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婚約破棄された引きこもり魔女ですが、実は天才魔女でした。王宮で無自覚覚醒します!  作者: 兎丸 蓮
第2章 出張捜査編 ―死の予言と、血晶の陰謀―

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第99話 変装令嬢と48時間のカウントダウン②――暗黒に染まる魔導の結晶

――人の血を抜き、そこから魔力だけを抽出し、『魔力石』を生成する。


 魔導具のランプが、静かな部屋の片隅で淡い灯を揺らしていた。

 その下で、少年扮するエレナは、目の前にある魔力石の欠片から作った魔法銃の二つの弾丸を見つめた。

 

 これの元となる『魔力石』は、まだ別にある。

 いま、手元にあるのは、その欠片。


 それでも分析は進められる。

 エレナの表業務のひとつは、この魔力石の分析だ。


 おそらく、時間はかかるだろうし、多くのことを知ることは難しい。

 でも、何も知らないこの状況を打破するには、少しでもこの石のことを知る必要がある。


 特に、二つの弾丸――違う魔力石から作ったのだろう。

 輝き方、色彩、そこから感じる魔力量や属性、全然違う。


「魔力石の分析、先に始めるのか?」


 クロフォードが尋ねた。

 彼の手には、マインラートがカシアに託した大量の資料がある。


「うん。原石じゃないから、時間がかかりそうだし、やってみようと思う」


「そっか。

 んじゃあ、俺は先に資料、読み進めておくぞ」


 クロフォードは、資料を無造作にテーブルに置く。

 そのうちの一冊を手に取ると、寝椅子にどかっと腰かけ、渋い顔で資料を開き読む。


 与えられた部屋は、質素な自衛警察団の作業部屋だった。


 壁の至る所に周辺領地や街の詳細地図が貼ってあり、直近で起きた事故事件をまとめたファイルが書棚にはたくさん詰め込まれていた。

 そして、古くて大きな柱時計。これで時間がよく分かる。


『エレナぁ、俺様、何か食べたいぞぉ』


 エレナの肩に黒リス小次郎が飛び乗って、おねだりをし始めた。

 こうなったら何か食べ物をあげないと、小次郎はうだうだ訴え続けてくるだろう。


「そうだったね」


『俺様、活躍してみんなを救ったぞ!』


「うんうん。ご褒美、欲しいよね。

 そういえば、さっき、ジーンさんから別れ際に木の実を貰ったよ。

 小次郎用にって」


『本当かぁ⁉』


 小次郎は途端に目を輝かす。

 エレナはポケットから木の実を出して、小次郎に差し出す。


『うわぁ、やったぁ! 

 これはクリモナの木の実だなぁ』


 小次郎は嬉しそうに手を伸ばして、早速頬張った。


 クリモナは栗の木の一種で、王都付近に生息する樹林だ。


 その実は生で食べるともっさりして口の水分を奪われるが、同期のローゼルが作るお菓子のようにシロップに浸したり、焼き菓子にすると、驚くほど味わい深く生まれ変わる。


 リスにとってもそれは胡桃に匹敵する最高峰の木の実のようで、使い魔とはいえ小次郎は黒リス。

 嬉しそうにクリモナの実を抱えながら齧り出した。


 そんな小次郎の脇を抱えて、テーブルの上に移動させる。

 

 エレナは改めて魔力石を使った弾丸を見据えた。

 

 部屋の隅にあったサイドテーブルにエレナは立つ。

 そこに、二つの弾丸を置く。

 目の前の魔力石に意識を集中する。



   「――属性解析、開始エレメント・ディスクリプション



 石は低く唸るように振動し、空中に波形が投影された。

 内部から淡い光粒が舞い上がり、空気そのものが震える。


 それは目に見えぬ流れ――魔力の本質が姿を現す瞬間だった。



   「――世界を織り成す根源の糸。

     大地の鼓動、星々の囁き、魂の残響」



 石からは青、赤、緑、そして淡い白光が放たれる。



   「――静謐せいひつなることわりよ、

    星々の囁きを映し、大地の鼓動を解き明かせ」



 石は応えるように淡い光を放ち、宙に浮かぶ光脈が星座のように広がる。

 ゆっくりと脈打ち始め、じんわりと解析が進んでいく。

 

 エレナはふうっとため息をついた。


『どうだ? 

