↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
JKホラー  作者: 牧屋へいり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/22

【裏】9.異形頭七人同行





 さて、どうしたものか。


 バイト終わりの帰り道。普段の道が工事中だったため、少し遠回りをした。


 街灯は薄暗く、光が当たる場所よりも陰に隠れた空間の方が多い。


 少しの遠回りと言っても、地図上では数分にも満たない道の変更に過ぎない。


 だというのに、私はかれこれ十分以上彷徨っている。


 道に迷ったわけではない。けれど私は帰れない。


 ほら、またやってきた。




「オカエリナサイマセゴシュジンサマ」

「ハンニャナムアミダブツ」

「カワイイタクサンネコチャンイッパイ」

「イマダケタイムセール」




 言葉の意味は伝わるけれども、理解することは出来ない。


 彼らはただ聞き取れるような単語を並べているだけで、彼らが意味を理解しているとは思えない。


 首から下は人の身体、首から上は別のもの。


 鹿の頭にSMクラブからやってきたようなボンテージ姿。


 梟の顔をしている白衣の看護師。


 杖を突いて歩いている老人のようなシルエットだが、顔はコケシでゆっくりグルグル回っている。


 テンガロンハットにトレンチコートを着た鰐男。


 子供服にランドセルを背負い、パクパク口を動かしているのはウーパールーパー。


 ダルマがスーツを着てウーパールーパーの手を引いている。


 大きなお腹を擦りながらウツボの顔した妊婦が最後尾で歩いている。


 七人の怪人。これがテレビドラマであれば、なんてチープな怪物の行列だろうと笑えたのに……。




「キカクガイウレノコリ」




 ぐるりと首を捻り、鰐男がこちらを見る。


 即座に物陰に隠れ、やり過ごそうと息を潜める。


 困ったことに、七人の怪人たちは道を道として通らない。


 左に行ったと思ったら、次は後ろを通ったり、前を通り過ぎたと思ったら、右の角から出てくる。


 もう何度か見つかっているような気もするが、彼らが私に向かっている様子は『今のところ』ない。


 さっきもそうだ。こっちを見たが、私を見た様子はない。


 もしかすると、視力が極端に悪いのだろうか。それならば、なんとか抜け出すことも出来るかもしれない。


 彼らがどこから現れるか分からない以上、彼らが見えている間に別の道を抜ける必要がある。




「イラッシャイマセオヒトリサマデスカ」




 今だ。と思い陰から飛び出す。


 出来る限り物音を立てず、出来る限り身を低くして走る。


 チラリと後ろを見る。鹿男、梟女、コケシ爺、ウーパー子供に達磨紳士とウツボママ。


 あれ?


 鰐男がいない――。




「キカクガイニナラナイデ」




 掴まれた足。地面に這いつくばっている鰐男。


 しまったと思った時には遅かった。


 走った慣性で身体が倒れる。




「キカクガイダメ」




 鰐男は私の倒れる身体を支えようとする。


 なるほど確かに紳士的行動かもしれないが、そもそも転ぶ原因はお前にあるんだぞ。


 もしかすると込名さんも同じように転ばせられたのかもしれないと思うと、少し頭にきた。




「奮ッ!」




 一歩、足を前に出す。


 地面すれすれの低い位置にある鰐男の顔面を踏みつける。


 倒れることなく、鰐男に抱きとめられることも無く、私は一人で踏ん張る。


 そういえば、ワニは噛む力が強いらしいが、口を開く力は弱いらしい。


 まあ人間だって噛む力の方が強いのだから普通のことと言えばそうだろう。


 鰐男の顔面を踏み、口が変形するほど体重を乗せる。




「オモタイ」




 どこから声を出しているのかと言いたいし、私はそんなに重くない。


 頭を踏みつけられ、さすがに限界だったか、鰐男は手を離し、踏みつけている足を払おうとする。




「舐め腐りすぎじゃね?」




 鰐男の手を避け、体勢を立て直す。


 重心を片足に乗せながら一歩前へ踏み出し、サッカーボールを蹴るかのように、鰐男の横っ面をシュートする。


 鈍い音。骨が軋み、下手をすると折れたような感覚が伝わる。


 確かに恐怖はある。恐ろしい怪物が夜中に襲ってきたのだ、怖くないわけがない。


 けれども奴には肉体がある。触れることが出来る。


 それだけで、ほんの少しだけど心が落ち着く。




「触れるなら、蹴れるんじゃね?」




 私の胸が無いのは体質のせいでは決してない。


 私は身体を鍛えている。毎日走っている。揺れる脂肪は燃焼されるから、一番揺れる場所が最初になくなるだけだ。本当に。絶対。


 私のケツがデカいのは、だらしない生活のせいではない。


 むしろ逆だ。毎日走り、毎日スクワットをし、毎日鍛えているからデカいのだ。


 私の下半身は筋肉で出来ている。女の子なのだから腕を鍛えるより、最初から筋肉量が何倍もある足を鍛える方が良い。


 触れられないような幽霊、人知の及ばない怪異。それらと相対するために何をすればいいか分からない。


 ならば、せめて肉体が通じる相手だけには負けないようにしよう。そう思って十余年。私は鰐男を蹴り飛ばせるようにまでなっていた。




「キ、カク、ガイ」

「あ、ちょっと強すぎ?」




 捻じ曲がった首。いくら怪人とは言えやりすぎたかもしれない。


 ほとんどあり得ないことだろうが、ワニの被り物をした変質者という可能性だって残っている。


 人間の首があんなに曲がっては命が危ない。




「生きてる感じ?」




 少し不安になって鰐男に近づく。




「ダイジョウブモウオワリ」




 顔を上げたテンガロンハット。彼の顔はもうワニではなかった。


 人間の男性の顔をした男が、横顔を腫らしながら満面の笑みを浮かべている。


 口の中を切ったのか、血が滴り落ちつつも、白い歯が街灯に反射する。


 男はそのまま溶けるように地面に沈んでいく。最後に残された腕が、スッとカーブミラーを指さして消える。


 その指先。カーブミラーを私は見た。


 そこに映っていたのは、私の学校の制服を着た、鶏頭の姿。


 ああ、いや、これは違う。これは、私だ――




「タピオカパンケーキバチモレル」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。