大会開幕
あれから四年が流れた。
凄まじい速度で森を駆け抜ける足があった。一歩ごとに地上の木の葉が舞い上がり、激しい風が少年の衣服を揺らしている。その顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
彼の足元を飾るのは、赤いソールに白い靴紐があしらわれたブーツのような靴。足首の周囲は真っ赤な布でしっかりと覆われている。赤いラインが入った黒いハーフパンツに、白いシャツ、そして手首の部分に赤いラインが入った黒いジャケットを羽織っていた。激しい鍛錬の証か、彼の両腕と両脚にはびっしりと包帯が巻かれている。
ライデンは何の苦もなく、島を丸ごと一周するランニングを終えようとしていた。すると突如、前方に険しい断崖絶壁が見えてきた。そこは数年前、怪物を前に恐怖で逃げ惑う途中で転落した、まさにあの場所だった。
彼は迷わず跳躍した。
「うおぉぉぉーーっ!」
少年は空中できゃあきゃあと歓声を上げた。落下の最中、彼は巧みに大木の枝を掴んだ。その反動で身体を華麗に三回転させると、地面に一分の狂いもなく着地してみせた。
目の前の障害物を軽快に避けながら走り続ける中、ある異変が彼の目を引いた。動物たちが一斉に逃げ出しているのだ。ウサギ、鳥、そして小さな鹿たちが、反対方向へと一目散に逃げ惑っていく。
「あれ? 一体この動物たち、どうしちまったんだ?」
彼は首を傾げ、薄暗い森の奥へと視線を向けた。その瞬間、巨大な怪物が目の前に姿を現した。グロング――四年前、彼を死の恐怖に陥れたあのモンスターだった。怪物は激しい怒りの咆哮を上げながら、周囲の樹木をなぎ倒し、すべてを破壊し尽くしていた。
「なんだ、お前だったのか」
ライデンは自信に満ちた不敵な笑みを浮かべた。脳裏に、あの日の記憶が鮮明によぎる。恐怖に怯えてただ逃げ回り、崖から突き落とされた情けない自分の姿が。
「言っておくけど、俺はもうあの頃のビビリじゃないぜひ」
走りながらそう呟くと、彼はピタリと足を止めた。グロングは明確な殺意をたぎらせて突進してきたが、ライデンの心は完全に冷静だった。怪物が繰り出す猛烈な攻撃の数々を、少年は少し苦戦しながらも身軽にかわしていく。そして次の瞬間、ライデンは高く跳躍した。怪物の顔とちょうど同じ高さに達すると、グロングの頭部へ強烈な一撃の蹴りを見舞った。
少年は静かに着地した。しかし、グロングは微塵も怯まなかった。
「くそっ、なんでそんなに硬いんだよ!?」ライデンが叫んだ。
「ガァァァァッ!」怪物はさらに怒りを狂わせ、咆哮した。
突如、少年は怪物に向かって再び走り出した。身を低く屈めると、地を滑るようにグロングの懐へと潜り込み、その四本足の一本を力強く殴りつけた。グロングは完全にバランスを崩した。その一瞬の隙を逃さず、ライデンは全力を込めた蹴りを怪物の顔面にクリーンヒットさせた。
グロングは口から濃い泡を吹きながら、地面に激しく倒れ込んだ。ライデンはその場に悠然と立ち尽くしていた。彼はもう、あの頃の弱い少年ではなかった。
「これが、俺の修行の成果だ」
彼はかつてないほどの自信を胸に、拳を強く握りしめた。
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「じいちゃぁぁぁぁん!!」
栗色の髪の少年は、丸太小屋の前で大声で叫んだ。
扉がゆっくりと開き、老人が少し頭をかきながら家から出てきた。
「はいはい、聞こえておるわい」祖父は言った。「久しぶりじゃな、ライデン。本当にお前、随分と変わったのう」
「そうかな?」少年は少し不思議そうに自分の身体を見つめた。
「もう準備は万端のようじゃな、ライデン。だが、早く闘技大会の受付へ行った方がよいぞ。登録は一時間しか受け付けておらんのじゃからな」
「あぁ、じいちゃんに『頑張れ』って言ってもらいに来ただけさ」
「お前に幸運など必要ない。必ず勝つと信じておるよ」老人は誇らしげな眼差しで孫を見つめた。
「期待は裏切らないよ、じいちゃん。この中村ライデンが必ず優勝して、この島を出てみせる!」彼は自分を指差し、堂々と勝利を宣言した。
「ふっ、頼もしいことじゃ」
「よし、じゃあ行ってくる!」
ライデンは再び走り出した。その瞬間、彼の脳裏に美しい金髪の少女の姿が浮かんだ。
『あ、でもその前に、ヒマリに会いに行かなきゃな。しばらく会ってないし』
彼は例の塔の前に立っていた。
――コツン!
