↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/18

戦闘終了

「もう魔力がほとんど残っていない。治癒の時に殆ど使い果たしてしまった。あんな規模のダメージをもう一度受けたら、本当にマズいことになる……」ホシノは相手を鋭く観察しながら、心の中で状況を分析した。「距離を取らなければ。あいつの専門は近接格闘だが、問題はいつの間にか間合いを詰めてくることだ。絶対に油断はできない」


ボロボロのローブを脱ぎ捨てたことで、ホシノの体格があらわになった。黒いハーフパンツに同色のミリタリーブーツ、そしてタクティカルベストを思わせるノースリーブのダークシャツを身 onscreenに着けていた。


(先手は打たない。相手に最初の一歩を踏ませよう。あいつの手種はまだ全部割れていない。さっきの爆発的な力には驚かされたが、攻撃の威力が前ほど残っていないのは明白だ。とは言え、俺も大怪我を負って血を流しすぎている。油断すれば負ける……だが、諦めるという選択肢はねぇ)とライデンは思考を巡らせた。


ライデンが魔術師の手に警戒の視線を走らせる中、黒髪の魔術師の頭の中で一つの戦術が組み上げられていった。


(いい案がある。石の分身を囮に使おう。あれなら魔力をそれほど消費しない。その後、俺の最高の呪文で仕留めてやる)


ホシノは両腕を前方へ突き出し、手のひらを広げた。二つの茶色の魔法陣が光を放つ。


地面が物凄い勢いで変形し始めた。舞台から五つの岩の塊が隆起し、ゆっくりとホシノ自身の姿と大きさを形作っていく。


ライデンは目を見開いた。敵の応用力の高さに驚かされる。


(見せてやるさ、魔導王。俺たちのかつての領土を取り戻せるのは、俺だけだ……)ホシノは冷たく強い決意を込めた眼差しで思案した。


石の分身たちの四肢が武器へと変化し始める。一体は鋭利な剣を、もう一体は棘付きの二つの鉄球を、三体目は巨大なハンマーを、四体目は拳を太い円柱に変形させ、最後の身体は固い岩の野球バットを形作った。


「へっ、本気で追い詰めてくれるじゃねぇか……」ライデンは生唾を飲み込みながら呟いた。一歩を踏み出すと、分身たちへ向かって一気に飛び出した。


人間が猛烈なスピードで迫るのを見て、ハンマーを持った分身が最初に仕掛けた。全力を込めて振り下ろしの一撃を放つ。ライデンは素早く体勢を低くし、地面をスライディングして紙一重でその致命的な衝撃を回避した。


勢いを殺すことなく跳ね起き、前進を続ける。直後、剣の分身が割って入り、横薙ぎの一閃を放った。ライデンは上体を捻って石の刃をかわすと、分身のガラ空きの隙を見逃さず腕の筋肉を凝縮させた。一撃の壊滅的な拳で、石の顔面を粉々に砕く。


少年の底知れぬ体力を前に、ホシノは苛立ちとともにチッと舌打ちした。右手にかざすと、黄色の魔法陣が眩しく輝く。


回避不可能な速度で雷撃が解き放たれた。


雷光がライデンの胸に直撃する。


「あぁぁぁぁっ!!」全身の神経を電撃が駆け巡り、栗色の髪の少年は悲鳴を上げた。以前ほどの致命的な威力はないものの、彼の身体を痺れさせるには十分だった。「くそ……っ……」電撃の麻痺により、掠れた声が漏れる。


その僅かな一瞬の停滞が致命的となった。ハンマーを持った分身が襲いかかり、遠心力を乗せるために上体を大きく捻る。


――ドカンッ!


