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プレイデート

「よし、ライデン。もう行かないと、マジでやばいことになっちまう」


カサイは一瞬足を止め、そう告げた。ライデンは彼をじっと見つめ、その状況を飲み込んだ。


「あぁ、わかった……」


カサイは新しい知り合いのボロボロの姿をまじまじと見つめ、思わず問いかけた。


「なあ、その着てる服……それ一着しか持ってないのか?」


ライデンは自分の服に目を落とし、どこか諦めたように微かに苦笑した。


「あぁ。うちはそんなに金がないから、滅多に服なんて買えないんだ。持ってるものは全部、この森の資源から手に入れたものさ」


「ふーむ……」


カサイはまっすぐな目をした少年の決意に心を打たれ、しばし考え込んだ。


「もっと頻繁にお前に会いに来るよ、ライデン。お前の修行を手伝ってやりたいんだ」


ライデンの瞳が期待で輝いた。


「本当か!? めちゃくちゃ助かるよ!」


「じゃ、行くぜ!」


一瞬の躊躇もなくカサイはきびすを返し、凄まじい速度で走り去った。その足跡からは突風が巻き起こる。ライデンは立ち尽くし、地平線の彼方へと消えていく影を見つめていた。


「すげぇ、なんて速い奴なんだ!」


「よかったな、小僧」


腕を組み、穏やかな表情を浮かべた祖父が、背後からひょっこりと姿を現して言った。


「うん!」


ライデンは元気よく答え、赤髪の少年が消えた道をじっと見つめ続けた。


---


場面は一変した。


今、ライデンは訓練場の地面に座り込み、必死に息を整えようとしていた。その目の前には、圧倒的な威厳を放ちながら立ち塞がる祖父の姿があった。周囲の空気は、これから始まることの深刻さを物語るように重く張り詰めていた。


「修行の厳しさは身を以て分かったはずじゃ」


老人は毅然とした声で語り始めた。


「これからの四年間、お前がやるべきことはこれじゃ。それだけではない。肉体を極限まで鍛え上げるのじゃ。岩を叩き続け、もう両手が限界を迎えた時……そこから腕立て伏せを百回、スクワットを百回、腹筋を百回やる。それが終わったら、この島を丸ごと三周走るのじゃ。そして、それを何度も何度も繰り返すのだ」


ライデンは静かに耳を傾け、一言一句ごとに重圧が増していくのを感じていた。


「ワシの手助けは一切期待するな」


祖父は厳しい眼差しで言い放った。


「飯も自分で調達するのじゃ。今のところ、お前の唯一の目的はあの岩を砕くことだけじゃ」


ライデンは唾を深く飲み込んだ。その試練はあまりにも過酷で、非人道的とすら言えるものだったが、彼の瞳の決意が揺らぐことはなかった。


「わかった。期待は裏切らないよ」


祖父は少し眼差しを和らげ、視線を森へと向けた。


「あの小僧は、極めて強い」


「え?」


「あやつの手助けは、お前にとって大いなる助けとなるじゃろう。良いライバルを選んだな、ライデン」


「うん……」


ライデンは膝に手を置いて立ち上がり、真剣な表情を浮かべた。


「だからこそ、絶対に負けられない。続けるよ!」


時間を無駄にすることなく、彼は岩の前に立ち、拳を打ち込み始めた。


「一……二……三……」


打撃のたびに彼の声が響き渡る。祖父は孫の不屈の闘志に満足し、口元を片方だけ吊り上げて微笑んだ。


「相変わらず往生際の悪い奴じゃ。では、またな」


「……七……八……九……」


老人はその場を去り、少年をただ一人、己の努力の中に残した。ライデンは立ち止まることなく、時間が経つのも忘れて過酷なメニューを何度も何度も繰り返した。


やがて太陽が天高く昇り、正午を告げた。


「……そして、百!」


ついにそう叫び、彼は膝から崩れ落ちた。全身は汗でびっしょりと濡れ、呼吸は激しく荒れ果てていた。


「ぜん……ぶ……終わった……」


途切れ途切れに息を吐き出しながら、どうにか言葉を絞り出した。


「次は……島を三周、走るんだ……」


超人的な努力で彼は立ち上がった。手足は激しく震え、今にも崩れ落ちそうだった。彼はゆっくりと、よろめくような足取りで歩き始めた。


「何か食べなきゃ……」


胃袋の虚しさを感じながら、彼はそう呟いた。


その頃、丸太小屋の中では、祖父が窓の外の太陽の位置を眺めていた。


「もう正午か。ライデンが乗り切れるとよいがな……」


――コツ、コツ!


