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東京駅占拠  作者: 日比野晋作


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3/5

分裂

 第三話です!


 今日もよろしくお願いいたします!

1


 東京駅占拠の事件対策本部が置かれている、東京八重洲ホテルの会議室では、広池と部下たちが二色瑞穂の動向を注視していた。


「排気口を通っているようですね」


 犯行グループの目的が未だに不明な中で、二色を偵察任務には出せたが、ここまで、報告は無しか。


「広池隊長、東京駅ステーションホテルで大きな爆発があったそうです」


 情報保全課の田子三尉がそう伝える。


「何があったと言うんです?」


「不明です、しかし、状況としてはーー」


「反撃の機運が高まっていると? そう、都合よくは思えませんね」


 そう言って、広池は情報保全隊司令に連絡を入れるが、電話には出なかった。


 恐らく、統幕(統合幕僚本部の略)でのブリーフィングの最中だろうな?


「犯行グループの正体は依然として、不明でしょうか?」


「いえ、今はウチの第一情報保全室と公安部のマルジが別々で身元を洗っています」


 予感ではあるが、十中八九、例のマルBの消失した同期生たちが、今回の事件に絡んでいる。


 だが、問題は何故、この事件を起こしたのか?


 そして、素人との混成部隊で挑んだのは何故か?


 何が目的でこのような中途半端で雑な作戦を組んだのか?


 そして、武器や資金源はどこから来たのか?


 それらを解決しないと、我々、自衛隊が出張る理由が無くなるのだから、事は重大だ。


「早く、連絡をくれよ・・・・・・」


 通気口の中でゆっくりと移動を続ける、二色を示す、位置情報を眺めながら、広池はそう独り言を呟くしかなかった。


 時刻は午後二十一時四十二分。


 東京駅占拠から、四時間四十分が経過しようとしていた。


2


 戦場となった、東京駅ステーションホテルで、イブを着た、マリアンは屍となった、武装グループの男たちを見下ろしていた。


 そして、装備を解く。

 

 白い閃光が身体を包み込む中で、マリアンは生身の状態へと戻った。


 そして、男たちの屍を見る。


 それを足蹴にした後で、唾を吐いた。


 戦場で女を道具のように扱う男たちは嫌いだ。


 玩具のように蹂躙されて、当然の存在だ。


 スマホを眺めると、電波は繋がっている。


 まだ、敵はジャミングを発動していないのか?


 どれだけ、怠惰な連中なんだ。


 とりあえず、マリアンは雇用主へと連絡を入れた。


(あなたから、連絡が来るということは生き延びたそうですね)


 雇用主は東部訛りの強い英語でそう言う。


 気取った奴だ。


「東京ステーションホテルは制圧しました」


(ならば、次は東京駅へ向かってください、進んでくる敵は全て、粛正する、我々、ピースメーカーに盾を突いた、敵ならば、尚更です)


 西洋社会、最大の監視者たる、富裕層による秘密結社、ピースメーカー。


 そのプレゼンスを犯す、今回の敵を粛正する為に東京に送り込まれたのが、処刑人たる、私だ。


「了解、人質はどうすれば?」


(そのままにしておいて下さい。そのうち、警察が助けるでしょう、幸運を祈ります、連絡を後ほど)


 そう言って、雇用主からの連絡は途切れた。


 順当すぎて、怖いな・・・・・・


 何か、裏があるように思えるが、処刑人の私には関係が無いことを祈るしかない。


 マリアンは東京駅ステーションホテルから、敵の本丸である、東京駅へと向かうことにした。


 時刻は午後二十一時五五分。


 東京駅占拠から四時間五十分が経過。


3


 首相官邸で、レインズ社から送られた、新機動兵器ソルブスによる、戦闘を見た、立石は絶句した。


「これは虐殺じゃないか!」


 環境大臣の石倉がそう声を荒げるが、レインズ社のカールマンは「石倉大臣はリアルな戦場というのをご存じないようですね、正規兵で無い、テロリストは虫けら同然ですよ、慈悲をかければ、我々の命が持たない」と意に介さなかった。


「総理! こんなことを許していいんですか! これは明かな虐殺行為ですよ!」


 そう石倉は怒鳴るが、立石は目の前の画面上の戦闘行為を見ながら、感覚を立て直した。


 一国の総理大臣がリアルな戦場の映像を見ただけで、何て、ナイーブなんだ、しっかりしろ!


