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ライデン VS. カサイ

直前の激闘に観客席が熱狂の渦に包まれる中、ライデンは舞台(プラットフォーム)の上に佇んでいた。


生まれて初めてだった。誰からも否定されないのは。バケモノを見るような目ではなく、賞賛の眼差しを向けられたのは。心臓が跳ね上がり、その鼓動が耳元まで響くようだった。彼は一言も発することなく、ゆっくりと舞台を降りた。横目で、救護班が倒れた対戦相手を担架で運んでいくのを見やりながら。この日の観客の多くは、ただ彼一人の走りを見届けるために詰めかけていたのだ。


次のアナウンスとともに、観客総立ちで客席がさらに激しく揺れた。


「次は、カサイ・ヒノカミ対ヤマダ・ショウタの番だ!」


観客席の片隅で、警備隊の隊長が満足そうに口元を緩めた。(ほう……ようやくヒノカミの息子の実力が見られるか。フフフ)


通路では、控え室を出たカサイとヤマダが、試合を終えて戻ってきたライデンとすれ違った。幼馴染である二人は視線を交わし、ニヤリと笑みを浮かべた。(本当に強くなったな、ライデン)と赤髪の少年は心の中で呟いた。


ライデンは無言でそのまま通り過ぎ、続いての出場者たちが舞台へと上がった。


ヤマダ・ショウタの異様さは一目瞭然だった。二本の筒状フィルターがついたガスマスクを装着し、落ちくぼみつつも鋭い目つき、ドクロ模様があしらわれた黒のパーカーに多数のポケット、黒い手袋とブーツ。髪はオレンジがかった鮮やかな黄色だった。大会の厳格なプロトコルに従い、両者は互いに礼儀正しく一礼した。


「始め!」審判が手を振り下ろすと同時に叫び、いつものように自らの身の安全を確保するため、素早く舞台から退避した。


カサイはハーフパンツのポケットに両手を突っ込んだまま、完全にリラックスした様子だった。その正面で、ヤマダはゆっくりとマスクの留め具を外し、それを脱ぎ捨てた。


「お前が強いのは知ってるぜ、ヒノカミ。だが、俺はお前以上に『致命的』だ」ヤマダは口元から緑色の煙を漂わせながら、不気味に尖った歯を露わにして警告した。「俺の能力(ギフト)を教えてやる。俺の唾液は毒ガスなんだ。ほんの少しでも吸い込めば、全ての感覚が狂い始める。もっとも、相当な量を吸い込まない限り、死ぬことはないがな……」


ヤマダはカサイの足元目がけて唾を吐き捨てた。唾液が石畳に触れた瞬間、爆発的に蒸発し、濃密な煙を撒き散らした。


「あぁ、言い忘れてたが、こいつは大量のガスを生み出すんだ」ヤマダが邪悪な笑みを浮かべて付け加えた。


カサイは距離を取るために後方へと跳んだが、ヤマダは彼を追い詰めるべく、立て続けに唾液を吐き散らした。赤髪の少年は身軽な動きで液体の弾丸をかわし続けたが、ほんの数秒のうちに、舞台の表面は緑色の蒸気で完全に埋め尽くされてしまった。カサイは足を止めた。


「ん? 一度も攻撃してこないじゃないか」ヤマダが純粋な好奇心から指摘した。


カサイはついに右手をポケットから引き抜き、まっすぐ相手に突き付けた。

「俺の聞き違いじゃなければ……これ、ガスだよな?」


「あぁ、そうだ」


「ガスが火に接触したらどうなるか、知ってるか?」


その言葉の真意を察し、ヤマダの目が限界まで見開かれた。

「膨張……するのか!?」


「大正解」カサイはニッと不敵に笑った。


「ま、待てよ!」ヤマダがパニックに陥って叫んだ。「そんなことしたら、お前だってタダじゃ済まないぞ!」


「試してみるか?」赤髪の少年は傲然と言い放った。


カサイの手が眩い爆炎に包まれた。巻き込まれる恐怖に耐えきれず、ヤマダは一瞬の迷いもなく、頭から舞台の外へと飛び降りた。


――ドゴォォォン!!


