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ざいあくひげき  作者: Balance
セーヌ帝国編
21/220

21話 更生

回復薬のトレイを持って入ってきたばかりのエララ教授は、その場でピタリと立ち止まった。ガラスの小瓶が手から滑り落ち、床で派手に砕け散る。彼はほとんど全力疾走でラッキーのそばに駆け寄り、ポケットから繊細に光るモノクル(片眼鏡)を取り出して、ラッキーの目の奥にある魔法回路をスキャンした。


長い1分間、部屋に響くのはスキャナーの静かな作動音だけだった。


「これは……視神経の魔法的過負荷マジックオーバーロードだ」ついにエララが囁いた。彼の手は震え、その顔は深く重い悲しみに打ちひしがれていた。「ランクDの千里眼の能力は、脳に計り知れない負担をかける。それを絶対的な最大限界まで継続的に使い続けること……6歳にして、生死を分ける戦争の中で数十のタイムラインを処理するよう強制することなど……」


エララはスキャナーを下ろした。彼はラッキーの目を見ることができなかった。


「彼の視神経は、未来という圧倒的な情報量を処理しようとして、自らを永久に焼き切ってしまったのだ」


ジャンヌは両手で口を覆い、喉から詰まったような嗚咽を漏らした。「教授、それって……ラッキーはずっとこのままってこと? もう二度と色が見えないの?」


エララは痛ましいほど長い沈黙の後、破壊的なため息をついた。


「生物学的に言えば、彼の目の中にある錐体細胞が、彼自身の魔力によって完全に焼き尽くされてしまったのだ。色素に反応する器官が、もはや存在しない」エララは静かに言い、ラッキーの肩に優しく手を置いた。「これこそが……千里眼の限界を超えたことに対して、支払われなければならない代償なのだよ」


ラッキーは黙り込んだ。彼は自分の手のひらを見つめた。世界から色は失われてしまったが、彼の内側で脈打つ念動エネルギーの温かい流れはまだ感じることができた。皮肉なことに、ほんのわずかなエネルギーを流そうとしただけで、正常な視力を持っていた時よりも遥かに鮮明に、部屋の中の魔力の流れを見ることができることに気がついた。


「泣かないで、お姉ちゃん」ラッキーは胸が締め付けられるような思いをしながらも、優しく微笑みを作って静かに言った。彼は手を伸ばし、今や灰色になったジャンヌの頬を伝う涙を拭った。「僕にはまだ、お姉ちゃんが見えるよ。友達も見える。ただ……世界が少し、シンプルになっただけさ」


自分のベッドから黙って聞いていたローランドは、毛布の下で拳をきつく握りしめた。重く息の詰まるような罪悪感が彼を突き刺した。ラッキーが色を見る能力を失ったのは、彼が自分たちを導くことを選んだからだ。ヴォイド・センチネルによって誰一人として殺されないように、彼が自身を絶対的な限界の淵まで追い込んだからなのだ。


「先生」ラッキーの声が重い沈黙を破った。「色が見えなくても、僕はまだ訓練を続けてもいいですか? 目が違ってしまったからって、お荷物にはなりたくないんです」


サイラスは、計り知れない誇りと深い悲しみが入り混じった、読み取れない表情で愛弟子を見た。彼は手を伸ばし、ラッキーの肩に手を置いた。その感触は驚くほど優しかった。


「色のない世界が、お前を弱くすることはない、ラッキー。むしろ、色彩豊かな世界の視覚的気を散らすものから解放されたことで、お前の目は、敵の動きや殺気に対して無限に鋭くなるだろう」サイラスは低く、揺るぎない声で言った。「お前はまだ1年Aクラスのリーダーだ。そして明日から、俺はお前に視覚で戦う方法ではなく、エネルギーの『感覚フィール』と『反響エコー』で戦う方法を叩き込んでやる」


ラッキーは力強く頷いた。虹は彼にとって神話以外の何物でもなくなってしまったが、胸の中で燃える決意は、以前よりも鮮やかさを増していた。この新しい灰色の世界で、友達を守るための最も明るい光にならなければならないと、彼はわかっていたのだ。


しかし、遥か遠く、くすぶる学園の時計塔の廃墟の中で、黒いマントを着た人影がしゃがみ込み、砕け散った次元標のギザギザの水晶の欠片を拾い上げた。


影に包まれたその人物は、医務室の明かりの灯る窓へとゆっくりと視線を向けた。


「これを俺の挨拶だと受け取るがいい」その人物はかすれた、反響する声で囁き、暗い破片を細かい粉末へと握りつぶした。「本当のゲームは、まだ始まったばかりだ」


医務室の空気はゆっくりと落ち着きを取り戻していったが、事態の重い現実は全員の肩に重くのしかかっていた。ラッキーは慎重にベッドから抜け出そうとした。裸足が床に触れた瞬間、奇妙な感覚が彼を洗い流した。タイルの色は見えなかったが、魔法の結界が自己修復していく建物の基礎からの、リズミカルなエネルギーの「脈動」がはっきりと見えたのだ。


「ラッキー、無理しないで」ジャンヌはすぐに弟の腕を掴んだ。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ただ……不思議な感じがするだけ」ラッキーは窓に向かってゆっくりと歩いた。「もう夜空の青さは見えないけど、空中に残っている次元エネルギーの細い糸が見えるよ。灰色のキャンバスに浮かぶ、光る銀色の糸みたいだ」