 立石は脳内で自分に叱咤した。


「これは画期的な兵器ね、ウチでも買える?」


「総理!」


「まだ、試験機なので、何とも言えませんが、お買い上げの際は是非」


 石倉は絶句した表情でこちらを眺める。


「石倉先生、あなたの思想信条は分かるけど、テロリストの制圧が今の優先事項よ、次、余計な人道主義を言い出したら、罷免する」


 そう言われた、石倉は「しかし・・・・・・これはーー」と口答えを始めるが、立石は「外すよ?」と言うと、途端に黙り始めた。


「警視庁の面々は・・・・・・どうしています?」


「もう間もなく、突入の準備が整うかと」


 警察庁出身の秘書官の小谷がそう言うと、立石はため息を吐く。


 そろそろ、こんな事件は終わりにしたいものだ。


 全く、最悪の年越しだ・・・・・・


 年越しは都内の高級ホテルに泊まり込む予定だったので、その予定を潰した、テロリスト風情などはさっさと皆殺しにしてもらいたいのが本心だった。


「突入準備が整い次第、報告を。作戦は現地の司令官に任せます」


 そう言って、立石はため息を吐いた。


 もうすぐ、事件発生から四時間になるかな?


 少し、休憩を取りたいのが本音だ。


 時刻は午後二十二時二分。


 東京駅占拠から五時間が経過しようとしていた。


4


 東京駅の一階、東海道線のホームの当たりの階段で、村木は警戒に当たっていた。


 有街が何人か、反乱軍を率いて、救難にやって来るが、依然として、俺たちは武装グループ内で反乱を働こうとする身だ。


 金で彼女の為にという崇高な目的を汚した、隊長たちが悪い。


 そう思っていた時だった。


「村木・・・・・・」


 杉山という同期の隊員が駆け寄ってくる。


「新幹線側のトイレの排気口が開いている!」


 その一言を聞いた瞬間に村木は走り出した。


 新幹線の改札を飛び越えると、急いで、北陸新幹線側日本橋口のトイレへと向かう。


「どこの誰だ! こんなことしたの!」


「まさか・・・・・・本当にアクション映画みたいなことをする輩がいるなんて」


 想定をすれば、想定できた事態ではあったが、本心ではあり得ないと思っていた。


 映画の世界だけだと思っていたから。


 テロリストに武装占拠された戦場で、反乱を働く輩がいるなどとは。


「排気口は何処に繋がっている」


「待ってくれ、今、出す」


 そう言って、村木が出した排気口の行先は地下のダクトだった。


「俺が行く、このことは隊長には伝えるな」


「でも・・・・・・反乱の芽は摘まないと!」


「一人で何が出来る? 俺一人で、十分だ」


 そう言って、村木は一人、地下室へと走り出した。


 面白くないな・・・・・・


 ちょろちょろと走り回る、ネズミめ。


 この手でなぶり殺しにしてやる。


 村木はどのような相手が来るかを考えて、身勝手な怒りを滾らせていた。


 時刻は午後二十二時十二分。


 東京駅占拠から、五時間七分が経過。


5


 駅長室で、武装グループの隊長核である、坂城は葉巻を吸い始めた。


「駅構内は禁煙だと言いたい顔だなぁ、伏木?」


 副隊長の伏木は苦笑いをする。


「若い隊員の間で、我々に反乱を働こうとする動きがあるそうです」


 正規の自衛隊員の側だろうな・・・・・・


 元より、素人を集めて、訓練をして、グループに入れることにも反発していたからなぁ・・・・・


 俺の計画を知った時も大いに反発をしていた。


 彼女の為に・・・・・・か。


 そんな生易しい、理由じゃあ、日本やアメリカ相手にドンパチは起こせんよ。


 そして、そもそもが勝てない戦争だ。


 ならば、上手く立ち回ったほうが利口だろう。


「隊長!」


 若手隊員の若槻がやって来る。


「政府との通信が繋がりました」


