・・私なりの職業軍人としてのプロ意識なんだけどな?」
「意味が分からない・・・・・・・変態すぎるだろう」
「いや、女の軍人は常に戦場でレイプされる危険性があるから、その上での常在戦場だよ!」
よく分からないが、菅原とセックスをするチャンスが生まれたぞ・・・・・・
しかも、中出しや変態プレイの数々も可能!
俺は絶対に菅原よりも先にレンジャーに合格する!
村木は勃起した下腹部を知覚しながらも、確かに達成感を覚えていた。
西暦二〇二〇年三月。
村木の幹部自衛官としての目標が決まったが、それはあまりにも不純なものだった。
8
「隊長は駅長室だろう」
村木は大矢と同時に駅長室へと向かう。
「相手は素人の兵隊しかいない、制圧は容易だよ」
「だけどなぁ・・・・・・あの人は仮にも俺たちの教官だからなぁ」
確かにそうだ。
坂城はかつて、防大時代に自分たちの教官を行っていた経緯がある。
それ故に・・・・・・信頼をしていた、教官であっただけに自分たちの復讐を金で汚したのが許せなかった。
あいつを殺して、俺たちの崇高な目的を達成する。
村木はそのことで頭が一杯だった。
すると、無線で有街から通信が入る。
(ゴミバコからカラスへ、隊長は駅長室から逃げた、それとそろそろ、警察の連中も突入してくるかもしれない、オクレ)
それを聞いた、村木は「チッ!」と舌打ちをする。
「恐らく、坂城は最初から、俺たちを捨て駒にするつもりでもあったんだろうな」
つくづく、腐った男だ。
まぁ、いい。
「カラスからゴミバコへ、ならば、早めに見つけよう、殺して、俺たちの真の宣誓は東京駅を脱出してからでも大丈夫だ、オクレ」
有街が息を飲む様子が見て取れる。
(ゴミバコからカラスへ、いいのか・・・・・・そうすると、人質がいなくなるぞ? オクレ)
「カラスからゴミバコへ、既に世間にはセンセーショナルに映っているよ。そして、俺たちの目的は生き残ることじゃない、菅原を殺した奴らへの審判を世界に問う・・・・・・そうだろ? オクレ」
(ゴミバコからカラスへ・・・・・・俺はお前には生き残って欲しい、オクレ)
有街は真剣な声音でそう言う。
「カラスからゴミバコへ、無理だな、生き残っても内乱罪で即刻、死刑囚さ、オクレ」
(ゴミバコからカラスへ、それでもだ。生きていれば、菅原の弔い合戦はいつでも、出来るし、奴の無念を伝えることも出来る、だから、死ぬな・・・・・・頼む、オクレ)
数秒の沈黙とブーツの歩く音だけが聞こえる。
「ゴミバコからカラスへ、俺はあいつのいない人生なんて、考えられない、オワリ」
そう言って、通信を切った。
「有街、悲しむぞ」
「いいんだよ、あいつはあのぐらいが大人しい」
大矢は悲しそうな顔をしていた。
「あの頃が懐かしいな」
「もう、戻れないよ。菅原がいないんだから」
そうさ。
もう、あの頃には戻れない。
そして、俺たちは現時点では自衛官ではなく、テロリストだ。
後にも引けない。
だからこそ、この東京駅占拠は成功させなければいけないんだ。
途中、負傷した素人の兵隊がいた。
安全装置を外した、グロック17でそいつの脳髄に弾丸をぶっ放した。
頭がスイカ割りのスイカのように弾け飛んだ。
「行くぞ、俺たちは修羅になる」
「・・・・・・あぁ」
そう言って、村木と大矢はブーツの足音を響かせて、歩いていった。
時刻は午前三時一二分。
東京駅占拠から九時間が経過。
9
その後、幹部自衛官としてのキャリアをスタートさせた村木は富士の演習場で、いわゆる、U幹と言われる、一般大学卒の幹部自衛官とバディを組んで、訓練を行っていた。
「山谷・・・・・・お前、仮にも体育会系だろう」
訓練でへばり、倒れている、山谷三等陸尉に村木はそう声をかける。
いわゆる、行軍の訓練で、途中の休憩になっていたが、バディを組む、山谷は早くも泣きそうになっていた。
