15話 警戒
市場の陽気な雰囲気は、ウサギとトラが混雑した茶屋のそばを通り過ぎた途端に冷え切った。不安そうな顔をした商人たちの集団が寄り添い、声を潜めていたが、その言葉には濃厚な恐怖が滲んでいた。
「おい、国境からの最新の噂を聞いたか?」一人の商人が、茶碗を握る手を震わせながら囁いた。「滅亡したセーヌ帝国の話だよ」
「あの廃墟の話か?」もう一人が鼻で笑ったが、その目は神経質に辺りをうかがっていた。「あそこには灰と記憶しかないはずだろう」
「そう思っていたんだ!」最初の商人が、髭がテーブルに触れるほど身を乗り出してヒスを起こした。「だが偵察隊が……見てしまったんだ。死体……王都が陥落した後に行方不明になった数千もの人々が、死んでなどいなかった。奴らは動いている。巨大なコロニーのように一糸乱れぬ隊列を組んで行進し、通り過ぎるあらゆる集落をイナゴの群れのように侵食している。大和幕府の西方領土では、すでに3つの辺境都市が焼き払われたそうだ」
ウサギとトラは、色とりどりの絹の反物の陰でピタリと足を止めた。トラがお団子の串を握りしめる力が強まり、木がパキッと音を立てて折れた。
「壊滅的だ」三番目の男が顔を青ざめさせて口を挟んだ。「将軍自らが『警戒ステージ1』を宣言したんだ。全州で強制的な徴兵が発令された。鋼の需要が異常だ……政府は入手可能なあらゆる刀、盾、槍を買い占めている」
商人たちは険しい表情で顔を見合わせた。「せめて、織田信長の供給元があってよかった。あの秘密の鍛冶場を持っているという噂のな? あそこの武器だけが防衛線を維持しているんだ。鋼はより鋭く、より強く、そしてなぜか完璧なバランスだと評判だ。幕府は彼の刻印があるものなら、言い値の2倍でも支払っているそうだよ」
ウサギとトラは、それ以上聞くのをやめた。息を呑むような思いでその場を離れた。彼らの心臓が、肋骨を打ち鳴らしていた。
自分たちの成功の重みが、今は絞首刑の縄のように感じられた。必死に逃げ出したはずの「暗黒の騎士」や「廃墟」は、単なる記憶ではなく、現実のものとして迫っていた。それどころか、ウサギがその魔力を注ぎ込んだ最高品質の武器こそが、今や大和の人々と、歩く死者の軍勢との間に立つ唯一の防壁となっていたのだ。
「トラ」ウサギは囁いた。市場の喧騒にかき消されそうな小さな声だった。「死体……あの時見た暗黒魔法の成れの果てよ。奴らは墓地をそのまま引き連れて来ているのね」
トラは姉を見つめた。灰色の目は冷たく鋭かった。彼らが楽しんでいたはずの「7日目の休息」は、一つの噂話で霧散してしまった。
「幕府が警戒ステージ1なら」トラは言った。その声は、訓練を受けていた商人の冷静で落ち着いたトーンに変わっていた。「需要は増えるなんてものじゃない。爆発するはずだ。織田が日没までに門を叩きに来るだろう」
二人は顔を見合わせた。一日の楽しさを彩っていた光は消え、冷徹な現実がそこに浮かび上がっていた。彼らはもはやただの鍛冶屋ではない。不死の戦争の瀬戸際にある国の、主要な兵器庫となってしまったのだ。
活気に満ちた市場が、ほんの一瞬前までは遊び場だったのに、今は檻のように感じられた。笑い声や客引きの叫び声が耳障りに響き、聞き耳を立てていた恐ろしいニュースに比べると空虚に聞こえた。
ウサギとトラは言葉も交わさず、群衆の中から退却し、同期した静かな動作で移動した。薄い木綿の着物は、腹の底にたまり始めた冷たい恐怖に対する防具としてはあまりにも頼りなく感じられた。
「奴らはここに来る」ウサギはスカートを握りしめ、指の関節を白くさせながら囁いた。彼女の中に眠るキメラ――普段は休止しているはずの部分――が、迫りくる影を感じ取り、落ち着きなく歩き回っていた。「暗黒の騎士、実験体……死者の軍勢。奴らはただの戦火の残滓じゃない。押し寄せる潮流なのよ」
トラは荒れた石壁に背を預け、灰色の目で路地に潜む影をスキャンした。念動力の感覚が鋭く研ぎ澄まされ、町の人々の怯えた振動、侵略に関する噂話で騒がしくなった会話、そしてパトロールをする侍たちの重々しい甲冑の音が伝わってきた。