 時間、かかりそうなのか?』


 頬袋にさっきのクリモナの実を詰めたまま、小次郎が天井を伝ってエレナの目の前までやって来た。

 小次郎の真っ黒の毛が、分析魔法の魔術式の光で淡く照り光る。


「うん、そうだね。

 やっぱり原石じゃないから。

 ちょっと手こずっている感じかな。

 でもこのまま放置しておけば、明日のこの時間帯には分析結果が出るはず」


『ふうん、そういうものなのか。

 原石があれば、さっさと終わるのか?』


「う〜ん、どうだろう? 

 本物をまだ見てないからなんとも言えないなぁ」


 エレナは肩をすくめた。


『なんかおっかねぇ武器だもんな。

 こんなにちっこい欠片のくせに不気味な魔力を放てるぞ』


 小次郎が弾丸の一つ、特にさっきから赤く脈動する方を訝しげに見た。


「そうだね」


 エレナはクロフォードの対面にある椅子に座って、資料を読み始めた。


 金とも銀ともつかぬ輝きを帯び、紙の上に柔らかな影を落とす。

 しばらくの間、二人と一匹は資料に目を通した。


 エレナは眉を寄せながら分厚い資料をめくり、クロフォードは背もたれに深く腰を沈めつつも、鋭い眼差しで文字を追い続ける。

 クリモナの実を食べきった小次郎は、文字が読めるのか、ふむふむと資料をじっと眺めている。


 血液採取用の器具。

 魔力抽出用の管。

 精製分離装置。


 マインラートから取り寄せた報告書の中には、先日まで起きていた隣領の高級療養所医療器具連続盗難事件に関することも含まれていた。


 盗難に遭った器具は、血液採取や魔力抽出に用いられる精密な品々ばかり。

 そして、いずれも高価で希少な器具のため、搬入先の商会とは特別な契約が交わされていた。


『使用開始から数年以内に盗難された場合のみ、補償金が支払われる』


 つまり、盗まれても保険会社から金額が補填されるということ。

 これは、条件付きの保証であり、商会の信用を裏打ちするものでもあった。


「この療養所も、ただの医療研究所じゃないな」


 クロフォードが低く呟く。

 エレナは弾けるように顔を上げた。


「やっぱり、そういう外科を中心とした医療実験とかをしていたの?」


「ああ、そうみたいだ」


 クロフォードの手にあるのは患者のカルテだ。

 医療専用用語だらけで、エレナにはチンプンカンプンだが、クロフォードはそういう造詣にも深いらしく、平然と読み進めていた。


「ほら、ここの見て。

 療養所も何人もの医師が患者から採血されてる」


 クロフォードがカルテのその部分をエレナに見えるように指差す。 

 エレナの頭の中に、注射針が自分の皮膚に突き刺さる光景が浮かんだ。


 針がブスッと体内に侵入し、血管から血が抜かれる。

 真っ赤な、鮮血。

 背筋に冷たいものが走るのを感じた。


 小次郎が不気味さを覚えたのか、エレナの元に擦り寄るようにやってきた。

 エレナは、小次郎の頭を指の腹で優しく撫で、クロフォードに尋ねる。


「その血を抜かれた患者さんは、全員女の人なの?」


「うーん、女九割、男一割って感じだな」


 クロフォードはカルテとにらめっこしながら、頭をぽりぽり掻いた。


『女の人の方が魔力石ってのを作りやすいんだっけか?』


「ああ、そうらしいな」


『医者って奴は、みんな、血を抜くのか?』


 警戒心を滲ませる小次郎は毛を逆立て、資料のページをめくるエレナの肩に乗って体を甘えるようにエレナの首筋に身を寄せた。


「ううん。治療内容によるみたいだよ。

 この国だとほとんどの病や怪我は、治癒魔法で済むから、滅多に道具は使わない」


 怯える小次郎をなだめたくて、エレナは精一杯優しい声を出して答えた。


『そうなのか。

 じゃあ、みんながみんな、血を抜く道具を持っているわけじゃないんだな?』


「と、思うよ。

