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久々に食べるハンバーガーは少し塩気が強く感じたが、凪沙も陽子もそれはそれで美味しく頂き胃袋を満たした。
次はいよいよメインイベントであるオープンセールだ。
ここへはバスに乗って向かうらしいが、バス停で待っている退屈な時間も、目的地付近まで揺られるなんて事はない時間も、二人にとっては楽しい時間に変わっていた。
好きな色はなに、だとか、どんな服装が好みか、だとか、そんな他愛も無い話ばかりだったが、二人とも青色が好きだったり、冬は寒さ対策を重視した服を選んだりするなど共通点を知る良いきっかけとなった。
凪沙は、陽子という人間は自分が思っているほど全てにおいて絵に描いたような、パッケージ化された女の子だという訳ではないことに気が付いた。
凪沙の中での"女の子"というのは、少食で、フリルがふんだんにあしらわれたスカートやワンピースばかり選び、そしてピンク色や赤色を好むといった、典型的なアイドルのようなイメージだった。
それはそれで凪沙の世間知らずっぷりが遺憾無く発 揮されているが、褒められたことではない。貶されることでもないが。
実際、陽子にはピンク色や赤色が似合うと思っているし、凪沙が勝手にイメージしていたプライベートでの陽子は、可愛らしいスカートをふわふわと靡かせている姿だった。
けれどそれはあくまで凪沙のイメージであって、それが事実とは限らない。
実は陽子から見た凪沙もそうだった。
無口で、あまり人付き合いが好きではないか、嫌いではないが苦手かのどちらかだろうとは思っていたが、凪沙の猫っ毛を上手く利用した軽いヘアスタイルはお洒落でとても似合うと思っていたし、なんとなく雰囲気からして音楽に詳しそうなイメージを想像していた。
ファッションに関しても、あまりシックな装いではなく、フェミニンな、それでいて明るい暖色系の色合いが凪沙の派手すぎず小綺麗に纏まった顔立ちに良く似合うだろうと思っていた。
相手がどんな格好で来るのかを楽しみにしていたのは陽子も同じだった。
がっかりはしなかったが。
バスの車窓から、広い敷地に大きなワンフロアで完結されている建物が見える。
陽子によれば、どうやらそこが噂の場所らしい。駐車場には何台もの車が停められており、盛況っぷりが見てとれる。
陽子の手が降車ボタンに触れようとすると既に赤いランプが光っており、殆どの乗客が降りる準備をしていた。
「すごいね。」
「混んでそう、歩けるのかな。」
「あはは、広いから大丈夫だよ。」
ぞろぞろと通勤ラッシュ時のようにバスを降り、すぐ目の前に見える目的地へと向かう中、人混みが苦手な凪沙は不安そうに呟く。
周りの人も皆似たような会話をしているが、その表情は楽しそうだ。
いらっしゃいませ、の大合唱を全身に浴びてみれば、そこは凪沙にとって初めてで、そして夢のある空間だった。
色やデザイン、テイストなんかもてんでバラバラにずらりと並ぶ大量の衣服と、何足あるか検討も付かないほどの靴達やファッションアイテムの数々。
凪沙はまるで世界一の大富豪が持つクローゼットのようだ、と思い圧倒されていた。
それは陽子も同じで、思わず胸の前で両手を握り、その中に駆け足で飛び込みたくて仕方ないと言わんばかりに興奮していた。
確かに人も多いが、それでもゆったりと見て回れるであろうその広さにきらきらと目を輝かせながらもう一度、すごいね、と声を漏らした。
「凪沙ちゃん、どっ、どこから見よう。どこから行こう、どうしようね。」
陽子は興奮からか落ち着きのない様子で、共感を求めるように店内と凪沙をきょろきょろと交互に見る。
凪沙も言葉を失くして立ち尽くしていたが、量が多すぎて一見布の山のように見えるその一角を指差し、あそこはどうか、と提案する。
そこはスカートやワンピースが所狭しと並んでおり、まるで服が意思を持ってひしめき合っているようにさえ見える。
その中に居る女性客は皆、宝探しのように品を物色していた。
凪沙の言葉によし来た、と言わんばかりの勢いで大きく頷いた陽子は、本気で走ればそこそこの運動量になるであろうその直線をずんずんと進んでいく。
デパートのブランド物大セールよりかは幾分落ち着いているように見えるが、ここは間違いなく女性にとっての戦場だ。
良いデザインのものや流行りのもの、価格の割に質のいいものなどは他の人よりも早く見つけなければすぐに取られてしまう。
凪沙はその感覚が分からずあまりピンとこないようだが、陽子はまるで戦場へと向かう軍の指導者のように熱く語った。
「見て、これ可愛い! あ、これも!」
陽子は商品を次々と手に取っては、可愛い、可愛いと連呼する。
薄水色のデニム生地で出来たシンプルなミニスカートや黒を基調としたシックなロングスカート、派手な色だが露出は少なく、大人びたデザインのペンシルスカート。どれもこれも魅力的だ。
値札を見てみると、一着千円程度、一番高くても二千五百円ほどのお手頃価格で、安いものだと五百円のものもある。
凪沙は相場を知らなかったが、知らなくとも安いということは理解出来ていた。
凪沙が今までファッションに興味を持てない理由は、そこだったのかもしれない。
何も知らないことを、敷居が高いことと混同して考えていたのかもしれない。
ここは中高生向けの店だと言われているが、周りを見渡してみれば同年代の子も、少し上の世代の人も沢山いる。
家族で来ている人達も居るし、何より凪沙より遥かに年下の子達も、母親や父親に連れられながら自分で自分の服を楽しそうに選んでいる。
ファッションに定義はなく、正解などない。
言ってしまえば入りさえすれば大人の女性が子供服を着たって構わないのだ。
他人の目さえ気にしなければ。
テレビでは毎日、細くて美人な芸能人が高級ブランドで全身を着飾っている姿が放送される。
街を歩けばどこのショーウィンドウも、ポスターの中でとんでもないスタイルのファッションモデルが堂々とポーズを決めている。
―凪沙にとってファッションとは、そういった一部の人達にだけ許された権利みたいなものだと思い込んでいた。
凪沙は自分で作り上げた、凝り固まってしまった概念に長い間囚われていたことに少しだけ気付き始めた。
「これ凪沙ちゃんに似合うかも!」
落ち着いたダークグレーのポケット部分にビジューが散りばめられた、ミニ丈のタックスカートを見つけた陽子は、凪沙の腰元に当てる仕草をして笑う。
「こんな可愛いのなんて似合わないよ、着たこともないし……。」
そのあまりにも女性らしくて可愛らしい物に触れることすらたじろいでしまった凪沙は、手で突っぱねるようにして首を横に振る。
ほんの少しだけ"ファッション"というものに興味が持てた凪沙だが、自信の無さ故に怯んでしまっていた。
しかし陽子は凪沙にそれを押し付けるように強引に持たせ、試着室を指差し、得意気な表情でにやりと口角を上げる。
「似合ったら、どうする?」
ほらほら早く、と急かされるまま、凪沙は小さな空間に押し込まれた。
どう見てもファッションセンターしま〇らです。本当にありがとうございました。十年くらい前は本当にこれくらいの値段だったんですよ、常に!




