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婚約破棄された引きこもり魔女ですが、実は天才魔女でした。王宮で無自覚覚醒します!  作者: 兎丸 蓮
第1章 王宮出仕編 ―人見知り令嬢と王宮の狂騒曲―

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第60話 解析令嬢の前準備――祝祭を切り裂く旋風と新たな共犯者

 西南地方最大の港街リオナーレは、海と空が競い合うように輝いていた。


 大橋には魔法灯籠が吊るされ、炎は風に揺れて七色の光を放つ。

 潮風に混じって吟遊詩人の竪琴が響き、空には幻獣の形をした花火が舞い上がる。


 市場では香草酒と果実菓子が振る舞われ、子どもたちは魔法で光る紙風船を追いかけて笑い声を響かせていた。


 祝祭は、街全体が夢に包まれているかのようだった。


 本日のリオナーレは、年に一度の収穫祭だった。


 海の神や精霊たちに収穫できた海の恵みに感謝し、漁師たちの船出の航海安全を同時に願う。



 だが、その喧騒の裏で、ルシアンは魔力の澱みを感じ取っていた。


「まさか、こういう日を狙うとはな」


 ルシアンは苦々しく呟いた。


 楽し気な音楽の隙間に、鋭い刃を研ぐような不協和音が混じっている気がしてならない。


「それにしても過酷な日程ですね。

 午前中に移動してミコーム地方の森で魔物討伐。

 なおかつ、セインレイム家に戸籍確認。

 そして、今度はリオナーレに足を運んでいただき……いやはや」


 第8騎士団団長 アルバトス・ナードリアがルシアンの隣に並びながら苦笑し、疲労困憊になっている新人騎士たちに視線を投げた。


 街の命綱である大橋の石組みの奥に、爆薬が忍ばされている。

 第8魔法騎士団は密かに橋へと向かい、回収作業を始めていた。


「本当にお疲れ様です。頭が上がらないですよ」


 少し先の橋で、新人騎士がバランスを崩して海に落ちた。

 それに、どっと笑いが起こった。


「おいおい、これぐらいの行軍でへたばってどうする? 情けないぞ!」


 ルシアンは思わず橋から落ちた新人騎士に声を掛けた。


「いやいや、結構ベテラン騎士でも辛い日程ですよ」


 その隣でアルバトスは、ますます苦笑を浮かべた。


「そうか?」

 

 ルシアンは自分の父親に近い年齢のアルバトスを見た。


「だいたい、最近の若いのはたるんでる。

 アイツらは俺よりも弾けるばかりの若さがあるだろ? 

