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ざいあくひげき  作者: Balance
セーヌ帝国編
55/217

55話 爆発

叩いて、逃げる。叩いて、逃げる。


バジリスクは鈍くなっていた。重い尻尾は砂を引きずり、シューという音も小さくなっていた。レオンがダンスを踊るような軽やかで確実な動きを見せる一方、怪物は不器用で疲れ切った巨人のようだった。


観覧席の叫び声は静まった。貴族たちは固唾を飲んで見守っていた。もはや嘲笑はなかった。レオンが負けないことを理解していたからだ。獣が倒れるまで、彼は勝利を削り取っていく。


レオンは顔を拭い、呼吸を整えると、再び動き出した。次の攻撃への備えは万全だった。


ラッキーは硬い石のベンチに座り、頭を垂れていた。他の者にはただ退屈で盲目の奉公人にしか見えなかっただろう。だが彼の世界は暗闇ではない――常に変化する振動の地図そのものだった。色も匂いもない分、世界を感じ取る鋭さは苦痛なほど研ぎ澄まされていた。


彼は意識を伸ばし、千里眼を使ってアリーナをスキャンした。群衆を感じた――小さな太鼓のように打ち鳴らされる何千もの心拍。石に当たる太陽の熱、観覧席の木の軋み、そして砂の奥深くで今も脈打つ、あの重く金属的な「チッ、チッ、チッ」。


その時、彼は「隙間」を感じた。


群衆の真ん中にあった、冷たく空っぽの穴だ。


ラッキーは焦点を合わせ、歓声の騒音を突き抜けて意識を送り込んだ。見つけた。上層階の暗い隅っこに、明るい絹を纏った貴族たちに囲まれて、影のように感じられる「何か」が座っていた。


それは純粋な闇の存在だった。


人間に特有の心拍はない。命の温かさという振動もない。それは世界の裂け目のように感じられた。音が……ただ死に絶える場所。


ラッキーの背筋に悪寒が走った。その存在は微動だにしていなかったが、その表情がわかった。戦いを見物しているのではない。笑っていた。


まるで、瓶の中に閉じ込められた虫を眺める者のように。


ラッキーの膝に力がこもった。バジリスクとの戦いはメインイベントではない。あれは「おとり」だったのだ。あの黒い何かが狙っているのはレオンではない。地面だった。


「戦いを見てるんじゃない」ラッキーはジャンヌにすら聞こえないほど小さく囁いた。「地面が割れるのを待っているんだ」


その存在が動いた。一瞬だけ、ラッキーはそれが自分を見つめているのを感じた。アリーナの隅でただ座っている盲目の奉公人が、こちらを見返していると知っていたのだ。


ラッキーは視線を逸らさなかったが、心臓が肋骨を打ち始めた。観覧席の黒い笑みが深くなる。砂の下の機械が食事を終えるのを待っている。機械がすべてを飲み込んだ時、アリーナの床が開き、すべてを呑み込むのだ。


ラッキーはジャンヌの袖を掴んだ。指先が氷のように冷たかった。


「ジャンヌ」彼は息を呑んだ。声はかろうじて出る程度の震え声だった。「上を見て。左の上の方。影が見える?」


バジリスクが最後の一息を吐き出し、重い体を砂に投げ出して塵の雲を巻き上げた。群衆が熱狂したが、ラッキーにはその歓声が聞こえなかった。


彼の意識は、強引に未来へ飛ばされていた。


そこにはアリーナはなかった。ただ、白く、熱く、あり得ない何かが光り輝くのが見えた。宮殿ではない。街でもない。地平線を引き裂くような光の柱だ。衝撃波が現実の壁となって彼の視界を打ち、存在のすべてを揺さぶった。


ドォォォォン!!


