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婚約破棄された引きこもり魔女ですが、実は天才魔女でした。王宮で無自覚覚醒します!  作者: 兎丸 蓮
第1章 王宮出仕編 ―人見知り令嬢と王宮の狂騒曲―

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第69話 戦闘令嬢と最凶の復讐―呪術の宴

 ドスン!

 


 轟音と共に地面が揺れた。


 ワルトの真上、垂直に銀光が突き刺さる。

 

 ルシアン・クレインバールだ。


 石畳を粉砕する衝撃がワルトを叩き伏せ、舞い上がる塵の中、ルシアンはその背に悠然とまたがっていた。


「よぉ」


 ルシアンは少年のようなあどけない笑顔を浮かべて手を挙げた。


「よ、じゃねえって。遅くねえ?」


「うるせぇ。主役は遅れてやってくるんだ」


「主役気取りかよ」


 クロフォードが「けっ」と鼻を鳴らした。


「これでも西と北門の不作法者たちは全員なぎ倒してきたんだぜ。

 主役以外何がある」


 ルシアンは、立ち上がって周囲を見た。

 蠢く屍鬼しきに苦戦する騎士たちを見て、軽く舌打ちをする。


「おいおい、騎士団諸君!

 こんな呪い人形とヘタレな魔法で手こずってんじゃねえよ。

 気合がたりねぇぞ、気合が!」


 ルシアンが騎士団員たちを一喝する。

 その声は響き渡り、騎士たちが肩をびくっと震わせた。


「はい!」


 その声に答えるように騎士たちが、顔を引き締め、一斉に返事をした。


 落ちた士気が一挙に高まって、次々と屍鬼たちを薙ぎ払った。

 戦況が押し返されていく。


 それを満足げに見、ルシアンはキムバートンと真正面から向き合う。


「さて、初めまして。キムバートン・アイヒヴァルトくん。

 随分と手の込んだ茶番劇を披露してくれたもんだ。

 この礼は骨の髄まできっちり返させてもらおう」


 恫喝を滲ませて、ルシアンが美しくも冷徹な笑みを浮かべた。

 背中から凄まじい魔圧がほとばしる。

 

 空気が密度を増し、重力すら歪めるようなプレッシャーに、キムバートンは顔を歪めた。


 クロフォードとルシアン二人相手では、勝てない、そうキムバートンは悟ったのだろうか。

 キムバートンが一瞬怯む。


 その瞬間、ルシアンが一歩踏み込んだかと思ったら、素早く剣を抜き、迅速にキムバートンの前に立ちはだかり、剣を大きく振るう。


 剣閃が閃光となり、炎が爆ぜた。


 キムバートンは腕をかざし、寸前のところで防御魔法を発動させて、さっと後退する。

 だが、切り裂かれた腕から鮮血が飛び散った。


「ちっ……!」


 キムバートンが水の槍を放つ。

 鋭い水流が空気を裂き、飛行魔法で空を舞うルシアンを追尾するように追う。


 エレナがルシアンに防御結界を張る。

 