 ふだん王宮の侍女や女官のケツを追いかけているぐらい元気だ。

 それくらいの元気をここで発散させなくてどうする?」


 ルシアンは鼻を膨らませ、足がガクガクしながらも第8騎士団員の手伝いをする新人騎士を冷たく見下ろす。


「あはは、まさに鬼総騎士団長だ。

 まあ、確かに。これくらいで弱音を吐いているようじゃあ、いざ戦闘になったとき使い物になりませんからね」


「だろ?」


 ルシアンはふと笑って、アルバトスに視線を投げた。


「特殊国境警備隊への指示、ありがとうな」


「いいえ。先立って情報をいただきましたからね。

 私は指示しただけですよ」


 爽やかにアルバトスは微笑む。


「それよりも、こっちの早々と情報共有いただき、本当助かりました。

 爆破羅ばくはらの回収はかなり神経を使いますし、何よりも人出が要ります」


「ああ、そうだろうな。爆破羅は爆発したらとんでもない効力を持った爆弾だ。

 確実に回収しておきたい。

 それに、新人には滅多に触れることのない武器だ。

 こういう機会でもないと、お目にかかることがない代物だ」


「そうそうお目にかかっては困る代物ですけどね」


 アルバトスは苦笑した。


「まあな」


 ルシアンは肩をすくめた。


 今回引率した新人たちが入省する前。

 キムバートンとワルトというマリュード皇国の工作員が王城に仕掛けた爆破物、爆破羅を回収したときを思い出す。


 あのときもかなり時間と人手を要した。

 そして、かなり肝を冷やす作業だった。


 だが、ポジティブに考えるのであれば、稀少な敵国の爆破羅という武器を戦地以外で見る若手への、実地訓練という名目の手向けになった。


 とはいえ、また彼ら主導で『秘密結社 黒の杖』によって爆破羅を仕掛けられるとは。


 昨今の小麦価格の高騰の原因も二人によってもたらされていた。

 早々と財税省がこのことに気づき、農水省が原因を探ってくれていたからこそ、これ以上の市場価格の混乱を未然に防ぐことができた。


(まったく、油断も隙もない連中だ)


――ワルト・チェッカレッチ、亡くなったはずのキムバートン・アイヒヴァルト。


 昨日の王都の黒の杖の大摘発で、彼の兄であるアイヒヴァルト子爵も捕縛された。

 しかも、彼はカトリーナ・ガンドルフィを殺害した犯人だった。


 その後、彼は精神が錯乱し、まともに事情聴取に応じられる状況にないそうだ。自ら命を絶つなどの物騒な考えには及んでいないようなので、とりあえず精神安定剤を与え、落ち着いてから事情聴取を再開するそうだ。


 とはいえ、時間はもうない。


 恐らく徹夜明けで機嫌の悪い第2騎士副団長のマッシュあたりが自白剤を飲ませていそうだ。

 あれを飲むと確実に精神が病む。

 できれば避けたい手法だが、最悪やむを得ない。


「ルシアン様は、ちゃんと寝てますか?」


 アルバトスがふいに尋ねた。


「え、そうだなぁ。昨日、ほんの少し仮眠がとれたぐらいだな」


「そうですよね。こう立て続けだと、忙しすぎて休む時間もありませんね」


「まあ、致し方ないだろう。この件が終わったら、休みをたっぷりもらうさ」


 連日の侯国の姫の専属警備からようやく抜けられると思ったら、エレナ・ヴァービナス女官の研究室で起きた影魔法と呪術の融合の式神の来襲だ。

 侯国の不気味な存在である魔術師であろう謎の魔力の攻撃を受けた。


 あれは、いろんな魔物や様々な戦地で戦ったルシアンですら、背筋が凍り、おぞましいと思った。


(呪術と本気で対面して闘ったのは、あれ以来か)


 