岩のハンマーがライデンの背中に強烈に激突した。少年は血を吐き出し、白目を剥く。衝撃の凄まじさに、彼の身体が宙へと跳ね上げられた。


落下するより早く、バットを持った分身が打者の構えを取る。身体を回転させ、ライデンの左腹――以前の攻撃で開いたばかりの傷口へ向けてフルスイングを叩き込んだ。


恐ろしい量の鮮血が空中に舞い散り、石のバットを赤く染める。ライデンは糸の切れた人形のように数メートル先まで吹き飛ばされ、突っぷすように荒々しく叩きつけられた。動かなくなった身体の下から、朱色の血の池が広がり始める。


ホシノは即座に膝をついた。鼻からさらに血が滴り落ちる。


「俺の……勝ちだ」


観客席では、歓喜と驚愕の歓声が爆発した。これほどの破滅的な激闘を目の当たりにしたことなど一度もなく、今の今まで恐怖によって静寂に包まれていたのだ。


「す、凄まじい勝負ですね! まさかこんなものが見られるなんて……」タケコの部下が口を開いた。「あの魔術師は山を造り、絶望的な闇の雲を出し、あの包帯の少年はどこからともなく現れてボコボコに叩きのめし……あの終末のような爆発ですよ。最高じゃないですか、隊長?」


ナカノ・タケコは深く感銘を受けた様子で戦場を見つめていた。


「ああ……今年これほどの次元の戦いを見られるとは思っていなかったな」


カサイは手すりを固く握り締め、立ち尽くしながらライデンの身体を凝視していた。


(立つんだ、ライデン。お前がこんな程度で倒れるはずねぇだろ。勝たなきゃいけないってことを忘れるな)と炎の少年は念じた。


「勝負あったな」タケコは背を向けながら言い渡した。


「いや」カサイが返し、その顔にニヤリと自信に満ちた笑みを浮かべた。


タケコは眉をひそめて振り返る。「なんだ?」


「ライデンがこんなところで負けるわけねぇ。あいつはここにいる誰よりも苛烈な鍛錬を積んできたんだ。勝利を掴むのはあいつだ。俺には分かる」


「随分な信条だな、ヒノカミ」


舞台上では、かつての大理石の闘技場を無惨に変形させた瓦礫やクレーターを避けながら審判が登ってきた。二人の競技者の元へ辿り着くと、状況を検分する。


「ナカムラ・ライデン、戦闘不能につき……勝者は――」


観客席は勝者の名を待ち望み、地鳴りのような歓声をあげていた。


「おい見ろ! 立ち上がろうとしてるぞ!」


「バカな、まだ意識があるのか!?」


「なんて化け物だ……!」


観客の叫び声に呆然とした審判が振り向く。


「ま……まだ……続け……られる……」ライデンは地面に手を押し当て、身体を押し上げながら掠れた声で呟いた。両腕は激しく震え、両足はかろうじて身体を支えている状態だ。顎からは血と唾液が滴り落ちていた。


ホシノは本物の恐怖に満ちた目で見つめた。


(あり得ない……なぜまだ意識がある!? 俺が……こんな下等な人間なんぞに負けるのか……!?)深い憎悪が現実の分厚い壁にぶち当たり、魔術師の思考が錯乱する。


「ほ……本当にやれるのか、少年?」審判は気圧されながら問いかけた。


ライデンはようやく身体を起こしきった。その眼光はこれまで以上に鋭く、真剣そのものだった。脇腹からの出血を少しでも抑えようと、腰のジャケットを強く締め直す。


「ああ……やる……さ」荒い息を吐き出しながら答えた。


ホシノもまた、無理やり立ち上がった。人間が諦めないというのなら、自分も退くわけにはいかない。


審判は深く息を吐いた。


「ふぅぅっ! よし……両者いまだ健在につき、試合続行!!」そう叫ぶや否や、巻き込まれまいと舞台から飛び退いた。


互いを見つめ合う両者。二人とも倒れる寸前であり、一陣の風すら二人を倒すのに十分なほど限界を迎えていた。


「お前、名はライデンと言ったな?」静寂を破り、魔術師が訪ねた。


「そうだ。俺の名はナカムラ・ライデンだ」胸を張って宣言する。


「敬意を表しよう。人間でありながら、お前は他の奴らとは違う」


「あん? 違うって……どういう意味だ?」


「気にするな。決着をつけよう」ホシノは目を鋭く光らせて言い放った。


「応!」


円柱の拳を持つ石の分身が前方へ突き進み、ボクサーのようにジャブを繰り出した。ライデンも同じく拳で応戦する。互いの拳が衝突したが、ライデンの圧倒的な腕力が紙切れのように岩を粉砕し、分身の腕を破壊した。流れるような見事な動作で一回転し、左手の裏拳で残りの石の身体を打ち砕く。