コロシアムの中央で凄まじい大爆発が巻き起こり、観客の視界を完全に遮るほどの濃密な爆煙が立ち昇った。観客席からは「誰が勝ったんだ!?」「何が起きた!?」と囁き声が漏れる。


風が煙を吹き散らすにつれ、構造物の中央にひとつのシルエットが浮かび上がった。カサイは何一つ傷を負うことなく、最初と同じ場所に佇んでいた。舞台の外では、ヤマダが恐怖で目を瞑りながら頭を抱えており、審判も似たような格好で丸まっていた。


目を開け、その光景を理解したレフェリーは、衝撃で声を震わせながらも即座に反応した。

「勝者……カサイ!!」


カサイは手をポケットに戻すと、戦闘エリアから飛び降り、悠然と控え室へと歩いて行った。群衆から割れんばかりの歓声が巻き起こる。観客席では、警備隊の隊長が満足げに大きく頷いた。(ついに見つけたか……警備隊(ガード)にふさわしい男を)


驚くべきことに、石造りの舞台は大爆発による構造的なダメージを一切受けていなかった。


「第一回戦、最後の戦いを始めます! マツモト・ジュン、サトウ・ヒロシ、前へ!」


二人の若者が素早く舞台へと駆け上がった。マツモト・ジュンは栗色の極端に短い髪をしており、ほとんど坊主頭だった。シンプルな白いシャツに茶色のズボンとブーツを着用し、一本の木棒を携えていた。一方、サトウ・ヒロシは白いノースリーブのシャツに黒のハーフパンツとブーツ。アフロヘアーに厚い唇、少し長めの鼻に丸い目をしていた。


二人がリングに上がると、審判は合図を出す前に両者の間に立った。

「ふぅ、直前の熱気が残っていて、えらく温かいな……」と呟く。


選手たちが一礼を交わした。

「始め!」審判が素早く手を振り下ろし、自らの身を守るために後退した。


即座に、ジュンは木棒を日本刀のように構え、武器を高く掲げて相手に突進した。サトウは両腕を十字に広げて反応した。その腕が急速に硬化し、樹皮と全く同じ質感に覆われていく。


――バコン!


生きている木に打ちつけられた棒の衝撃音がコロシアム全体に響き渡った。サトウはジュンを押し戻そうと力任せに押したが、ジュンは棍棒を地面に突き立ててその押し込みを制止した。間髪入れず、樹皮を腕全体へと広げながらサトウが再び襲いかかる。対するジュンは、淀みない滑らかさで棍棒を回転させ、それがまるで自分の身体の延長であるかのように完璧に扱ってみせた。


サトウは両拳を組んで重いハンマーに見立て、振り下ろしの打撃を放ったが、ジュンは間一髪で武器を挟み込んで受け止めた。


――バコン!


衝突の振動にサトウが腕を弾かれると、ジュンはその一瞬の隙を見逃さず、相手の顔面へと直線的な打撃を繰り出した。しかし、サトウも素早く左腕を挟み込んで防御した。


――バコン!


装甲された四肢に重い打撃が叩き込まれた。打ち合いの後、両者は跳躍して距離を取り、戦況を再評価した。(なんて硬い腕だ……)とジュンが思う。(なんて頑丈な棒だ……)とサトウも同時に分析していた。


ジュンが再び棍棒を空で振り回す。サトウはより隙のない構えを取り、さらに分厚い第二層の樹皮で両腕を覆った。両者が激突する。ジュンは腹部へ鋭い刺突を放ったが、サトウは腕でそれを受け止め、棒を上方へと受け流した。ガラ空きになったジュンの胴体目がけてサトウのもう片方の腕が迫るが、ジュンは棍棒の反対側を使って相手の腕を空へと弾き返した。


――バコン!


ジュンは身軽な動きで距離を取り、右手に握った木棒を滑らかに回転させながら、完璧な構えを作った。(打撃が痛すぎる……あのクソ棒、まるで純鉄でできてるみたいだ。全力で硬化するしかない……!)とサトウは焦りを感じていた。


「ウオオオオアアッ!」サトウが咆哮した。


樹皮が爆発的に噴出し、彼の上半身を覆う本物の木の鎧を形成した。「これならそこまで効かねえ!」


サトウは高速のパンチを繰り出したが、ジュンはそれを驚くほど容易くかわした。


――バシッ!