 三年前、マリュード皇国と国境付近でちょっとしたいざこざがあった。

 いや、あれはもはや戦争だったともいえる。


 国境沿いの厚い壁は物理的爆発物、最新兵器の爆破羅により突破され、敵兵の領地内の侵入を許した。


 マリュード皇国最高峰の呪術師ウェンデリア・ヴァンドゥームの攻撃は思いのほか強く、かなり苦戦を強いられた。


 魔法で効力を及ぼすところもあれば、まったく歯が立たない術式があるのが呪術だ。

 また、呪術では歯が立たない魔法もある。


 三日三晩攻防戦が続いた。


 空は血のように赤く染まり、呪術の黒煙が兵の肺を焼いた。

 魔法陣が幾重にも重なり、血と鉄の匂いが風に吹かれ、夜空はまるで裂け目のように揺らめいていた。

 耳を裂く呪詛の声が絶え間なく響き、騎士たちの体力も精神も削り取られる。


 そのとき、この国の最年少で、異端児王宮魔術師 クロフォード・ノーエランドが、ウェンデリア・ヴァンドゥームとの戦いで、彼に致命傷を与えた。


 それを皮切りに、帝国側を彼が勝利に導いた。



 だが、その代償は大きかった。

 クロフォードは返り討ちに遭い、呪いをその身に受けてしまった。


 その呪いは今も彼の血脈を蝕み、夜ごとに幻視を呼び覚ます。


 血脈を蝕み、呪詛のような断末魔が聴こえる耳鳴り、そして自身の体が腐り落ちるような、じりじりと焼かれるような耐えがたい痛みが襲うという。


 特に新月の夜は、肉身が腐蝕し、崩れ落ちるような激痛が襲うという。

 その姿は彼の師匠のマインラートですら、おぞましいとしか表現できない姿だったと聞く。


 クロフォードは皮肉屋で天邪鬼だが、決して弱音を吐かない。

 詳しく症状を聞こうにも、固く口を閉ざす。

 まだまだ前途ある若者の彼は、笑うときでさえ胸の奥に冷たい鎖が絡みついているのを感じているのだ。


 かろうじて、今のところ命に別状はないとはいえ、ルシアンの胸に苦い疼きが走る。


 ルシアンはクロフォードを「異端児」と呼びながらも、誰よりも戦場で頼りにしていた。

 呪いに苦しみながらも耐え続け、立ち上がるその姿は、騎士団の誰よりも強靭だったからだ。


(……それでも、ようやくアイツにも落ち着く場所ができたな)


 昨夜遅くに情報共有し合った場で、クロフォードがエレナに見せた笑顔を思い浮かべた。


(いい面構えしてたじゃねぇか)


 ふと口元に笑みが零れた。


 エレナ・ヴァービナスとの出会いは、排他的で社会に卑屈になっていたクロフォードにはいい起爆剤になった。


 率先して自分の魔法を彼女に教え、面倒を見、そして、不器用ながらも慈しんでいる。

 エレナの何気ない言葉や微笑みは、呪いの闇を一瞬だけ遠ざける。


 彼女の存在は、彼にとって戦場で得られなかった安らぎそのものだった。

 彼女が彼の心を取り出して、受け入れてくれる。


 それは、心を満たす幸福。


 偽装とはいえ、彼には呪いと闘う人生に一筋の温かさが沁み込むひとときになるはずだ。


「けど、本当にこのままくっついじまえばいいのになぁ」


 独り言のようなルシアンの呟きは、祝祭の喧騒に紛れて消えた。


 あのオタク魔法娘なら、なんだかんだクロフォードをすべて受け止めてくれそうな感じもする。

 むしろ、知的好奇心でクロフォードに受けた呪いの正体すら興味津々で解剖し始めそうな勢いだ。


「とりあえず、情報のあった橋の爆発物、爆破羅の回収は完了しそうか? 

 時間がない。

 奴らは今夜、橋を落とすつもりだぞ」


 ルシアンは目の前に広がる騎士たちを見回しながら、低い声を潜めて尋ねた。


「ええ、問題ないです。

 アラン様から届いた情報のお陰ですぐさま見つかりそうです」


「そうか、それはよかった」


 アランから持たされた情報、すなわち、エレナ・ヴァービナスが昨夜遅くルシアンに依頼してきた調査案件だ。


「まさかマッシュも朝っぱらから『墓を掘って来い』なんて命令を受けるとは思わなかったからな」


 徹夜明けの捜査を終えたマッシュに言い渡した時の露骨にウンザリした顔。

 あからさまに総騎士団長であるルシアンの采配に文句を言いたげだった。

 だが、それもアランがうまく宥め、新たに調査に出向いてもらった。

 そして、今頃アイヒヴァルト子爵を取調べして、その鬱憤を晴らしていることだろう。


 アランは見た目にそぐわず、じゃじゃ馬マッシュをうまく手懐け、可愛がっている。

 人の扱い方に長けているというか、人心掌握がうまいというか。

 ルシアンも何度もアランにうまく言いくるめられ、いいように使われた経験がある。


(あの人心掌握術は、完全に父親譲りだな)


「確かに、鳥のさえずりより早い朝から墓掘りは……ちょっと同情を禁じえませんね」


 アルバトス・ナードリアはくすっと笑う。


「でも、これだけの収穫があれば、彼的には報われた気分でしょうね」


「だろうね。ここまで敵側にコケにされたのは俺も初めてだ」


 フン、とルシアンは鼻を膨らませて、不快感を滲ませた。


「そういえば、戸籍を確認して何かつかめましたか? 