 水面下で、政府との交渉以外は受け付けないという要求を通した甲斐があった。


 ようやっと始まるか。


「始めようか・・・・・・交渉を」


 そう言って、政府との通話が始まる。


「日本国政府各員に告げる、私は私設武装組織、八咫烏の首領、坂城守元一等陸尉である」


 相手の息を飲む様子が伝わってきた。


 時刻は午後二十二時三十分。


 東京駅占拠から、五時間半が経過しようとしていた。


6


 内閣総理大臣である、立石は息を飲んだ。


(私は私設武装組織、八咫烏の首領、坂城守元一等陸尉である)


 やはり、元自衛官か・・・・・・


 動機は政治目的か?


「内閣総理大臣の立石です」


(ご活躍は拝見していますよ、総理・・・・・・あなたの祖国を思う、愛国的な政策の数々は元自衛官として、胸のすく思いだ)


「お褒めの言葉は嬉しいけど、その愛国心溢れる元自衛官が何故、日本の敵として、東京駅を占拠するなどという暴挙に出たのかが純粋に聞きたいのですが・・・・・・何で?」


(遠慮のない、返答ですね・・・・・・まぁ、私は選挙の時は自明党に投票しましたからね)


 そう言って、坂城は椅子から立ち上がった。


(私はこれでも、防衛大学を出て、一尉になるぐらいに優秀だったんですよ)


 身の上話を始めたか。


 三島の真似事が理由かと思われるが、どうなんだ?


(しかしね、定年退職後に入れる就職先と言うのは限られている。私の今の仕事は焼き肉店のアルバイトでね、幹部だった、私は焼き肉屋では学生と一緒に店長にどやされている・・・・・・・総理、不憫だと、思いませんか?)


「だからと言って、東京駅を占拠していい口実にはならない」


(仰る通りです。しかし、我々は愛国心が枯れてしまった、それもこれも、国が自衛隊を大事にしないからだ、国民も十三%は愛国心が無く、国の為に戦わないと返答をしている。そんな国に守る価値は無い。故に私たちもビジネスライクに生きる事にした、そこで要求です、総理)


 立石は身構えた。


(自明党の裏金の全額をビットコインに変えて、我々が指定するネットバンクに送金してもらえませんか?)


 立石は怒りのあまり、拳を机に叩きつけた。


「あっ?」


「総理!」


「人質がいるんですよ、落ち着いてください」


 この野郎・・・・・・


 坂城の余裕しゃくしゃくの顔を睨みつけた後に立石は「現時点で、自明党には裏金はありません。全額寄付しました」と言い放った。


(あるでしょう、党の体質として、全額というのはあり得ない)


「・・・・・・あなたは自衛官だったんですよね」


(えぇ、正義の味方の自衛隊ですよ、それに報いて欲しいのと、我々は汚い金の裏金を回収して、世の為、人の為に使うんですよ?)


 こいつ、腐ってやがる・・・・・・


「裏金は無い! 断言して、言えますけどーー」


(もし、仮に送金が遅れれば、私たちは一時間ごとに人質を殺す)


 その瞬間に会議室が凍り付いた。


(そして、電車も動かない、警察が突入をしても返り討ちにする。最新鋭兵器のソルブスとやらもあるそうですが、それは・・・・・・どうですかね? まぁ、我々には重火器もありますしね)


 重火器の一言で、会議室はどよめいた。


(そして、東京駅の何処かに爆弾を仕掛けています)


 立石は唖然とした。


 確かにここまでの相手の戦略の無さと緩さに警戒心を抱かなかったこと自体が、迂闊だった。


 こいつらは戦略がある。


 だが、このようなことを行うには何かしらのバックが必要だ。


 誰なんだ、それは・・・・・・


(今から、一時間後に一人、殺します、それまでに送金をしてもらえますね)


「我々はテロリストには屈しない!」


 坂城はその言葉を鼻で笑う。


(それは国民を見捨てると見て、よろしいですね?)