「すまない・・・・・・」
「良いんだけど、寝てないからって、寝るなよ、動けなくなるから」
そういう、山谷は「分かった・・・・・・」とだけ言って、背嚢を枕代わりにして寝始めた。
「あんたさぁ、もうちょっと、山谷を気遣いなよ」
女子のU幹とバディを組んでいる、菅原が村木に苦言を呈す。
防大卒業時は今生の別れかと思ったが、意外と再会は早かった。
U幹との訓練でのバディを組むということで、B幹の面々が招集をされたのだ。
「そっちはどうなんだよ?」
「仲が良いものよぉ。男子がどうして、B幹(防衛大学卒の幹部の略称)とU幹で、ここまで、ギスギスしているの何でか分からないぐらいよ、何で?」
それは一般大学で四年間、遊び歩いていた奴らが、同じ四年間で、地獄のような訓練に勤しんでいた、俺たちと素人のくせにいきなり、同じ階級で今日から、バディだなどと言われれば、やっかみも生まれるだろう。
どちらかと言うと、俺はその中でも、けっこう、U幹には優しい方だと思うけどなぁ。
村木はため息を吐く。
そうしている間にも、休憩時間が無くなっていく。
「暑いな」
「夏だからね、感染も気を付けないとだから、自衛隊の先輩としては神経使うわ」
そう言って、菅原は俺の肩を掴む。
「置いていくなよ、バディを」
「しねぇよ、そんなこと」
その後に菅原は自分の持ち場へと戻っていった。
「山谷、大丈夫か、生きているか?」
「あの人・・・・・・美人だなぁ」
こいつ・・・・・・
俺の菅原を狙っていやがる。
「女にうつつを抜かすぐらいならば、元気な方だな・・・・・・次、菅原にちょっかい出したら、マジで置いていくからな」
「ただ、率直な感想を言っただけだろう・・・・・・」
「いや、菅原は俺たち、B幹の同期の間ではアイドルだから、マジで、ちょっかい出したら、同期全員で殺すからな」
「ごめん・・・・・・マジで」
山谷は意気消沈していた。
「お前、鬼」
「美人だなぐらいは良いだろう、マジで心狭いわぁ」
B幹とU幹の同期、全員からそのような声が上がる。
「お前ら、元気だなぁ・・・・・・何だ、今年の連中は中々、骨があるじゃないか、おい、五分前だぞ、そろそろ、立ち上がれ」
教官の坂城がそう言って、皆が皆、行軍の準備を始める。
さぁて、山谷をどう、フォローするかだな。
しかし、マジで暑いなぁ・・・・・・
マスクもしないとだし、通常よりもしんどいぞ・・・・・・
西暦二〇二〇年、七月十日。
世間ではコロナウィルスが横行する中で、村木たちの行軍は続いていった。
10
そこから、俺たちは新人としての訓練を終えた後で、各部隊に散り散りになり、それぞれの自衛官生活を送っていた。
俺はその間にレンジャー試験を受かったが、菅原との約束はとうに忘れていて、部隊での訓練に明け暮れる毎日だった。
かと言って、彼女が出来るわけでもないのだが、とにかく、仕事や訓練に明け暮れていた。
そして、防学を卒業してからの三年後に俺は沖縄の那覇駐屯地にある、第51普通科連隊へと赴任した。
そこで、また、彼女に会うことになるとは・・・・・・
「村木ぃ!」
那覇空港のロビーで彼女の声が聞こえる。
そう言って、菅原は俺に抱き着く。
「うわぁ! 菅原ぁ!」
「沖縄に赴任していたんだ! 奇遇じゃん! 私も転属したんだよぉ!」
マジで!
やった・・・・・・めちゃくちゃ、嬉しい。
そう思っていた時だった。
「レンジャー取ったんだって?」
「あっ、あぁ」
「あの時の約束を覚えている?」
そう言えば、凄く、卑猥な約束をしたことを覚えている・・・・・・
だけど、あれは今、思えば、若気の至りであって・・・・・・
「あの約束って、今も生きているの?」
「・・・・・・取ったの、ほぼ、同時期なんだよね」
えぇぇ!
じゃあ、出来ねぇじゃん!
うわっ、クッソォォォ!