誰かが扉を叩く音が、彼の思考を遮った。老人は怪訝そうに片眉を上げた。


「おや? ライデンかの?」


彼は入り口へと歩み寄り、扉を開けた。驚いたことに、そこには赤髪の少年が礼儀正しい佇まいで立っていた。


「こんにちは」


少年は軽く一礼して挨拶した。


「おお、お前か、小僧」


祖父はすぐに気づいて言った。


「ライデンはどこですか?」


カサイは家の中を覗き込みながら尋ねた。


「訓練場におるはずじゃ。今も修行を続けておるよ」


「そうですか」


カサイは拳を握り締め、胸の中に競争心の火花が散るのを感じた。


「クソっ、俺も負けてらんねえ!」


それだけ言うと、彼はきびすを返し、訓練場に向けて全速力で走り去った。祖父はその後ろ姿を見送りながら、低く笑い声を漏らした。


「ふっ……本当にふさわしい好敵手を得たものじゃな」


カサイは訓練場に到着したが、辺りを見回して眉をひそめた。血の滲んだあの巨大な岩を除けば、そこは完全に無人だった。


「ライデン! どこにいるんだ!?」


大声で叫んだが、返ってきたのはこだまだけだった。


「誰もいねえな……まさか、森の中にいるのか? ライデン!」


はるか遠く、鬱蒼と生い茂る木々の合間から、疲れ切った声が返ってきた。


「え? 誰か俺を呼んだか?」


カサイの素早い足音が近づき、ついに彼が茂みから姿を現した。そして、疲れ果てた栗色の髪の少年の前で足を止めた。


「追いついたぞ、ライデン」


「あ、カサイ……来るのがめちゃくちゃ早いな」


ライデンは倒れないように木の幹に寄りかかりながら言った。


「あぁ。けどその前に、これを受け取れよ」


カサイは持っていた布袋を差し出した。ライデンは困惑しながらそれを受け取り、手の中で重さを確かめた。


「え? これ何?」


「服だよ。お前に似合うと思ってな」


カサイは親しげな笑みを浮かべて説明した。ライデンは袋を開けて中身に目を落としたが、すぐにプライドと恥ずかしさがこみ上げてきた。


「でも……こんなの受け取れないよ」


「おいおい、意地張るなよ!」


カサイは彼の肩を軽く小突いて嗜めた。


「いや、本当に、もらうわけには……」


カサイは腕を組み、片眉を上げていたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ライデン……お前、二週間後にデートがあるんだろ?」


ライデンの顔が一気に真っ赤に染まった。驚きと恥ずかしさで彼の目はこれ以上ないほど見開かれた。


「な、なぁっ!? なんでお前がそれを……っ!? 全部聞いてたのか!?」


「ハハハハ!」


カサイは友人の反応に大爆笑した。


「大声で言うな、みんなに聞こえちまうだろ!」


ライデンはさらに赤面し、穴があったら入りたいという様子で抗議した。


「受け取れって」


カサイは笑いを収め、真剣な笑みを浮かべた。


「この前のあの男の件、俺なりの詫びの印だよ」


ライデンは服を見つめ、それからカサイに目を向けた。相手の温かい心遣いに、彼の気恥ずかしさは消え去った。


「そこまで言うなら……ありがたくもらうよ」


「でもその前に、まずは体を洗ってこいよ」


カサイはおどけて鼻をつまんだ。


「汗臭くてたまらん」


「あぁ……この近くに川があるんだ」


二人の少年は森の奥へと歩き始めた。道中、カサイが沈黙を破った。


「で、この森で一体全体、何をするつもりなんだ?」


「また島を三周走るんだ」


ライデンは当然のように答えた。


「はぁっ!?」


その過酷すぎるメニューに、カサイは驚愕の声をあげた。


――グゥゥゥーッ!


