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婚約破棄された引きこもり魔女ですが、実は天才魔女でした。王宮で無自覚覚醒します!  作者: 兎丸 蓮
第2章 出張捜査編 ―死の予言と、血晶の陰謀―

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第85話 内気令嬢と闇ギルドの影【後編】――酒場の警告、暴かれる拉致の手口

 エレナは、恐る恐る店先の扉を押し開けた。


 中は薄暗く、漁師や船乗りたちが大声で笑いながらジョッキを打ち鳴らしている。

 壁際には酒樽が積まれ、潮の匂いと焼いた魚の香りが混じり合っていた。


 港町らしい活気と温かさがあるお店だ。


 クロフォードが目ざとく壁にかかっていたメニュー表を見て、嬉しそうに笑った。


「エレナ、タコの煮込みがあるぞ」


「やった!」


 エレナは小さく手を挙げて喜ぶ。


「いらっしゃい」


 気さくな声で、女将っぽい年配の女が声をかけてきた。

 潮風に焼けた肌に、後ろでざっくりまとめた髪。

 服の袖をまくり、忙しそうに皿を運んでいる。


「あらま、見たことない顔だね。

 好きな席に座っておくれ」


 クロフォードは、店内を見渡す。席は何席か空いていた。

 その中から、何かを見つけたように 二階席へ続く階段の手前に座った。


「注文は?」


 女将が腰に手を当て、ふたりの席の前に立つ。


「ええっと、俺は麦酒、エレナは?」


 クロフォードがエレナに尋ねた。


「えっと……」


 その時、女将がローブを被ったエレナの顔を覗き込もうとしたので、エレナは一瞬怯えた。


「あら、この小柄な子は女の子かい? 

 だったら、果実酒なんてお勧めだよ」


「果実酒?」


「そう、港街特産の柑橘で作った酒」


 豪快な笑みを浮かべ、二人を見回す。


「じゃあ、わたしはそれを。

 あと、タコ……ってありますか?」


 エレナは必死で声を紡ぎ出した。


「もちろん。

  煮込みも焼きもあるけど、どっちにする?」


「え……っと……」


 女性の豪快で早口な口調にエレナは、気後れし、おどおどしながらメニューを見る。

 だけど、すでに頭の中はパニックになって、何が美味しいのか、どれがいいのかパッと決められない。


「両方くれ」


 クロフォードが口を挟んだ。


「あと、おすすめをいくつか頼む。

 この街自慢の魚介をどっさり見繕ってくれないか? 