石が窓を叩いた。すると、窓がすぐに勢いよく開いた。
「ライデン! 本当に久しぶり!」
少女が声をあげた。彼女の髪はとても長く伸び、まるで本物の金のように美しく、風に自由に揺れていた。誰もが王女だと確信する壮麗なドレスを身にまとい、頭には小さなティアラが輝いている。その瞳は相変わらず、大空のように澄んだ青い輝きを放っていた。
「よお、ヒマ――」
言いかける前に、彼女はためらうことなく窓から飛び降り、落下しながら「キャァァァッ!」と悲鳴を上げた。そして、直撃する形で少年の腕の中にすっぽりと収まった。
「お前、本当にいつもこうだな。少しは学習しろよ?」ライデンは満面の笑みを浮かべて言った。
「あなたが受け止めてくれるって分かってたもの」彼女は少年の肩に手を添えながら答えた。
「久しぶりだな、ヒマリ。ちょっと散歩でもどうだ?」
彼女は微かに微笑んだ。大好きな人の腕の中にいることで、彼女の心臓は破裂しそうなほど激しく高鳴っていた。
「う、うん……いいよ」緊張しながら彼女は答えた。
二人は大きな森の中を歩き始めた。心地よい風が景色を通り抜けていく。
「今日は大会の日なんだ。約束は忘れてないぜ、ヒマリ。お前と結婚しようなんて企んでる奴らを全員ぶっ飛ばしてくる。だから、俺の勝利を楽しみにしててくれよ」
「ええ、あなたなら絶対に勝つわ。誰よりも努力してきたんだもの」彼女は少し恥ずかしそうに彼を見つめた。
「俺が勝てば、この島を出ることができるんだ」
ヒマリは沈黙した。分かってはいたけれど、その言葉を実際に耳にするのは胸が痛んだ。
「島を出たら、まず何をするの?」
「世界を見て回って、自分の生きる意味を見つけるんだ」
「そう、ね……」彼女は少し悲しそうに答えた。
「ところでヒマリ、お前の夢って何なんだ? そういえば一度も聞いたことがなかったな」ライデンは興味津々に尋ねた。
「今はまだ、何もできないわ」
「え?」
「私はこの国を治めなきゃいけない。でもその前に、この島に王を迎えなければならないの」
「それって……お前が本当にやりたいことなのか?」ライデンは目の前の少女の言葉に、少し胸を痛めながら問いかけた。
「うううん。私はただ、自由になりたいだけ。何も支配したくない、外の世界を冒険したいの」
「じゃあ、一緒にここを出よう」ライデンが言った。
「できないわ。お父様が私を見つけるまで追いかけてくるはずよ。それに、私はこの国を守らなきゃいけないの」
「じゃあ、ここに残りたいのか?」
「ええ。だって私、この場所が大好きだから。ここを大切に思っているの。だから、私のやり方で守りたい」
ライデンは彼女をじっと見つめた。
「お前が結婚しようとするたびに、俺がその結婚式をぶち壊しに行ってやるよ。だからそんな顔するな。無理矢理にでもお前を連れ出してやるからな、分かったか? 今はまだ何もできなくても、俺が来るのを首を長くして待ってろよ」
ヒマリの頬は完全に真っ赤に染まった。
「ありがとう、ライデン」
「気にするな。よし、そろそろ行かないとな」
「応援してるわ」少女は少年の肩にそっと触れて言った。
「ありがとう、ヒマリ。勝ったら一緒に祝いに来るよ」
二人の少年少女は、互いに微かに微笑み合った。
ライデンはすぐに巨大なコロシアムの前に到着した。近づくにつれ、人だかりはますます大きくなっていく。
「うわぁ……」
これまで何度もこの近くを通りかかったことはあったが、中に入るのはこれが初めてだった。
周囲には途方もない大行列ができていた。彼は自分の番が来るのを辛抱強く待った。