 あれですよね、官吏登用試験に古代魔道具を持ち込んだセインレイム准男爵家の庶子についての……」


「ああ、あの娘が娼婦の間にできた娘だとはつかめたよ。

 けど、それ以上にあそこはアミラス教信者であり、元を辿ると、ナバロー王国の貴族だった」


「ほう、それはそれは」


 興味を示したようにアルバトスの片眉が上がる。


「黒の杖のメンバーですか?」


「いや、その確証はない。

 ただ、まあ……ナバロー王国の古代魔道具を保管する神器守護官っていう王国や帝国に伝わる神器を守る官職を代々担って来た家柄のようだ」


「それはまた随分と意味深ですね」


「意味深も意味深だ。なぜ、ワルトとキムバートンが彼女に古代魔道具を託したのか、それは単なる偶然じゃないというのも発覚したわけだからな。

 彼女に魔力はなくとも、その血筋の適性を利用するつもりだったからだ」


 そのとき、竪琴の音をかき消すように、橋の下から轟音が響いた。


 灯籠の炎が揺れ、群衆の笑い声が悲鳴へと変わる。

 黒い影が橋の両端から飛び出し、祝祭の喧騒を一瞬で引き裂いた。


 敵は橋を制圧しようと、爆薬の回収を阻止すべく襲いかかってきたのだ。


「来たか……!」


 アルバトスが剣を抜くと同時に、他の第8魔法騎士団員も一斉に向かう。

 敵は十数人。

 黒いローブに覆面の男たちが、武器を手に橋を制圧しようと押し寄せてくる。

 