ライデンの腹の虫が激しく、そして長く鳴り響き、二人の会話を遮った。彼は完全に赤面しながら、決まり悪そうに首の後ろをかいた。


「あ……わりぃ。まだ何も食ってなくてさ」


「なら、まずお前のおじいちゃんの小屋に行って何か探そうぜ」


カサイが提案した。


「いや、あの岩を壊せるようになるまでは小屋に戻れないんだ」


ライデンは祖父との約束を思い出し、真剣に説明した。


「じゃあ、どうすんだ?」


「食べ物を調達しなきゃいけないんだけど、ちょっとした問題があってな……」


「ちょっとした問題?」


カサイは首を傾げた。


「あぁ……実は俺、食べ物の調達の仕方を知らないんだ」


「はぁぁっ!?」


カサイは石のように硬直した。まるで宇宙人でも見るかのような目でライデンを見つめた。


---


場面は、美しく澄んだ水が勢いよく流れる川のほとりへと移った。


「ほら、これがさっき言ってた川だよ」


ライデンが言った。彼は時間を無駄にすることなく、体を洗うために古びて擦り切れた服を脱ぎ始めた。カサイは近くの岩に腰掛け、呆れと好奇心の入り混じった眼差しで彼を観察していた。


「整理させてくれ……お前、狩りのやり方すら知らずにこの森に来たのか? じゃあ、この前はどうやって生き延びたんだよ?」


――バシャーン!


ライデンは見事な飛び込みを見せ、一度完全に水中に潜ってから、濡れた髪を振り払いながら水面に顔を出した。


「実は……見つけた木の実を片っ端から食べてたんだ。あとは木の皮も。めちゃくちゃマズかったけどな」


「当たり前だろ、そんなの食い物じゃねえ!」


カサイは呆れ返って額に手を当て、ツッコミを入れた。


「やれやれ……よし、俺が魚の捕り方を教えてやる」


「本当か!?」


ライデンの目が輝いた。


「え? お前、魚釣りできるのか?」


「あぁ、小さい頃に母さんに教わったんだ」


カサイは誇らしげに答えた。ライデンは水に浮かんだまま、彼をじっと見つめた。ふと、ある疑問が頭をよぎった。


「でも……なんでそんなに俺を助けてくれるんだ、カサイ?」


カサイは彼の目を真っ直ぐに見つめ返し、大人びた表情で、率直な笑みを浮かべた。


「お前をライバルだと思ってる。だけど、同時に友達でもある。友達なら当然のことをしてるだけさ」


その言葉を聞き、ライデンの胸に温かいものが広がった。彼は心からの感謝を込めて満面の笑みを浮かべた。川から上がると、身体についた水滴を振り払った。


「よし、それじゃ、どうやって魚の捕り方を教えてくれるんだ?」


「まずは服を着ろよ」


カサイは新しい服の入った袋を投げつけながら言った。


ライデンは空中で袋を受け取ると、着替えを始めた。身にまとってみて、彼はそのディテールに気づいた。膝丈の黒いハーフパンツ、真っ白なシャツ、そして全体を完璧に引き締める黒いジャケット。