受付のテーブルの向こうには、一人の年配の男が座っていた。「次、誰じゃ?」
ライデンはテーブルに近づいた。「こんにちは」
「名前と年齢、それから能力は何じゃ?」
「名前は中村ライデン、16歳。能力は……」彼は少し考えた。
男が素早くペンを走らせる中、彼は思い直して答えた。
「あ、怪力です」
「怪力?」
「はい、めちゃくちゃ力が強いんです」
「お前がそう言うなら……ほれ、この札を持っていきなさい」
その札には「87」という数字が書かれていた。
「本戦が始まる前に、上位16名に残るための予選がある」と受付の担当者が説明した。
「どうすれば残れるんですか?」
「開始前にミニトーナメントを行う。参加者は総勢108名。それぞれにランダムな番号が割り振られ、16名だけが本戦に勝ち進める。お前は87番じゃ」
「あぁ、なるほど」
「このまま真っ直ぐ進みなさい」
「ありがとうございました」
ライデンは非常に長い通路へと足を踏み入れた。歩みを進めると、突如として大きな扉が現れた。その上には『予選会場!』と書かれている。
その部屋の中には円形の舞台があり、大勢の人間がひしめき合っていた。トーナメントに参加しようとする者たちで、中には高貴な身なりの者から貧しい者まで様々だった。
「うわぁ、凄い人の数だな」ライデンは声を上げた。
すると突如、ある人物が口を開いた。それは白髪交じりの年配の男性で、上品なスーツを身にまとい、両腕にバインダーを抱えていた。
「ご存知の通り、この大会の本戦に出場できるのはわずか16名のみです。そのために選考試合を行いますが、これには制限時間があります。参加者が多いため、4人の審判が誰が進出するかを決定します。皆さんは27人ずつのグループに分けられ、その27人の中から4人のファイナリストが選出されます。では、始めましょう。1番から27番までの方は私に続いてくださいbox。残りの方はここで待機となります」
その人々は審判の後に続いた。
『へぇ、ここでは回りくどいことはしない主義ってわけか』とライデンは思った。
突然、何者かの手がライデンの肩に触れた。彼は素早く振り返った。
「よお、ライデン」
そこにいたのは、相変わらず上品な服を着た赤髪の少年だった。カサイだ。
「あ、お前か、カサイ」
「久しぶりだな、ライデン。この数年で本当に変わったじゃねえか」
二人の少年は満面の笑みを浮かべた。
「お前は何番の札を引いたんだ、ライデン?」
「87番だ」
「ってことは、第4グループか」
「お前のは?」
「36番だ」
「じゃあ、第2グループだな」
「まだ直接対決はできないみたいだな」と赤髪の少年は言った。「本戦の舞台で戦おうぜ。絶対に勝ち上がってこいよ、ライデン」
「それはお前が決勝まで残れたらの話だろ」
カサイは片眉を上げた。「ほぅ、言うじゃねえか。能力なしの小僧が」
「この4年間、俺とのレースで負け続けてる奴がよく言うぜ」
「あれはノーカウントだ!」
「いいや、大アリだね!」
二人は大笑いした。その時、部屋の中に声が響き渡った。
「第2グループの方は私に続いてください!」別の審判が叫んだ。
「あ、俺の番だ。じゃあまた後でな」とカサイが言った。
「あぁ」
彼らは去っていった。その部屋には27人だけが残り、別の審判が話し始めた。
「第1グループと第2グループは移動した。代わりに、私がこのグループの担当となる。ルールは至ってシンプルだ。試合時間は7分。どちらかが舞台の外に出れば敗北。気絶するか降参しても敗北。あるいは――相手を殺害することも許可されている。殺す覚悟、あるいは死ぬ覚悟がない者は、今すぐここから立ち去るがよい」