 立石は黙ってしまった。


(一時間後をお楽しみに)


 そう言って、坂城との通話は切れた。


「総理! 何てことを!」


「何なの! あいつら! あれが元自衛官なの!」


 立石は資料を投げつけて、ハイヒールで机を蹴り上げていた。


「しかし、事は重大です、何とか、送金をしないと!」


「私にテロリストに屈しろと言うの! 大体、裏金なんて、無いわよ! そうでしょう、荻君!」


 自明党幹事長代行の荻を睨みつけると、荻は目を逸らした。


「えっ・・・・・・嘘でしょう? 荻君、まさか、あるなんて、ことないよね、裏金・・・・・・無いんでしょう! 無いって言ってよ!」


「総理、申し訳ございません・・・・・・裏金はまだ、残っているんです!」


 立石は目の前が真っ暗になる感覚を覚えた。


「裏金は・・・・・・全部、寄付に回したって!」


「各派閥に残っていた、資金を統一して、複数の口座に移していたんです・・・・・・・追跡や報道に悟られない様に慎重に事を進めていたのですが・・・・・・これが洩れるということは党内にあいつらの協力者がいるのではないかとーー」


「冗談じゃないよ! あんなのがまだ、残っていたら、支持率が!」


 しかし、すぐに荻が言った一言を反芻した。


「党内に協力者?」


「いえ・・・・・・非主流派の党内リベラル派はこのことを知らないはずですが、保守派はこのことは口外しないとーー」


「誰の指示?」


 立石は荻を鬼の形相で睨みつける。


「誰だよ! それ言ったの! 言え! 荻!」


「・・・・・・察しが付くだろう、その権化があんたを勝たせたんだよ」


 となると、やはり、派閥を最期まで、残した、朝野副総裁か。


 だが、朝野副総裁がこの事件に関与をしているのか?


 分からない・・・・・・


 とにかく、何とかしないといけない。


「朝野先生は何処にいるの?」


 立石はすぐに立ち上がった。


「私が出向きます」


「総理自ら、対策本部から出歩くのはいかほどかと!」


「朝野先生にご足労いただくわけにはいきません」


「そういう状況じゃないでしょう! 呼びますよ、我々が!」


 官房長官の三橋がそう言うと、電話をかける。


「私だ、おたくの朝野先生を官邸に・・・・・・報道を観ていないんですか? 総理が緊急でお尋ねをしたいことがあるので、早急に官邸まで、お越しいただきたい次第です、一時間以内に!」


 最悪だ・・・・・・


 よりによって、こんな時に党内のスキャンダルを炙り出されるなどと。


 立石は改めて、今日が人生で生涯最悪の年越しになるだろうなと感じていた。


 時刻は午後二十二時四十四分。


 東京駅占拠から、五時間四十分が経過しようとしていた。


7


 マリアン・フロストは東京駅ステーションホテルから、東京駅へと向かう。


 丸の内口から向かい、在来線ホームへと出るが、すぐに武装グループたちに囲まれる。


「装着!」


 イブを装着すると、すぐに銃撃戦に興ずるが、あまりにも相手の数が多いので、すぐに物陰に隠れて、装備を解いた。


 プロトタイプのソルブスである、イブはエネルギーを食うので、本当に重要な時にしか、使えないという難点がある。


 控えめに言っても、早速だが、大ピンチだ。


 すると、奥の方から、銃声が聞こえた。


 恐る恐る、眺めて見ると、武装グループの男たちが同じ、武装グループの男たちを襲撃している。


 仲間割れか・・・・・・


 だとしても、理由は何だ?