「どうして俺が黒好きだって分かったんだ?」


ライデンは嬉しそうに驚いて尋ねた。


「ただ、その色が一番似合うと思っただけさ」


カサイは照れくさそうに手を振りつつも、満足そうな表情を浮かべた。


「本当に?」


ライデンは自分の姿を見つめ、新しい服の着心地に感嘆した。快適で、まるで生まれ変わったような気分だった。


「よし、じゃあ魚の捕り方を教えるぞ」


カサイは急に真剣なトーンに切り替えて言った。


「棒と、尖った石を持ってこい」


ライデンはすぐに従い、川辺で材料を探した。カサイは棒を受け取ると、尖った石をその先端に力強く擦りつけ始めた。


「まずは道具作りだ……ほら、出来上がり! これで簡単に武器の完成さ。身を守ることもできるし、狩りもできる」


ライデンは、初めて学校に来た興奮した生徒のように、何度も何度も頷きながらその道具を見つめた。


「次に、魚がたくさん集まる場所を探すんだ」


と赤髪の少年は続けた。ライデンは興奮気味に手を挙げて割り込んだ。


「それってどこにあるんだよ、カサイ先生!?」


「滝のところだ」


「滝?」


「そうだ。魚は常に流れに逆らって泳ぐ。そして、一番登るのが困難な場所が滝なんだ。だからそこに集まる。確か、この近くに滝があったはずだ」


「じゃあ、行こう!」


ライデンは元気いっぱいに叫んだ。二人は川の流れに逆らいながら、川沿いを歩き始めた。


しばらくして、場面は、激しい音を立てる美しき滝のふもとへと切り替わった。


カサイは濡れた岩の上に立ち、先端に見事に突き刺さった魚がのった棒を掲げていた。その顔には、自信に満ち溢れた笑みが浮かんでいた。


「ほらな、こうやって簡単に魚が獲れるんだ」


「すげぇ……!」


ライデンは目を見開き、友人の卓越したスキルに対する深い憧れで顔を輝かせた。


「今度はお前の番だ、ライデン」


ライデンは一歩前に踏み出し、自作の鋭い棒を構えた。水面に視線を集中させ、銀色にきらめく影の動きを捉えようとする。


「よし……いくぞ! おりゃああっ!」


腕を大きく振り上げ、一気に突き出した。


――バシャッ!


水しぶきが激しく上がったが、動きが止まると、透き通った水の底がはっきりと見えた。棒の先には何もない。しかし、ライデンはすぐに失敗を認めたくはなかった。


「今に、デカい魚を見せてやるよ」


強がりの笑みを浮かべ、必死に平静を装いながら棒を持ち上げた。先端に何もないのを見て、カサイは耐えきれなくなった。


「は? アハハハ! 一匹も獲れてねえじゃねえか!」


ライデンは肩を落とし、見るからにがっかりした、コミカルな悔し顔を浮かべた。


「とにかく続けることさ」


カサイは彼の背中をポンと叩いて励ました。


「俺だって、最初の一匹を捕まえるのはめちゃくちゃ苦労したんだからな」


突然、眩しい光がライデンの目を引いた。はるか遠く、木々の上を飛んでいるのは、まるで本物の炎でできているかのような小さな鳥だった。


「あ、見ろよカサイ! 火の鳥だぞ」


ライデンはその神秘的な生き物に驚いて指差した。カサイはそちらに目を向け、右腕を伸ばした。火の鳥は空から優雅に舞い降り、彼の腕に静かに留まった。彼が火傷を負うことはなかった。


「母さんからの伝言メッセージだ」


赤髪の少年は真剣な表情で説明した。


「お前の母さん?」


ライデンは首を傾げた。


「ってことは、母さんもお前と同じ能力を持ってるのか?」


火の鳥は空気中に溶けるように消え始め、魔法の火の粉となって完全に見えなくなった。


「あぁ。ヒノカミの血を引く者は全員、同じ能力を持っているんだ」


「それって……何人もの人が同じ能力を持てるってことか?」


ライデンはその情報を頭の中で整理しながら尋ねた。


「あぁ、その通り。でもそれは本当に特別な場合に限られる。うちの家系はその一つだ。この世界にはその条件に当てはまる家族が四つしかない。……言っておくが、世界は信じられないほど広いんだぞ」


「それで? そのメッセージにはなんて書いてあるんだ?」


ライデンは興味津々に尋ねた。カサイの表情が少し曇り、緊急性を帯びた。


「家で俺が必要らしい。すまんライデン、また戻らなきゃならなくなった」


「気にするなよ」


ライデンは心からの笑顔で言った。


「お前にはめちゃくちゃ助けられた。本当に感謝してる」


二人は互いに敬意を込めて見つめ合い、固い拳のぶつかり合いで別れを交わした。


「じゃあな、ライデン」


「おう、またな!」


カサイは凄まじいスピードで走り去り、再び木々の間へと消えていった。ライデンは釣りの道具を手に、滝の前にぽつんと取り残された。


「よし……俺も食べ物を手に入れるために続けなきゃな」


――バシャッ!


彼は力強く棒を突き出した。「ダメだ!」


――バシャッ!


「もう一回!」


――バシャッ!


