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婚約破棄された引きこもり魔女ですが、実は天才魔女でした。王宮で無自覚覚醒します!  作者: 兎丸 蓮
第2章 出張捜査編 ―死の予言と、血晶の陰謀―

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第93話 変装令嬢と潜入捜査⑤――闇オークション潜入の手掛かり

「……行ったか」


 魔法騎士団に連行されるフレデリカの背中を見送り、クロフォードが深いため息を吐き出した。


 しかし、エレナの視線は別の場所に釘付けになっていた。

 あの侍女の、白く細い指先――。


 嵐のようなフレデリカ・サンティエ令嬢御一行が去り、しばらくすると、ぐったりと疲労困憊のコンラートが戻って来た。


「……まあ、何はともあれ、向かいますか」


 ジーンが苦笑を浮かべながら、仕切り直した。

 四人は最下層の人々が住むという海面沿いへ歩き進めた。


「申し訳ございません、クロフォード殿。

 お嬢様があんな公衆の面前で貴殿の名前を言ってしまうなんて……」


 コンラートが申し訳なさそうにクロフォードに頭を下げた。


「まあ、リッカだからしかたないよな。

 猪突猛進っていうか……。

 まあ、ぶっちゃけ王都の役人ってバレたのは少々痛いけど、コンラートもお疲れ様」


 コンラートはクロフォードに逆に労われ、ますます萎縮し、大きな体を縮こまらせた。


 そんな様子を尻目に、クロフォードは空を見上げ、考える仕草をする。

 もう次のことを考えている。エレナはそう思った。


 エレナは、目の前のことを一つ一つクリアすることに精一杯だ。

 魔法の研究とかは仮説を立てて、いろいろ推測できるけど、実践となるとまだまだ未熟。


 詰めが甘い。


 ジーンがエレナ扮する少年トマに、さっきから鋭く指摘するのは、そういったところが目に余ったのだろう。

 精進すべきところは多々ある。


「とりあえず、いまからみんなは俺を『フォード』と呼んでくれ」


 クロフォードがみんなの顔を見回して言う。


「それで、さっきの、少しは誤魔化せるだろう?」


 クロフォードが誰にも呼ばせていない愛称だ。

 まさかこのタイミングで呼べるなんて。


(今はエレナじゃなくてトマという男の子だから、不自然じゃなく呼べる……!)