 キムバートンの追尾攻撃が次々と結界へ衝突した。

 ぱん、と乾いた音が重なり、結界の表面が瞬間ごとに光を放つ。


「おっ、ありがとう」


 ルシアンがエレナに一瞬だけ目配せする。


「くそっ……!」


 痛みに顔を歪めて、キムバートンが血の出た傷口をもう片方の手で抑える。

 新たに何か詠唱をしようとする。



   「――焔連斬フレイムバースト!」



 間髪入れずクロフォードが炎の刃を幾重にも重ねて放つ。


 轟音とともに炎が奔流となり、キムバートンを包む。

 キムバートンは氷の盾を瞬時に立ち上げた。

 激しい火花が散る。


 その背後からルシアンが剣を振り下ろす。


 キムバートンは黒い剣を瞬間的に出して、応じた。

 刃と刃が火花を散らす。


 次の瞬間、ルシアンがぐっと近寄り、キムバートンの腹に蹴りを食らわす。

 それが正面から当たり、キムバートンの体は数十メートル先へ吹き飛んだ。


 地面に叩きつけられた衝撃で石畳が砕け、砂煙が舞い上がる。


「ぐっ……!」


「まったく、びっくりしたよ」


 ルシアンが呆れたように吐き捨てる。


「お前らの個人的な目的が、俺を姫様の暗殺者に仕立てることだったとはね」


 その眼差しは冷たく、鋭利な刃物のごとく研ぎ澄まされていた。


「クレインバール卿を暗殺者?」


 エレナとクロフォードは目を丸くした。


「え、関係を持たせるだけじゃなくて?」


「こいつら、本当執念深いんだよ」


 ルシアンは前髪を掻き上げた。

 腹を抑えて咳込むキムバートンを冷ややかに見据える。


「ほら、官吏登用試験にコイツらが爆破羅を仕掛けたテロ、あれを俺たちが未然に防いだろ? 

 で、なおかつ、その後、すぐに逮捕しちゃったわけだ。

 まあ、誤って双子の弟を捕縛しちゃったわけだけど、どうやら、そのことに一矢報いたかったようだね」


 ルシアンは剣の柄を持ち直し、容赦なく剣先を向けた。

 向けられたキムバートンは、あまりの痛さに顔をしかめて俯く。


「まさかワルトがアイヒヴァルト家の次男の名前で違法奴隷船をもう一隻手配してたことには驚いたけどな」

 

 見下ろすルシアンに、キムバートンは恨めしそうに顔を持ち上げた。

 その眼光には怒りと憎悪、そして屈辱が強く滲む。


「船を保護した特殊国境警備隊によると、どうやら知り合いの闇組織にホップラブソングの製造権の一部を譲渡する代わりに、海賊と称してその船も前回同様、全員皆殺しにするつもりだったようだな」


 ルシアンは不敵に笑った。 


 もう一隻、奴隷船がこの国に向かっていると小太郎も言っていた。

 おそらく、それこそ彼らが望んだペイドイルの躯に魂を入れるための儀式に使う生贄だ。


「お前らは俺が姫さんと肉体関係持った直後、薬で眠らせ、その間に姫を暗殺する予定だった――もしくは、そのタイミングで姫が事切れる算段だったのかな。

 まあ、そうやって侯国民の怒りを煽る形で、戦争を始める準備をしていた」


「はっ、証拠はあるのか? 

 侯国のような小国が戦争を帝国に仕掛けても負けが見えてるぞ」


 キムバートンは痛みで顔をしかめながらも、鼻で嘲笑った。


「兵器を新たに投入するんだろ?」


 ルシアンの低い声に、キムバートンの顔がサッと曇った。


「なあ、キムバートン・アイヒヴァルトさんよ? 

 うちには優秀な諜報部隊がいるんだ。

 残念だったな」


 ルシアンがにっと白い歯を見せてキムバートンに笑いかけた。


 彼らは、奴隷船を二隻用意した。


 一隻は、アイヒヴァルト子爵とワルトのインリューラーク王国の商人名で。

 もう一隻は、アイヒヴァルト子爵の弟であり、キムバートンのもう一人の兄の名。

 しかも、同時ではなく時差がある。


 エレナはハッとした。

 頭の中でパズルがすべて噛み合ったのだ。


「そっか、クレインバール卿だ」


 エレナは声を上げた。


「え? なに? クレインバール卿が侯国の兵器?」


 クロフォードが首を捻った。

 ルシアンはエレナに視線を一瞬だけ投げた。


「そっ。ヴァービナス女官、正解」


 ルシアンはぐっとキムバートンに剣先を首筋に当てる。

 皮膚に剣先が当たり、血がかすかに滲み出た。


「もし、彼らの思惑通りに事が運んだとして、さすがに一国の姫を殺害した容疑者となれば、外交上、俺は極刑から免れない。

 罪人として国は俺を処置するしかなくなる」


「首ちょんぱってことか?」


 クロフォードが首を切る真似を手で示した。


「そう。

 だが、その遺体を侯国の医療技術で縫い合わせて、自分たちに都合のいい魂を入れれば?」


「最強最悪兵器になる!」


 クロフォードは、驚きの声を上げた。


「“最悪”はいらねぇだろ。

 最強だけで充分だ」


 ルシアンは苦笑した。


「自分で言うかよ。

 っていうか、最強も最凶だな。

 災いだ」


「まあ、そういうこと。

 お前らの思惑はすべてうまくいかなかった。ご苦労さん」


 キムバートンは額に青筋を張らせ、目尻を吊り上げる。


「我ら長きに渡って準備していたことを、貴様が台無しにした……!」


 憎悪を剥き出しにした声を漏らした。


「そう、お前らは長年にわたって用意周到に計画していた。

 静かにこの国に潜入し、蝕もうとしてきた」

 