 とりあえず、この好機を逃さない手は無いと見た、マリアンはすぐに構内を走りだした。


 雇用主が設定する目標は駅長室か・・・・・・


 時刻は午後二十三時二分。


 東京駅占拠から、六時間が経過しようとしていた。


8


 瑞穂は匍匐前進で排気口を進んでいたが、奥に入り口があるのを確認した。


 入り口は清掃員が使う、ダクトだから・・・・・・敵は来るのか?


 そう思いつつ、入り口からダクトへと降りた。


 スーツが埃とすす塗れだ。


 どうしてくれようか?


 そう思っていた時だった。


 足音!


 それを感じた後で、銃声が響く。


 銃弾は頭をかすめ、通気口にめり込む。


「おい! ダイハード気取り! 俺が相手だ!」


 武装グループの男か?


 若いな・・・・・・


 一応は銃撃戦は避けたいんだがな。


 そう思った、瑞穂は走り出した。


 そこめがけて、銃弾が撃ち抜かれるが、瑞穂は機敏な動きで、それを避ける。


 飲料用のペットボトルを取り出すと、それを敵に投げつける。


 敵はそれを爆発物と思い込んで、即座に伏せるが、そこ目掛けて、瑞穂は突進して、相手を蹴り上げる。


「ごふぅ!」


 しかし、相手は転がった後に痛みに苦悶の表情を浮かべながら、立ち上がり、軍用ナイフを取り出した。


 こちらもナイフを取り出す。


 そして、走り出す。


 格闘戦が始まり、ナイフでの突きの応酬が始まる。


「ダイハード気取りの姉さんがよ! 俺たちの邪魔をするんじゃねぇ!」


「こっちだって、恋人を実家に連れて行くのがパーなんだよ! どうしてくれる!」


 何で、こんな話をしているんだ?


 そう思いつつ、ナイフで相手を突くが、すぐに相手が背後に回り、頸動脈にナイフを入れる。


 まずい・・・・・・


 絶体絶命のピンチで、打開策を練った、瑞穂だったが、

万事休すだった。


 しかし、その時だった。


「村木! 作戦が始まったぞ!」


 そう言われた、瞬間に村木と呼ばれた、武装グループの男は瑞穂の拘束を解き、ナイフを頸動脈から放す。


 しかし、同時に腹を殴られる。


「うっ!」


「運が良かったな、姉さんよ」


 そう男が言い放つと同時に瑞穂は意識を失った。


 時刻は午後二十三時三十一分。


 東京駅占拠から、六時間半が経過していた。


9


 広池は画面上で固まってしまった。


 二色の位置情報を示す、アイコンが止まってしまったからだ。


 動きからして、明らかに交戦状態にあったが、まさか、やられたのか?


「二色室長はどうなっている?」


「生死は不明ですね・・・・・・」


 偵察任務に出した、私にも責任があるか。


 それは良いとして、連中の目的は自明党の裏金の奪取か・・・・・・


 そう思っていた時だった。


「広池さん・・・・・・最悪の事態が起こりました」


 想像は出来るが、あまり、聞きたくない、文言が出てくることを覚悟した。


「何です」


「実行犯と総理とのやり取りの音声が動画サイトや各種SNSに流失しています」


 広池は拳を握りしめるしかなかった。


 時刻は午後二十三時四十一分。


 東京駅占拠から六時間四十分が経過しようとしていた。


10


 深夜に差し掛かろうとしていた、大晦日の日本列島において、テレビでは紅白歌合戦などのテレビ特番は軒並み、中止となり、東京駅占拠の様子を生中継していた。


 各種SNSでも、東京駅占拠が話題となっており、犯人グループの動機などの考察や外国勢力などの関与を疑う声も溢れていた。


 そんな中で、動画投稿サイトや各種SNSでは、犯行グループと立石総理側との交渉のやり取りの音声が流失をした。


 これを受け、世論はリアルタイムで反応。


 自明党の裏金がまだ、残っていたという衝撃と共に、犯人グループを英雄視する声や、中国が裏で関与をしていて、犯行グループは売国奴なのだという声がネット上に散乱をする結果となった。