審判は出口を指差したが、少年たちの誰も動こうとはしなかった。
「警告はしたからな。では、69番と70番は前へ。残りの者は名前を呼ばれるまで待機せよ」
『最悪だ、めちゃくちゃ待たされるな。俺は87番だし』とライデンは思った。
試合はこれといった見どころもなく、淡々と進んでいった。降参する者、気絶する者、ひどい怪我を負う者もいた。しかし数分後、ついに中村の番がやってきた。
審判が乾いた声で告げた。
「87番と88番、前へ」
「やっとか、退屈して死にそうだったよ」とライデンは言った。
ライデンは舞台に上がった。目の前には、彼より少し背の低い金髪の少年が立っていた。その衣装は少し奇妙なものだった。
「あれ、お前どっかで見たことあるな」と金髪の少年が言った。「へっ、こりゃ楽勝だわ」
「そうかな?」ライデンが尋ねた。
「あぁ。何しろ、お前には何の能力もないんだろ?」
「本当にそう思うか?」ライデンは言った。
「始め!」審判が叫んだ。
ライデンは凄まじい速度でその少年目がけて走り出し、こう言い放った。
「俺の『能力』ってやつを見せてやるよ」
――バキッ!
ライデンの鋭い拳が少年の顔面に突き刺さった。対戦相手は何もできず、たったの一撃で完全に失神して崩れ落ちた。
「勝者、87番!」審判が宣言した。
ライデンは微かに笑みを浮かべながら、ゆっくりと舞台を降りた。
その後の試合も、ライデンは何の苦労もなくすべて勝利した。対戦相手は全員、たったの一撃で沈んでいった。彼らの中に、ライデンほど努力してきた者は一人もいなかった。彼らにとって、能力を持っているだけで十分であり、修行などしていなかったのだ。
「第4グループのファイナリストが決定した。他のグループもすでに終わっているはずだ。移動するぞ」と審判が言った。
彼らは他の参加者たちが集まる部屋へと向かった。その部屋には合計16人の少年がいた。
「全員揃ったな。では、本戦の出場順を決定するが、これは完全にランダムだ」と審判が説明した。
その部屋には、上部に穴の開いた箱が置かれたテーブルがあった。
「一人ずつ名前を呼ぶ。その箱から番号の書かれた札を引きなさい。全部で16枚ある。では、始めるぞ」
サトウ・ヒロシ!
その少年は箱へと進み出た。彼の能力は、自分の肌を木の幹のように硬化させることができるが、持続時間はわずか2分間で、受けたダメージの痛みは後から襲ってくるというものだ。彼は手を入れて札を引いた。
「参加者、16番の札を引いた」と審判が言った。
スズキ・ケンジ!
彼はゴムの球を作り出して高速で放つことができるが、一度に生成できるのは3つまでだった。彼は番号を引いた。「3番だ」と審判が告げた。
タナカ・マサト!
あらゆる攻撃をそらす水の盾を作ることができるが、盾の強度を超える威力は防げない。彼は札を引いた。「8番じゃ」
ヤマモト・タケシ!
10秒ごとに速度をさらに上昇させることができるが、1日に7回しか使用できない。彼は箱へと進んだ。「9番」
ワタナベ・ユウト!
相手の視界を1分間奪うことができるが、使用後は3分間のインターバルが必要となる。彼は札を取った。「7番を引いた」
タカハシ・ダイキ!
30秒間、濃い霧を発生させることができる。彼は番号を引いた。「10番」
チョウ・シヤ!
周囲3メートル以内にある物体を、その重さに応じて操作することができる。彼は手を入れた。「4番じゃ」
イチカワ・ケンタ!