 エレナは思わず頬を緩ませた。


「フォードね、了解」


 エレナは頷いた。


「承知しました」


 ジーンとコンラートも頭を下げた。


 エレナの足取りがほんの一瞬だけ軽くなった。


 だが、海面に近づくほど、空気は重く湿り、目の前に広がる景色に憂鬱になっていく。

 腐敗した魚の匂い。

 流れ込む排水の生臭さが混じり合い、腐臭が肌にまとわりつく。


 橋のふもとに広がる小屋群は、海面すれすれに建てられていた。


 波が打ち寄せるたびに木材は黒ずみ、湿り気を帯びて軋む。

 板張りの床はところどころ抜け落ちている。

 満潮時には海水が染み上がってくるのだろう。


「……ここが最下層」


 エレナは呟く。


 昼間でさえ薄暗く、陰鬱な気配が漂っている。

 胸の奥が冷たくなるのをエレナは感じた。


「潮の満ち引きに左右されるようなところなのに、どうしてここに住んでいるんだろう?」


 エレナが思わず口に出すと、ジーンが冷ややかに言う。


「街や市場からは排除され、目立たない橋の下や堤防、岩場の隙間などに住むしかないんですよ。

 中心街周辺で寝泊まりすれば、平民から差別され、いたぶられ、追いやられます。

 言葉も分からない、誰も助けてくれない。

 それならば、ここの方がマシ、ということです」


「言葉の壁は厚いですね……」


「ええ。本当に。

 そういえば、最近は[夜鴉盟約(よがらすのめいやく)]が彼らを管理下に置いていることもあり、別の場所に移動することすら許されないみたいですよ」


「それは、血を搾取するためか?」


 クロフォードが尋ねた。


「ええ、恐らく。

 先日の奴隷船に乗っていた多くの者が魔力保持者だったそうです。

[夜鴉盟約]はそこに目をつけたんでしょう。

 あえて言葉の分からない彼らを、むしろ誘致し、自立支援施設から逃亡の手助けまでしている節があります。

 特に女性には『このままでは犯され、さらにひどい場所に売られるぞ』と脅してます」


「ひどい……っ」


 思わずエレナは声を上げた。


「本当にそのとおり。

 女性は男性に比べ、血と魔力を分離しやすく、『魔力石』を生成しやすい。

 だからこそ、さらに最下層に追いやって、意図的に生活に困窮させています」


「なるほど……。

 そうやって奴らが脅すから、自立支援施設からたくさんの元奴隷の女性が数多く逃亡したわけですね」


 コンラートがしみじみと呟いた。


「この世は男性社会ですからね。

 どうしても女性にしわ寄せがいく」


 ジーンは眉をひそめた。


「なおかつ、そこで魔力石生成の利点を考慮すると、そういった女性を囲ってしまって骨の髄まで吸い尽くせばいい――。

 人の所業とは思えない鬼畜さだな」


 顔を歪めてクロフォードが言い捨てた。


「潮に呑まれるのは怖いが、陸の方がもっと怖い。

 税も追い立てもない分、まだここがましだ」


 近くで釣りをしていた老人が、こちらの話を聞き取ったのか、苦笑いを浮かべて呟く。


「ほんの僅かな血を差し出せば、寝る場所には困らない。

 魔力持ちの女というだけで、優遇さ、羨ましいものだ」


 エレナはカッと頭に血が昇った。


 優遇されている? 何バカなことを言っているんだ、この老人は。

 それが魔力持ちの女性にとってどれだけ致命的なのか知らないのかしら。


 怒りが滲むエレナをクロフォードが、そっとエレナの肩に手を置いた。


「爺さん。

 爺さんはこの国の人間か?」


 クロフォードが、穏やかに老人に声を掛けた。


「いいや。

 儂は故郷の国を追い出されてここに流れ着いたんだ」


「でも、言葉は分かるのか?」


「ほんの少し」


「じゃあさ、いつぐらいから、彼女らが闇ギルドに血を提供するようになったんだ?」


「さぁな」


 老人は遠い目で海の地平線を見つめる。


「知っていても教えられん。

 儂は殺されたくはない」


 フンと老人は鼻を鳴らした。


 その言葉に、コンラートは唇を噛み、クロフォードはため息混じりに黙って周囲を見渡した。


 板張りの床の隙間から覗く波が、まるで住人を飲み込もうと待ち構えているかのように揺れていた。


「あんたらさ、この爺さんの言う事なんて、真に受けない方がいいよ」


 そのとき、身なりのいい男がエレナたちに声を掛けた。

 潮に焼けた顔は皺だらけで、声もかすれている。

 だが、妙に含みのある調子だった。


「お前さぁ、適当なこと、言ってんじゃないよ。

 この物乞いめっ」


 しっしっ、と漁師は、老人に野良猫でも追い払うように手をふる。

 老人は渋々、簡易的な竿を持って、去っていった。


「あんな移民の話、真面目に聞いちゃ駄目だよ。

 アイツらは息を吐くように平気で嘘をつくんだ。

 んで、俺達の物を掠め取ろうと狙っているんだ」


「へえ。

 詳しいんですね」


 ジーンが言った。


「ああ。だって、アイツら、放っておくと俺たちの漁船に勝手に住み着くんだ。

 迷惑千万ってものだ」


 男が橋から少し離れた堤防に視線を投げる。


 そこは、簡易的に設けられた船着き場だった。

 数隻、そこまで大きくないが木材で造った漁船が停泊していた。


「なあ、あんたら、日にち間違えていないか?」


 男は出し抜けに言った。


「日にち? 

 何の日にちだ?」


 コンラートが一歩前に出て尋ね返した。


「その格好からあんたらはお貴族様だろ? 

 お貴族様がこんなところに来るのは、例の催し物があるときだけだ」


 男はじろじろと四人を探るような目つきで見た。


 そして、クロフォードの端正な顔立ちに男は一瞬見惚れ、ぽかんとする。


 たぶん、男はクロフォードがあまりにもキレイな顔をしているので、驚いている。

 男の目から見ても、クロフォードは中性的な美を持っているのだろう。


 それにしても、催し物とは?

 綺麗好きな貴族がここにやって来て、催し物に参加するのか? 