 与党支持者はヒステリックに中国関与説を唱えて、野党支持者は狂喜乱舞をして、立石政権を糾弾する形になり、大晦日の日本列島は政治的な分断が加速をする形となっていった。


 政権に大打撃になるのは確実ではあったが、立石政権の動きは早く、情報の詳細を掴み次第、官邸で会見を開くとして、日本中がその説明が開かれるのを固唾を飲んで、待つこととなっていた。


 時刻は午後二十三時五十三分。


 日本史上最悪の大晦日が終わろうとしていた。


 しかし、東京駅占拠は依然として、続いていた。


11


 武装グループ八咫烏の隊長である、坂城は苛立ちを隠せなかった。


 各種SNSに公開した、立石総理大臣との交渉の内容は再生回数はうなぎ上りだ。


 テレビやラジオなどのオールドメディアでも、面白い様に取り上げられている。


 全ては順調だった。


 それなのに・・・・・・


「何で、あいつらは余計なことをするんだ!」


 坂城は机に拳を叩きつける。


 伏木も青ざめた顔でこちらを眺める。


 まさか、マルB出身の正規メンバーが俺たちに反乱を起こすなどと・・・・・・


 彼女の為に?


 大層ご立派な青臭い正義感溢れる理由で、日本政府やアメリカ政府を相手に大きなグレートゲームを起こすことは割に合わない、そして、負ける。


 俺の方が、より現実的なプランを提供できるのだ。


 その上で、あいつらが掲げる、彼女の為にという理由を叶えるための交渉をしようとしたのに、あいつらをそれをぶち壊した!


 ふざけるな!