「今度こそ!」


滝の轟音が響き渡る中、ライデンが粘り強く挑戦し続けている間に、時間は容赦なく過ぎていった。昼の青空は次第にオレンジと紫に染まり、やがて夜の暗闇が森を完全に包み込んだ。しかし、この少年がそう簡単に諦めるはずがなかった。


---


二週間後――


もぐもぐ、もぐもぐ!(美味そうに食べる音)


小さな焚き火の傍らに座り、見事に焼き上がった魚を貪り食うライデンの姿があった。彼の身体つきは、かすかではあるが確実に変化していた。厳しい訓練に耐えるのは未だに困難を伴うものの、この地域の過酷な環境にはるかに適応しているように見えた。


「ぷはぁ、この魚、めちゃくちゃ美味い!」


彼は手の甲で口を拭いながら叫んだ。そして、感謝を込めて火を見つめた。


「本当にカサイのおかげだな……魚の捕り方も火の起こし方も教えてくれた。あいつの助けがなきゃ、こんなの何一つできなかったよ」


彼は勢いよく立ち上がると、土をかけて焚き火の残骸を消した。瞳には期待の火花が輝いていた。


「よし、そろそろ時間だな。今日は約束の日だ」


一秒も無駄にすることなく、彼は王室領地の境界を目指して全力で走り始めた。


---


その頃、宮殿内の豪華で広々とした一室では、鮮やかな金髪と深い青い瞳を持つ美しい少女が鏡の前に立っていた。今回は、髪をエレガントなポニーテールにまとめ、外を歩くのに適した動きやすい服装を身にまとっていた。


「はぁ……ライデンのやつ、遅いわね」


ヒマリは少し不安そうに窓の外を見つめながらため息をついた。


「約束、忘れてないわよね……」


彼女は大きな窓際に歩み寄り、森の境界に接する庭園を見渡した。はるか遠くに、障害物を不器用に、しかし凄まじいスピードで避けながら全速力で走ってくる少年のシルエットが見えた。その人物が誰であるか気づいた瞬間、王女の瞳は太陽のように輝き、その顔いっぱいに大きな笑みが広がった。


「あ、彼だわ!」


庭園の端で、ライデンは自分たちの秘密の抜け道である生い茂る低木の下を器用に潜り抜けた。


「このルートはまだバレてないな、よし。それじゃ、呼びに――」


言いかける前に、頭上からの物音に気づいて顔を上げた。二階の窓から、ヒマリの影が真っ直ぐ落下してくるのが見えた。


――どすん!


二人は激しく地面に衝突し、芝生の上でもつれ合った。ライデンは少女の体重をまともに受け、苦しげな声を漏らした。


「なぁ、ヒマリ……。これ、もう慣れたよ」


空を見上げながら、彼はコミカルなトーンで言った。


「アハハ! 本当に?」


彼女は少し照れくさそうに笑いながら答えた。


「でも……どいてほしいな」


「アハハ、ごめん!」


ヒマリは素早く立ち上がって服を整え、彼を助け起こすために手を差し伸べた。


「これ、なんだかデジャブね。言うセリフまで一緒だわ」


ライデンは彼女の手を握って立ち上がり、新しい服についた土を払った。


「ありがとう、ヒマリ」


王女は一瞬その場で立ちすくみ、栗色の髪の少年の姿を頭からつま先までまじまじと見つめた。彼女の頬がほんのりとピンク色に染まる。


「ねえ……ライデン、その服はどうしたの?」


「あぁ、これ? いい友達がプレゼントしてくれたんだ」


彼は黒いジャケットを整えながら、誇らしげに答えた。


「いい友達?」


ヒマリはその言葉を繰り返し、無意識のうちに少し嫉妬をにじませて、かすかに眉をひそめた。


「そうなんだ」


彼は彼女の機嫌の変化に気づくことなく頷いた。


「ところで、ヒマリはいつまで外にいられるんだ?」


「明日の朝までよ」


彼女は笑顔を取り戻して答えた。


「よし、最高だ!」


ライデンは顔全体に満面の笑みを浮かべて叫んだ。


「お前に見せたいものがたくさんあるんだ。時間を無駄にすんなよ!」


ライデンは考えるより先に、王女の手をしっかりと握り締めて歩き出した。突然の大胆なスキンシップに、ヒマリは顔が真っ赤になるのを感じて激しく動揺したが、握った手を離そうとはしなかった。数メートル進んだところで、彼女は地面にしっかりと足をつけ、立ち止まった。