 それは明らかに変だ。


「ここでその、その催し物をやるんですか?」


 エレナが思わず聞き返すと、漁民は肩をすくめて小馬鹿にするように笑った。


「そんな訳ないだろ、違うって。

 場所は、ほら、あそこだ」


 彼は海の地平線を指差した。

 そこには、険しい岩場があった。

 目を凝らしてみると、波に削られた岩場だが、かなり大きい島だ。


「あそこで今度稀少な商品を売る貴族様専用の市場があるんだと。

 時々開催されるんだ。

 それがあると、お貴族様からそこまで船を出して欲しいという依頼が殺到するんだよ」


 何の変哲もない岩場の島。


 煌びやか好きな貴族が、あんな目立たない地味な岩の島に集まるというのか。 

 何のために? 

 しかもあんな場所に夜会を開催できる場所があるとは思えない。


「稀少な……ふうん。

 なるほど」


 クロフォードの口角がニヤッと吊り上がる。

 この目の輝きようは、何かを閃いたからだろう。


「そう、俺たちはその偵察で来たんだよ」


 クロフォードは男に向き合って言った。 


「おぉ、やっぱりそうか」


 男は得意げに笑いつつ、クロフォードから目を離さず男は頷いた。


「ふふ、君はお目が高いですね」


 ジーンが繕うように、にっこり笑った。


「実は、彼らのご主人が今回初めて参加することになったからね。

 一体どんなところなのか、詳細の開催場所の島を探って来いっていう指示があったそうなんだ。

 お貴族様がここをうろつくと目立つだろ? 

 だからね、慈善活動を検討しているっていう名目で、僕が彼らをいろいろ案内しているんだ」


 ジーンの口からスラスラと嘘の話が、さも本当のことのように出てくるので、エレナは目をパチクリさせた。

 コンラートもぽかんとして、思わず二人で顔を見合わせた。


「ああ、なるほど。

 あんたは吟遊詩人だもんな。

 あんたが案内人なら、スラム街の連中も無下にしないよな」


 そんな嘘話に納得したのか、男はぽんと手を叩いた。


「おや、僕のことをご存知で?」


「ああ。俺、あんたを知ってるぞ。

 最近ここらの子供に歌で言語を教えている吟遊詩人だろ?」


 男はしたり顔で続ける。


「もともとは中心街の噴水の広間で歌を歌ってたとかで、うちの女房があんたの唄声のファンなんだ。

 ここでもあんたの歌い声はすごくいいって評判らしいぞ」


「あはは、それは嬉しいな。

 奥様によろしくお伝えください」


「おうよ。

 いやぁ、あんたらもここらで偵察なんて、大変だよなぁ」


 男はニヤニヤ笑いながらも、それでもクロフォードの容姿が気になるのだろうか、ジロジロと見る。


「開催日は三日後の夜とはいえ、今はあの島に近づかないほうが賢明だぞ」


 男は得意げに胸を張った。


「なぜ? 

 単なる岩場の島だろ?」


 クロフォードが尋ねた。


 男は「ふふん、それはな」とますます勝ち誇った笑みを浮かべる。


「あの島、こっち側から見ると岩だらけだけど、裏に回ると、一か所だけ開けたビーチがあるんだ。

 その奥に大きなお屋敷があってな。

 けど、招待を受けていない人間が訪れると、撃ち抜かれて殺されるんだよ」


「殺される⁉」


 四人は同時に驚く。


「それはつまり、あの島には見張りがちゃんといて、不審者を狙撃するということか?」


 クロフォードは身を乗り出した。


「おう、そうだ。

 だから当日以外、近寄ったら駄目なんだ」


 エレナは、もう一度岩場の島に視線を飛ばした。

 これはもはや表立ってやれないことをあの岩の島でやっている、そう公言しているとしか言いようがない。



 十中八九、あそこで開催される催し物は――闇オークションだ。


 そっと、エレナは懐疑的な目で饒舌に島のことを語る男を見た。


(なんで、この人、そこまで知っているのかしら)


 漁師ということらしいが、大袈裟な身振り手振りと、核心を逸らすような口ぶり。

 気さくだけど、どこか胡散臭い男だ。

 地元の漁師とはいえ、このスラム街はさすがに避けるはずだ。


 それなのに、このタイミングで声を掛けてきた。

 はっきり言って、とっても怪しい。


 エレナはハッとする。


 ひょっとしたら、[夜鴉盟約]の一味なのかもしれない。


「……お前、なぜそこまであの島に詳しいんだ?」


 コンラートが、怪訝そうに男をぎろっと見た。


「えっ……?」


 鋭く睨まれた男は、一瞬たじろぎ、視線を思わず泳がした。

 どうやらコンラートもエレナの疑問を同じように感じたようだ。

 それは、クロフォードもジーンも同じ。

 