 そういった医療器具がかなり高価な物だし、貴族とか診るお金持ちの医師にしか持てないんじゃないかな」


「いや。金持ち医師でも、外科手術ができる奴じゃないと、そんなもん、持たねぇよ」


 クロフォードが付け加えるように言う。


「そもそも、医師っていうのは金持ちしかなれない職業なんだよ。

 薬師は代々師匠や親から受け継いで知識を積み重ねていけるけど、医師の場合は、多大な人体の知識と実践経験が必要だ。

 ましてや、医療器具を使うような医療は、この国じゃああまり流通していない。

 それどころか、人体にメスを入れるなんておぞましい行為そのもので、平民には絶対に厭われる。

 治癒魔法が主体だからこそ、実践からなる経験値と知識、そして治癒力勝負って感じだ」


『なるほどなるほど。

 それにしては、エレナの資料にはたくさんの医療器具ってヤツが載っているぞ?』


 小次郎はエレナが見ていた資料を覗き込んだ。


「どれどれ」


 クロフォードがその資料を手に取って読み込み、やがて眉をひそめた。


「……確かに、小次郎の指摘は正しい」


『だろ? クロフォードのさっきの話だと、おぞましい行為であり、主流じゃない治療法。

 それなのにこれだけ数多くの器具を持っているって。

 俺様には不思議に思えてしかたないぞ』


 エレナはハッとした。


「言われてみれば……。

 療養所だからそれなりに医療器具がたくさんあってもおかしくないっていう先入観があったかも。

 これだけ多くの器具を盗まれたということは、つまりそれ相応、もしくはそれ以上の器具をこの療養所が所持しているってことよね」


「ああ。この量を仕入れるとなると……かなり大きなカネが動いているな」


 クロフォードは顎を触りながら、訝しげに資料を見つめた。


「お医者さんたちは、医療器具がここまで高額なのをご存知なのかな?」


「どうだろう。

 医療器具が高額なのは知っていると思うけど、そこまで正確な値段までは把握してないと思うぜ。

 貴族お抱え金持ち医師とかは、たいてい商会の言い値で支払って入手しているし、町医者は高級すぎて手の出しようがない」


「ふうん」


 急に、エレナの脳裡に今日のスラム街のことが横切った。


 そういえば、あの人、なんであんなことを言っていたんだろう?


――そんな高価な器具が一体どこにあるというのか。


 あの人の家には、その器具がちゃんとあった。

 ジーンからは、譲り受けたと聞いた。


 もしかして、あの器具は『盗品』ではなく、誰かが『意図的に配った』ものなのかもしれない。


 けど、これらの器具が『高価』だと知っていたのに、どうしてあんな無防備なところに置いてあった?


 不用心すぎないか。だって、そもそも家に鍵すらかかっていなかった。

 スラム街だから治安は良くない。なのに、あの人はあんなところに置いてあった。


 ひょっとすると、それだけ彼らがあの人を尊敬し、敬い、盗みに入るのはご法度という沈黙のルールがあるのかもしれない。


 でも、なんだか腑に落ちない。


『クロフォードはすごいなぁ。そういうのをよく知っているぞ』


 小次郎は感心するように鼻をひくひくさせた。


「ああ。むかし、〈影〉やっているとき、非人道的医師捕縛するにあたって、新米医師ってことで潜入する機会があってね。

 そのとき、膨大な医療知識とかそういった医師の細々としたものを覚えたんだよ。

 あのときの俺は若かったなぁ、スルスル難しい専用用語を平然と覚えられたんだから」


 クロフォードは自嘲のような笑みを浮かべた。


『俺様、道具使って血抜かれるの、なんか嫌だぞ』


 小次郎はブルっと震えた。


 そう、怪我などの外科治療のほとんどを治癒魔法で賄っているこの国にとって、人体を傷つけて血を抜くというのは、恐怖そのものだ。


『しかも、魔力がない人間でも、「魔力石」っていうのがあれば魔法を使えるんだろ? 

