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戦場のすべて

「腹を括るしかないか……」ライデンは自分に言い聞かせた。身体が僅かに震え、脈打つ緊張感を裏切っている。


息を大きく吐き出し、スタートラインに立つプロの短距離走者のような構えを取る。頭を上げ、視線は前方を真っ直ぐに見据え、足首から上体を僅かに前傾させる。肩の力を抜き、肘を90度に曲げて腕振りの準備を整えた。


彼の周囲で三つの小さな石の手が生命を宿したように動き出し、それぞれ異なる色の魔法陣を描く。黄色、青、そして茶色。


一秒の躊躇もなく、ライデンは爆発的な速度で前方へ飛び出した。


その瞬間、石の手が破壊的な力を解き放つ。だが最初に放たれたのは黄色と青の手だけだった。黄色の陣からは空を切り裂く眩い雷撃が恐ろしい速度で走り、青の陣からは超高圧の水流が放たれる。その高密度で鋭利な濁流は、人の肌に触れれば骨まで削ぎ落とすほどだ。


ライデンは身を翻して後方へしなやかに躍り、背中を大きく反らせた。一瞬、彼の身体が無重力空間に漂っているかのように見えた。致命的な雷撃が腹のすぐ下を掠め、白いシャツを焦がす。同時に刃のような水流が紙一重で頭上を通り抜け、数本の髪の毛を吹き飛ばした。


攻撃は彼の背後にあった巨大な岩に直撃し、凄まじい土煙の幕を巻き上げた。


ライデンは見事に着地し、膝を曲げて衝撃を吸収する。勢いを殺すことなく、狂乱の疾走を続けた。一歩踏み出すごとに、最も高くそびえ立つ中央の巨大な岩山へと近づいていく。


そこで三つ目の石の手が動いた。茶色の陣から円柱状の純粋な岩の柱が突き出し、猛烈な勢いで伸びながら少年の溝おちを狙って一直線に迫る。


人間離れした反射神経で、ライデンはその岩の柱の先端を両手で受け止めた。


だが柱は止まらない。凄まじい力で彼を押し戻しながら伸び続ける。制止しようとライデンは靴のソールを石畳に強く叩きつけ、踏ん張った。猛烈な摩擦によって足元から濃密な煙が立ち昇り、急ブレーキをかける車のタイヤのような悲鳴を上げた。


歯を強く食いしばる。両腕の血管が浮き上がり、筋肉が限界まで収縮した。


「ハァァァァッ!!」


ライデンは左拳を引き絞り、柱の先端へ向けて壊滅的な一撃を叩き込んだ。衝撃で正面の岩が粉々に砕け散る。柱が彼に向かって伸び続けようとも、ライデンは包帯を巻いた拳で岩を打ち砕きながら前進した。


その勢いを推進力に変え、絶大な跳躍を見せて打ち砕いたばかりの円柱の上に降り立った。迷うことなく、自分を押し潰そうとしていた岩の上を駆け抜け、中央の山への架け橋として利用する。風圧と空気抵抗が、彼の栗色の髪を後ろへと激しくなびかせた。


突如、彼の左右で別の二つの石の手が薄青い魔法陣を輝かせた。二本の致命的な氷の杭が両脇腹に向かって放たれる。


視線を向けることすらなく、絶え間ない危険の中で培われたライデンの生存本能が警鐘を鳴らす。彼は膝をつき、前方へと滑り込んだ。足と膝がスケートの刃のように機能し、下の岩がまるで氷のリンクと化した。


二本の氷の矢は頭上を通り抜けて激突し、周囲の空気を凍らせる吹雪となって弾け飛んだ。


「そんな攻撃、もう俺には効かねぇよ!」とライデンは不敵な笑みを浮かべて叫んだ。背後に潜む死線が彼の何かを呼び覚ましていた。人生でこれほど楽しかったためしはない。


疾走しながら立ち上がる。


「ありがとな、魔術師! お前のその石の手、頂上へ登るための階段として使わせてもらうぜ!」


中央の巨大な岩山の根元に激突する直前、ライデンは力強く跳躍した。壁面から突き出た小さな石の手の甲へ見事に着地し、風が顔を叩く。それを踏み台にして、さらに上にある別の手へと再び跳躍。跳躍を重ねるごとに、彼の腕力と知恵が空への道を切り開いていった。


(な……!? 俺の創造物を登るための足場にしているだと……?)ホシノは目を閉じたままチッと舌打ちをした。(クソが……そう易々と届かせるかよ!)