 坂城はグロック17の安全装置を外した。


「俺が直接、行く」


「指揮官、自ら、動くのは自重した方がよろしいのではないかとーー」


「他の兵士は素人同然だろう! 俺が行った方がマシだ!」


 そう言って、坂城は駅長室を出る。


「お前はここに残って、政府との交渉をしろ、幸い、あいつらとは上手く行っている・・・・・・世論も俺たちに味方をしてくれるよ」


「はぁ・・・・・・」


 伏木は目を伏せる。


「何だ、その態度は?」


「いえ、私も役目を果たします」


「頼んだぞ」


 そう言って、坂城は駅長室を出た。


 どいつもこいつもふざけやがって・・・・・・


 計画は上手くいっていたんだ。


 それをあの若造どもが台無しにしやがった。


 俺自ら、あいつらを粛正するしかないだろう。


 気が付けば、坂城は走り出していた。


 時刻は午前〇時一二分。


 東京駅占拠から、七時間七分が経過。



12


 広池は東京八重洲ホテルにある対策本部の一室で、身元が割れた、犯行グループ、八咫烏のメンバーたちの顔写真を眺めていた。


「全員、消失したマルBの隊員です」


 元とは言え、陸上自衛隊の隊員たちが日本政府相手に決起するなどとは、考えたくもない悪夢だ。


 自衛隊に対する風向きが強くなるのは確実だ。


「動機は・・・・・・・」


「分かりませんが、隊員の約一名が、政府の極秘計画に出向した後に死亡したとのことです」


「その隊員は?」


「菅原香二等陸尉、当時、二八歳。防衛大学のを優秀な成績で卒業した、陸自の才女と称されていた、幹部自衛官です」


「おまけにルックスも良いとなれば、同僚たちからの人気も高いだろうな」


 写真で見る限り、菅原は美人の部類に入る。


 切れ長の目に色白の肌、ショートカットながら、黒々とした美しい、髪の毛は血気盛んな男子隊員にとってはアイドルのような存在だっただろうと思えた。


「動機は女か・・・・・・血気盛んなエテコウの考えることだ」


「広池隊長、それは差別発言です」


 だろうな・・・・・・


 だが、女が動機と言うのが気に入らなかったのは事実だ。


 それならば、三島のように国家を憂いての犯行というならば、まだ、自分の中でも犯行グループには酌量の余地はあったのだが、容赦するつもりは無くなった。


「その計画というのは何か、分かりますか?」


「調べてみますが、米軍との共同計画だったそうです」


 隊員が計画での実験中に死亡するほどの案件ならば、大きな報道をされていて、しかるべきなのだが、大事にはならずに隠蔽をされた、事故。


 連中の目的は彼女の追悼、もしくは弔い合戦か。


「引き続き、地上班に調査を続けるように下命してください」


「はっ!」


 そう言って、部下たちは持ち場を離れた。


 とりあえず、椅子に座るが、徒労感が込み上げる。


 そう言えば、もう、正月になったか。


 自衛官にはそんな物はあって、無いような物なのだが、日本全体が本来、めでたい空気になる中で、このような陰惨かつ巨大な事件が起きるというのは何ともやるせない感覚になるな・・・・・・・


 今年も実家に帰れなかったか。


 広池は実家のある、大坂の両親に事件が終わったら、連絡を入れようとふと、考え始めていた。


 時刻は午前〇時二十二分。


 東京駅占拠から、七時間二十分が経過しようとしていた。


13


 マリアン・フロストが物陰に隠れてから、しばらく。


 武装グループの男たち同士が、銃撃戦を依然、繰り広げている。


 好都合と言えば、好都合だがな。


 ドライブの充電の様子を眺める。


 まだ、イブを装着できないか。


 次の瞬間にはマリアンは走り出していた。


 男たちが銃撃戦に気を取られている間に新幹線改札を飛び越えて、走り出す。


 途中、向かってきた、男たちの脳髄を撃ち放ち、そのまま、走り出す。


 目標は変わらず、駅長室だ。


 時刻は午後〇時三十一分。


 東京駅占拠から、七時間半が経過しようとしていた。


14


 瑞穂は胸の中に振動を覚えて、意識を取り戻した。


 私は・・・・・・敵の武装グループに腹を殴られて!


 意識を取り戻して、すぐに起き上がったが、腹に痛みが走る。


 相手は私を殺さなかったのか・・・・・・


 何故だ?

 

 それはそうと、胸に振動が・・・・・・


 スマホだ。


 取り出して、相手の名前を見ると、吉希だった。


「はい、瑞穂」


(瑞穂さん! 生きているのか!)


 明らかに狼狽をしていた、吉希を相手に瑞穂は冷静に「生きているけど、そっちは大丈夫?」とだけ聞いた。


(そうか・・・・・・良かった)


「状況を説明して、こっちも説明するから」


 そう言われた、吉希は深呼吸をして、心を落ち着ける。


(至って、平然としていて、不気味なぐらいだよ。東京駅ステーションホテルで何かが、起きた後、改札で武装グループ同士でのドンパチがあったらしい)


「同士討ち? 何で?」


(知らないよ・・・・・・そっちは?)


「武装グループと交戦して、腹を殴られて、そのまま、放置。死ななくて、良かった」


(何で? 殺されないとか、ラッキー過ぎるでしょう)


「それは良いけど、どうする? これから? 戻ろうか?」


 吉希は数秒、考える。


(広池さんの判断を扇いだ方が良いんじゃないかな? こっちとしてもーー)


 すると、突然、通話が途切れ途切れになった。


「吉希くーん! おーい! 吉希ぃ!」


 ダメだ、通話が出来ない。

 とうとう、相手がジャミングを始めたか。


 恐らく、敵同士では通じる連絡手段があるだろうが、通常の通話やメールや各種SNSなどでの連絡は不可能となっただろう。


 前進あるのみか・・・・・・


 瑞穂は装備を確認した後に場所を移動することにした。


 時刻は午後〇時四十四分。


 東京駅占拠から七時間四十分が経過しようとしていた。


 続く。





 次回、第四話 追憶


 次回もよろしくお願いいたします!

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