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婚約破棄された引きこもり魔女ですが、実は天才魔女でした。王宮で無自覚覚醒します!  作者: 兎丸 蓮
第2章 出張捜査編 ―死の予言と、血晶の陰謀―

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第84話 内気令嬢と闇ギルドの影【前編】――見せたかった景色、引き直された境界線

 エレナと、第8魔法騎士団の団長であるアルバトス・ナードリアは、そっと隠れ家の窓の外を覗いた。


 二人の視線の先の建屋は、自衛警察団の詰所だ。

 その正面の玄関先で、エレナが捕縛した男の縄が解かれようとしている。


 クロフォードの手からここに身柄を移動されただけで、事細かな身分確認すらされてない。


(こんな短時間で釈放? 

 取調べとか何もしていないよね……)


 エレナの不信感が募る中、さらに窓の外を注視する。


 男の周囲には自衛警察団の隊士が数人立ち、形式的な釈放手続きをしている、そのように見える。

 男の顔には安堵の色が浮かぶ。


「すぐ釈放なんておかしいです」


 エレナは窓際で息を呑み、憮然とした。


「うむ」


 アルバトスは顎に手をやり、深く思案するように黙り込んだ。


「……これは困りましたね」


 口調は穏やかだが、アルバトスの目は冷たく光った。


 その視線の先は、自衛警察団の隊士の中でも中心人物の男。

 彼は背丈が高く、整った軍服に身を包み、街灯の光を受けて堂々と立っている。


「あの男は、ここの自衛警察団の団長ですよ」


「それはつまり……」


 二人の視線は交わり、同じ結論に至った。



――この街の自衛警察団の上層部は、[夜鴉盟約(よがらすのめいやく)]と繋がっている。



 なるほど。エレナが自衛警察団に連絡したと言った時、何故あの男がほっとしたような表情を見せたのか。そういうことだったか。

 この街のリオナーレ自衛警察団と[夜鴉盟約]は裏で繋がっていて、自分が釈放されるのが目に見えていたから。


「まあ、そういうことですね。一介の自衛警察団員ではなく、ここのボスと[夜鴉盟約]の連中とが深い繋がりがある。ヴァービナス女官の読み通りです。我々を間にいれて正解だ」


 アルバトスの口元には、うっすらと冷笑が浮かんでいた。



***



「おいおい、もう解放ですか?」


 不遜な若い男の声が自衛警察団たちに降り注ぐ。


 彼らは、ハッとした。


 声がしたのは、空からだった。

 慌てて見上げると、そこに王宮魔術師の装束に身を包むクロフォードと第8魔法騎士団がいた。


 飛行魔法を使い、空から現れたのだ。


 大通りを行き交う群衆は、突如現れた彼らにぎょっとする。

 周囲には、動揺とざわめきが沸き起こった。


 そして、石畳に着地したその中央にクロフォードが歩み出た。

 王宮魔術師の白い制服は誰よりも神々しく目立っていて、周囲も彼に注目する。


 その彼は、冷ややかな眼差しで自衛警察団員たちを見据え、口を開く。


「こんばんは。

 リオナーレ自衛警察団長ジャン・モルヴァンさん」


 クロフォードの呼びかける声は醒めていた。


 ジャン・モルヴァン率いる彼らは、クロフォードの制服に恐れ戦く。


 自衛警察団の面々は魔法を巧みに使えない。

 魔法騎士団だけでなく、王宮魔術師まで現れたとなっては、勝ち目がないからだろう。


 次々と目の前に降り立つ魔法騎士団員たちの迫力に圧倒され、一歩後ろにさがる。


「おやおや? おかしいですね。

 この男は領主様の屋敷で盗みを働いた奴の仲間ですよ?」


 挑発するようにクロフォードが、ジャン・モルヴァンが顔をわざと覗き込むように言った。

 

「なのに、もう釈放ですか? 