 ルシアンが怜悧に呟いた。


(最初に彼らの計画を狂わせたのは、わたしだ)


 エレナは思い出す。

 最初は、ローゼルの何気ない一言から始まった。


 官吏登用試験で母国で話さない奇妙な受験生。


 その内容をエレナは、マインラートに報告した。

 そこで発覚した彼らが仕掛けた爆発物――爆破羅ばくはら

 けど、表向きはルシアンが存在に気づいたことになっている。


 彼らがルシアンを恨むのはお門違いだ。

 全部、わたしのせいだ。


「まあ、こういう仕事をしていると、妬まれ恨まれるのはいつものこと。

 なにせ若くして十ある魔法騎士団を束ねる総騎士団長に任命されたからね。

 やっかみ、嫉妬も当然ある。

 出る杭は打たれるってね」


 ルシアンはエレナに視線を投げてから優しく笑った。

 まるで、自分を責めるな、と暗に言っているかのように。


「しかも、俺って何気に美形だろ? 

 それだけで逆恨みされることだってしょっちゅうだ」


「イケメンは何かと大変だね、そこらへんから嫉妬を買っちゃって」


 クロフォードが揶揄うように笑った。 


「羨ましいか?」


 ルシアンはニッと勝ち誇るように笑った。


「へん、何も羨ましくねぇよ」


「相変わらず憎まれ口が減らない奴だなぁ」


「大きなお世話だ。

 けど、ようやくスッキリしたぜ」


 クロフォードがキムバートンに近づき、薄笑いを浮かべる。


「ここまで周到なコイツらが姫の亡くなるタイミングを見誤ったのは、どうも腑に落ちなかったんだ。

 なるほど、天下無敵のクレインバール卿様を文字通り公開処刑する気だったのかぁ。

 あぁあ、本当に残念だったな、夢かなわなくて」


「……」


 獣のようなギラギラした目つきでキムバートンは、クロフォードを睨み返した。

 どうやらルシアンの蹴りがまだ効いているようだ。どれだけ強力な蹴りを食らわしたのか。


「あ~……そうそう」


 ルシアンが思いついたように声に出す。


「港町の橋の爆破計画もだが、市場操作による小麦価格の暴騰。

 あれも悪いがすべて阻止させてもらったぞ」


「全然悪いと思ってないだろ」


 キムバートンは皮肉めいた歪んだ笑みを浮かべた。


「まあね」


 ルシアンは肩をすくめた。


「小麦価格の暴騰……、よく気づいたな」


「最近の小麦の買い占めによる市場の価格高騰は、前々から農水省や財税省から疑問視されていたんだ。

 調べたら、お前の次兄が、マリュード皇国に横流しをしていることに気づいてね。


 さらに、ヴァービナス女官がお前の出自を気にし始めたから、俺たちは総動員でお前の実家、アイヒヴァルト家を徹底的に洗ったんだ。

 取り調べを再開したお前の長兄に自白剤を飲ませたら、あっさり全部吐いたぞ。

 国家反逆罪の証拠も、港町の橋に爆弾を仕掛けた計画者も実行犯も。

 軍部補給品を奪って皇国に渡す計画も、何もかも」



「くっ……。やはり、あの男は使えなかったか。

 だが、アレにはそもそもそこまで期待してなかったけどな」


「実の兄まで自分たちの計画に駆り出すとは、なかなかお前も残忍なヤツだ」


「貴様に言われる筋合いはない」


 突如、キムバートンの腕が、白く発光した。


「!」


 三人は反射的に刹那、目を閉じた。


 瞼を開くと、キムバートンがいない。

 

 気配を追うと、彼は飛行魔法で宙を飛んでいた。

 三人の視線に気づいたキムバートンは、小規模な黒い靄の爆弾をルシアンに何発も向けた。


「ちっ、まだ空飛ぶ体力があったのかよ。

   ――支配の闇(ドミヌス・ノクティス)