  マジで腹が減って倒れそうなんだ」


「あんた、キレイな顔してるのに、口の方はなかなか威勢がいいねぇ」


「顔がきれいでも腹は減るんだ。

 顔がきれいだからって霞を食べて生きてるわけじゃないからね。

 腹が減れば性格も荒むし、これでもまだ成長期なんだ」


 クロフォードは肩をすくめて返す。


「あはは! 口の減らない坊やだこと。

 港街じゃ、口を動かす前に手が飛んでくるよ?」


 女将は冗談めかして睨みを利かせる。


「手が出る前に、自慢の料理で俺を黙らせてよ。

 そうしたら、いい子にするからさ」


 クロフォードはわざとらしくお腹をさすり、笑いを誘った。


「はいはい、食い意地の張った坊やには、港街特産のタコでも詰め込んでやろうじゃないか」


 女将は笑いながら、厨房へと消えていった。


「ありがとう……なんか緊張しちゃって」


 エレナはしゅんとする。


「気にするな。

 伯父貴とはちゃんと女官として挨拶できてたし。全然問題なし」


 クロフォードは頬杖をついて、ニカっと笑う。

 その言葉にエレナはわずかに頬を緩ませた。


「なあ、明日は朝早く屋敷を出発しようぜ」


 クロフォードが声を潜ませたので、おのずとエレナも声を潜める。


「いいよ。朝早くから何かあるの?」


「市は朝早い方がいろんな人が集まるんだ」


「へえ」


「で、本題。

 俺の後ろにいる男たち。

 さっきからこっち見てるだろ?」


「え?」


 エレナは一瞬だけ、そこに視線を投げてすぐにクロフォードに戻す。


 確かに、じっと何かを値踏みするようにこっちを見ていた。


 なかなか体格が良く、お育ちがいいとは言えない風貌だ。

 世に言うゴロツキという輩たちだろう。

 態度も横柄で、どこか粗野で荒々しい。


 周りの客も、あの豪快な女将でさえ眉をひそめている。


「なんだろう、何かわたしたちに用があるのかな?」


「あいつらのテーブルに置いてある魔道具、見た?」


「魔道具?」


 もう一度、そこに視線を投げようとした。

 そのとき、女将さんがふたりが注文したお酒を木のジョッキに入れて運んできた。


「あいよ」


「おお、ありがとう」


 女将がさりげなく木材の薄い蓋のようなものをテーブルに置いた。

 ふたりはきょとんとした。


 ふと、女将がふたりに少し身を寄せ、囁く。


「いいかい、飲んでない時はちゃんと蓋をするんだよ。

 特にあんた」


 エレナを強い眼差しで見た。


「え、わたし?」


「ああ。――女の子は、隙あらば通りすがりとかに、ジョッキに変なクスリを入れられるかもしれないんだよ」


「え?」


 背筋がひんやりした。


 女将は一瞬だけ、クロフォードの後ろの席の客を盗み見た。


「ちょっと最近物騒な連中が街を出入りしてるんだ。気をつけな」


「は、はい」


「気を付けるのは女性だけなんじゃないのか? 

