17話 赤月の祭
ラッキーは鋼の悪魔の仮面を下にずらし、首元に緩くぶら下げた。彼の視線は即座に部屋中を巡り、隅々や天井に隠し監視機構や罠がないか確認した。部屋の安全を確認すると、彼の視線は眼下で明るく照らされた競売舞台へと固定された。
彼から放たれる凄絶な父親としての怒りが再び全開となり、豪華な部屋の空気を冷たく凍りつかせた。
「VIPアクセスのおかげで高所(優位)を取れたな」ガラススクリーンのすぐ目の前に歩み寄り、ラッキーが冷徹に分析した。彼はバルコニーの欄干に巨大な手を置き、舞台の脇を固める重装甲のシンジケート執行者たちを視線で走査した。「警備の交代サイクルも、すべての出口も一目瞭然だ。双子が舞台に引きずり出された時、群衆を押し分けて行く必要はない。ここから一気に飛び降りればいい」
小さな精霊の少女は狐の仮面を額の上に押し上げ、白い髪の上に載せた。彼女はダンテの隣に歩み寄り、小さな手をガラスに押し当てて、巨大な大洞窟を見下ろした。
「血の取引が始まるわ」眼下の舞台のまばゆい光を光る金色の瞳に反射させ、精霊が静かに鈴の音を響かせた。「『地下都市の主』はすでにこの館の中にいる。岩盤の中に眠る竜たちが、とても、とても怒っているわ」
「結構なことだ」殺気を込めて声を震わせ、ラッキーが低く言った。彼は鋼がスムーズに抜けるか確かめるように、双剣の片方を鞘から一インチほど引き抜いた。「そいつらに、お仲間が増えることになるんだからな」
巨洞を包んでいた明かりが突如として薄ぐらみ、階下にひしめく何千もの仮面の買い手たちは、息をのむような期待に満ちた暗闇へと叩き落とされた。心臓の鼓動ひとつ分の間の後、深紅と金の鮮烈なスポットライトが、磨き上げられた石の舞台の中央を照らし出した。
舞台裏の影から一人の人影が光の中へと踏み出し、『竜の心臓』に集うすべての者の視線を残らず奪い去った。
息をのむほど妖艶な女性だった。成熟した危険な色気を撒き散らし、巨大な空間を一瞬で己の空気で満たした。背中が大きく開いた深紅の絹のドレスは身体のラインに吸い付くようにフィットし、深く大胆なスリットからは、繊細な金の蛇の刺青が絡みつく陶器のような脚が覗いていた。流れるような黒髪は殺傷力のありそうな翡翠の髪飾りで優雅に結い上げられ、黒レースの繊細なハーフマスクが瞳を覆うことで、血のように赤い唇と鋭い顎のラインをより一層際立たせていた。
彼女は、己の巣窟で完全に寛ぐ頂点捕食者特有の、静かで計算された足取りで舞台の中央へと歩み寄った。
彼女が口を開くと、その声は叫び声ではなく、魔術的に増幅されて広大な洞窟の隅々まで易々と響き渡った。滑らかで官能的、そして暗いカリスマ性を滴らせた声だった。
「紳士淑女の皆様」彼女は唇を緩め、美しく魅惑的な笑みを浮かべながら甘く囁いた。「『赤月の祭』へようこそ。祭典を祝し、まずはオークションから始めましょう。私は『評議会の目』。今宵の宴のホストを務めさせていただきます」
彼女はその肩書をしばしば歓声の中に漂わせ、眼下の群衆から波のように押し寄せる崇敬のざわめきを全身で受け止めた。そして金箔の施された装飾扇子を「シャッ」と鋭い音を立てて開くと、鎖骨のあたりに優雅に添えた。
「それでは、最初の『商品』をご覧いただきましょう」
VIPスイート内の空気は、階下を支配する感嘆とは完全に無縁だった。