「ねえ、ライデン……。まず、見せてほしいものがあるの」


ライデンは足を止め、不思議そうに首を傾げて振り返った。


「何を見せればいいんだ?」


「この数日間、ずっと考えていたの……」


ヒマリは彼をまっすぐに見つめ、真剣な口調で打ち明けた。


「あなたはどうやって強くなろうとしているの? そして、どうしてそこまでするの?」


「どうやって強くなるか、か?」


彼は繰り返した。


「ええ。というか、どんな修行をしているの?」


ライデンは表情を和らげ、自信に満ちた笑みを浮かべた。


「あぁ……よし、俺が修行している場所を見せてやるよ」


---


場面は、祖父の丸太小屋の近くへと移った。


小屋の中では、老人がキッチンの片付けをしていたが、窓の外の奇妙な動きに気づいた。


「おや? あれはライデン……?」


老人は目を細めて外を見つめた。視線が定まると、彼は度肝を抜かれた。


「おおお! 女の子ではないか!」


老人は小屋の薄暗がりから二人の様子をじっと見つめ、心の底から感動していた。


「もうそんな年頃か……。子供の成長は早いものじゃ。ワシは本当にお前が誇らしいぞ、小僧」


そう呟きながら、親代わりとしての滑稽ながらも純粋な涙が彼の目からこぼれ落ちた。しかし、連れの女の子の整った容姿や高価な衣服に気づいた瞬間、彼の表情は一変して完全な衝撃に包まれた。


「おや? よく見れば……あれは王国の王女様ではないか? それに、なぜあやつはこちらを指差しておるんじゃ……?」


祖父は見つからないように、カーテンの陰にそっと身を隠した。


外では、ライデンが木造の小屋を指差していた。


「ほら、あれがじいちゃんと住んでる小屋だよ。でも、修行のせいで今は中に入れないんだ」


「どうして?」


ヒマリは不思議そうに尋ねた。


「岩を壊せるようになるまではね」


「岩?」


「おいで、見せてやるよ」


二人はさらに数歩進み、少年にとって日々の苦行の場である森の開けた場所に到着した。


「ほら、ここが俺の修行場所だ。そして、これがさっき言ってた岩だよ」


ヒマリは巨大な岩石へとゆっくりと近づいた。そのゴツゴツとした表面に小さな手を置いた瞬間、彼女の表情は激しい動揺へと変わった。岩には、ライデンの拳による凄まじい衝撃の証拠である、乾いた血の跡がはっきりと残っていたのだ。