 もうひとつあるぜ?」


 不服そうにクロフォードが蓋を摘む。


「あんたは、男の子なのに可愛い顔してるからだよ。

 あんたも売られちゃうかもしれないから気をつけな」


「人買いがこの街にいるってことか?」


 クロフォードは眉をひそめた。


「移民が増えてるからね。

 この街は貿易が盛んだからか、モノだけじゃなく、人の交流も多いんだよ。

 その分、胡乱な奴らもいつの間にかやってきて、悪さを働く時がある」


「なるほどね。

 で、女子供だけじゃなく顔がいい男も攫われちゃうわけか」


 謙遜することなく、クロフォードはさらりと言った。くすっと女将は笑う。


「そういうこと。

 でも、大通りなら夜は大丈夫。けど、あんたは夜、一人歩きは控えたほうがいいからね」


 女将はぽんとエレナの肩を叩いた。


「最近、若い女の子が行方不明になることも多いんだよ。

 夜道には気を付けなさい」


「ひぇぇぇ……気をつけます」


 震え上がるエレナにクロフォードが銅貨を女将にさらりと握らせた。


「ありがとう、いろいろ教えてくれて。

 ひょっとすると、今後仕事関係でこの街のことをまた教えてもらうかもしれない」


 女将は意外そうな顔をしながら、口角を上げた。


「悪事には加担しないよ」


「大丈夫、これでも公的機関の人間だから」


 含蓄あるクロフォードの笑みに、女将は目を見開き、まじまじとふたりを見た。


「そういうことかい。

 その時は昼間に来てくれると助かるね」


「大丈夫、営業妨害をする気はないよ」


 クロフォードは手をひらひらと振った。


「すみませーん」


 別の客が女将を呼んだ。


「あいよ」


 女将は返事をし、ふたりに目配せして席を離れた。


 こんな活気のある港街なのに、実際は人攫いが暗躍しているなんて。

 まさかの情報にエレナは肝が冷えた。


 ジョッキにクスリを盛るというのは、たぶん酩酊状態にさせて、店を出た瞬間を狙って攫うのだろう。


「さて」


 気を取り直したクロフォードが頬を綻ばせ、ジョッキを掲げた。

 エレナも合わせるように、掲げた。


「とりあえず、突発業務遂行は完了した。

 乾杯」


「乾杯」


 エレナとクロフォードは注文したお酒を一口含む。

 エレナの口の中で、甘酸っぱさの奥に潮の香りが混じり合う。


 美味しい。

 緊張していた心が少し緩んだ。


「はあ、うまい」


 クロフォードは心底美味しそうに恍惚とした表情で言った。


 その間に、エレナはそっとクロフォードがお酒を呑む隙間から、例の男たちのテーブルの上にあるものを覗き見た。

 こちらに向けるように置いてある、掌に収まる黒曜石の円盤。


「あれ、医師の方が患者の魔力を測る魔力測定器じゃない?」


 エレナが小さな声で言うと、クロフォードは頬杖をついた。


「そう。第8騎士団に手渡したリストに、あれも入っていたよな?」


 エレナはリスト内容を思い出す。


「そういえば……そうだね」


 女将が意味深にあのテーブルをチラ見したのは、そういうわけか。

――あの連中には、気を付けないといけないよ。

 その警告だ。


 クロフォードがあえてこのテーブルに座ったのは、あの魔道具が見えたから。


「あれは、医師が使うような器具は全部高価で最先端ものだ」


 クロフォードが足を組んで、ジョッキを持ち上げた。


「だよね、街の酒場で見かけるには、少々高価すぎるね」


「ああ。で、あれをさっきから作動させて俺たちの魔力を測ってるんだよ」


「え? そうなの?」


 驚くエレナにクロフォードが静かに頷く。

 言われてみれば、魔道具が何かを計測するようにクルクルと円盤が回っているではないか。


「でも、大丈夫。

 俺たち、魔力制御しているから測定不能なはずだぜ」


 クロフォードは肩を震わせて、くっくっと小さく笑った。


 確かに。男たちは測定器の針が振り切れたり、そうかと思えば、急に表示がゼロになったりすることで、戸惑い、首を傾げている。


「思った以上にこの街は裏がありそうだね」


 エレナは声を潜ませながら言った。


「ああ、だろうね。

 そもそも先日の橋の爆発物テロ、この街に仕掛けられたこと自体に違和感があったんだ」


 クロフォードの声も小さい。


「軍部の補給路の橋を爆破するにも、もっと軍部に痛手を負わせる場所はある。

 それにやるなら、西南地方じゃなくて、もっと目立つ場所でやった方が効果的だ」


「あれは手ぬるかったってこと?」


「ああ。結局軍部には何も痛手を負わせていない」


「またお得意の陽動作戦だったかもしれない?」


「かもしれないな。

 アイツらは、本命から俺たちの目を逸らさせるために、別のところで派手で人目の引くことをする」


「うん、そうだよね」


 思い出すのは、官吏登用試験当日に起きた古代魔道具の乱用事件。

 敵国マリュード皇国の工作員が王城内の皇帝陛下がいる王宮に爆発物を仕掛けようとしていた。


「はいはい、しけた顔してないの」


 そのとき、女将が料理を運んできた。


 炭火で焼かれたタコとエビ。

 柑橘で蒸した白身魚もハーブを添えられ、彩り豊かだ。


 異国の香辛料の香りを漂わせる。

 空腹がさらに刺激される。


 どれもこれも果実酒と合わせれば、舌の上で異国の風が広がりそうだ。


「ほら、港町の味だよ。

 ここでしか食えないもんばかりさ。

 ごゆっくりね」


 女将の豪快な声に、エレナはおどおどしながら顔を上げた。


「ありがとうございます。

 いただきます」


 女将はウィンクして、厨房に戻る。


 香辛料を効かせたタコが湯気を立てていた。


「美味しそうだね」


「ああ、さっそく食おうぜ」


 フォークを持ったクロフォードは、待ちきれないとばかりに早速料理に手をつける。

 エレナもタコを口に運ぶ。

 海の塩気と旨味が口いっぱいに広がる。


「うん、美味しい」


 頬に思わず手を当て、料理を味わう。


 ふと、隣の卓から漏れ聞こえる声が耳に届く。


「くそ、壊れたのか?」


「せっかく魔力ありそうな奴らを見つけたのに……」


 彼らは忌々しく舌打ちをしていた。


 魔力のありそうな?

 どうやら彼らはまだエレナたちの魔力を測ろうと試みていたようだ。

 エレナはチラッと含蓄ある視線をクロフォードに投げた。


 クロフォードが頷き、囁くように詠唱を唱えた。エレナとクロフォードの間の空間を囲んで防音結界を張った。


「はは、舌打ちかよ、分かりやすっ」


 クロフォードは痛快に笑った。


「これはもはや魔力石っていうのが、人から魔力を抽出した結晶化した石で決定かな」


「だな。あの様子からするとそうみたいだ」


 彼らは魔力測定器でエレナたちの魔力を測り、もし魔力があれば拉致でもする気だったのだろう。


「となると、あちらの人たちは[夜鴉盟約(よがらすのめいやく)]ってこと?」


「まさしくそうなんじゃないのか? 