エララ教授が一歩近づき、震える手でラッキーの観察を書き留めた。「これは悲劇的であると同時に、奇跡的でもある。色彩感覚を失ったことで、君の脳は視神経の全容量を『魔力スペクトル』に強制的に迂回させたようだ。君はもう、世界を物理的な物質として見ていないんだよ、ラッキー。君は世界を、編み込まれたエネルギーのタペストリーとして見ているんだ」


ローランドが自分のベッドから立ち上がり、少しおぼつかない足取りで歩いてきた。彼はラッキーの前に立ち、そのオッドアイの瞳を深く見つめ込んだ。その瞳は今や、濁った膜が完全に洗い流されたかのように、驚くほど澄み切っていた。


「聞いてくれ、ラッキー」ローランドの声は真剣そのもので、いつもの貴族的な傲慢さは完全に削ぎ落とされていた。「君は、僕たち全員が呼吸を続けられるようにするために、自分の『色』を失った。このローランド・フォン・ヴァレリウス、君のその犠牲を絶対に無駄にはしない。もし君が色を見られないというのなら、僕が、君の見えないものを見る『目』になろう。そして、僕が君を完全に超えるその日まで、君の絶対的な『盾』となることを誓う」


セリーナ、ガルド、そして他の生徒たちも次々とベッドから起き上がった。体はまだ包帯で巻かれていたが、彼らはラッキーを囲むように固い円陣を作った。


「私たちは、あなたと共に立つわ」セリーナが静かに言った。その目には揺るぎない忠誠心が輝いていた。


---


**1週間後……**


クローヴィス学園はゆっくりと復興に向かっていたが、次元崩壊の傷跡はまだ痛々しく残っていた。ラッキーは今、サイラスから贈られた滑らかで短い木の杖をついて歩いていた。完全に目が見えないからではない。過敏になった視神経に絶えず負担をかけることなく、物理的な距離をマッピングするための補助としてだ。


新しく片付けられたメインの中庭で、サイラスが彼らを待ち受けていた。


「今日が、侵略以来初めての訓練だ」サイラスが吠えた。「ラッキー、前へ出ろ!」


ラッキーは前に出た。彼の世界は、静寂な灰色のキャンパスだった。しかし、ほんの少しのエネルギーを目に集中させると、彼にはサイラス先生が傷だらけの男には見えなかった。そこには、超高密度に燃え盛る運動エネルギーの巨大な焚き火が見えた。


「お前はランクDに到達し、『千里眼』を覚醒させた。小石をキャッチする訓練など、もうお前には無意味だ」サイラスは、空中に浮遊する金属球がいくつか入った黒い箱を取り出した。「こいつらは『虚無のドローン(ヴォイド・ドローン)』だ。物理的な速度だけでなく、殺気に反応して動く」


「新しい目を使え。物理世界で球体がどこにあるかを見るんじゃない。お前の灰色の現実の中で、『暗闇』がどこを狙ってくるかを見極めろ」サイラスは命じた。


ラッキーは1秒間目を閉じ、そしてパッと目を開いた。彼の瞳が眩い青い光を放って燃え上がる。


【千里眼:5秒先】


ラッキーの視覚の中で、金属球の透明な幻影が彼の肩や脚に激しく激突した。現実世界で実際の球体が動くのを待つことなく、ラッキーは先回りして両手を上げた。


**ピタッ! ピタッ! ピタッ!**


3つの金属球が、ラッキーの肌に触れるちょうど2インチ手前で、念動力によって空中に完全に固定された。彼の動きは恐ろしいほど効率的で、無駄な動きが一切なかった。


「信じられない……」サイドラインからミアが呟いた。「ドローンが発射される前に動いたわ」


しかし、訓練の最中、ラッキーは突然フリーズした。彼の視線が、新しく修復された学園の門へと素早く向けられる。色覚を失った彼の視界の中で、根本的に『存在してはならないもの』が見えたのだ。


背の高い男がそこに立っていた。常人の目には、その男は豪華な紫色か金色のマントを着ているように見えたかもしれない。しかしラッキーの目には、その男は『歩くブラックホール』だった。エネルギーも、魔力も、生命力もない。周囲の灰色の光を積極的に飲み込む、純粋で息が詰まるような絶対的な暗闇だった。


「先生……」ラッキーの喉が急に乾き、囁いた。「門のところに、誰かいます」


サイラスは振り返り、眉をひそめた。「誰もいないぞ、ラッキー。門は魔法の歩哨によって厳重に警備されているし、警報も鳴っていない」


ラッキーは激しく首を横に振った。「そこにいます! 僕を見てる! あの人……エネルギーのスペクトルにさえ、何の色もないんです!」


パニックが高まる中、ラッキーは未だ癒えきっていない体を無視し、強制的に千里眼で1分先の未来を覗き込んだ。即座に鼻から熱い血が滴り落ちる。


【ビジョン:1分先】


男が手を振るのが見えた……そして突然、中庭にいる生徒全員が意識を失って倒れ、ラッキー一人だけが残された。男は囁く。『またすぐに会おう』と。

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