空を切ったばかりの腕の側面に、ジュンの棍棒が炸裂した。


「ぐあっ!」サトウは必死にもう一撃を放ったが、再び標的を外した。


――バシッ!

「があっ!」

――バシッ! バシッ! バシッ!


容赦のない打撃の嵐がサトウの全身に降り注いだ。(なんでだ!? 意味が分からねえ! さっきまで同じスピードで動いてたのに、なんで捉えられねえんだ!?)とアフロの少年は絶望した。


「顔に出ているぞ」最後の一撃をかわしながら、ジュンは至極冷静に語りかけた。


「何……!?」


「両腕の樹皮を増やしすぎたせいで、速度が落ちすぎている。諦めた方が身のためだ」


まさにその瞬間、サトウの腕の木がひび割れ始め、元の姿へと戻っていった。制限時間が尽きたのだ。


「ぐあああああああっ!!」


サトウの口から激痛の悲鳴が漏れた。それまで和らげられていた全ての打撃のダメージが、一気に彼の生身の身体に押し寄せてきたのだ。膝から崩れ落ちるほどの激痛だった。


ジュンは彼に向かって走り寄り、相手の体に棍棒を向けた。「これ以上痛まないようにしてやる」


――バキッ!


腹部への的確な一撃がサトウを地面から跳ね上げ、そのまま舞台の外へとまっすぐ吹き飛ばした。彼は完全に失神して倒れ込んだ。


「この試合の勝者、マツモト・ジュン!」審判が宣言した。


ジュンは粛々と棍棒を背中に収め、舞台を降りた。


「それでは準々決勝(ベスト8)を始めます! ホシノ・タカミツ対チョウ・シヤ、前へ!」


二人がリングへと進み出た。

「始め!」レフェリーが命じ、安全な場所へと退避した。


謎めいた黒のフードの魔術師は微動だにしなかったが、服の間からゆっくりと腕を引き抜き始めた。反対側で、シヤは彼をじっと見つめていた。(あいつをどう止めるか真剣に考えたんだが……思いついた最高の作戦がこれだ)と彼は顔に大きな笑みを浮かべた。


両腕を空に向かって高く突き上げ、深呼吸すると、喉の奥から叫んだ。


「降参だあああああ(参りました)!!」


黒髪の魔術師はピタリと動きを止め、突如として放たれた宣言にあからさまに混乱した様子を見せた。


「チッ……くだらん」と不機嫌そうに呟き、背を向けて舞台を降りていった。


一方、シヤは両腕を上げたまま、鼻から安堵の息を漏らしていた。(これで正解だ。あの野郎はバケモノだ、最初の奴みたいに感電させられてたまるか)


審判は驚きから正気を取り戻すために何度か瞬きをし、シヤを見つめた。


「おい、少年……もう降りていいぞ」


「あ、はい! もちろんです!」シヤは大急ぎで階段を降りた。コロシアム全体が、そのあまりの滑稽さに水を打ったように静まり返っていた。


「続いての試合を開始します! サイトウ・トモヤ対タナカ・マサト!」


二人が石造りのリングに上がった。

「始め!」審判が叫び、脇へ退いた。


サイトウ・トモヤは自分の脚を見つめ、計算を巡らせた。(この大会でここまで打った強力な蹴りは12回。限界までに打てる蹴りは、あと8回だけだ)。その正面で、青髪の少年は腕を組んだまま立っていた。(あいつの蹴りには僕の水の盾を突き破る威力があるのは分かっている。直撃を受けるわけにはいかない……受け切れるフリをして主導権を握り続けるしかない)とタナカは計画した。


両者ともに窮地に立たされており、相手に対して完全な不利を感じていた。(お互いに近接ファイターだ。俺は純粋な力(パワー)、あいつは盾による防御。俺には限界があるが……あいつにあるかは分からない。まあいい、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ)とトモヤは結論づけた。


彼の脚が太くなり、巨大化し始めた。サイトウは猛スピードで突進し、脚を持ち上げて壊滅的な蹴りを放った。攻撃の突発さに驚いたタナカは、辛うじて防御の盾を展開した。


――バシャッ!