 ルシアンの漆黒の魔力が剣先から奔り、靄を切り裂くように広がった。


 黒い靄は悲鳴を上げるかのように震え、次々と霧散していく。

 地面に落ちた残像が蠢く。


「このままだとまた屍鬼しきが発生しちゃう!」


 エレナの声に反応したクロフォードが腕を振り掲げ、短く詠唱を紡いだ。



   「――聖浄サンクティフィカ!」



 眩い光が奔り、残像を包み込む。

 瞬く間に黒い残像は霧散した。


「おいおい、騎士団長さんよ、尻拭いは年下の俺かよ」


 クロフォードが口を尖らせた。


「文句言うな」


 その時、キムバートンの黒の靄が空を覆い、さらに槍のように突き刺さる勢いで迫る。


 エレナは両手を広げ、静かに念じる。



   「――大地障壁バリェール



 瞬間、淡い光がエレナの指先から舞い上がり、結界は幾重もの花びらが咲き誇るように艶やかに開いた。

 透明な虹色の花弁が層を成し、空気の中に残光を漂わせた。


 黒い靄が結界にぶつかると、鈍い音を立てて砕け散り、薄暗くなった空に散る花びらのようにキラキラと消えていった。



「ナイス判断」


 ルシアンとクロフォードが声を揃えてエレナを褒めた。思わずエレナから笑みが溢れた。


 キムバートンの攻撃は止まらない。

 彼は冷笑を浮かべ、次々と攻撃を仕掛ける。


 ルシアンが空へ飛び、キムバートンに剣を振り下ろす。

 キムバートンは防御壁でその攻撃をかわす。


 すかさず飛んできたルシアンの拳を間一髪のところで、体を翻し、距離を取る。


「って言うか、キムバートンくん、お前、ただ復讐したいだけなんだろ?」


 ルシアンの問いかけに、キムバートンからスッと表情が消えた。


「お前にしてみたら、戦争も皇国の発展も関係ない。

 この国で優雅に貴族をやっている兄たちと両親を巻き込んで破滅させたかった。

 なにせ、双子だからって理由だけで捨てられたからな」


 キムバートンの口から、知らない言語の詠唱が漏れ出る。

 掌から発生する黒い靄を吐き出し、地面に投げつけられた。


 全員、身構えた。


 だが、靄は爆発せず、失神している侯国侍従の身体にまとわりつく。


 次の瞬間、靄は彼らを飲み込み、どろりと液体化した。

 肉が溶けるような音が響き、侍従たちの輪郭が歪んでいく。

 その靄は骨を編み、皮膚を張り付け、血管のような稲妻が脈打つ。


 侯国侍従たちから断末魔に似た悲鳴が上がった。


 エレナは思わず耳を塞ぐ。


 その過程は、まるで人間の体を無理やり捻じ曲げて新たな怪物を生み出すようで不気味だった。


 やがて姿を現したのは、屍鬼よりもひと回り大きい鬼。

 その眼は濁った赤で爛々と光り、口からは腐臭を放つ息が漏れる。

 動くたびに骨が軋み、肉がぶつぶつと泡立つ音を立てる。


 騎士たちから動揺の声が広がった。


 鬼だ。


「はあ? ここでどんでん返しかよ」


 ルシアンが舌打ちする間もなく、鬼は咆哮を上げ、クロフォードとルシアンに一斉に飛びかかった。


 エレナは詠唱を始める。


「呪術だ、エレナは手を出すなよ」


 クロフォードがエレナを制し、エレナは押し黙った。


「テラリス・フォージク!」


 ルシアンが叫び、斬り倒す。


「承知!」


 同時に凄まじい速さでテラリスが駆けつけ、聞いたことのない詠唱を唱える。

 無数の四角の魔法陣が展開される。


 テラリスは人差し指を口元に携えながら単調な呪文のような詠唱を念じると、やがて鬼は悲惨な断末魔を上げ、血飛沫を上げ、ふと消えた。

 否、浄化されたのだ。

 霧のようにキラキラ輝いて、空へ舞い上がる。


「恐ろしい人ですね」


 テラリスが剣先を向け、キムバートンを睨みつけた。


「あれは呪いの人形です。

 自分の魔力を与えた者たちを化け物にする呪術。