 それっておかしくありません?」

 

 ジャン・モルヴァンはクロフォードの挑発的な物言いに、ぴくりと片眉しか動かさない。

 そして、釈放される男と共犯めいた視線を一瞬だけ取り交わす。


 次の瞬間、突如、男はばっと大通りを走り出した。

 逃走するつもりだ。



    「芽吹く命よ、影より伸びて敵を捕らえよ。

     蔦の環よ、揺らめきて逃亡を拒め

     ――月蔦縛鎖ルナ・ヴァイン・ケージ

 


 エレナが隠れ家から詠唱を唱えた。


 その声は夜気に溶け、月光を帯びた囁きのように響いた。

 逃走する男の足元の地面から、淡い光を纏った植物の蔦が突如として芽吹く。

 まるで月の雫が地に落ちて芽吹いたかのように、しなやかに伸び、絡みつく。


 蔦は男の足を捕らえ、派手な音を立てて彼を転ばせた。


 そこをすかさず魔法騎士団員が、体を押さえて確保する。


「さてさて、ジャン・モルヴァン団長。

 少々お話を聞かせてもらえますか?」


 その間に第8魔法騎士副団長ゲオルク・アイゼンが自衛警察団たちのところへコツコツと靴音を立てて近づいた。

 威圧感のある魔力に気圧され、ジャン・モルヴァンが一歩後ろに退く。


「放せ! 

 俺は釈放されたんだ!」


 そのとき、男が大声を上げて抵抗した。

 みんながそっちに注目した途端、その隙を突いて、ジャン・モルヴァンは背を(ひるがえ)し、大通りの奥へと走り出した。


「はあ……逃げてどうするんだよ?」


 呆れるようにクロフォードは呟き、詠唱する。




    「――光結界(ルミナス・バインド)



 クロフォードが指先をひらりと振ると、眩い光が瞬時に展開され、 魔法陣が空中に浮かび上がる。 

 幾何学模様が回転しながら団長の進路を塞ぐ。


 光の鎖が走り、ジャンの両腕と足を絡め取った。

 派手に転倒し、無様に地面に叩きつけられる。


 騎士団員が即座に駆け寄り、拘束をした。

 他の自衛警察団たちも騎士団に包囲され、顔を青ざめた。


 ここで魔法騎士団に歯向かったところで、形勢は逆転しないのを彼らは本能的に知っている。


 なにせ、彼らだって目にしたはずだ。

 先日の『秘密結社 黒の杖』のテロをあっという間に、圧倒的な力で阻止したことを。


 特に総騎士団団長ルシアン・クレインバール――。

 彼は鬼神のように強かった。

 そんな彼が率いる魔法騎士団員たちに敵うわけがない。


 副団長ゲオルク・アイゼンが捕縛されたジャンの前へ出て、低く言い放つ。


「逃げるということは、何か後ろめたいことをしている証拠。

 さて、その理由をたっぷり聞かせてもらおうか」


 ゲオルクたちはジャンを起き上がらせ、自衛警察団の詰所に入って行った。



***



 帳簿は魔法騎士団に引き渡され、正式な証拠として保管された。

 だが、魔力石そのものは既に奪われたままだ。


 エレナが魔法省の女官として来たのは、領主屋敷内で保管している魔力石を分析して調べること。

 つまり、このままでは仕事が遂行できない。


 とはいえ、盗まれたのは、エレナの落ち度ではない。

 だから、このまま王都に戻っても別に咎められない。


 それに、闇ギルドまで関わったとなったら、一般の王宮内内務官は魔法騎士団や王宮魔術師に後は任せて、さっさと手を引くのが最善策。


 けれど、〈影〉に所属しているエレナには、そんなことは許されない。


 エレナの〈影〉の任務は、残された痕跡を分析し、犯人の足取りを追うこと。そして、魔力石の分析はもちろんのこと、クロフォードの任務――闇取引を調査して摘発に協力をすることだ。


 とにかく、現物がなければ始まらない。


 エレナとクロフォードは、街を知るために徒歩で領主邸まで戻ることにした。


「明日、市場に行ってみるか?」


 黒の外套を纏ったクロフォードがエレナに尋ねた。


「市場? 行きたい場所だけどそんな悠長に構えてていいの? 

