始める
全てを支配するのは、絶対的な暗闇だった。それは無限の虚無であり、吐息の残響すら飲み込んでしまうほど濃密で静寂に満ちていた。突如として、何もない空間のただ中に、全身が白く輝く少年の姿が具現化し始めた。顔はなく、ただ極端に跳ねた癖毛と、かなり細身の体格だけがそのシルエットを形作っていた。
「大好きだよ……」少年が呟くと、その声は広大な闇の中に強く響き渡った。
どこからともなく、不気味で黒い手――サイズこそ普通だが、恐ろしい様相をした手――が深淵から蠢き出し、ゆっくりと少年へと近づいていく。
「君はすごいよ……」少年の声は徐々に力を失い、消え入るように薄れていく。
影の手が少年の全身に触れ始めた。ほんのわずかな接触でも、少年の輝く小さな体は禍々しく病的な黒に染まっていく。
「さようなら……」
さっきまで何もなかったはずの顔に、大きくどこか懐かしい笑みが浮かんだ。影の手がついにその顔を覆い尽くすと、全ては再び闇の中へと沈んでいった。
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栗色の瞳がカッと見開かれた。
「ケン!」少年はベッドの上で飛び起きるように跳ね起きた。
恐怖に震え、まるで海の底から這い上がってきたかのように必死で空気を求めて喘いだ。あばら骨を突き破らんばかりに心臓が激しく脈打ち、額には冷や汗がびっしょりと浮かんでいる。ライデンは息を荒らげながら、今見た夢の記憶を整理しようとした。
震える拳でシーツを固く握りしめるうちに、呼吸は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「相変わらず威勢のいいお目覚めだな」
「えっ?」ライデンは声のする方へ首を向けた。
そこには赤髪の少年がニヤリと笑みを浮かべていた。
「お前はいつも体力だけは余ってるな、ライデン」近くの椅子に腰掛けたカサイが口を開く。
「ここ、どこだ……?」ライデンは不思議そうに周囲を見回しながら尋ねた。
「医務室だよ。前に俺たちがいたのと同じ場所だ」
ライデンは自分の身体に目を落とした。見慣れた白いシャツとハーフパンツを着ていたが、どれも乾燥した血で汚れていた。深く切り裂かれた脇腹には分厚い包帯が巻きつけられている。脇の小さなサイドテーブルの上には、彼のトレードマークである黒いジャケットが畳んで置いてあった。
「あぁ……俺、気を失ってたのか」勝利を無邪気に喜んでいた記憶の直後に、全てが暗転したのを思い出しながらライデンは呟いた。
「ああ。限界を超えて身体を酷使した上に、大量に出血したからな。その傷痕は間違いなく一生残るぞ」
「そっか……俺、どれくらい眠ってた?」
「三時間くらいだな」
「三時間!? じゃあ、もう今日が終わっちゃうじゃねぇか」
「ああ、そろそろ日が暮れ始める時間だ」カサイは頷いた。「最低でもあと三日はベッドで安静にしてなきゃダメだぞ、ライデン」
「三日!? なんでそんなに長えんだよ!」
「傷が完全に塞がってねぇからだろ、馬鹿」
「でも……お前、明日出ていくんだろ」
「安心しろよ。明日の朝一番でお別れを言いに来てから出発するからさ」
ライデンは腕を組み、寂しそうな目を友に向けた。
「ふん……まあ、しゃーねぇか」
「ほらよ」カサイが小さな物体を放り投げてきた。
「おっと!」疲労でぎこちない動きになりながらも、ライデンは空中でなんとかそれを受け止めた。「これ、なんだ?」
