56話 助ける
岩の天井がパキッと大きな音を立ててひび割れた。彼らの頭上に土埃が降り注いだ。
「何が起きてるんだ!?」レオンが暗闇の中で咳き込みながら叫んだ。
ラッキーは答えなかった。彼は小さな素手を高く掲げた。意識を外へ押し出し、念動力を使って重い岩を掴んだ。新しい壁を作ったわけではなく、ただ「見えない接着剤」として振る舞ったのだ。砕けようとする石をしっかりと繋ぎ止めた。彼の腕は震え、鼻から一滴の血が落ちたが、ドームのひび割れは止まった。
そして、ラッキーはさらに深くを見つめた。
彼は「千里眼」を使った。意識を二つに分け、「今この瞬間」と「正確に1分後の未来」を見たのだ。
現在。彼は仲間たちの姿を見た。ジャンヌが彼の肩を抱きしめている。ガルドが素手で岩を押し返している。レオンが小さな炎を灯して明かりを作っている。閉じ込められてはいるが、彼らは無事だった。
1分後の未来。激しい揺れは収まっていた。衝撃波は通り過ぎていた。しかし、土埃が晴れた時、街は消え失せていた。壮大なアリーナはただの砕けた岩の山と化していた。そして瓦礫の上を歩き、彼らの小さな石のドームに向かって真っ直ぐに近づいてくるのは、観覧席にいたあの純黒の影だった。それはまだ、笑っていた。
ラッキーはハッと息を呑み、現在へと引き戻された。頭が割れるように痛んだ。
「ラッキー!」ジャンヌが彼の鼻血を拭きながら言った。「大丈夫? 持ちこたえたの?」
「持ちこたえたよ」ラッキーは囁いた。両手を上げたまま、岩をしっかりと固定し続けた。「大きな波はもうすぐ終わる」
「今のは何だ?」暗闇の中でユーゴが唸った。「普通の爆弾じゃなかったぞ」
「うん」ラッキーは静かに言った。「アリーナは消えた。街は壊れちゃった」
ドームの中の全員が完全に押し黙った。レオンの小さな炎が揺らめいた。
「それに、何かが来てる」ラッキーは付け加え、灰色の目で硬い岩壁を見つめた。「あと60秒で、このドアのすぐ外に来る。準備して」
ジャンヌは何も質問しなかった。ただ剣を抜いた。土埃の舞う狭い暗闇の中で、Aクラスの面々は武器を抜き、ラッキーを囲むように円陣を組み、1分が過ぎるのを待った。
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その1分は、ひどく長く感じられた。
ラッキーは頭の中で数えた。58。59。60。
「すぐ外にいる」ラッキーが囁いた。
轟音が止んだ。地面の揺れも収まった。不気味なほど静かだった。
その時、大きな石壁が奇妙な音を立てた。**シューッ。**
「下がれ!」ガルドが叫んだ。
分厚い岩を突き抜けて、黒い手が押し込まれてきた。石を砕いたのではない。溶かしたのだ。硬い岩がドロドロの泥に変わり、床に滴り落ちた。
穴が大きくなった。黒い影が歩いて入ってきた。
背の高い男のように見えたが、純粋な漆黒だった。目も鼻もない。その顔にあるのは、多すぎる鋭い歯を剥き出しにした、不気味で巨大な笑顔だけだった。
「見ィつけた」影が言った。その声は、冷たい金属が擦れ合うような音だった。
レオンは待たなかった。「燃えろ!」
レオンは影の顔面に向かって巨大な火球を放った。炎が暗い部屋を眩く照らした。
しかし、影は飛び退くこともしなかった。炎はその顔に当たり、そして……ただ消滅した。小さなロウソクの火を吹き消すように。
レオンは後ずさった。目を大きく見開いている。「どうして?」
「おいしい」影が笑った。「私の番」
それは長くて黒い指をレオンに向けた。
ジャンヌの動きは速かった。レオンを突き飛ばし、重い剣を振り下ろした。**ガァンッ。** 剣が影の腕に直撃した。巨大な鉄の鐘を叩いたような音がした。剣は傷一つ付けることができなかった。
「強い女の子だね」影は言った。まだ笑っていた。
ラッキーはまだ意識で天井を支え続けていた。鼻血を流しながらも、感覚を使って影を感じ取った。それは巨大で、飢えた「穴」のように感じられた。
「そいつ、魔法を食べるんだ!」ラッキーは仲間たちに叫んだ。「火や風は使わないで! 物理的な攻撃で殴るんだ!」
ユーゴがニヤリと笑った。彼は太い指の関節を鳴らした。「物理攻撃なら大歓迎だぜ」
ユーゴが前に飛び出した。魔法は一切使わない。ただ渾身のストレートを影の顔面に叩き込んだ。
**ドゴォォン!**
ユーゴの巨大な拳が影の顔面に直撃した。凄まじく大きな鈍い音が響いた。