ラッキーはガラスの前に仁王立ちし、巨大な手でバルコニーの欄干を押し潰さんばかりに握りしめていた。エンチャントされた木材が、その圧倒的な圧力に悲鳴を上げてミシミシと軋んだ。彼の視線は『評議会の目』に釘付けとなり、彼女の色香など一切通用しなかった。彼の耳に届いたのは、ただ一つの言葉――**『商品』**。
「あの女が俺の子供たちを『商品』なんて呼びやがったら」ラッキーは低く唸った。その声は恐ろしいほどに冷ややかで、逃げ場のない死の囁きだった。「下に飛び降りて、あの喉から舌を引き抜いてやる」
ダンテは磁器の仮面を頭の上に載せ、彼の隣でガラスに身を預けていた。彼はホストを凝視し、戦闘本能で彼女の微細な動きを即座にプロファイリングしていた。
「気をつけろよ、ボス」ダンテは目を細め、低く呟いた。「あいつらは単に見た目が美しいからって理由だけで、あの女をあの舞台に立たせてるわけじゃない。『評議会の目』なんて肩書なら、ただの競売人じゃないぞ。シンジケートの最高幹部クラスだ。舞台の周りにいる精鋭警備の角度を見ろ……単に群衆から舞台を守ってるだけじゃない。あいつの指示を直接受ける位置についている。かなりの大物だ」
小さな精霊の少女は欄干の上から顔を出し、小さな手を顎に当てて覗き込んでいた。彼女は光る金色の瞳を瞬かせ、舞台の上の女性の物理的な艶やかさを跳ね返して、その『エネルギー』をまっすぐに見透かした。
「彼女の魂はとても黒いわ、背の高い人」精霊は静かに鈴の音を響かせた。その氷の声には太古の嫌悪が滲んでいた。「彼女の糸は血で染まっている。たくさんの生命の火花を売ってきたのね」
ラッキーの顎が固く噛み締められた。重装甲の衛兵たちが、分厚い黒いシートで完全に覆われた巨大な鉄格子の檻を舞台中央へと押し出してくるのを、彼は微動だにせず見つめた。
「ショーを始めさせろ」ラッキーは鋼の悪魔の仮面を再び顔の上に引き下げ、表情を影の中に完全に隠しながら冷たく言い放った。「俺たちは機を待つ。双子があの舞台に引きずり出された瞬間、オークションは終了だ。そして『評議会の目』が最初の犠牲者になる」
分厚い黒いシートが演出たっぷりに引き剥がされ、磨かれた石の舞台の上に崩れ落ちた。
階下の群衆から低く卑しい歓声が湧き上がったが、VIPスイートの中では一瞬にしてすべての空気が吸い尽くされた。
錆びついた鉄格子の檻の中、薄く粗末な毛皮の上に身を寄せ合っていたのは、二人の小さな赤ん坊だった。高いバルコニーからでも、彼らの繊細で特徴的な獣の姿は一目瞭然だった――柔らかくピクピクと動く小さな獣耳と、自らを護るように丸まった小さな尻尾。二人は震え、苛烈な深紅のスポットライトに大きな怯えた目をしばたたかせていた。
**サクラヅキ・ヒノラ**と**サクラヅキ・ヨウカ**。
グランドフィナーレ。『赤月の祭』の目玉中の目玉。飢えた群衆を完全な狂乱へと叩き落とすため、あえて『最初の一品』として引きずり出されたのだ。
ドクン、ドクン。
VIPスイートの中に、突如として耳を聾するような音が響き渡った。外の太鼓の音ではない。ラッキーの**心臓の跳動音**だった。
身体の生理現象の変化は一瞬にして、かつ壊滅的だった。彼の心拍数は平静時の状態から**一気に200 bpmへと跳ね上がった**。密閉されたバルコニー内の温度が超絶的な熱量で急上昇し、豪華で涼やかだった空気は一瞬にして息の詰まる灼熱の炉へと変貌した。手焙で燃えていた無煙の青い炎は、彼の放つ圧倒的な殺気の重圧によって酸素を完全に奪われ、消え失せた。