「魔法のペンダントだ」
「魔法の……?」
「そうだ。そのペンダントがあればこの島を出られる。お前が気を失った後、優勝賞品として渡されたんだ」
「おおお……」ライデンは光るペンダントを見つめ、胸を誇らしさでいっぱいにした。勝ったのだ。
カサイは椅子から立ち上がり、軽く身体を伸ばした。
「じゃあなライデン、また明日話そう」彼はゆっくりと部屋のドアを開けた。
「おう、また明日な」ライデンが手を振り返すと、カサイはドアを閉めた。
ライデンは大きくため息をついた。
「ふぅ……本当に俺が大会で優勝できるなんて思わなかったな」
右手に持ったペンダントを高く掲げながら、再び枕に頭を預けた。
「ってことは、あと三日でこの島を出るのか……」そう呟く彼の瞳には、深い郷愁の色が浮かんでいた。
トントン。
ドアをノックする乾いた音が響いた。
(ん? どうせカサイが忘れ物でもしたんだろ)とライデンは思った。
「入れよー」
ドアが静かに開いた。
「カサイ、お前いつも何か忘れ……」おちゃらけたトーンで言いかけたライデンだったが、言葉がピタリと止まった。純粋な驚きが彼を支配する。
黒髪に鮮やかな紫色の瞳をした少年が部屋に入ってきたのだ。
「ホ……シノ……? お前、なんでここに……?」
「やあ、人間」ホシノはぎこちなく手を挙げた。「様子を見に来たんだ」
「ええええっ!? お前、人間全員のことが大嫌いなんじゃなかったのかよ?」
「いや。お前は気に入った。それに、お前は普通の人間じゃない」
「は? どういう意味だそれ?」
「お前には『ギフト(加護)』がない」
「な……っ!? なんでそれを知ってんだ!?」
ホシノは自分の目を指さした。
「この目の力だ」
ライデンは、この魔術師が以前「人の加護が見える」と言っていたことを即座に思い出した。
「えっ? 加護がないことまで見えるのかよ?」
「ああ。最初は少し半信半疑だったがな。こんな人間を見るのは人生で初めてだったからだ。その後、お前があの炎の少年と戦っている時、観客の間でお前に魔法もギフトもないという噂を聞いて確信した」
「ああ……なるほどな」
「とにかく、俺はむやみやたらに全ての人間を憎んでいるわけじゃない」とホシノは付け加えた。「ギフトを持って生まれたというだけで、見下してくる奴らが嫌いなだけだ。そしてこの島には、それを鼻にかけて調子に乗っている奴が多すぎる」
「まあ、それは確かにな! へへっ」
「ここに数日間閉じ込められると聞いたが」
「ああ、傷が完全に治るまでは島を出られないんだってさ」
「……すまなかった」驚いたことに、ホシノは申し訳なさそうに軽く頭を下げた。
「いいって!」かつての宿敵の珍しい丁寧さに、ライデンは少しドギマギしながら答えた。
「俺たちの戦いで、完全に熱くなりすぎてしまった」
「気にすんなって! どうせ決勝戦だったんだ、全力を出し切るのは当然だろ!」
突如、ホシノは右腕を伸ばし、手のひらをライデンに向けた。栗色の髪の少年の身体が、温かな緑色のオーラに包まれる。
「うおっ!? なんだこれ!?」ライデンは自分の身体を不安そうに見つめた。
「動くな。治療している」
「治療……? なんでだよ?」
「俺なりの詫びだと思ってくれ」
瞬く間に、包帯の下の傷口が完全に塞がり始めた。脇腹の鈍い痛みも、筋肉の極度の疲労も、まるで魔法のように消え去っていく。
ライデンはベッドの上で跳ね起きた。
「おおおっ! サンキュ、ははは! めっちゃ体軽くなったぞ! 全然痛くねぇし、疲れも吹き飛んだ!」天真爛漫なドデカい笑顔を見せる。