衝撃により、水の障壁が木っ端微塵に弾け飛んだ。


「え!?」トモヤは自分の攻撃がそのまま手応えなく抜け、舞台の地面を直接踏み抜いたことに違和感を覚えた。


――ドスッ!


タナカは間一髪のところで追撃をかわしていたのだった。(13回目……残りは7回。だが価値はあった、面白いことが分かったぞ)とトモヤは考えた。


(くそっ、見抜かれたか)とタナカは深い挫折感とともに吐露した。


トモヤの脚が元の大きさに戻った。(肢体が大きくなると、俺の攻撃は遅くなりすぎる。もっといいアイデアがある)


その変化を見て、タナカは一瞬躊躇した。(なぜ脚を縮めた? 限界が来たのか? いや、フェイントを狙っている可能性が高い!)


トモヤが再び彼に向かって走った。タナカは右手を前に突き出しつつ、左手を背後に隠した。貧しい少年が蹴りを繰り出そうと足を伸ばした瞬間、タナカは心の中で笑った。(思った通りだ!)そして新たな水の壁を具現化させた。


しかし、軌道の途中で、トモヤの脚が突如として膨張した。


――バシャッ!


蹴りは易々と盾を粉砕し、タナカの腹部にクリーンヒットした。


「がああああっ!!」


凄まじい衝撃により、青髪の少年の口から唾液と血の糸が漏れた。その一撃は彼を強烈にリングの端へと吹き飛ばした。場外へ弾き飛ぶ直前、タナカは隠していた手を使って逆向きの水の盾を作り出し、その落下を間一髪で食い止めた。


(え!? まさか……油断した!)トモヤは驚愕して目を見開いた。


跳ね返りを生かし、タナカは必死の形相でトモヤへと突進し、両手に膨大な水を集中させた。だが今回の技は違っていた。完璧な水球を形成し、それがトモヤの頭部を密閉するように包み込んだのだ。


浮遊する水球が彼の顔を覆い尽くし、即座に窒息させ始めた。トモヤは必死に両手で球体を壊そうとしたが、指は液体をすり抜けるばかりで破壊することはできなかった。水が鼻腔や口から急速に侵入し、酸素不足で顔色が紫色に変色し、瞳に涙が溢れ出た。


仕上げとばかりに、タナカは平らな盾を召喚し、前方へと力強く押し出して抵抗できない相手の身体を弾いた。


――バシッ!


トモヤは舞台の外へと吹き飛ばされた。彼の身体が場外の地面に激突した瞬間、頭の周りの水球が弾けて消えた。


――バシャッ!


「ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ!」トモヤは激しく咳き込み、肺から水を吐き出した後、完全に意識を失った。救護班が担架を持って駆けつけ、慎重に彼を乗せた。


「勝者、タナカ・マサト!」審判が宣言した。


「次の試合に進みます! ヤマモト・タケシ、ナカムラ・ライデン、前へ!」


二人が石造りのリングに上がり、お互いに礼儀正しい一礼を交わした。

「始め!」レフェリーが叫び、リング外へと跳んだ。


(倒し方は完全に分かっている……奴に触れさせないことだ)ヤマモトは人差し指で鼻をこすりながら、絶対の自信をみなぎらせて呟いた。即座に、彼はライデンの周囲を円を描くように走り始めた。


「前の試合と同じ戦術を使うつもりか?」とライデンは中央で動かずに尋ねた。


ヤマモトは速度を著しく上げ、観客の目には残像にしか見えなくなった。ライデンを一瞬まぶたを閉じ、石畳に響く足音の残響だけに意識を集中させた。一ミリ秒の後、彼は確信を持って目を開けた。


「そこか……」


虚空に向かって、不意に両腕を突き出した。


彼の両手は、ヤマモトのシャツの襟元を正確かつ強固に掴み取り、その動きを急停止させた。

挿絵(By みてみん)


「なっ……!?」


栗色の髪の少年の顔に、大きな笑みが浮かんだ。


「動け……ない……なんてバカ力だ……!」ヤマモトは必死に走り続けようとしたが、両脚は空をかくばかりで、一ミリも前に進まなかった。冷たい恐怖が彼を襲う。「お前……一体何なんだ!?」


「俺? ただの能力(ギフト)なしの男さ」ライデンが答えた。


力を込めることで彼の上腕二頭筋が限界まで隆起し、ヤマモトの身体を完全に持ち上げた。


「ま、待て! 待ってくれ!」赤いブーツの少年が腕を振って乞うた。しかし、ライデンは半円を描くような動作で、彼を舞台の外へと一直線に投げ飛ばした。


地面に落下しながら、ヤマモトは起きた出来事を信じられずにいた。(嘘だろ……こんなにあっさり負けたのか……?)