轟音は数秒後に届いた。地響きを伴う、腹の底に響くような咆哮。それはアリーナの中ではない。ずっと遠く、遥か遠くで起きたものだ。だがその衝撃波はスタジアムを吹き抜け、巨大な石壁を呻かせた。


ラッキーは喘ぎ、現実へと引き戻される衝撃に身体をよじった。視界が回転する。アリーナが、嵐の海に浮かぶ船のように揺れていた。


地面が……街だけじゃない。世界が割れているんだ。


彼は心臓を爆走させながら立ち上がろうとした。レオンに教えなければならない。教官に告げなければ。


「レオン! 逃げなきゃ! 今すぐ!」ラッキーは叫んだ。声が裏返った。周りの貴族の視線などどうでもよかった。勝利の儀式の最中に叫ぶ奉公人など狂人だと思われただろう。衛兵が歩み寄り、腰の剣に手をかけた。「黙れ、小僧! 場を乱すな!」


「違う、聞いてくれ!」ラッキーはアリーナの中央に向かって叫んだが、レオンはすでに勝ち誇った笑顔で観客席に手を振りながら、廊下へと歩き出していた。誰も聞いていない。彼らにとっては、遠くの爆発音に過ぎないのだ。死んだトカゲのために歓声を上げるのに忙しかった。


ラッキーの手が震え始めた。止まらない。観覧席の黒い存在を探したが、もう影は消えていた。衝撃波が走った瞬間に消えたのだ。


彼は震え、引き裂かれた呼吸を繰り返した。逃げ場がない。皆を説得できない。話せばすべてが露見する。しかし、このまま留まれば皆死ぬ。


彼はあまりの勢いで立ち上がり、転びかけた。「Aクラス! 私についてきて! 今すぐ!」


「ラッキー、座りなさい!」ジャンヌが鋭く嘶き、彼の腕を掴んだ。彼女は彼を石のベンチに引き戻した。


「皆、聞いてくれないんだ、ジャンヌ!」ラッキーは叫んだ。その声は震え、見えない危機を予知した恐怖が全身を振動させていた。


ジャンヌは彼を見た。彼の額には汗が滲み、瞳はまだ到達していない脅威を探して彷徨っていた。彼女は彼の手元を見た。真っ白になるほど固く握られ、震えが止まらない手。


彼女は「大丈夫?」とは聞かなかった。大丈夫ではないと知っていたからだ。


ジャンヌは彼の手を掴み、自分の膝の上に引き寄せて、自分の両手で包み込んだ。その触れ心地は、確固として、揺るぎなく、温かかった。


「ねえ」彼女は低く、真剣な声で言った。「私を見て。私だけを見て」


ラッキーは彼女を見た。灰色の瞳は大きく見開き、道を見失っていた。


「顔色がひどいわ」ジャンヌは囁き、青い瞳で彼の顔を探った。「震えてる。何があったの? 何を見たの?」


「時間がないんだ! お願い、逃げなきゃ!」ラッキーの声は高く鋭く、言葉にできない幻影の力で全身が震えていた。


ジャンヌは二度と尋ねなかった。彼女は立ち上がった。その表情は、鋼のように冷徹な権威の仮面に変わっていた。彼女はもうただの生徒ではなかった。世界が崩壊する時、Aクラスの全員が頼りにする、あの少女だった。


「Aクラス! 移動する! 今すぐ!」ジャンヌは絶叫した。歓声を突き抜ける、鞭のような号令だった。


分隊は迷わなかった。王や貴族のことなど知ったことではない。彼らはジャンヌの顔を見て、ラッキーの恐怖を見た。彼らはベンチから飛び起き、VVIPエリアを見捨ててトンネルへと駆け出した。


彼らは通路を駆け抜け、衛兵の怒号を無視して、アリーナの床へと繋がる大石廊へと飛び出した。


レオニダスがそこにいた。勝利の余韻に浸りながら、誇らしげな笑みを浮かべて彼らに歩み寄っていた。


「ジャンヌ? 一体何が――」


「ガルド! 壁を! 今すぐ!」ラッキーが叫んだ。秘密など知ったことではなかった。


ガルドはラッキーの声に宿るパニックを疑わなかった。彼は両掌を床に叩きつけた。彼らの足元の石がうめき、巨大で分厚い花崗岩の板が地面から噴出し、廊下の背後を封鎖した。


ドォォォォン!!


廊下の壁が激しく揺れ、天井から砂埃が雨のように降ってきた。先ほどの爆発音ではない。王都に到達した衝撃波だ。


足元の床が跳ねた。ガルドが召喚した石は、トンネルを駆け抜ける空気圧に耐えようと軋み、十箇所もひび割れた。


ラッキーは膝をつき、震える石に両手を押し付けた。


「来たんだ」ラッキーは囁いた。その目は大きく見開かれ、何も映していなかった。「檻が、壊れたんだ」

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