 非人道的すぎます」


「ふうん、まさかこの国にアレを浄化できる奴がいるとは。

 君も呪術師だな?」


 キムバートンは口元に歪んだ笑みを湛えた。


「ええ。皇帝陛下ご許可の元、来たる日のために呪術の研究をしておりました。

 呪術合戦でしたら、少々腕に自信はありますよ」


 テラリスは不敵に微笑んだ。


「つまり、そちらの専売特権はもはやないんだよ」


 ルシアンはしたたかな眼差しを向けた。


「……くそっ」


 顔を歪ませ、余裕なく怒鳴りつける。


「おい、ワルト、いつまで寝てるんだ!」


 気を失っているかと思っていたワルトがムクっと起き上がった。


「悪い悪い、キムバートン。君の術式は美しいからね、観客として見ていたかったんだ」


 ワルトは立ち上がると、服についた砂埃を平然と払う。


 エレナは驚いた。 

 ルシアンの強烈な一撃を受けても、けろっとしていて、後頭部を抱えるだけで大きな傷を負っていない。

 その様子にルシアンも目を見張った。


「マジかよ……」


「ああ、さすがだね。総騎士団長殿。

 久々だったよ。ここまでの会心の一撃を食らったのは。

 さすが帝国最凶で最悪な武闘派魔法使いだ」



   「――光棺結界ルーメン・サルコファグス!」



 瞬間、ワルトの周囲に四角い透明な箱が立ち上がった。

 クロフォードの結界魔法だ。


 結界は光を受けて淡く輝き、まるで水晶を削り出したガラス細工のように繊細で美しい。

 面の一つひとつが虹色の残光を帯び、角からは光の粒が零れ落ちて宙に舞う。


 ワルトはその透明な牢獄の中で身じろぎし、まるで美しい硝子の棺に閉じ込められたかのように見えた。


 だが、それをワルトはパリンと砕いた。

 その破片が煌めきながら地面に落ちた。


「マジかよ」


 クロフォードが驚いて思わず呟くと、ワルトは意地悪く笑った。


「悪いね、君は素晴らしい魔法使いだが、キムバートンから魔力を得ている俺には敵わないよ。

 君の属性は、聖と光など多彩だが、俺も君と同様多彩な属性であり、そして、闇と影だ。

 それに呪術師だしね」


 突如、ワルトの腕が伸び、蛇のように絡みついてクロフォードの首を絞め上げた。


 クロフォードの体は宙に浮き、足を必死にばたつかせる。


「うぐっ……!」


 喉の奥からくぐもった声が漏れる。


 エレナはすかさず詠唱する。



   「――風華斬アウラ・フロリス!」



 風の刃でワルトの両腕を容赦なく切り落とす。

 だが、落ちたはずの腕の、その手首からその先は残り、切断面から黒い靄がじわりと滲み出す。

 なおもクロフォードの首を絞め続け、さらに上昇する。


 靄は生き物のように蠢き、鎖のようにクロフォードの首へ巻き付き、さらに強く締め上げる。


 その光景に、騎士たちの背筋を冷たい恐怖が走った。


 クロフォードの顔は赤く膨れ、目が血走り、見開かれた瞳が充血で濁っていく。

 やがて血の気が引き、青ざめた顔に浮き出た血管が脈打つ。


 一方でキムバートンは上空へ舞い上がり、次々と屍鬼を生み出しては、空中に構えるルシアンとテラリスに容赦なく差し向ける。



 凄まじい乱闘が始まった。


 行き交う線と素早く黒い影。宙を飛ぶ影が交差する。

 キムバートンの攻撃でテラリスが地面に叩きつけられ、ルシアンも連続攻撃を避けるために地面にやむなく降り立つ。


 だが、その間にも、いよいよクロフォードの全身が細かく激しく震え出す。

 口をパクパクさせ、泡が溢れた。

 血管は破裂しそうなほど浮き出し、靄の締め付けに呼吸は完全に奪われていた。


「やめて!」


 その声は、黒い靄のざわめきにかき消されるように溶けていった。

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