「勝者、ナカムラ・ライデン!」


ライデンは満足げな大きな笑みを浮かべて舞台を降りた。


「次の試合へ移ります! カサイ・ヒノカミ対マツモト・ジュン!」


両者とも上がり、一礼を交わすと、審判の合図とともに退避した。


ジュンは素早く木棒を抜き放ち、攻撃へと転じた。しかし、カサイはまるで武器の軌道を予知しているかのように、圧倒的な余裕をもって打撃をかわし始めた。


「なぁ、俺はお前より遥かに速い奴を知ってるんだよ」上段からの振り下ろしをかわしながら、カサイは嘲笑を浮かべて言った。


「何……!?」


その瞬間、カサイは右拳を握り締め、そこに巨大な爆炎を纏わせ、熱量を一点に集中させた。


「『火拳(ヒケン)』!!」


巨大な炎の拳が腕から放たれ、ジュンの身体にクリーンヒットして彼を数十メートル吹き飛ばした。


――バコン!


ジュンの身体が観客席の壁に激しく激突した。圧倒的な力の誇示に、観客たちは興奮の声を上げ始めた。


観客席で、警備隊の部下が上司へと向き直った。

「後半の戦いは一段と面白くなってきましたね、隊長?」


男は顎に手を当て、分析するように静かにフィールドを見つめていた。

「あぁ、実に興味深い……だが、実戦での経験が圧倒的に不足しているな」


「この大会、誰が勝つと思われますか?」


「カサイ・ヒノカミか、ホシノ・タカミツか……のどちらかだろうな。だが勝者を断言することはできん。五分五分といったところだ。静観するとしよう」


「アンド今、準決勝(ベスト4)を開始いたします! 観る者を魅了した激闘の数々。準決勝最初の一戦は、ホシノ・タカミツ対タナカ・マサト!」


二人の対戦相手が舞台に立ち、定刻の一礼を交わした。

「始め!」審判が叫び、腕を振り下ろして避難した。


タナカは絶対の自信をもって両腕を前に伸ばした。

「魔術師の性質なら全て知っている」


「ほう、そうか?」フードの男が無機質な声で答えた。


「お前たちが扱えるのは特定の一種類のエレメント魔法だけだ。そしてお前の属性は雷……僕の水の能力(ギフト)のおかげで、お前の雷撃は僕に触れる前に拡散する。……この勝利はすでに僕のものだ!」


アリーナに静寂が訪れ、直後、高らかな高笑いによって破られた。


「ククク……ハハハハハハ!」ホシノが爆笑し始め、タナカは完全に混乱した。


「何がそんなに可笑しい!?」青髪の少年が明白な怒りを込めて問う。


「ハハハハ……勝ち誇るのは早すぎるぞ。教えてやろう、俺は『特別』なんだ」


「特別……?」


「俺は望むあらゆる魔法を行使できる」ホシノは両腕を広げ、顔にサディスティックな歪んだ笑みを浮かべて宣言した。「雷、土、風、水、闇、光……何一つ限定されない。人間どもはパケットな能力(ギフト)ごときで増長しているが、俺は次元の違う領域にいる。お前の能力は水だったな?」


タナカは氷のように硬直し、耳にした言葉に首筋を冷や汗が伝うのを感じた。


ホシノが右腕を突き出すと、鮮やかな青い魔法陣(スクエア)が空中に具現化した。「ならば……水でいくとしよう」


魔法陣から高圧の膨大な濁流が吹き出した。生存本能だけで反応したタナカは辛うじて盾を展開したが、魔法の濁流は彼の能力とは比べものにならないほど絶大だった。障壁は一瞬で崩壊し、タナカは舞台の外へと弾き飛ばされた。魔法の奔流は、水が潰えるまで彼を容赦なく打ち叩き続けた。


