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陽子に半ば強引に押し付けられたスカートを片手に、ちゃんと着るべきか否か、と未だに逡巡していた。着た振りをしてサイズが合わなかったと嘘をつくことも出来るからだ。
スカートはスカートでも制服のスカートとは訳が違う。
いくら試着とはいえ、こんな今時の女の子が着るような洋服をまさか自分が着るだなんて、と凪沙は困り果てていた。
陽子が居ない間になんとか、あのひしめき合った空間にこれを返しにいけないものかと思案するが、陽子は通せんぼをするかのように試着室の扉の前で待っていた。
その気配を感じて、凪沙は大きく深呼吸をする。着るしかない。
何故なら凪沙は、嘘がつけないからだ。
着ていたスキニーパンツを脱いで、そのスカートに恐る恐る足を通す。
少しだけ鼓動が早くなるのを感じながら、ゆっくりとそれを腰まで上げた。
背面にあるジッパーもきちんと上まで上げると、どちらかというと細身といえる凪沙のウエストにぴったりと合った。サイズはばっちりだ。
膝が出てしまっているのがなんだかむずむずしてどうも落ち着かず、これはこの位置で履くものなのか、自分には少し小さいのではないか、と答えが分からずに焦っていた。
「凪沙ちゃん、履けた? 開けてもいい?」
コンコン、というノックの音と共に陽子の声が聞こえる。凪沙は慌てたまま、もう少し待って、と陽子を止める。
履けたは履けたが、どうしてもこの姿を陽子に見せる勇気が出なかったのだ。
しかし陽子はその慌てた凪沙の気持ちを察し、その緊張を解すかのように、冗談めかしてもう一度声を掛ける。
「パンツさえ見えなきゃ大丈夫だよ。鏡でチェックしてみて。」
凪沙は全面が鏡になっている壁に背を向けていたが、陽子の言葉にはっとし、くるりと振り向いた。
「どう? 良さそう?」
鏡に映っていたのは、なんだか自分にそっくりだけれど全く知らない人のような、そんな見たこともない自分だった。
元々凪沙が着ていたグレーのトップスとダークグレーのスカートは、まるでセットで売られていてもおかしくはない程に綺麗なシルエットだった。
鮮やかな色合いではないが同系色ですっきりと纏まっていて、ポケットに付いたビジューが程良くアクセントとなり、どこかエレガントな雰囲気さえ漂う。
凪沙は膝が出てしまうのを恥ずかしがったが、胸元や腕はきちんと隠れているため下品にならず、女性らしさを良い具合に引き立たせている。
凪沙は陽子に返事をするのも忘れ、思わず押し黙った。
「もう、開けるよ」
凪沙が自分から扉を開けるまで待とうとしていた陽子だったが、あまりの長さに痺れを切らし、万が一服を脱いでいる最中でも同性だから許してもらえるだろう、と思いながら勢いよくドアノブを回した。
「あ、」
「わあ!」
陽子は凪沙の姿を目に映すと同時に驚きの声を上げた。
歪みのない真っ直ぐに伸びた脚は普段隠しているからか痣や傷が殆ど無く、綺麗な肌だ。
引き締まっているとはあまり言えないが、元々骨が細くがっちりとしている訳ではないその腰は、収縮色であるダークグレーと小さなビジューがより一層華奢さを強調させている。
陽子は自分の見立ては大正解だった、と強く確信した。
「ほら! 私の言ったとおり、似合ってるでしょ!」
「似合ってるかどうか分からないよ……。」
「すごく似合ってるよ、すっごく可愛い。細いのは知ってたけど、普段よりスタイル良く見えるよ。」
その言われ慣れていない言葉の数々に、凪沙は全身の熱が集まっているのかと思うほど顔を赤くし、何も言えずにもじもじとしていた。
凪沙にとって一番女の子らしくて可愛らしいと思っている相手に、そうやって褒められるだなんて思ってもみなかったのだ。
嬉しさと恥ずかしさが入り交じって混乱寸前の凪沙だが、テンションが最高潮となった陽子はまるで着せ替え人形に夢中になる子どものように、色々なファッションを試してみようと次々に提案する。
服だけではなく、履いたことのないヒールを何足も履かせたり、髪飾りやバッグなども飽きるほど手に取って合わせて過ごした。
まるでファッションショーのようだったが凪沙も満更ではなく、陽子もアパレル店員のような口振りであれもこれもと言うものだから、凪沙は大きな荷物を抱えて帰ることになるだろうなと予想した。
陽子自身も服を何着も抱えてファッションショーを始めたので、凪沙も最初にイメージしていたような白くふわっと広がるミニ丈のスカートを勧める。
ウエスト部分はゴムで出来ており、チュール素材で作られたそれはまるでバレリーナのチュチュやパニエのようで、小ぶりなスパンコールと細かいラメが全体的に散りばめられている。
陽子はそれを見て、あまりに可愛らしく服というよりは衣装に近いし、自分よりも妹の小春のほうが似合うんじゃないかと首を捻るが、凪沙が真剣な目をして言うので一応手に取ってみる。
凪沙は試着をしてみるように言うが、価格を見てみると五百八十円と書かれていたので、陽子は買うよ、と言い即決した。
もし似合わなければ小春にあげればいい、と思っていたからだ。
凪沙は自分の願いが聞き入れられたことが嬉しくて、自分を認めて貰えたような満足感に浸る。
心底楽しい時間だ、と思った。
セールということで気が大きくなっていた陽子は、最終的におよそ二十着はあるであろう洋服と何足かのヒール、バッグなどを買い込んでほくほく顔だ。
それに釣られ凪沙も相当数買い込んでしまい、店を出る時には少し呆然とした。
一度にこんな金額を使うことは人生初めての経験だった。
けれど不思議と後悔はしていなかった。
「今度はさ、今日買った服着て違うところ遊びに行こうよ。」
陽子が重そうに荷物を抱えながらも笑顔で言う。
凪沙は不器用に、けれど嬉しそうに頷いた。
賑やかな店内で長時間過ごして疲れた上に、紙袋の重みで持ち手が手に食い込んで少し痛いが、凪沙は何故かあまり気にならなかった。