 みんなの目つきが鋭くなる。


「確かに。

 ここで俺たちに話しかけるってことは、何か目的があるんだよな」


 クロフォードが顎に手を当て、男を改めて見た。


 若草色のクロフォードの瞳に射抜かれた男は、びくっと肩を震わせた。

 端正な顔立ちのクロフォードが、冷ややかに凄みを持って尋ねる。


「お前はなぜここにいる? 

 あそこの漁師の船着場に船を持っているといっても、結構な距離があるぜ。

 何が目的だ?」


 クロフォードから異様な気迫が迫りくるので、男は一瞬慄き、一歩後ろに退いた。

 だが、男は去らない。

 もじもじしながら、そのうち諦観の念を示して口に出す。


「……実はここで女を買ってたんだ」


「は?」


「言葉は通じなくても、移民の方が俺好みの美人が多くてね。

 女の家から出て来たら、小綺麗な格好をしたあんたらが彷徨さまよってたから、つい声を掛けたんだよ」


「ここで女をねぇ」


 皮肉めいてジーンが呟くと、男は慌てる。


「ほら、男なら好みのタイプで、少しでも安く上玉な女を抱きたいものだろ? 

 男のロマンっていうかさぁ。

 それに、ここならカミさんにバレることもないしさ」


 男は言い訳がましく、早口でいけしゃあしゃあと言った。


 エレナは眉をひそめ、「女を買った」と平然と言う男に嫌悪感を抱いた。


 こういう人がいるから、世の中、自分の身体を売る女の子たちが減らない。

 エレナが憮然としていると、クロフォードもコンラートも冷ややかに男を見下ろす。


「そんな軽蔑したような顔をしないでくれよ」


 男はへらへら笑う。


「だからさぁ、男の性分ってヤツだろ? 

 お貴族様でも同じ男として分かってくれるだろ?」


 男三人は、顔を見合わせ、一斉に大きなため息をついた。


「まあ、いい。

 で、どうしてあの島に詳しいんだ?」


 クロフォードは肩をすくめ、次の質問をした。


「それは……」


「それは?」


 クロフォード、ジーン、コンラートに詰め寄られ、男はたじたじになる。


「あそこで、何回もそういった催し物が開催されているんだ。

 俺は何度か顔見知りになったお貴族様から当日の送迎依頼を受けて島に出入りしてたから……そういう事情を知ってるんだよ」


「へえ、そういうことか。

 何度も催し物がね。

 で、なんで俺たちに声を掛けようと思った?」


「実は、数ヶ月前に三日後の催し物の送迎依頼がまたあって、話を受けていたんだけど……」


 男はますます気まずそうに視線を泳がす。


「先日の王都での反政府組織の一掃検挙があっただろ? 

 その時に、そのお貴族様が逮捕されてしまったらしくてね。

 船出す話が頓挫(とんざ)したんだ。

 前金は貰ってたんだが……少々遊びすぎて、駄賃がなくなってしまって……」


 徐々に男の語尾が小さくなった。


「ふうん。つまり、お前は後金を目当てにハメを外しすぎた。

 だから、三日後の催し物に参加する新たな上客を探していたわけか」


「そう、そうです」


 男は愛想笑いのような奇妙な笑みを浮かべた。


「でも、まあ、島の様子をそれなりに知っていたのは納得だ」


 クロフォードは肩をすくめた。


「どうです? 

 船の手配がまだなら、俺、船出せますぜ?」


 男は態度を翻し、手揉みしながら、四人の顔を見回す。

 最後にクロフォードを見据えて尋ねた。


 彼は、よっぽどクロフォードの容姿が気に入ったようだ。


(……なるほど、彼は営業するためにわたしたちに近づいたわけね)


「俺に船を依頼してくれるなら、俺の知ってる限り何でも教えるぜ。

 どうですか?」


 ますます男は、猫撫で声を出してねだった。


 ジーンが人懐っこくみえる笑顔を浮かべ直す。


「君の船は当然大きい船だよね? 