「フン、弱すぎる」暗い瞳の男は軽蔑を込めて舞台を降りた。


「勝者、ホシノ・タカミツ!」


控え室には、二人の少年だけが残されていた。幼馴染の二人。永遠のライバルである二人が、同時に立ち上がった。


「準決勝、最後の戦いを開始します! ナカムラ・ライデン対カサイ・ヒノカミ!」


二人は長い通路を通り、出口へと歩いた。光が射す場所に到達する直前、アリーナから戻ってきたホシノ・タカミツとすれ違った。


「ヒノカミ……決勝で会おう」黒髪の男は足を止めることなく言い放った。ライデンは彼を凝視した。「好きに言え」カサイは全くの無関心で返した。


赤髪の少年において、その魔術師はどうでもいい存在だったが、ライデンにとっては違った。彼はこの戦いに勝ち、ホシノの力と拳を交えることを心から望んでいたのだ。


二人の友が石造りの舞台を踏みしめた。正面に向き合い、一礼を交わす。だがその仕草はこれまでのものとは一線を画していた。プロトコルなどではなく、深い友情と長年の鍛錬に裏打ちされた宿怨のライバル関係が込められていた。


「始め!」審判が力強く叫び、避難するために走り去った。


「カサイ! 手加減なんてしたら絶対に許さねえぞ!」ライデンが大声で叫んだ。


「あ?」


「一緒に修行してきた間、お前はいつだって力を抑えてただろ。頼むから、今日は手を抜かないでくれ! 二年ぶりに会えたんだ、俺がどれだけ強くなったか見せてやりたいんだよ!」


ライデンは揺るぎない自信をもって語ったが、内心ではアドレナリンによって心臓が千切れんばかりに鳴り響いていた。カサイは彼をじっと見つめ、ニヤリと笑った。


「今言った言葉、後悔するなよ、ライデン」


「後悔なんてするかよ。俺はもう、崖の上で怯えていたガキじゃない!」


「なら、行くぞ!!」


カサイは拳を固く握り、力強く掲げた。巨大な炎の螺旋が彼の腕の周囲に集束し始める。


「『火拳(ヒケン)』!!」


拳の形をした巨大な炎の濁流が、ライデン目がけて一直線に放たれた。しかし、研ぎ澄まされた反射神経を見せつけ、栗色の髪の少年は横への跳躍で炎の奔流を回避し、カサイとの距離を詰めるべく最高速度で走り出した。


カサイは即座に反応し、両手を合わせた。一マイクロ秒の間、親友と認める少年に対して全力で攻撃することに躊躇が生まれたが、ライデンの言葉が脳裏に強く響き渡った。(『手加減するな! 頼むから手を抜かないでくれ!』)


迷いを振り払い、カサイは絶対の決意とともに叫んだ。


「『火盾(ヒタテ)』!!」


灼熱の巨大な炎の壁が、二人の間に突如として立ち塞がった。


ライデンは一瞬タリとも前進を緩めなかった。顔を保護するように両腕を交差させ、進路を阻む炎の壁へと真っ直ぐ突入した。純粋な意志の力で炎を突き抜け、見たところ何のダメージも負うことなく反対側へと飛び出した。奇襲の利を生かし、右拳を握り込んで全身の威力を込めて振り抜いた。


カサイは彼が炎から現れたのを目にして驚愕で目を見開き、迫り来る衝撃に耐えるべく両腕を「X」の字に交差させた。


――ドカッ!


ライデンの拳がカサイの防御にクリーンヒットした。純粋な腕力による凄まじい衝撃波が赤髪の少年の身体を押し流し、彼の足が舞台の石畳の上を激しく滑っていった。必死の制動の末、カサイは場外へ転落するわずか数センチ手前で止まることができた。


(へぇ……なんて規格外のバカ力だ)腕を覆ったまま、カサイは親友の修行の真の重みを感じ取りながら思考した。


ライデンはゆっくりと構えを解き、顔に誇らしげな大きな笑みを浮かべた。


「言っただろ、カサイ……俺はもう、昔の俺じゃないんだ」

戦闘の展開を少し急ぎすぎてしまったかもしれませんが、最後の2戦は真に壮大なものにできるよう尽力します。:)

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