「これ……これをあなたがやってるの?」


震える声で尋ねた。


「これだけじゃないよ」


ライデンは当然のように説明した。


「腕立て伏せも腹筋もやるし、この島を何度も何度も走り続けなきゃいけないんだ」


ヒマリは彼を振り返った。その瞳には、胸の痛みと深い憧れが入り混じっていた。


「教えて、ライデン……。どうしてそこまで必死になれるの?」


ライデンは地平線に沈みかけた太陽に目を向けた。その表情は、彼の年齢には不相応なほどの大人びた雰囲気を漂わせていた。


「じいちゃんとした約束があるからさ」


「約束、ね……」


ヒマリは心を打たれて静かに呟いた。


「そう! でも、そういえば……」


ライデンは何か思い出したかのように、急に話題を変えた。


「ヒマリ、お前って結婚したいのか?」


「えっ!?」


王女の顔は一瞬にして真っ赤になり、完全に不意を突かれた。


「な、なんで急にそんなことを聞くのよ、ライデン!?」


「じいちゃんが、数年後に開かれる大会のことを話してくれてさ……」


彼は頬をかきながら説明した。


「大会」という言葉を聞いた瞬間、ヒマリの照れは消え去り、深く苦々しい憂鬱に包まれた。彼女は自分の靴に視線を落とした。


「あぁ、あれね……」


彼女は消え入るような声で言った。


「王国の古いしきたりなの。王家の子供が女の子だった場合、その結婚相手は大会で優勝した一番強い男に自動的に決まるのよ」


「はぁ? そんな簡単に決めちまうのかよ?」


ライデンは明らかに憤慨して眉をひそめた。


「ええ……」


彼女は深い悲しみと無力感を漂わせて答えた。


ライデンは彼女をじっと見つめた。彼の中に火花が散り、その顔には揺るぎない決意がみなぎった。


「それなら、俺が強くなるべき大きな理由がもう一つできた」


「え?」


ヒマリは驚いて顔を上げた。少年は、圧倒的な自信に満ちた、眩しく大きな笑みを彼女に向けた。


「知らない奴とお前を結婚させたりしない。俺がその大会に出て、そいつら全員をぶっ飛ばしてやるよ」


ヒマリは息をのんだ。顔がカッと熱くなり、本当に久しぶりに、微かではあるが心からの嬉しさと安堵に満ちた笑顔がその唇に浮かんだ。


「よし……それじゃ、遊びに行こうぜ!」


ライデンはいつもの元気さで緊張した空気を吹き飛ばした。


---


場面は、木々のない、広大な緑の芝生が夕風に揺れる美しい森の広場へと変わった。


「それで? ここはどこ?」


ヒマリは興味深そうに周囲を見渡した。


「鬼ごっこをしよう!」


ライデンは振り返って提案した。


「オニゴッコ?」


「そう、ルールは簡単。一人が鬼になって、もう一人を捕まえるんだ。捕まったら、今度はそいつが鬼になる」


「へぇ……面白そう!」


王女は楽しそうに遊びの姿勢をとった。


「だろ、カサイに教わったんだ」


「カサイ?」


ヒマリは片眉を上げた。


「さっき言ってたお友達のこと?」


「そう、大切な親友さ。あいつは凄く優しくて、色んなことを教えてくれたんだ」


ライデンは熱心に説明した。


「ふーん……」


ヒマリは無意識のうちに少し不満げに口を尖らせた。


「あいつはめちゃくちゃ強いんだ。俺の修行を手伝ってくれてるし、俺の最高のライバルだと思ってる」


「ライバル?」


「そうだ。あいつに負けるわけにはいかないからな!」


ライデンは熱い闘志を込めて拳を握り締め、笑った。


「それじゃ、最初は俺が逃げる番な! このエリア内ならどこを走ってもいいけど、森の中に入るのは絶対に禁止だぞ、わかった?」


「わかった!」


ヒマリは興奮気味に叫んだ。


場面は、太陽がゆっくりと沈み、空を黄金色に染めていく中、芝生の上を互いに追いかけ合って走り回る二人の姿を映し出した。


「ずるいわよ!」


ヒマリはついに立ち止まり、息を切らしながら叫んだ。


「あなたの方が全然速いじゃない!」


「ハハハハ! 一回も捕まえられなかったな!」


ライデンは少し子供っぽくからかいながら、数メートル先で立ち止まった。ヒマリはわざとらしく不満そうな顔をして腕を組み、愛らしく口を尖らせて彼を睨んだ。


「もう一回よ!」


負けず嫌いな彼女は要求した。


「今日はこれくらいにしておこうぜ」


ライデンは優しいトーンに戻して言った。


「夜ご飯にしよう」


栗色の髪の少年は彼女に歩み寄り、紳士的に手を差し出した。少女はあからさまに照れながらも、恥ずかしさを隠そうとしつつ、その手を取った。


「何を食べればいいの?」


彼女は興味深そうに尋ねた。ライデンは完全にドヤ顔を浮かべ、人差し指で鼻先を軽く擦った。


「俺の得意料理を食うんだよ」


「得意料理?」


「焼き魚さ!」


---


しばらくして、夜が完全に更けた。


広場の中心では、小さな焚き火が楽しげに爆ぜ、周囲に明かりと温もりを提供していた。


ヒマリは火の傍らに座り、王室の生活では口にしたこともない食べ物を恐る恐るかじっていた。対するライデンは、毎日の習慣であるかのように自然な様子で自分の分を貪り食っていた。