「美しいでしょう?」静寂が支配する会場へ、『評議会の目』は金箔の扇子で鉄格子をコンコンと叩きながら甘く囁いた。「私たちの『最初の商品』です。希少で際立った獣の特徴を持つ、双子の赤ん坊のセットになります」
**250 bpm。**
バルコニーの欄干を握りしめていたラッキーの手が、エンチャントされたマホガニーの木材を根元から粉砕し、木粉へと変えた。悪魔の鋼の仮面が彼の表情を隠していたが、筋肉へと沸き立つ血が急速に送り込まれ、首から腕にかけての肌が恐ろしい深紅へと染まり上がっていた。
「この素晴らしい獣の特徴をご覧ください」競売人は震える赤ん坊たちを優雅に指さしながら滑らかに続けた。彼女は檻の周りをゆっくりと歩き、計算し尽くされた強欲さを声に滲ませた。「その小ささに惑わされてはいけません。この二人が放つマナは並外れています。正しく調教し、屈服させれば、将来間違いなく貴重な軍力となるでしょう。最高額を提示された主君のための、生きた兵器です」
**300 bpm。**
ラッキーの目の前にある重厚な一方向ガラスが、彼の存在そのものが放つ圧力によって、パキパキと鋭い音を立てて細かな蜘蛛の巣状の亀裂を生じさせ始めた。部屋の中の重力すら耐えがたいものとなった。小さな精霊の少女はかすかに悲鳴を上げ、ラッキーの魂から発せられる絶大な共鳴に圧倒され、震えながら後ずさりした。
ラッキーの手が砕けた欄干から離れ、腰の双剣の柄へと落ちた。もはや言葉はなかった。言葉の領域は通り越していた。彼の精神は白熱する盲目的な暴力の海と化していた。ガラスを粉砕し、舞台の中央へと降り立ち、あの洞窟の壁を『評議会の目』の血で塗りつぶしてやる。
彼が鋼を抜くより早く、ダンテが全身の体重をかけて父親の身体へと飛びついた。
「ボス、やめろ!」ダンテは息を詰まらせ、ラッキーの腕を力ずくで押さえつけようと必死に抗った。ダンテのブーツが分厚い絨毯を削り、父親の放つ不動の怒りの力に対して筋肉が悲鳴を上げた。「耐えろ! 舞台を見るんだ!」
ラッキーの輝く狂乱の瞳は競売人から離れず、息遣いは重く荒い熱気を帯びていた。
「今飛び降りたら、あいつがあの子たちを盾にできる距離にいるんだぞ!」怪物へと変貌しつつある男を理性に繋ぎ止めようと、ダンテ自身も心臓を激しく打ち鳴らしながら必死に叫んだ。「あいつの手は檻のすぐ横にある! 競売を始めるためにあいつが離れるまで待つんだ! 着地地点をクリアにしろ! たった5秒でいい、ボス! 5秒だけ耐えてくれ!」
眼下の舞台では、『評議会の目』が檻に背を向け、狂乱する群衆に向かって両腕を大きく広げた。
「入札を開始します!」彼女の声が巨洞に響き渡った。「純金50バーから! 50バーはおられませんか!?」
VIPスイートの息詰まる灼熱の中、ダンテはラッキーの腕の緊張が変化するのを感じた。それは怒りの減退ではなく、死を齎す限界まで凝縮された圧縮だった。盲目的で混沌とした怒りが、一瞬にして冷徹で精密な殺意へと集約された。
ラッキーはダンテの手を自分の腕からゆっくりと引き剥がした。鋼の仮面の後ろから響いたその声は、重低音の悪魔の掠れ声だった。
「ダンテ」
「……なんだ、ボス」投げナイフを手元に準備しながら、ダンテは息をのんだ。
「あの子を連れて出口を塞げ」双剣の柄を固く握りしめ、ラッキーは静かに命じた。彼は亀裂の入ったガラスから一歩引き、全身の筋肉を放たれる直前のバネのように固く緊張させた。
「この部屋から、一人たりとも生きて返さん」