「あと……三体」息を荒らげるライデン。


背後から、ハンマーの分身が先ほどと同じ打ち下ろしを試みた。今度は振り向くことすら整えず、ライデンは右手で石の柄を完璧に受け止めた。


「同じ芸が二度も通用するかよ」


その瞬間、バットの分身が正面から駆け寄り、肋骨を狙ってバットを振りぬいた。衝撃の直前、ライデンはアクロバティックな跳躍を見せる。分身のバットを跳び箱のように踏み台にしてさらに高く跳び上がった。ハンマーの分身の上空で体を一回転させると、脚を突き出して石の頭部を叩き割り、根元から吹き飛ばした。


着地と同時に、首を失った体からハンマーを奪い取ると、両手で振り回してバットの分身を打ち砕く。あまりの衝撃にハンマー自体も砕け散った。素早く振り返り、手元に残った破片を投げつけて二体目の残骸を完全に粉塵へと変える。


「あ……あと体一つ」肩で息をしながら呟いた。


ホシノは自分の生み出した分身たちが蹂躙される様を、硬直して見つめていた。


棘付き鉄球を持った最後の分身が、捨て身の最終突撃を仕掛ける。両腕を引いて両手での一撃を狙った。


ライデンは熟練の戦士のような落ち着き払った足取りで歩み寄る。分身が攻撃を繰り出した瞬間、どっしりとした相撲の構えを取った。足を踏みしめ、正面に掌を突き出して真っ向から受け止める。


鉄球が手に衝突した。棘が皮膚に突き刺さり、さらに血を噴出させたが、ライデンは一ミリたりとも退かない。獣のような咆哮とともに鉄球を掴み上げ、重厚な石の分身を宙へ担ぎ上げると、背後の地面へ叩きつけて完全に破砕した。


「これで終わりだ」ライデンは手を払って言い放った。白い包帯は、今や濃密な赤に染まりきっていた。


「ふっ……大したものだな。ここまであっさりと打ち砕かれるとはな」ホシノは苦笑いを浮かべて認めた。


「まあ、かなりイイの喰らわされたのは認めるけどな、ははは!」


(すまない、魔導王……任務を遂行することはできそうにない……)ホシノは諦念とともに悟った。


「一つ聞きたいことがある、ホシノ」ライデンは表情を真剣なものに変えた。


「なんだ?」


「お前がこの大会に出場した本当の目的は何だ?」


「なに……? なぜお前にそんなことを話さねばならん?」


「景品は二つしかないからだ。一つは姫様との結婚、もう一つはこの島から出るための通行証だ。だが、お前はこの島の人間じゃない。なら目的は姫様なんだろ」


「ああ……その通りだ」


ライデンは拳を強く握り締め、不機嫌さを露わにした。「なんでだ?」


「なぜ俺が姫と結婚しようとしたのか、教えてやろう」


「なんで急に話す気になったんだ?」


「お前を気に入ったからだ。これほど凄まじい戦いを見せてくれた人間は、お前が初めてだ」魔術師は素直に答えた。


「そっか……聞かせてくれ」


「要するに、正当な権利として俺たちのものを取り戻すためだ」


「俺たちのもの……? なんのことだ?」


「五百年前、この一帯はすべて魔術師の領土だった。だが人間どもは俺たちを狩り、ドブネズミのように追い散らした。自分たちの土地から叩き出されたんだよ。この数百年間、俺たちは失ったものを取り戻そうと生き続けてきた」


(魔術師の土地だった……?)ライデンの頭の中でカサイの言葉が繋がった。『なぜか魔導石は人間の領域にあるんだ……』


「なるほどな、だから参加したのか……」ライデンは事態の重みを理解し、頷いた。「自分たちのものを取り戻したいって気持ちは分かる……けど、勝たせるわけにはいかない! 姫様との結婚なんて絶対に許さねぇ!」そう叫び、再び構えを取る。


(どちらにせよ、打ち倒すのは俺だ。言葉で言うのは易いが、俺の魔力はほんの僅かしか残っていない。この瞬間にすべてを賭け、全霊の一撃を叩き込むしかない。接近させるな、先手を打て!)