「どうだ? 美味いか?」


ライデンは彼女の反応を今か今かと待ち望むように、期待に満ちた目で尋ねた。


もぐもぐ、もぐもぐ。


ヒマリは一口飲み込むと、お上品に手で口を覆ってから答えた。


「悪くないわね……。本当に美味しいわ」


その言葉を聞いて、ライデンはまるで世界で一番大きな賞でも獲ったかのように胸を張り、何度も何度も頷いた。


「それで、どこで寝るの?」


少女は周囲を包み込む不気味な暗闇を見つめながら、少し不安そうに尋ねた。


「ここだよ」


ライデンは至って平然と、芝生の地面を指差した。


「え?」


王女は自分の耳を疑った。雲よりも柔らかく巨大なベッドで寝るのが当たり前の彼女が、地べたに寝転がることになるなんて。


「何か問題でもあるか?」


ライデンは罪のない無垢な眼差しで尋ねた。


「うん、何でもないわ……」


彼女は王族らしい考えをしてしまった自分に少し罪悪感を覚えながら、すぐに答えた。そして、照れ笑いを浮かべて頭をかいた。


「何事も、経験よね」


二人は柔らかい芝生の上に並んで横たわり、手を繋ぎながら夜空を見上げた。夜空には美しい満月が燦然と輝き、暗い夜を照らし、広場に銀色の光を注いでいた。


「ありがとう、ライデン……」


ヒマリは静寂を破り、囁くように言った。


「別に大したことしてないけど……なんでお礼を言うんだよ?」


彼は彼女の方に顔を向けて尋ねた。


「私が知るはずのなかった世界を、あなたが見せてくれているから……」


彼女は青い瞳に少しの切なさを漂わせながら、月を見つめて打ち明けた。


ライデンは静かに彼女を見つめた。月の銀の光に照らされた彼女の横顔は、言葉を失うほど美しく、まるでおとぎ話のようでさえあった。彼の鼓動がほんの少し早くなった。


「お礼なんて言うなよ……。だって、お前は俺にとって特別な存在なんだから」


その言葉を聞いた瞬間、ヒマリは言葉を失い、胸が大きく跳ね上がるのを感じた。


ライデンはゆっくりと上体を起こした。彼は非常に優しく慎重な手つきで新しい黒いジャケットを脱ぐと、それを彼女の体にかけてやり、深夜の冷え込みから守るように丁寧に包み込んだ。


「可愛いな……」


彼は彼女を見つめながら独り言のように囁いた。


「おやすみ、ヒマリ」


彼は再び彼女の隣に横たわると、ここ数週間の激しい疲労に耐えきれず、数分もしないうちに深い眠りへと落ちていった。


しかし、ヒマリは完全に目が冴えていた。彼女の顔は真っ赤に染まり、鼓動が激しすぎて彼に聞こえてしまうのではないかと心配になるほどだった。彼女はそっと黒いジャケットを胸に強く抱き締め、少年の香りを吸い込んだ。


「おやすみなさい……」


消え入るような声で囁き、これまでに感じたことのない幸福感に包まれながら、ついに瞳を閉じた。


---


翌朝、地平線から太陽が昇り始め、空は美しい朱色に染まっていた。二人は再び宮殿の高い塔のふもとに立っていた。


「じゃあ……またね、ヒマリ」


ライデンは出発の準備をしながら言った。


「ええ、またね、ライデン……」


少女は答えた。彼女の心臓は、昨夜の思い出のせいで未だに高鳴っていた。


「じゃあな!」


彼は叫び、きびすを返して秘密の茂みの下を器用に潜り抜けた。ヒマリは朝風にかき消されてしまうほどの微かな声で返事をした。そして、彼が消えていった場所をずっと見つめていた。


森に入ると、ライデンは全力で走り始めた。風が顔を打ち、足はこれまでにないほどの驚異的なスピードで動いていた。ペースを上げるにつれ、彼の唇に純粋な決意の笑みが浮かび上がった。


『今に見とけ! 俺がどれだけ強くなっているか、全員に証明してやる!』


頂点を目指して再び歩みを進めるべく、森の奥深くへと進む彼の足音が、力強く大地に響き渡っていた。

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