 ちんけな小さい船じゃ乗らないものを購入するかもしれないんだよ」


「えっ、どれくらいのものを買う予定なんだ?」


「ナマモノ三十人くらいだな」


 クロフォードが端的に言った。


「ナマモノ……ああ、あれか。

 奴隷だな」


 男は事なさげに平然と言う。


「まあ、多少窮屈にはなるが、詰めればなんとかなる。

 なにせ俺は両手に抱えきれないほどのデカい魚を何十匹も釣るのが本業だ」


 そう得意気に笑っているが、男は無意識に語っている。

 あそこでは非合法のモノが売買され、今までもそういった違法物を運搬したことがある。


「あんたの船に乗せるんだぞ、抵抗ないな?」


 ぐっと、クロフォードが一歩踏み出すと、男は驚いて頬を赤く染める。 


「えっ、あ、あっ、はい」


「あと問題はお前がどこまで信用できるか、だ。

 なにせ今回欲しい商品が稀少でね。

 ベラベラとしゃべられたら困るんだ」


「稀少……盗品の絵画とか珍しい魔物とか?」


「まあ、そんなところだ」


 クロフォードは、わざらしくはぐらかす。


「魔物か……う~ん、乗るかなぁ」


 腕を組んだ男は真剣に悩み出した。


「ちなみに、この辺の漁師は同じような島の送迎依頼を受けているのか?」


「ああ。もちろん依頼を受けているぜ。

 なにせ、催し物の主催者から、デカい船は目立つから避けてくれ、って要望が出ているんだ」


「へえ、他にどんな貴族から依頼されたか知っているか?」


「ええと、仲間が言っていたのは……ディダス家だったけな」


 彼は顎に手を当てて言った。


「……ディダス家」


 コンラートが鸚鵡返おうむがえしのように呟いた。


「はい、そうです。

 あと、アルノー家とエドマンド家。

 とりあえず、俺の漁師仲間が言っていたのはそこですね」


 男はにこにこ必死で愛想笑いを浮かべた。

 クロフォードとジーンが含みのある視線を交わす。


「わかった。

 じゃあ、お願いしようか」


 クロフォードが言った。


「おお、マジか! 

 もちろんだ、いや、もちろんですとも! 

 是非ともお任せください」


 急に漁師の男の態度が一転、分かりやすく手もみをして、ますますへこへこする。


「よし。前金で銀貨一枚、終わったら金貨一枚追加。どうだ?」


 クロフォードがニッと笑った。


「ありがとうございます!」


「船の乗船はこの橋の近くになるのか?」


「それはもうあなた様のお望み通りの場所から乗船できるよう準備します」


「了解。詳細はまた知らせるよ。

 どこに行けばお前に会える?」


「えっと……」


「フォード殿。

 その辺りは私が代わりに話を詰めますよ」


 コンラートが前に出た。


「ああ、頼むよ」


 コンラートと男が打ち合わせし出した。


 クロフォードは満足そうにニヤニヤ笑って視線を開催地の岩場の島に投げた。

 エレナはクロフォードに近寄って、そっと尋ねた。


「闇オークションが開催されるんだよね?」


「ああ、間違いない。

 いやぁ、俺たち、運がいいぜ。

 ディダス家に、アルノー家とエドマンド家だろ? 

 この三つの家には共通点があるんだ」


「共通点?」


「そう。実は、先日の『黒の杖』関与貴族として有力候補だったんだ。

 けど、証拠が足らず検挙できなかった。

 ただ、違法薬物を販売していたワルト・チェッカレッチとの繋がりまでは確認がとれている」


「え、そうだったの?」


 クロフォードが「しっ」と口元に人差し指を立てた。


「クレインバール卿に連絡すれば、この家門のどれかを尋問し、真相を明らかにし、招待状を手に入れてくれるはずだ」


「なるほど。

 その招待状が手に入れば侵入できるんだね」


 エレナは心が弾んだ。


「そういうこと。

 だいたい闇オークションっていうのは顔が分からないよう仮面舞踏会形式だし、潜入するにはちょうどいい」


 クロフォードも新たな手掛かりを入手したことを満足に思っているのか、目が輝いていた。



 仮面舞踏会のように顔を隠した者たちが集うという闇の催し――。

 三日後の夜、岩場の島で何が待ち受けているのか。

 エレナは沖合の島に視線を投げた。

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