 そりゃあ、人間たちが欲しがるわけだぞ』


「魔法を使える、う~ん、正確には違うかな。

 ちょっと加工が必要かな」


 エレナは唸るように呟いた。


『加工? 

 なんだ? それは』


 小次郎が首を傾げた。


「今わたしが分析している銃の弾丸も、『魔力石』を削って武器に転用しているでしょ? 

 そのままでは使えないみたいなの」


 エレナは資料のページをめくる。

 小次郎はテーブルに降り立ち、エレナの見ている資料を一緒に覗き見た。


「ここに、ほら。

 他人の魔力を石にして、それを何らかの手段で加工しないと使用できないってあるでしょ」


『ふむふむ。なかなか不便だなぁ。

 せっかく石にしてもそのままじゃあ使えないなんて」


 小次郎が二本足で立ち上がり、書類をじっと見つめる。


『だから、加工工場があるかもしれないってアルアルとかが言っていたんだな』


 一人納得したように、小次郎が何度も頷いた。


 アルアル。恐らくアルバトスのことだろう。

 小次郎は、相変わらず、なかなか人の名前を覚えようとしない。


『なんか、あれみたいだな。

 魔力なしでも動く魔力封入型の魔導具』


 魔力封入型魔導具――職人や魔法使いがあらかじめ魔力を込めておく、もしくは天然素材や人工的の魔石を燃料にして動く魔道具だ。

 使用者はただ触れる、起動するだけで効果が発動する。


「へえ。いい例えを出すじゃん。

 そのイメージでいいと思う」


『むふふ。

 俺様、すごーい!』


 クロフォードに褒められた小次郎は、嬉しそうに尻尾を揺らして耳をピクピク動かした。


 得意げになった小次郎が、エレナの読み込む資料の隣にあった別の資料のところに落ち立つ。

 ちょいちょいと前足でファイルを引っかき、分厚い資料の一枚を器用に開いた。


『おい、エレナ。

 これ、なんか変な液体のことが書いてあるぞ』


 小次郎の声に促され、エレナは覗き込む。


「どれどれ?」


 その後ろからクロフォードも覗く。


 そこには〈特殊飽和液〉と記された項目があった。


 エレナは目を見開き、バっと資料を奪い取るようにして見る。

 小次郎はテーブルにひっくり返った。


『びっくりするじゃないか!』


 ぷんすか怒る。


 けれど、エレナはその資料に釘付けで聞こえていない。


――魔力石を溶かす特別な液体。


 そこに記載されている記述を隅々まで目を通す。


「魔力石を……溶かす?」


「え……」


 クロフォードはぎょっとした。


 不意に、エレナは昨晩のアルバトスとの会話が蘇った。



――あの石を砕き、液状化し、薬として液状化したものを、針と管を使って直接血液に入れ込むとさらに魔力が増強できる。


 しかも、若さも保てるとか。

 そうした効能があると知れ渡れば、当然欲しがる者は後を絶ちません。

 下級魔法使いにとっては、わずかな魔力増強であっても切実な望みですからね。




「なんて書いてあるんだ?」


 クロフォードが急かすように声を上げた。


「うん……。〈特殊飽和液〉は、魔力石の結晶構造を緩め、内部に蓄えられた魔力を液体状に変換する溶媒である。体液とも近い成分って」


 色は深い藍から紫へと揺らめき、液面には星屑のような光点が浮かぶ。

 近づくと低い振動音が響き、まるで液体そのものが呼吸しているかのように見える。


『つまり……これで溶かして、体内に入れられるように加工するのか?』


 小次郎は神妙な顔つきで、エレナを見上げた。


「そうみたいだね」


 エレナは返事をしながらも、さらに資料に目を走らせた。

 クロフォードが眉をひそめる。


「血を抜いて魔力を抽出し、結晶化。この飽和液に溶かし込むことで液体化し、注射器で体内に直接注入する……か」


 他人の魔力を注射針で肌に刺して、直接流し込む。


 二人と一匹はその工程を想像し、改めてゾッとした。


「でも、――他人の魔力を吸収して魔法を使う。

 まさに小次郎の言ったとおりになるな」


 クロフォードがぽつりと呟いた。


『うぉぉぉ! 俺様、天才だぜ!』