ライデンが巨大な手から手へと跳び移る中、岩の表面がパン生地のように蠢き始めた。空中を舞う少年を貫こうと、数十本の鋭利なトゲが突如として突き出す。


だがライデンは止まらない。最高峰のアクロバットのごとく、トゲを飛び越え、刃をかわしていく。逃げ場がない時は、岩壁に向かって容赦ない拳を叩き込み、触れる前に罠を粉砕した。何ものも彼を止めることはできない。


上空で、ホシノがカッと目を見開いた。


(来る……! 集中しろ)


両手を開き、発射体勢を保ったまま肩と肘を引いた。黒い霧の海を見下ろし、必死の思いで眼下を捜索する。


(どこだ……どこから出てくる!?)自らが作り出した黒い雲のせいで視界が遮られ、焦りが募る。


突如、岩の破片が霧を切り裂き、黒髪の少年を目がけて猛スピードで飛来した。


着弾の数センチ手前で、ホシノは青い六角形の防護障壁を起動する。


――ドカンッ!


高空に打撃音が響き渡り、岩は粉砕されて空中に粉塵の雲を残した。


(くそっ、当たりそうだった……!)再び殴られる恐怖に冷や汗を流す。


「おいっ!」ホシノの背後から声が響いた。


魔術師は素早く首を巡らせる。


「こっちだぜ!」


別の岩の投擲が彼に向かって飛来した。ホシノは再び盾を展開するが、焦りと呪文展開の速度により、両腕に鋭い痺れが走る。


「グッ……痛ぇ!」痛みの衝撃に片目を固く閉じた。


――ドカンッ!


衝突と同時に、岩は再び粉塵となって消え去る。


(どうやってそんな瞬時にあそこへ移動した!? まだあいつのギフトの正体は掴めんが、あの腕力と肉体耐久力は異常だ……)


「だったら、こっちはどうだ!」別の角度からライデンが叫んだ。


三つ目の投擲が空気を切り裂き、前二つよりも遥かに速く重い質量で迫る。反応する時間もなく、ホシノは顔の前に小さな盾を具現化させるのが限界だった。


――ドカンッ!


衝撃で膨大な土煙が舞い上がり、ホシノを完全に包み込んだ。彼は目を固く閉じ、激しく咳き込む。


「ゴホッ、ゴホッ……嘘だろ……」


「おい、ここだぜ!」今度の声は下からではない。危険なほど至近距離から響いた。


ホシノは目を見開いた。


ライデンは粉塵の雲を突き破り、絶大な跳躍を見せていた。既に空中で目の前に位置し、右拳を引き絞って致命的な一撃を放つ準備を整えている。


「うおあぁぁぁぁっ!!」ライデンは歯を剥き出しにして叫び、腕を前方へと打ち出した。


「くそがあぁぁっ!」ホシノは両腕を交差させ、可能な限り巨大で頑丈な青い障壁を展開した。


――ドカンッ!


ライデンの拳が隕石のような威力で激突したが、障壁は一ミリたりとも揺るがない。


考える隙もなく、ライデンは左腕を緊張させた。


――ドカンッ!


二撃目。それでも障壁は無傷のままだった。この防壁は基礎的な魔法ではない。あらゆる系統の魔法を組み合わせたものであり、岩を遥かに凌駕し、鉄には及ばないものの絶大な硬度を誇る。


――ドカンッ!

――ドカンッ!

――ドカンッ!


ライデンは止み間のない連続パンチを解き放った。どれほど殴りつけようと、青い障壁は耐え続ける。だがライデンは手を止めない。拳の関節が割れ、白い包帯が彼の血で赤く染まっていくが、槌のように打ち叩き続けた。彼の執念は絶対的だった。


じいちゃんとの約束のためか? ヒマリ姫に語った言葉のためか? カサイとのライバル関係のためか? いや、違う。今この瞬間、ライデンはただ己自身のために戦っていた。己の運命を突き止め、この世界における自身の存在意義を見出すために、この大会で勝利したかったのだ。


凄まじい衝撃の連続が、ホシノを下方へと押し下げ始める。これほどの暴力的な物理攻撃に対し、高密度の障壁を維持するには狂気的な量の魔力を消耗する。


(嘘だろ……高度が下がっている!? この破格の人間、デタラメな腕力をしてやがる……!)ホシノは疲弊に歯を食いしばった。


ライデンは殴り続け、自身の拳から流れる血で青い障壁を赤く染め上げていく。


(もう耐えられねぇ……!)ホシノの理性が悲鳴を上げる。


――ドカンッ!

――ドカンッ!

――ドカンッ!


狂乱の極致で、ライデンの右拳が燃え上がるかのように見えた。どこからともなく謎の青い炎が噴出し、包帯を巻いた彼の手を包み込む。


喉を焼き切らんばかりの咆哮とともに、ライデンは最後の壊滅的な一撃を叩き込んだ!


――バシィィィンッ!