ホシノは右腕を真っ直ぐ突き出した。手のひらに眩い白い陣が形成され、ライデンの心臓部を照準に定める。


(あ、それはいやだわ)とライデンは一瞬で判断した。


瞬時に地面へ強烈な一撃を叩き込み、大量の瓦礫と土煙を巻き上げた。


(何をたくらんでいる……!?)ホシノは動惑した。


ライデンは手を止めない。二撃目、三撃目と地面を殴りつけ、そのまま連続十回も岩を叩き叩いた。巨大で濃厚な土煙の幕が、彼の姿を完全に覆い隠す。


(またか!? 煙の中から岩でも投げてくる気か……! 警戒しろ!)ホシノは必死で煙を凝視した。


「おい、こっちだぜ」耳元で声が囁く。


ホシノは目を見開き、勢いよく振り返った。


(また同じ手に引っかかった……!)絶望の中、腕を伸ばして青い六角形の防護障壁を具現化させる。


ライデンは身体に残された最後の一滴の力と意志を注ぎ込み、右拳を引き絞って前方へ撃ち出した。


――バシィィィンッ!


耳をつんざくような激突音が響く。ホシノの魔力が枯渇しかけていたため、防御障壁は一瞬で粉々に砕け散った。ライデンの包帯を巻いた拳が魔術師の顔面に炸裂し、その圧力で頬が歪む。


ホシノは地面に落ちる前に意識を失った。口元から血を漏らしながら、力なく叩きつけられる。


「ハァ……ハァ……ハァ……」ライデンは必死に空気を求め、激しく息を荒らげた。生まれてこの方、魔術師と戦ったことなど一度もなかった。これが彼の初陣であり、そして見事に勝利を掴み取ったのだ。


観客席から地響きのような大歓声が爆発した。戦闘のクライマックスに魅了された観客たちが、飛び跳ねながら叫び声をあげる。


審判が舞台の中央へと駆け寄り、ライデンの右手を掴んで澄み渡る空へと掲げ上げた。


「この勝負の勝者は――ナカムラ・ライデン!!」


スタジアムの興奮は極限に達していた。


状況を呑み込めていないライデンは、驚きでパチパチと瞬きをした。「まじで……? 俺、勝ったのか……?」


巨大な笑顔が彼の顔一面に広がっていく。


「よっしゃー! 俺の勝ちだ! はははっ!」自分の名前を連呼する大歓声の中、純粋な歓喜で跳び跳ねた。


拳を高く突き上げ、ライデンは振り返ると、ヒマリ姫が待つ塔の観覧席を一直線に指さした。


(やったぞ……勝ったんだ……)


観客席では、隊長が顎をさすりながらその光景を見つめていた。


「おい、あいつもスカウトしたらどうだ? 部隊の素晴らしい戦力になるぞ。あれだけの強さを見せたんだ」


「お勧めしませんね」とカサイが口を挟んだ。


「なに? なぜだ、ヒノカミ?」


「ライデンの奴、一秒も迷わずに断るに決まってますからね、へへっ」


「お前がそう言うならな……」


突然、闘技場の歓声が止まった。ライデンの瞳から焦点が消え、白目を剥く。人間の限界を超え、致命的な量の血を失った彼の肉体が、ついに悲鳴を上げたのだ。


前傾姿勢のまま倒れ込み、瓦礫の上に意識を失って倒れた。


「おいマジかよ! ライデン!」カサイは迷わず手すりを飛び越え、舞台に向かって突進した。


「ライデーン!」


(めちゃくちゃ疲れたな……)視界が徐々に暗転していく中、ライデンは思った。彼が最後に目にしたのは、自分に向かって駆け寄ってくるカサイのぼやけたシルエットだった。


自身を呼ぶ友の声が遠のいていき、ついに彼は目を閉じ、漆黒の闇に身を委ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。