影は後方へ吹き飛んだ。岩の壁に激突して倒れ込んだ。
ユーゴは後ろに跳び退き、手を振った。「いてぇ! 鉄の塊を殴ったみたいだぞ!」
影はゆっくりと立ち上がった。首が奇妙な方向に曲がっていたが、すぐにカキッと元の位置に戻った。その不気味な大きな笑顔はまだそこにあった。
「失礼だね」影は言った。
「効いてる! 魔法はダメだけど、打撃は効くわ!」ジャンヌが叫んだ。「ガルド! 何か投げて!」
ガルドは土の魔法を使わなかった。ただしゃがみ込み、ひび割れた床から超重量の巨大な岩を拾い上げ、全力で投げつけた。
**ドォン!** 岩は影の腹に命中し、粉々に砕けた。影は数歩後ずさった。
ラッキーはまだ意識で天井を支えていた。鼻血は止まっていなかったが、彼は影をじっと見つめた。恐ろしい黒い物質の「奥」を見たのだ。
「見えた!」ラッキーが叫んだ。「胸の中! 小さな赤い玉がある。光るビー玉みたいだ! その赤い玉を壊して!」
影の笑顔が消えた。それはラッキーを見た。「見えすぎだよ、盲目の坊や」
影がラッキーに手を向けた。鋭く黒いスパイクが、矢のようにその指から放たれた。
「させるか!」レオンが叫んだ。今回、レオンは炎を使わなかった。ただ重い金属の剣を掴み、盾となるように飛び込んだ。**ガキンッ!** 黒いスパイクがレオンの剣で弾かれた。
「ユーゴ! 捕まえて!」ジャンヌが命じた。
ユーゴが咆哮した。怒れる熊のように突進し、その巨大な両腕で影に抱きついた。全力で締め上げる。影は逃れようと押し返してきたが、ユーゴはブーツを床に食い込ませ、しっかりと拘束した。
「ジャンヌ! 今だ!」ユーゴが叫んだ。彼の顔は赤く染まっていた。
ジャンヌが走った。派手な跳躍などしない。ただ尋常ではない速さで駆けた。両手で剣を真っ直ぐに構え、影の胸の真ん中を正確に狙いすました。
**ズバッ!**
彼女の剣が黒い胸の奥深くに突き刺さった。
**ピキッ。**
全員の耳に、ガラスが割れるような音が聞こえた。
影が凍りついた。その大きな笑顔がゆっくりと消え去っていく。胸の穴から、どろりとした黒い煙が吹き出し始めた。
「離して、ユーゴ!」ジャンヌが叫んだ。
ユーゴは手を放して後ろに跳んだ。影が震える。剣に手を伸ばそうとしたが、届かなかった。そして、ポンという静かな音とともに、影は床の上でドロドロの黒い粘液の水たまりへと溶けていった。
赤いビー玉は壊れた。影は消え去ったのだ。
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全員が荒い息を吐いていた。彼らは黒い水たまりを見つめた。
「よくやったね」ラッキーが疲れた声で言った。彼の手はまだ天井に向けられていた。「でも……まだ大きな問題があるんだ」
「何の問題だ?」レオンが顔の汗を拭いながら尋ねた。
ラッキーは生唾を飲み込んだ。「今のはそのうちの1体にすぎないよ。街は今、あいつらで溢れかえってる」
ラッキーはゆっくりと両手を下ろした。鼻血が止まった。重い石の天井は持ちこたえていた。
「ここから逃げなきゃ」ラッキーは囁いた。「街は壊れちゃった。外には黒い影が多すぎる。ここに残ったら、僕たち死んじゃう」
レオンは頷いた。彼は自分の光り輝く服を見た。今や土埃まみれだった。「王は冷酷だった。この街も冷酷だ。俺たちには奴らに義理立てする理由なんてない。ただ尖塔へ帰ろう」
「よし」ジャンヌが言った。彼女は全員を見回した。「魔法は禁止よ。影は魔法を食べる。足と筋肉だけを使うの。静かなネズミみたいにこっそり抜け出すわよ」
ガルドが石のドームに小さな穴を開けた。彼らは外を覗き込んだ。
それは恐ろしい光景だった。大きくて美しい白い建物は粉砕されていた。輝く道路は炎に包まれている。空は黒く汚い煙で満たされていた。どこを見渡しても、黒い怪物たちが歩き回り、食べるための魔法の匂いを嗅ぎつけていた。
彼らは穴から這い出した。姿勢を低く保った。
彼らは壊れた建物から建物へと移動した。黒い怪物が通り過ぎる時は息を殺し、岩の山の後ろに隠れた。まるで非常に危険な「かくれんぼ」をしているようだった。
ラッキーは目を閉じた。魔法は使わず、地面を感じ取った。彼は進むべき方向を指し示した。「左へ。右には怪物が2体いる」
彼らは左へ曲がり、割れたガラスや土の上を足音を立てずに歩いた。
その時、小さな音が聞こえた。