青い障壁がガラスのように粉々に砕け散った。青い炎を纏った拳が防壁を突き破り、ホシノの溝おちへ深々と突き刺さる。


「うおおおああぁぁぁぁっ!!」ライデンは溜め込んだ全てを吐き出した。


ホシノは落ちていく彗星のごとく地上へ打ち落とされた。一瞬にして白目を剥き、口元から大量の血と唾液が飛び散る。その規模の衝撃を受け、空中で完全に意識を失っていた。


魔術師は瓦礫と化した硬い大理石へと激突した。その激突はあまりに苛烈で、彼の周囲にクレーターを形成し、濃密な煙を巻き上げた。


(へぇ! 割れたぞ……岩の時よりずっと固かったのに)空中に浮遊しながら、ライデンは血に濡れた自分の拳を興味深そうに見つめた。


重力が彼を深淵へと引き戻し始めると、ライデンは手脚を星型に広げ、まるでこの状況を何度も経験しているかのように落下の体勢を安定させた。軸を整えると、一番高い石柱の斜面に向かって急降下。足裏で着地し、まるでスキーのように荒々しい岩肌を滑り降りていく。


風が彼の髪を後ろへとなびかせる。その顔には興奮に満ちた小さな笑みが浮かび、瞳には危険なまでの真剣さが宿っていた。戦闘本能が、まだ終わりではないと叫んでいたのだ。

挿絵(By みてみん)


ついに優雅な跳躍で地上へと降り立った。


「ふぅ……やっぱ高い所は嫌いだぜ。俺には海抜ゼロメートルの戦いがお似合いだ」と安堵の息をつく。


ライデンは対戦相手が横たわるクレーターに向かってゆっくりと歩み寄った。ホシノは仰向けに倒れ、激突の衝撃でボロボロになっていた。全身に無数の裂傷を負い、顔の半分が血で覆われている。


黒髪の少年は立ち上がろうとしたが、激しい咳き込みとともにさらに血を吐いた。


「ガハッ……信じられ……ねぇ……これほどのダメージを……受けるなんて……」息を絶え絶えに苦しむ。


(くそっ……あの魔法だけは使いたくなかったが、こいつは俺に選択の余地を与えちゃくれないらしい)自尊心が胸を焼くのを感じながら、魔術師は呪詛を吐いた。


ライデンは二メートルほど手前で立ち止まった。拳の残虐性とは裏腹に、その身からは優しさが滲み出ている。


「おい、降参した方がいいぜ。あんだけの高さから落ちたんだ、もう戦える状態じゃねぇよ」ライデンは静かに勧告した。


「てめぇ……何様のつもりだ……汚い人間が……」ホシノは吐き捨て、震える腕で身体を支えて立ち上がろうとする。


「んー……」ライデンは首を傾げて彼を見つめた。


「てめぇら……人間は……そんな惨めなギフトを持って生まれただけで調子に乗りやがって。だから俺はここにいるんだ!」


「え?」


「俺たち魔術師が、てめぇらより遥かに高等な存在だってことを証明するために選ばれたんだよ!」ホシノの瞳には、純粋でドロドロとした憎悪が宿っていた。


「おいおい、なんでそんなに人間を恨んでるのか知らねぇけど、お前のために言っとくぞ。諦めた方がいい。怪我が酷すぎる」


突如、輝くエメラルドグリーンのオーラがホシノの傷ついた身体を包み込んだ。


「今度は何すんだ?」ライデンは純粋な好奇心で尋ねた。


彼の目の前で、魔術師の切り傷や痣が塞がり、消え去っていく。


「は!? 治ってんのか!? そんなことまでできんのかよ!」


ホシノは完全に立ち上がり、膨大なエネルギー消費に肩で息をついた。


「この景観にはもう飽きた……」彼は激怒とともに唸った。


手を開くと、ボロボロの衣装の間から古びた漆黒の魔導書が飛び出し、彼の前に浮遊した。


「本当の絶望を見せてやる」


「え?」


ホシノは飛行魔法を使って再び上空へと身を躍らせ、猛スピードで離れていく。


「うわっ、また飛びやがった! もういい加減にしてくれよ!」高所への苦手意識を思い出し、ライデンは不満を漏らした。


上空に達すると、ホシノは本に向かって手を伸ばし、再びあの恐ろしい死霊術師の杖を取り出した。


「クク……恐怖を知るがいい」と悪意に満ちた笑みを浮かべる。


頭上に杖を掲げ、目を閉じた。周囲の空気が激しく渦巻き始め、彼の髪と破れた服の残骸を揺らす。魔導書の分厚いページが勝手に高速でめくられ、ある特定のページでピタリと止まった。