相手を驚かせる程度の弱い電撃を放つ。彼は札を引いた。「2番を引いた」
ナカムラ・ライデン!
彼は能力を持たず、純粋な怪力のみ。ライデンは一歩前へ出て、箱の中に手を入れた。「11番じゃ」
コバヤシ・リョウ!
接触した相手を2分間麻痺させることができるが、効果終了後はエネルギーが枯渇する。彼は札を引いた。「5番」
サイトウ・トモヤ!
蹴りを入れるごとに脚力を強化できるが、20発までしか蹴れず、その後はバランスを崩してしまう。彼は番号を取った。「6番を引いた」
カサイ・ヒノカミ!
炎を生み出すことができるが、制限時間がある。ライデンのライバルがテーブルへ進んだ。「13番じゃ」
カトウ・ハルキ!
お前たちも覚えているだろう、かつてライデンを容赦なく痛めつけたあの男だ。球体になって跳ね回ることができる。箱に手を入れた。「12番を引いた」
ヤマダ・ショウタ!
唾液が毒ガスになる。番号を引いた。「14番」
マツモト・ジュン!
触れた物体を硬化させることができる。最後の札を取った。「15番」
そして最後に、ホシノ・タカミツ!
フードを深く被っており、その能力は未知数。彼は残された札を取った。(必然的に1番)。
「よし、これで対戦カードが決定した」と審判は言い、リストに挙げられた全ファイナリストのトーナメント表を提示した。
現在、彼らはコロシアムの中心にいた。
このコロシアムは円形で、観客席は超満員だった。6年に一度開催されるこの大会を見るために、他の島々からも多くの人々が訪れているのだ。しかし、今回は特別な意味を持っていた。なぜなら、十分な財力があれば、勝者は王女と結婚できるからだ。
コロシアムの中央には、石畳の敷かれた白い正方形の舞台があり、そこに一人の実況者が立っていた。
「皆さん、こんにちは! お待たせいたしました! ついに16名の本戦出場者が決定いたしました。今年は参加者が非常に多く、お時間がかかってしまいました!」
観客席からは地鳴りのような大歓声が沸き起こった。
「それでは、第一試合を始めましょう! ホシノ・タカミツ、 shadow そしてイチカワ・ケンタ、前へ!」
二人は舞台へと上がった。一歩、二歩、三歩と進み、互いに一礼を交わす。
「始め!」審判が手を振り下ろしながら叫んだ。
ケンタは両腕を高く掲げ、その手からバチバチと電気の火花を放ち始めた。一方、フードの男はその場に完全に静止したままだった。
「らぁぁっ、これでも喰らえ!」
ケンタが叫んだ。その火花は真っ直ぐにフードの男へと向かったが、彼には一切の効果もなかった。
「え? 微塵も怯まないなんて……」ケンタは驚愕した。
「くだらん。そんな小癪な能力で、よくもこの大会に出場しようと思ったものだな」フードの男が口を開いた。
「何だと!? 俺をコケにするな!」少年は叫び、手からさらに多くの火花を放った。「喰らえ、うおぉぉっ!」
「蚊に刺されたほどの手応えもないな。本物の雷というものを見せてやろう」
そう言いながら、彼は頭のフードを外した。現れたのは、長い黒髪と、完全に妖しい紫色の瞳を持つ青年だった。彼の左手には一冊の本が握られており、右手は真っ直ぐに相手の少年を指差していた。
彼の右手の周囲に、眩い黄色の魔法陣が形成された。その魔法陣から、本物の凄まじい雷撃が放たれ、対戦相手へと直撃した。
「ぎゃあああああっ!」
ケンタは全身に強烈な電撃を浴び、悲鳴を上げた。彼の目は白目を剥き、ゆっくりと地面へと崩れ落ちていった。
――ドサッ!
その青年はすでに勝利を確信したように、審判の宣告を待つこともなく、きびすを返して舞台を降りていった。
審判は慌てて我に返り、大声を張り上げた。
「しょ……勝者、ホシノ・タカミツ!」