「大したことじゃない」ホシノもまた、滅多に見せないかすかな笑みを返した。
一秒も無駄にすることなく、ライデンはサイドテーブルの黒いジャケットをひっつかむと、医務室の窓へと駆け寄り一気に押し上げた。
「おい、あまり無茶をするな。あばら骨の深い傷は表面しか塞いでいない。注意しないとまた開くぞ」真剣に心配そうな声でホシノが注意する。
「へへっ、心配すんなって!」ライデンは窓枠に飛び乗り、今にも飛び降りる構えをとった。
「おい、ライデン……いつか魔術師の領域に来い」
「えっ?」
「もう一度、お前と戦いたい」ホシノは完全な真剣味を帯びた眼差しで、彼を真の好敵手として見つめた。
「んー……どうせ俺の目的は世界中を巡ることだからな! 絶対遊びに行くよ! じゃあな!」
それが、ライデンがしなやかに窓から飛び降りる前にホシノが耳にした最後の言葉だった。
闘技場の外壁を駆け抜けながら、ライデンは近づく夕焼けを眺めていた。上空から見下ろす王国の景色は、茜色と橙色に染まり息をのむほど美しい。へりに立ち、目を細めながら街並みの中から特定の誰かを探し求める。
「どこだ……?」群衆をスキャンするように見渡しながら呟いた。
突如、彼の目が輝いた。
「いたっ!」
ライデンは壁から大きく飛び降り、膝をしならせて鮮やかに着地すると、通りを猛スピードで駆け出し始めた。
その頃、同じ通りをカサイが悠々と歩いていた。
(あの大会に出たのがこんなに俺のプラスになるとは思わなかったな……)赤髪の少年は得意げな笑みを浮かべながら思った。(明日早めに行ってライデンに見送りをしてやるか。哀れなことにあいつは寝たきりだからな、俺の方が先に島を出るぜ、へへっ。なにしろライバルなんだ、先手を打つのが当然だろ)
「よっ!」
カサイは驚いて目を見開き、声のする方へ振り向いた。
「ライデン!? お前、なんで外にいるんだよ!?」
「いやー、外に出たかったからさ」
「まだ治ってねぇだろ! 今すぐ医務室に戻れ!」
「あー、平気平気。もう治ったから」
「はあ? 退院まで三日かかるって言ってたろ!」
「ホシノが治してくれたんだよ」
「ホシノ……? あの人間嫌いのヤバい魔術師のことか?」
「そう、そのホシノ」
「マジで言ってるのか?」
「おう、見ろよ!」ライデンは黒いシャツをめくり、包帯を外して綺麗になった肌を見せつけた。
カサイは半信半疑で近づいた。「うわ……マジで治ってやがる」人差し指で、かすかに残った傷痕をツンツンと突き始める。
「おい、くすぐったいだろ! ははは!」
「で、これからどうすんだ?」
「明日出ていくよ」
「えっ!? 明日!?」
「おう。まあ詳しい話はまた後でな! ヒマリにお別れ言ってくる!」
「ま、待てよ……! 明日の何時に出る気だ!?」
「んー、朝の五時くらいかな! じゃあな!」
カサイが言い返す前に、ライデンは土煙を残して再び走り去ってしまった。
「あいつ、いつからあんなに足速くなったんだ……?」カサイは困惑してパチパチと瞬きをした。
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城の塔にある美しく豪華な部屋で、ヒマリ姫はベッドに腰掛け、空ろな目を泳がせていた。
「はぁ……ライデンの様子を見に行けなかったな。無事だといいんだけど……」
彼女の顔に寂しげな陰りが差す。寝室を重苦しい静寂が包み込んでいた。
カタッ!