 小次郎が腕を振り上げ、得意気に胸を張って尻尾をぶんぶん振り回した。


「これ、考えようによっては、夢のエナジーポーションだよね」


 ぼそっと呟くエレナの声には、なんとなく興奮が滲み出ていた。


 採取方法や注入方法はおぞましい。

 けれど、これをきっかけに魔力過多で困っている人の治療の一助になるかもしれない。


――そう思った瞬間、エレナの心は研究者としての好奇心で微かに躍った。


 魔力供給の仕組みはまだ誰も解明していない。


 けど、魔力量過多の人は、それなりに悩みがある。


 こまめに魔力を発散させないと、体内に膨大な魔力を抱え込んで本人の意思に反して暴走してしまうことがあるからだ。


 男性にこの症状を抱える者が多いようで、魔力の暴走により暴行事件が起きたり、喧嘩が耐えなかったりこれは一種の社会問題になっている。


 そういう人は、積極的に魔法を使う職業に就いたりして体調を管理するしかない。


(だからこそ、そういう人たちからと定期的に血を採取すれば、彼らの悩みを解消できるってことよね。逆に考えれば、魔力が枯渇して病に伏す人たちを治癒できる可能性もありうるし)


 とはいえ……。


 再び、アルバトスの台詞が蘇る。



――当然『魔力石』はとても稀少なものになります。

 そのため滅多に表の市場に出回ることはほとんどなく、裏の取引では高値で売買されるでしょう。

 噂だと、 一つの石が、時に家一軒分の価値に匹敵することもあるとか。

 そして……その流通を握るのが闇ギルド。



「そう考えると、魔力石が高額で取引されるのも腑に落ちるな」


 クロフォードはため息をついて天井を仰ぎ見た。


『なるほどなるほど。

 女性の方が血液と魔力の分離しやすくて魔力石が生成しやすい。

 そう、ジーって奴が言っていたのを俺様、今鮮明に思い出したぞ』


「ジーじゃなくて、ジーンさんね」


 思わずエレナは修正した。

 けど、小次郎は聞く耳を持たないで、次の話題に移る。

 エレナの前に立って、ぴしっと前足で差す。


『ってことは、エレナ。

 エレナが一番ヤバいんだぞ!』


「えっ⁉」


『エレナの魔力は莫大だ。

 エレナの血液から純度の高い、それもかな~り品質の高い魔力石が生成されるはずだぞ。

 さっきの魔力石の弾に込められていた魔力だって、あれは全然大したことない。

 エレナから抽出された魔力石はさぞかし精度の高い弾丸になるだろうな。


 それは、夢のエナジーポーションってヤツの格好の材料にもなるってことだよな?』

 

 エレナは何やら背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「ひょえぇぇぇ……そんな恐ろしいことを言わないでよ」


 エレナは自分で自分を思わず抱きしめた。


『事実なんだから仕方ないぞ』

 小次郎は、フンと鼻を鳴らした。


(やっぱり、さっきの前言撤回!)


 魔力過多の人、魔力枯渇の人の悩み解消と思ったけど、それは机上の論理。

 そんな治療法が確立されたら、これは魔力保持者の女性にとって、とんでもない事態だ。


 エレナは自分の能天気な考えに頭を抱えた。


 この世界は貴族社会。

 南部のユリウス皇太子殿下が留学しているビファーヘイブン共和国では、女性の活躍も目覚ましい。

 けれど、まだまだ男社会。


 女性は何かとまだまだ不利である。

 いまだに女性をアクセサリーの一つのように扱う貴族も少なくない。


 こんな机上の論理とはいえ、大々的になったら、魔力持ちの女性たちは『魔力石』の利益欲しさに女性を品物のように扱う――。



 心臓の鼓動が激しくなった。

――この国の闇は、わたし自身をも飲み込もうとしている。


 能天気な考えを抱いた自分を恥じながらも、この調査は、想像以上に危険な領域へ踏み込んでいる――。


 エレナの指先が、さっきまで熱を帯びていた体は急速に冷たくなって、微かに震えていた。

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