「隠れているつもりだった」トラは、かろうじて息を吐くように呟いた。「この屋敷、庭、静寂……要塞を築いたつもりだった。でも、僕たちは嵐の通り道に建っているだけの小さな家にすぎなかったんだ」
二人の間に重苦しい沈黙が流れた。彼らはトラウマを平和な生活と引き換えるために、貴族の礼儀や柔らかい布団の快適さを学ぶために、どれほど懸命に働いてきたことか。ようやく安全だと感じ始めていたのに、成功そのものが彼らをこの紛争に縛り付けていたという現実に、鉄槌を打たれたような衝撃を受けた。幕府を支える武器を鍛造することで、彼らは国内で最も価値のある標的となってしまったのだ。
ウサギは自分の手を見つめた。昨日まで工房のすすにまみれ、執事に優しく洗ってもらったのと同じ手だ。
「織田は……もっとよこせと言うはずよ」ウサギは、突然鋭い明晰さを持って言った。「刀だけじゃ足りないわ。痛みを感じない軍勢を止めるものが必要になる。燃やすもの、押し潰すもの、腐った骨を叩いても壊れないものを作らなきゃ」
トラはゆっくりと頷いた。若々しい顔つきに、暗く危険な影がよぎった。それは、巣を守ろうとする虎の顔だった。「なら、隠れるのはやめだ、ウサギ。僕たちの平和な生活を壊すというのなら、奴らにとっての墓場になるくらい、要塞を強固にしてやる」
彼は姉の手を掴んだ。その握り方は堅く、安定していた。
「戻るぞ」トラは決断した。「執事には何も聞いていないと言おう。屋敷に戻って『休息の日』を終わらせるんだ。明日の朝、あの鍛冶場に入るときは、もう商人のための武器作りじゃない」
ウサギは彼を見つめた。心は決まっていた。恐怖は消えていないが、それはより硬く冷たいもの――決意へと変わっていた。
「なら、何を作るの?」彼女は尋ねた。
トラの目が細まり、念動力のオーラが風に消えゆくロウソクのように揺らめいた。「戦争のための兵器だ」
二人は路地から歩み出した。顔からは感情を消し去り、仮面を被ったような冷静さを装った。市場を抜け、お団子や絹の屋台を通り過ぎ、周囲で高まるパニックを無視した。彼らはもう、金持ちのふりをして遊ぶ子供ではなかった。怪物の正体を知る二人の生存者は、大和幕府で最も危険な存在になることを選んだのだ。
金の刻が薄れゆく中、屋敷に戻った彼らは、執事長がこの一週間叩き込んでくれた落ち着き払った表情の裏に、渦巻く不安を隠していた。壮大な門を幽霊のようにすり抜け、庭園の静かな夕暮れの雰囲気に完璧に溶け込んだ。
執事が縁側で彼らを出迎えた。その目は鋭く、観察的だった。二人の姿勢がわずかに強張り、庭の影をスキャンするような視線の動きに気づいていたが、彼は完璧なプロフェッショナルであり続けた。
「ご休憩の時間は、リフレッシュできましたかな、若旦那様、お嬢様?」彼は深くお辞儀をして尋ねた。
「とても……有益だったよ」トラは、いつもの子供らしい興奮を完全に消し去った、平坦な声で答えた。
「ええ」ウサギも同じように冷たいトーンで付け加えた。「明日の仕事の準備はできているわ」
その晩の夕食は、彼らの内なる動揺とは対照的なものだった。洗練された懐石料理――繊細な漆器に盛られた、旬の珍味が次々と運ばれてくる。カボチャの煮物、薄切りの漬物、そして体の芯から温まる風味豊かな出汁。彼らは執事が求める正確さで、流れるような熟練の動きで食事をとった。しかし、迫り来る戦争という冷酷な現実に比べれば、その味は遠く離れたものに感じられた。
お膳が下げられると、二人は風呂場へと退いた。杉の板張りの部屋は湯気で満たされ、お湯に浮かぶ砕いた柚子の皮の香りが立ち込めていた。
熱気の中でプライバシーが確保されると、ついに仮面が滑り落ちた。彼らは言葉を交わさなかった。その必要はなかった。ただ一緒に深い木桶に沈み込み、立ち上る湯気が彼らの緊張を覆い隠す静かなベールとして働いた。ウサギは壁を伝う結露の雫を見つめ、キメラとして研ぎ澄まされた感覚で、
屋敷の壁の外の風の変化を警戒していた。トラは目を閉じて座り、精神を集中させて部屋の周りに微小で知覚不可能な運動エネルギーの障壁を張った。これは、誰にも立ち聞きされないように彼が無意識のうちに身につけた習慣だった。