窓ガラスを叩く小さな音が、その静寂を破った。
「ライデン……!?」
姫は急いで窓辺へ駆け寄り、勢いよく開け放った。
そこには窓枠にしがみつき、いつものドデカい笑顔で親指を後ろに立てて見せる栗色の髪の少年の姿があった。
数分後、二人はいつも語り合っていた海を見渡す崖の上にいた。夕焼けが空を鮮やかな橙色に染め上げている。
「じゃあ……明日行っちゃうんだね」ヒマリが静かに尋ねた。
「ああ、そうだ。この四年間の厳しい修行が実を結んだ気がするよ」ライデンは右手を掲げ、握りしめた拳を誇らしげに見つめた。
岩に打ち寄せる波の音が力強く美しく響き渡り、遠くではウミネコたちが心地よく鳴いている。
ヒマリは切ない眼差しで彼を見つめていた。
(私のそばにいてほしい……そう言いたい自分と、彼の夢を叶えさせてあげなきゃっていう自分がいる。私って、わがままなのかな……)と少女は胸を痛めた。
「この四年間、色々あったよな……」ライデンが突如、郷愁を帯びた眼差しで呟いた。「ヒマリは俺の初めての友達だったよ」
『友達』という言葉が姫の頭の中で木霊し、彼女の心をわずかに締め付けた。
「何年も経ったけど……あっという間だったろ?」ライデンは彼女の方へ顔を向けた。目を細め、あたたかく眩しい笑顔を浮かべている。
(あぁ……ごめんね、ライデン)ヒマリの声が少し震える。(でも私、あなたのことをただの友達だなんて思えないの。本当は……あなたに恋をしているの。私が知らなかった世界を、初めて教えてくれたのはあなただった。あなたが言う通り色んなことがあったけど、私にとっては全部が美しくて、一瞬のことみたいだった。最近ずっと考えてたの……私のことを一度でも異性として意識してくれたことがあるのかなって。それとも、本当にただの仲の良い友達としか思ってないのかなって)
(知りたい……でも、答えを聞くのが怖いの)ヒマリは拳を強く握りしめた。
「たまには遊びに来るよ。本当はさ……」
ライデンは最後まで言葉を紡ぐことができなかった。
ヒマリが身を乗り出し、突如としてライデンの唇を自分の唇で塞いだのだ。
その瞬間、ライデンは目を見開いた。心臓が早鐘のように激しく鳴り響き、顔全体が熟したトマトのように真っ赤に染まる。
二人の世界が止まった。ほんの数秒間の出来事だったが、二人にとっては永遠のように思えた。
ヒマリはゆっくりと体を引き、自分がしでかした突拍子もない行動に気づいた。
(えっ……私、何やってるの!? なんでキスしちゃったの!? どうしよう!?)パニックに陥り、彼女は弾むように立ち上がった。
「ご、ごめんなさい! もう帰らなきゃ!」ヒマリは恥ずかしさのあまり叫んだ。彼女の顔もライデンと同じくらい真っ赤で、心臓が爆発しそうに跳ねていた。
返事も待たずにひらりと身を翻すと、彼女は森に向かって猛ダッシュで走り去った。
ライデンは草の上に座り込んだまま、完全に硬直していた。聞こえるのは自分の高鳴る鼓動の音だけだった。
(くそっ……めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか……)唇に指を当てながら彼は思った。
トランス状態から正気に戻り、ハッとリアクションをとる。
「あ! ま、待てよヒマリ!」ライデンは彼女を追いかけ、すぐに追いつくとその手をキュッと握りしめた。「一人で夜の森を歩くのは危険だろ。送っていくよ」
「う……うん……」消え入りそうな声で彼女が答えた。
二人は木々の月影の中を歩いた。繋がれた手はそのままでしたが、恥ずかしさのあまりどちらも一言も発することができず、二人の間には甘酸っぱい静寂が支配していた。
やがて、二人は姫の塔の麓に到着した。
「じゃあ……ここでお別れだな」沈黙を破り、ライデンが言った。
「うん。またね」