 市場は騒然とし、混乱した。


 泣き叫ぶ子どもを抱えた母親が必死に人波をかき分け、屋台は次々と倒れ、香草酒の樽が倒れ、甘い匂いが血の匂いと混じり合う。

 屋台の布幕が裂け、果実菓子が石畳に散らばり、子どもたちの笑い声は悲鳴へと変わった。

 灯籠が次々と落ち、七色の炎が地面に弾けて幻獣の影を歪ませる。


 祝祭の残骸が無残に押しつぶされ、人々は橋から逃げようと押し合い、竪琴を抱えた吟遊詩人までもが必死に群衆に紛れて走り去った。


 この地方の自衛警察団が必死で帝国民を避難させる。



 剣を交わす金切りの音と叫び声が、祝祭の旋律を完全にかき消す。

 橋の上は、夢から悪夢へと変わり果て、絶望が覆い尽くす。



「ああ、本当、こう次から次へと……」


 低く、地を這うようなルシアンの声。



 その瞬間――潮風がふと止んだ。



 人々を飲み込もうとするその絶望の影を一筋の冷たい風が切り裂く。


 振り返った騎士たちの視線の先に、ルシアン・クレインバールが剣を抜いて立っていた。

 彼の足元に漂う魔力は、炎でも雷でもなく、ただ圧倒的な静けさを纏っていた。


 敵兵が一斉に動きを止める。


 ルシアンの桁外れの魔力に戦慄し、足が動かないのだ。


 次の瞬間、彼の剣が閃いた。

 音もなく、影が薙ぎ払われる。

 衝撃波に巻き込まれ、宙を裂き、彼らをなぎ倒す。


 一斉に魔法銃を構えた男たちが引き金を引き、躊躇なく発砲する。



 だが、集中砲火を浴びたはずのルシアンの姿はどこにもなかった。



「どこ行った!」


 男たちが色をなして叫ぶと、猛烈な旋風が上空から降って来る。


 ずしんと突然地面に押し付けられるような重力が彼らに襲い掛かり、頭の中が真っ白になる。


 息が詰まり、視界が白く染まる。


「動きが遅いなぁ。風の流れすら読めないとは。これだから魔法に頼り切った素人は困る」


 かろうじて薄く目を開け、天を見上げた。


 ルシアンが、宙に浮いていた。


 そして、竜巻のような空気が根こそぎ、彼らを宙に舞いあがらせた。

 容赦なく地面にバラバラと叩きつける。

 骨の折れる嫌な音が地面に響き渡った。



 祝祭の灯籠の光に照らされ、敵は倒れ伏し、橋の上には再び静寂が戻った。



「俺に立ち向かおうなんて十年早い。もう少しマシな粗筋を書いてこい」


 その声は冷徹で、余裕に満ちていた。

 群衆も敵も、ただ一人の男が戦場を統べる支配者であることを悟った。




 ***


 エレナは、いつも侍女に扮するときは顔認識阻害魔法の強めの眼鏡をかける。

 それから制服も髪の色が変わるように見える色彩隠蔽魔法が施されている。


 けど、今日は違う。


 眼鏡はクロフォードが贈ってくれた眼鏡で、制服は第2皇女ミシェーラ付きのもの。

 だから髪の色は変わらない。


 魔法がかかった衣類を身に纏うと、自分の魔法を全力で使えない可能性があるからだ。


 魔法が編み込まれた衣類は、装着者の魔力波形に干渉する。

 コンマ数秒の精度が求められる解析魔法や戦闘の際には、その微々たるズレが致命傷になりかねない。


 エレナは鏡に写った自分をじっと見、深呼吸をした。


 着替え終わったエレナが、官僚たちが執務を行うエリアから皇族がお住まいになっている後宮のある宮殿に向かう回廊の途中、ふと、視線に気づいた。



 リバーラスだ。



 エレナと目が合うと、リバーラスはこちらに笑みを湛えて歩み寄って来た。


「やっぱりエレナ・ヴァービナス嬢は、エレーナだったのね」


 リバーラスの確信めいた声。


 勘のいい彼女は気づいていたようだ。ミシェーラ皇女付きの侍女としてエレナを迎えに来た時点で。

 そのことを周囲に察しさせないのは、彼女の表情を他人に読み取られない能力が高いからだ。


 さすが皇女付きの侍女だ。


(いやいや、感心している場合じゃない。どどどどど、どうしよう、正体がバレてしまった……)


 エレナは冷や汗をかきながら困惑する。それでも平静を必死で装う。


「黒リス、小次郎だっけ? 弟の方」


 リバーラスが唐突にざっくばらんな口調で尋ねてきた。


「え? 小次郎?」


 エレナはきょとんとした。


「うん、あたしね、あのリスたちの声が聞こえないのよ。

 しかも可愛いフォルムしてるくせに、小太郎は警戒心強くて全然懐かないし、弟の小次郎はあたしを小馬鹿にしてるのかいつもお尻向けて、尻尾を激しく振り回して煽ってくるのよね」


 フンと鼻を鳴らしたリバーラスは不服そうに肩をすくめた。


「あいつ、絶対に許さないんだから」


(えー! 小次郎、そんなお行儀の悪いことをしていたの?)


「ねえ、どうなの? 

 ヴァービナス嬢にはあのリスたちの声、聞こえてるの?」


 ずいっとリバーラスが一歩前に出た。


「あの黒リス共とおしゃべりできるの?」


 核心を突かれたエレナは言葉に詰まった。

 恐る恐るリバーラスの瞳を覗き込む。


 そこには敵意も嘲笑もなく、ただ、知りたい、という探求心のみ。


「か、畏まらなくていいですよ、エレナで」


「了解、エレナね。畏まらなくていいなら、あたしに敬語は一切不要よ。

 うちは男爵家、エレナは侯爵家なんだから」


「リバーラスが小太郎小次郎兄弟リスを知っているってことは、あなたも……」


 エレナの語尾が慎重になる。


「うん、ご名答。あなたのもう一つの顔、その仲間よ。

 改めてよろしく、リバーラス・フロストパンセよ」


 リバーラスがにこっと笑って手を差し伸べ、握手を交わす。


「さ、歩きながら話しましょう。時間がないわ」


 二人は示し合わせたように旧離宮を目指して並んで歩き進んだ。

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