 早く魔力石を探さないといけないんじゃあないのかな?」


「うん、その辺は問題ない。

 直接魔力石捜索に関係なくても、[夜鴉盟約]の連中はこの街を知り尽くしている。

 道に迷わずあのスピードで俺から逃げ通せたってことは、街の地図が頭の中に入っている。

 だから、まず俺たちももっと街を知ろうと思う。

 平民と交流しているうちにいろいろ情報も入手できるし。

 どう?」


「うん、いいと思う。

 けど……」


「初対面の人と話せない?」


「……うん」


 エレナは俯いて、もぞもぞする。


 この街の平民たちは、元気があって活気がある。

 声も大きいし、その笑い声も豪快だ。

 それはすごくいいことだし、サンティエ伯爵がちゃんと領主運営を健全に行っている証拠。


 ただ、エレナ自身が臆病で、なかなか港街独特の雰囲気に馴染めないだけ。

 ローゼルとのお買い物は貴族や平民でも中級階層以上の富裕層の平民ばかり、王都でお買い物をするからかみんなお淑やかだ。


 ただ遠目から彼らを見るだけなら問題ない。

 たとえ貧困層のスリなどに遭いそうになっても、その前に魔法防壁を施しておけばいい。


 けど、実際声を掛けて聞き込み――となるとそれだけで体力使う。


 もうなんなら、今ここでその場面を想像しただけで心臓がバクバクして、眩暈がしそうになるぐらいだ。冷や汗まで出てきた。


 人見知り、場所見知り、引っ込み思案はなかなか治らない。

 市場に行くということは、エレナにとって大試練に他ならない。


「あはは、大丈夫だって」


 クロフォードは、震え上がるエレナを豪快に笑い飛ばした。


「俺も行くし、聞き込みは俺がするから。

 エレナは俺のそばにいてくれればいいよ。

 それに、そっちの方がいろいろ回れて面白いって。

 うまい菓子も見つかるよ」


「もう、すぐそうやって子ども扱いするんだから」


 エレナは苦笑しながらも、やはり不安すぎて顔が強張る。


「なあ、事前練習じゃないけど、どこかで夕飯食ってこうぜ」


 ふとクロフォードが自分の腹をさすりながら言った。


「えっ、そんなにお腹すいたの?」


「ああ、さっき無駄に走ったからな」


 クロフォードはぽりぽり後頭部を掻いた。


「それにさ、昼飯、あんまり食えてないんだよ。

 ほら、俺、実は長時間の馬車移動苦手だしさ」


「そうだったの?」


 エレナは驚いた。

 クロフォードは気まずそうに視線を泳がす。


「うん。いつもはどれだけ遠距離出張でも飛行魔法で移動するんだ」


「でも今回後半移動馬車だったよ……。

 ひょっとして無理してた?」


 エレナの質問に、クロフォードの表情が不貞腐れたようになる。


「無理はしてない。

 ……ただ、エレナがエルディアの名物リップルパイを食べたいって言っていただろう?」


「そうだけど……」


 エルディアという街で昼食を摂り、馬車に乗り換え、案内役のカシアと別れた。


「だって、あの街に行ったら『絶対に食べるべき』という名物お菓子だよ。

 食べないと損でしょ?」


 同期で一番の美食家モレーノが言っていたお菓子だ。

 彼が紹介するものは、間違いなく美味しい。


 エレナの真剣さに、クロフォードはふっと笑う。


「うん。そうだよな。あれは美味かった。食べないと損だ。

 だから、寄ったんだ。

 それに馬車の車窓から隣領地の高原を抜けて見る海は格別だって聞いていたから」


 クロフォードは言葉を切って、視線を泳がす。


「……俺、エレナにどうしてもあの景色を見せたかったんだ」


「わたしに?」


「うん。

 すごかっただろ? あの景色」


 ニッとクロフォードは歯を見せて笑った。


「すごいどころじゃなかったよ! 