 まあ、どっちでもいいけど。

 やられたらやり返すだけだし」


 どこまでもクロフォードは勝ち気だ。


「でも、目立つのは御法度だよ。

 探れるものなのに、警戒して隠しちゃうかもしれない」


「当然。大丈夫、俺、こっそりとっちめるの、得意だから」


 クロフォードは意地悪く口角を上げた。

 エレナもつられて、ふと笑った。


「ふふ、知ってる。

 ところで、医療器具が[夜鴉盟約]に流れたのは、魔力抽出する機器を入手するためで間違いないよね」


「ああ、ほぼ確定だ。

 元を正せば、盗難に遭った施設も、そういう治療をしていたことになるよな。

 盗難にあった療養施設は全部で六件……詳細情報がもっと欲しいなぁ」


「だよね。

 マインラート様に報告してその治療施設のこと、裏を取ってもらう?」


「そうだな。あとで手紙を送っておくよ。

 伯父貴からもさらに詳細情報を教えてもらおう」


「うん、そうだね。

 けど、問題は、誰が魔力石に価値があることを[夜鴉盟約]に教えたか、だよ。

 闇ギルドに知識を与えた人が必ずいるはずだもの」


 エレナは果実酒を飲んだ。


「その通りだ。そこを辿れば黒幕に繋がる。

 冴えてるじゃん、エレナ」


 クロフォードはご機嫌に料理をどんどん口に入れていく。

 この細い身体のどこに食べ物が吸収されるのか、エレナは改めてクロフォードの食べる量に驚く。


「あと、あれだな」


 麦酒をぐいっと飲み干してクロフォードは言う。


「魔力石が欲しい奴も、魔力石が非合法なやり方で生成されていることを知っているんだろう。

 だから、夜鴉盟約のような闇ギルド経由で入手するんだ。

 しかも、欲しがる連中は金に糸目をかけないから、どんどん値段は上がる」


「そうだね。

 [夜鴉盟約]を探れば、作成過程もその目的も、購入者たちも明らかになる」


「ああ。けど、問題はそれをどう探るかだ」


 クロフォードは考え込むようにして、黙り込んだ。


「さっきの自衛警察団上層部とギルドの繋がりが暴かれれば、少しは分かるかな?」


「どうかな。誰と繋がっていたかによるけど……。

 まあ、それは事情聴取結果を聞いてから考えよう。

 ただ、伯父貴のところに魔力石があるのを[夜鴉盟約]に教えた奴は絶対にいる。

 それは自衛警察団か、もしくはあそこの屋敷の使用人だ」


「うん。実は、わたしは内部犯を疑ってる。だからね……」


 エレナは、クロフォードの元に駆けつける前に、サンティエ伯爵にはそれとなく[夜鴉盟約]と繋がりがある人物がいないか探って欲しいとお願いをしてあることを話す。


「……魔力石の取引、また値が上がったらしい」


 不意に、ブツブツと隣から声が聞こえた。

 エレナはそっと傍耳を立てる。


「逆をいえば、その材料も高値で売れるってことだな」

 