そのページには、人類から忘れ去られた言語のルーン文字が記されていた。中央には不気味な挿絵が存在する。真ん中で真っ二つに分かれた月――片方は純白、もう片方は深淵の闇。その月が伸びた手で、長い白髪、残虐な笑みを浮かべる鋭い歯、そして長くて尖った古典的な魔法使いの帽子を被ったモンスターを抱いていた。


ホシノの声が、秘められた魔力を帯びてコロシアム全体に響き渡る。


「光と闇。善と悪。相反する力であれど、我には双方が必要だ。真の平和をもたらすには、圧倒的な破壊が存在せねばならぬ……!」ホシノの目が一斉に開かれ、狂気に満ちた輝きを放つ。「――『光と闇の破壊』!!」


杖の巨大なアクアマリンの宝珠が狂ったように明滅し始めた。目を眩ませるほどの白光を放ったかと思えば、次の瞬間にはあらゆる光を吸収し、ブラックホールのように黒く染まる。そのサイクルが加速していく。


ホシノは一閃の動作で杖を振り下ろした。


「これに耐えられるか試してみろ、人間が!」


ライデンの全身の警報が鳴り響いた。研ぎ澄まされた感覚が、空から死が降り注ぐと叫んでいる。


「くそっ、隠れなきゃ危ねぇ!」叫びながら、岩の陰に身を隠すべく全力で走った。


杖の先から、純白と漆黒の間で脈打つ極小の球体が放たれた。ゆっくりと漂うように降下し、巨大な岩柱の中ド真ん中の高度で静止する。


その瞬間、小さな球体が眩い白光を解き放った。まるでコロシアム内部に第二の太陽が誕生したかのようだった。


――ドカァァァンッ!!


爆発は無音に近く、しかし視覚的には黙示録的な光景だった。眩い光はすぐさま完全なる漆黒の衝撃波に呑み込まれる。爆発の半径に触れたものは、ただ存在を消滅させた。頑丈な石の山々も、黒い波に触れた瞬間に宇宙の塵となって崩壊していく。完全なる無への帰還。


破壊が広がったのと同じ速さで、球体は自ら収縮して空気の中に消え去り、息苦しい霧をも持ち去った。


ホシノは抑えきれない震えとともに腕を垂らした。鼻と口からの出血が再び激しさを増す。


(このままじゃ……魔力が底をつく……呪文の維持時間が足りなかった……)今にも意識を失いそうな感覚に襲われる。


舞台上は完全に開け、再び自然の太陽に照らし出されていた。その光景は悲惨だった。巨大な岩山のすべての上半分が、綺麗な切り口で地図から消し去られていたのだ。


「すっげぇ……こいつ、マジで次元が違うぜ」ライデンは隠れ場所から呟き、感嘆した。これほどの規模の魔法を目にするのは人生で初めてだった。


観客席の静寂は耳をつんざくほどだった。観客全員が息を呑んでいる。いま目撃した神がかった破壊の光景の前に、誰も一言も発することができなかった。


ホシノは崩壊した舞台の床へとゆっくり降下し、ライデンの数メートル手前に着地した。


「見ろ……俺の真の力を……」魔術師は弱々しくも誇らしげに言った。「俺はまだ戦える。お前に見せてやる、俺たち魔術師がどれほど強いかを!」


ライデンは隠れ場所から姿を現した。拳を握りしめ、恐怖を見せるどころか、その顔には巨大な笑顔が弾けていた。瞳は星のように輝き、純粋な戦闘の興奮で頬が上気している。


「うわぁ! 魔術師ってマジでスゲーな!」心からの言葉が飛び出した。


「は……?」ホシノの傲慢な顔が崩れ、純粋な困惑へと取って代わられた。「お前……俺のことを……すげぇって言ったのか?」まごまごしながら自分を指差す。人生で初めて――しかも人間の敵から――化け物扱いされずに魔法を褒められたのだ。


「おう! マジで凄えよ!」


「な……なんだよ急に……」ホシノは頭を激しく振り、威圧的な態度を取り戻そうとしたが、蒼白な頬には僅かな赤みが差していた。「まあいい! 戦いを続けるぞ、人間!」


「望むところだ、魔術師!」ライデンは膝を曲げ、戦闘姿勢を取った。


ホシノはボロボロになった黒いローブの残骸を引きちぎり、空中に投げ捨てた。地面に落ちる前に、生地は光る粉塵となって消滅する。


ライデンは目を丸くして感心した。


「自分の服まで作れるのか!?」


「ああ。魔力を完璧に成形すれば、物質を顕現させて服でも道具でも創り出せる」ホシノは少し高飛車な態度を取り戻して説明した。


「へぇー! めちゃくちゃ便利じゃん!」


瓦礫の上に風が吹き抜ける。二人の対戦相手は視線を交わし、薄く微笑んだ。次の激突が勝者を決めるのだと、二人は魂の奥底で悟っていた。

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