 目の前に海が広がって、本当に素敵だと思った」


 緑の草原が途切れ、眼下に果てしなく広がった海。

 陽光を受けて水面は銀色に輝き、波がゆるやかに揺れながら光を砕いていた。


 空と海が溶け合う境界は曖昧で、まるで世界がそこから続いているように見えた。


 言葉にならない高揚感が込み上げた。


「だから、馬車移動にしたんだ。

 ただ個人的に得意じゃない長距離移動だったから、気分が悪くならないように食べる量を減らしたり、自分に治癒魔法かけたり色々工夫してたけど……。

 それでも苦手なんだよなぁ。長時間馬車」


 クロフォードが顔をしかめながら、頬を掻いた。


「じゃあ、馬車に乗っている間、ずっと黙っていたのって……気分があまり良くなかったから?」


「そう」


 言われてみれば、クロフォードの昼食時に食べる量が少なかった気がする。


「ごめんね、わたしったら全然気が付かなくて……」


 エレナは申し訳ない気持ちで一杯になった。

 初めての街で物珍しく、ひとり舞い上がっていた。


 自分のことばかりに必死になってしまって、全然クロフォードの体調まで気が回らなかったことを悔やんだ。


「いいんだよ、エレナは楽しんだんだろ?」


 ぽんとクロフォードがエレナの頭を優しく叩いた。


「うん……。

 気分悪いクロフォードに気づかないくらい」


 クロフォードは吹き出す。


「ふっ、じゃあ、成功だ。

 ってことで、思う存分、これでメシが食えるんだ。

 だから何か食いに行こう?」


「え、でも、サンティエ卿が夕食を用意してくれてるって……」


「別にいいよ。

 どうせ、フレデリカが張り切って近況報告をまくし立てるようにしゃべるんだ。

 そんな食事、マジで勘弁」


 心底うんざりするようなクロフォードの顔つきに、エレナは違和感を覚えた。


「どうして? 

 婚約者でしょ?」


 エレナは躊躇(ためら)いがちに尋ねた。


「ガキの頃の話だって」


 クロフォードが、鋭くなって咎めるような声を出した。

 この様子からいくと、クロフォード的にも、彼女との婚約話は昔のこととはいえ、あまり望んでいなかったようだ。


「じゃあ、彼女が婚約って言っているのは……?」


 これ以上追求するのをクロフォードが嫌がると分かっていながらも、エレナは質問することをやめられなかった。


「あれはフレデリカだけがそう言っているだけ。

 伯父貴も相手にしてなかっただろ?」


「そういえば、そうだね」


 むしろ、不愉快そうにしていた。


「俺はこの先誰とも結婚する気はないんだ。

 そのことを伯父貴はよく分かっている」


 クロフォードが繁華街の方へ歩き進む。


「結婚、したくないの?」


 エレナはそのクロフォードを追いかけるように後を歩いた。


「エレナは?」


 ふいに若草色の眼光が光って、どきっとした。


「わたし? 

 わたしは……好きだな、と思える人としたい」


 口に出すものの、それは幻想に近い。そう分かっていた。

 だって、貴族だから。


 貴族令嬢の婚姻は、個人の選択ではなく家の意向に従うものとされる。

 それは同盟を築き、権力を拡大し、血統を維持するための手段である。


 令嬢は家の繁栄を支える象徴であり、婚姻はその役割の最たるものなのだ。


 だからこそ、偶然とはいえ、少なからず素敵だなと思える同期のランスやレイノルドから結婚話が舞い込んだのは、この上もなく幸運なことなのだ。



「俺は、絶対にしたくない。

 好きな女とでも嫌なんだ」



 クロフォードはハッキリと言い切った。

 彼の視線の先には、明るい声が聞こえる店舗が並ぶ。


「どうして? 