 視線も感じた。


 チラチラと隣の男たちがこっちを窺うように見ている。  


「ねえ、クロフォード」


 タコに舌鼓を打つクロフォードがエレナを見た。


「さっき、クロフォード、銃で攻撃されたじゃない?」


「ああ、そうだったな。

 そうそう、あれ、マジでエレナのお陰で助かったよ。ありがとうな」


「ううん、全然。

 それよりもあれ、魔法銃での攻撃だったけど、なんか奇妙な感じがしたの」


「奇妙?」


「うん。防御壁に当たった感覚がいつもと違っていたんだ。

 それに、銃弾の効力が上級魔法使い並みだった」


「マジか⁉︎」


 魔法銃は射撃者の魔力次第で攻撃力が変わる。


「だけど、あの場に魔力の強い人はいなかった。

 というより、魔法使いの気配がなかった」


「え……。

 じゃあ、どうしてそんな強い銃弾を撃てたんだ?」


「分からない」


 エレナは首を振った。


 不可解な魔力。

 まるで銃そのものに、あらかじめ強大な魔力が充填されていたような。


 いや、そんなことあり得ない。

 魔法銃はあくまでも入れ物。

 銃に魔力を込められるなんて――それは恐ろしい万物の武器になる。


 エレナは考えを打ち消し、ジョッキに口をつけ、果実酒をくいっと飲み干した。

 不気味さだけが残る。




 エレナとクロフォードが満足して酒場を出ると、クロフォードの後ろに座っていた隣の席の男たちも動き出した。


 エレナとクロフォードは、「ああ、やっぱりね」と目配せし合う。


 しばらく平然とした表情で、エレナとクロフォードはとりとめのない世間話をしながら、街を歩き出した。


 夜の大通りは露店が開かれていて、思った以上に明るい。

 珍しい雑貨に、ちょっとした食べ物や飲み物。


 男たちは少し距離をとって、ふたりの後を付けてくる。


「さて、やるか」


 クロフォードが二ッと笑った。

 エレナは静かに頷く。


 そして、タイミングを見計らい、すっとふたりは同時に街灯が届かない暗い路地裏にあえて入った。


 男たちは慌てて追いかけてきた。



 だが、誰もいない。



 男たちは焦って周囲をキョロキョロしながら探し始めた。


「はっ、ざまぁねぇな」


 クロフォードは鼻で笑った。


「どう? エレナ、顔、覚えたか?」


「うーん、なんとなく。かな?」


「俺もなんとな〜く。

 まあ、この暗がりじゃあ仕方ないか」


 ふたりは飛行魔法を使い、屋根の上に移動して、下の彼らの様子を観察していた。

 まさかふたりが上級以上の魔法使いで、屋根から自分たちの様子を窺っているなんて想像もしていないだろう。


「でも、まあ、誘拐の手口は分かったな」


「うん。魔力のありそうな人物の魔力をこっそり測定。

 それから、店を出たら拉致る」


「んで、拉致ったら、どこかアジトに運んで、盗んだ専用の医療器具を使って血を抜き取る」


「で、体液の専門家に……たぶん元医師か何かの専門職の人。

 その人が、分析機器で結晶化させ、魔力石を作る」


「そして、どこかで、それを欲しがるどこかの金持ちに高値で売りつける」


『どこか』だらけの謎ばかりだが、大まかな一連の流れは、なんとなく分かった。


 けど、女性の行方不明者だけが増えているというのは、どうも腑に落ちない。


 大人より子どもがさらいやすい。

 でも、子どもはいくら魔力量があっても揺らぎやすく不安定だ。

 だから、魔力が安定している大人を選ぶのは素直に頷ける。


 けれど、魔力だけ欲しいなら男女関係ない。

 男性より小柄な女性の方が攫いやすい、という利点があるからなのだろうか。


 

「まっ、半日だけでここまで探り出せれば十分だ」


 クロフォードは立ち上がり、背伸びをした。


「これ以上の捜査は危険だ。

 まず敵の情報をもっと入手しよう。

 とりあえず、帰ろうぜ」



***



 領主であるサンティエ邸に戻る頃にはすっかり夜は更け、空には満天の星空が広がっていた。


 その分、海は潮騒が聞こえるのに、眼下の海はまるで底なしの闇でエレナはぎょっとした。

 潮騒だけが響き、波の姿は一切見えない。


「夜の海ってこんなにも暗いんだね」


「今ちょうど月が隠れているからだよ」


 クロフォードは、空を指差した。


「そっか」


 雲の切れ間から月が姿を現した。

 銀の光が海面に落ち、さっきまで真っ黒だった水面が一転、輝き出す。

 波のひとつひとつが光を抱き、揺らめく紋様を描いていく。


 黒い闇の底から、月光が呼び覚まされた幻想の世界で、思わずうっとりと見入った。


「なんか、この街みたいだね」


 ぼそっとエレナは思ったことを口にした。


「え?」


「貿易で栄える港街なのに、闇ギルドが暗躍し、街を守るはずの自衛警察団が彼らと手を組んでいる」


 月光に照らされた海は美しくも不気味で、この町の二面性を映し出していた。


「ああ。言われてみれば、確かにそうだな」



――美しさの奥に潜む闇は、まだ姿を現していない。

 次に訪れる嵐の前触れのように、月光はただ静かに波を照らし続けていた。

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