ライデンは突然決意を固めたような目をすると、ヒマリにすっと近づき、彼女を温かく力強く抱きしめた。
(え……? だ、抱きしめられてる……!? 怒って……ないのかな?)ヒマリは驚きに目を丸くした。
おどおどと手を上げ、彼女もその抱擁に応えるように彼の背中に手を回した。
「会えなくなると寂しくなるな……」ライデンは彼女を少し強く抱きしめながら囁いた。
「私だって……」ヒマリは彼の肩に顔をうずめ、力を込めて抱きかえした。
ようやく身体を離すと、ライデンは純粋な照れ隠しから人差し指で頬を掻きながら、視線を横に逸らした。
「あ……あのさ、ヒマリ……さっきのキ……キスのことなんだけどさ……なんで急に……?」
彼女の反応を見ようとライデンが正面を向く。
「えっ?」
そこには誰もいなかった。
「行っちゃった……?」
彼が油断した一瞬の隙を突いて、ヒマリは質問の恥ずかしさに耐えきれず、光の速さで塔の中へ逃げ込んでいたのだ。
ライデンはパチパチと瞬きをしながら周囲を見回した。
「どこ行ったんだ、あんな一瞬で……?」
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翌朝、空が白み始めた頃、島の海岸には三つの人影が立っていた。
「本当にいいのか、ライデン? タケコさんに頼んでちゃんとした船でお前の目的地まで送ってもらうこともできるんだぞ」カサイが提案した。
「いや、いいんだ。ゼロから始めたいからさ。俺はこの小舟で行くよ」
「ははは、カサイ、もう突っ込むな。一度言い出したら聞かねぇ奴だろ」老人が笑いながら言った。
ライデンの脇には、小さく粗末な一隻の木造釣船があった。彼の身につけているのは新しい旅装だ。灰色のハーフパンツにピタッとした黒いシャツ、黒いラインの入った白い靴、そして腕と脚には欠かせない白い包帯が巻かれている。
一方のカサイは、いつものワイルドな格好とは打って変わって、清潔な白い長袖シャツに水色のハーフパンツという装いだった。老人は相変わらずの修道僧の衣を纏っている。
「でもじいさん、聞いてただろ!? こんな小っちゃい木造船で世界を冒険しに行こうとしてんだぞ!」カサイが反論する。
「ああ、聞いたさ。相当な馬鹿だと思うが……同時に、かなり格好いいじゃないか」と老人は認めた。
ライデンは波打ち際まで小舟を砂浜の上で引きずり、水に浮かべるとひらりと乗り込んだ。
「っていうかさ……カサイ、お前その服なんなんだよ?」
「えっ? 何か変か?」カサイは困惑して自分を見下ろした。
「ははは! いや別に。ただいつものワイルドな感じと全っ然合わねぇなと思ってさ!」
「マジかよ!? そんなに似合ってねぇか!?」
ライデンと老人は大爆笑した。
「ギャハハハハ!」
小舟の上から軽く頭を下げ、ライデンはニッコリと笑った。
「色々とお世話になりました、じいちゃん。カサイ、お前もな」
「へっ、気にするな。次に会う時は、お互い比べものにならないくらい強くなってるはずだぜ」カサイは拳を手のひらに叩きつけながら誓った。
「体に気をつけるんじゃぞ、ライデン。この世界はお前が思っている以上に広く、そして危険に満ちておる」老人は温かい眼差しで助言した。
「うん! じゃあな!」
ライデンは二本の木製オールを握りしめ、地平線に向かって力強く漕ぎ出した。少しずつ、彼の姿は海岸から遠ざかっていく。巨大だった島が遠くの小さな点に見えるようになるまで、彼は休むことなく漕ぎ続けた。
手を止め、額の汗を拭う。
「へぇ……ここから見ると、島ってこんなにちっぽけなんだな……」
地平線を見上げる。海の上に太陽が昇り始め、一面の海原を黄金色に煌めかせた。
「そっか……ついに島を出たんだな」
未来への期待と胸の高鳴りに満ちた大きな笑みが、少年の顔に浮かんだ。
これは、まだ始まりに過ぎなかった。