 好きな人ならそれは素敵なことなんじゃないの?」


「世間ではそう言われてるな。愛は素敵なことなんだって。

 けど、それ、信用できるのか?」


 冷たく拒絶する声。


「どうしてそう思うの?」


「逆に、なんで愛は素晴らしいなんて言えるんだ?」


 チラッとクロフォードがエレナに振り返った。


「それは……」


 エレナは言い淀んだ。


 実際、家族以外の誰かを深く愛し、愛されたことはない。

 この前、ランスが「好きだ」と言ってくれた以外は――。


 ぎゅっと胸が苦しくなった。

 ただ、周りが愛はいいものだといい、愛情を否定しない。


「俺からしてみたら、恋愛結婚というやつよりも、むしろ、家のためだけの政略結婚の方が分かりやすいんだ」


 醒めたクロフォードの横顔をエレナはそっと覗き込んだ。

 

 また、あの表情。

 何も読み取れない横顔だ。


「結婚というのは、相手のことを好きじゃなくてもできる。

 それに、令嬢にとって結婚は永久就職っていうだろ? 

 食べていくためには働かないといけない。

 食べるために結婚する。結婚と労働と生産を指している。


 そう考えると理路整然として、システム的にすごく納得できる。

 けど、そこに愛が加わると途端に、相手にも愛を求め始めるんだ」


 こんなの夫婦じゃない、こんなの愛じゃない、食べさせてさえいればいいんでしょ? 

 あたしを愛して愛をちょうだい。


「俺は結婚に一番不必要なのは、恋愛感情だと思ってる。

 恋愛感情があるから、相手の一挙手一投足に振り回されるんだ。

 そもそも最初からなければ、それがなくなると怯えずに済む」


 自嘲するようにクロフォードは笑って、視線を先へ飛ばす。

  

 エレナは言葉が出なかった。

 空気がズシリと重くなったような気がした。


 恋愛感情、愛不要論。

 否定することもできないし、肯定もしたくなかった。


 ただ、純粋に、哀しい。


 そう思えた。


「けど、不思議だよな。

 エレナの結婚相手はエレナを一番に考える奴じゃないと嫌だって思えるんだ。

 ちゃんとエレナを好きで大事にできないと許せない。

 だから、エレナはそういう奴と結婚しろ」


「え? なにそれ」


 エレナはズキっと胸が痛んだ。


 なんで、そんな他人事のように言うの?

 私はクロフォードにとって、なに?


 鈍い痛みがエレナの全身を揺さぶっていた。


「さて、何を食おう?」


 気を取り直したクロフォードはエレナを見た。

 面食らうエレナを真っすぐ射抜く。


「酒、呑みたい? 

 っていうか、せっかくだしな、地酒は飲みたいよな」


 クロフォードの切り替えの早さにエレナは一瞬呆気に取られた。


 彼は想像以上にドライで淡々としている。


 そして、なんとなく距離を置かれたことに気づく。

 これ以上、踏み込んではいけない。

 一線を引かれた、そう思った。


 エレナは首を傾げた。


「う-ん、そうだね。

 地酒、飲みたいよね。

 明日から魔力石探しをしないといけないから、一杯だけ飲む」


「まあ、そうだよな。

 思う存分、とはいかないな。

 この状況下じゃあ、さすがに酔えない」


 クロフォードは肩をすくめた。


「でも、美味しい魚介類は食べたい。

 明日からの活力をつけなきゃ」


「それは激しく同意する」


「この前、同期と食べに行ったタコ、すごく美味しかったんだよね」


「ああ、そんなことも言っていたな。

 タコかぁ……」


 クロフォードはきょろきょろ見回す。 


 そのとき、海鮮を焼く香ばしい匂いが漂ってきた。


 これは二枚貝を煮込んでいる香りかしら。

 エレナは、匂いのする店内を探す。


「あそこは?」


 クロフォードが指差した先は、潮風に晒された木の看板が揺れていた。


「魚介料理」と墨で書かれた文字はすっかり色褪せているが、店の中からは食欲をそそる匂いが漂ってきた。

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