村木は本気で悔しがった。
「そんなに悔しがることないじゃん」
「マジかぁ・・・・・・中出しを期待していたんだけどなぁ」
菅原は甲高い声で大爆笑していた。
「残念だねぇ」
そうサディスティックに菅原は笑う。
「まぁ、そんなエテコウな村木君の労を労って、沖縄料理ぐらいは割り勘で食っても良いけど、どうかな?」
くそぉ・・・・・・
「食おうか、今日、仕事が終わったら、どっか、行こうぜ」
「そだねー、あっ、一応、言っとくけど、飲み物とか食べ物に媚薬とか睡眠薬を入れたら、マジで防衛省に報告して、クビにするからな?」
「するかよぉ!」
菅原のサディスティックな笑いが止まらない。
「よろしい、よろしい、じゃあ、仕事終わりにね・・・・・・ていうか、多分、同じ部隊だよね」
「まぁ・・・・・・な」
「行こっか、同伴出勤だよ」
そう言って、菅原はキャリケースを転がすが「あっ、明日からか、部隊に行くの!」と言い出した。
「先に部屋に着いてからだよ」
「ですよねぇー、じゃあ、今日、食事するかぁ」
そうして、俺たちはまた、同じ部隊で行動を共にすることになった。
西暦二〇二三年八月三一日。
沖縄の亜熱帯の空気が皮膚に纏わりついて来る感覚はこの時は不快には感じなかったことを覚えている。
11
その後、二人で沖縄料理をこれでもかと、食べたが、結局、菅原をホテルへと連れ込んだり、部屋に連れ込んだりは出来なかった。
そんなこんなで、沖縄で更に一年の部隊生活を送ることになるが、その間、感じたことと言えば、沖縄という地域は明らかに対中国の最前線であるという事実なのである。
平和活動や反戦デモが首都圏に比べて、多く、学校教育でも度が過ぎるぐらいに反戦を訴える傾向にある。
これは裏を返せば、首都圏と比べて、九州・沖縄地区はその地形上、現段階において、日本が戦場になれば、明らかな最前線になることが目に見えているからだとも痛感し始めた。
事実、東西冷戦下の最前線、北海道でも、平和教育は盛んなので、それだけ、戦争という事態を考えざるを得ないぐらいに戦争が近いということだとも、今では思える。
沖縄の学生や九州の学生が大学進学を機に東京へ上京すると、圧倒的に政治のトピックで重視されるのは経済や手取りを増やすやら外国人問題に減税とかの話題であって、平和教育が一切、行われていないことにカルチャーショックを受けるらしい。
まぁ、実際、沖縄の世論は地元の新聞社二社が牛耳っているようなものだから、外の世界に出ると、本当に沖縄が閉鎖された村社会であることを知覚せざるを得ないだろうな、学生さんは・・・・・・
俺も軍隊への向かい風が強い中で、自衛官として赴任して、早、一年だが・・・・・・菅原がある計画のことを語りだした。
村木はステーキを食べながら、聞いていた。
「ソルブス計画?」
「何でも、AIを搭載した戦闘用パワードスーツを実戦に応用する計画がアメリカで始動したらしいのよぉ・・・・・・私、そのテストパイロットに志願しようと思ってさ?」
俺は米軍だらけのバーでそうニンマリと語る、菅原だが「止めておけよ、絶対、人体に悪影響が及ぶぞ?」とだけ言った。
「いや、いや、いや、テストパイロットなんて、そうそう、無い、名誉な仕事よ・・・・・・心配しているの?」
「うぅぅぅうん」
「・・・・・・セックスする?」
何で・・・・・・そうなるんだ?
「いや、何で・・・・・・そうなるんだよ」
「だって、私が殉職したら、エッチできないのが嫌なんでしょう? しようよ、中出しして、良いし」
「俺は・・・・・・菅原に死んでほしくないだけなんだよ」
それを聞いた、菅原はニタリと笑う。
「じゃあ、しないの?」
「・・・・・・本当に俺で良いの?」
「・・・・・・部屋、行こっか?」
その後、俺たちは菅原の部屋へと移動して、朝まで、交わってしまった。
何度も何度も達してしまい、このままでは本当に菅原が妊娠してしまうのではないかと思えたが、構わずに俺は続けた。
そして、朝になって、俺が精根尽き果てている中で、菅原は何ごとも無かったかのように朝飯の準備を進める。
料理できるんだな・・・・・・
「おい! 遅刻するぞぉ! いつまで、果てているんだよ! 金玉を早く、生成しろよ!」
相変わらず、下品な言い回しだなぁ・・・・・・
「待ってくれよぉ・・・・・・チンコ痛てぇよ・・・・・・」
「根性無しめ・・・・・・ほぼ、私が動いてばかりだったじゃん」
「悪かったなぁ・・・・・・」
気付けば、俺と菅原は笑い合っていた。
「食べない? 朝飯抜きはきついよ?」
「・・・・・・食べる」
そうして、俺たちは朝食を食べた後で、何ごとも無かったかのように基地へと出勤をした。
そして、その数か月後にあの事故・・・・・・いや、人災とも言える、事件が起きて、俺は菅原を失うことになるのだった。
西暦二〇二四年一二月。
冬の沖縄は暖かったと俺は記憶している。
続く。
次回、第五話 世界を敵に回しても・・・・・・
来週もよろしくお願いいたします!




