表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ざいあくひげき  作者: Balance
唐朝編
204/235

12話 料理

威勢のいい宣言とは裏腹に、まともで出来立ての温かい料理を作るには、客室の手焙(火鉢)の余熱だけではとても足りないのが現実だった。


ジャンヌは身支度をして立ち上がろうとしたが、重いオーク材のドアに向かって一歩を踏み出すより早く、ラッキーが割り込んだ。何の前触れもなく、彼は片腕を彼女の膝裏に、もう一方の腕を背中に滑らせ、軽々と抱き上げた。


「ラッキー」ジャンヌは溜息をついたが、自然と彼の首に腕を回し、肩に頭を預けた。「たった一階分下りるだけよ。普通に歩けるわ」


「階段は急だし、夜も遅い。それに君は四つ子を身ごもってるんだぞ」ラッキーはまったく悪びれる様子もなく答えた。彼はブーツの先で重いドアを押し開けた。「料理は君が担当だ。力仕事は俺に任せろ。いいな?」


ジャンヌはピンク色の瞳を呆れたように泳がせたが、柔らかく愛おしそうな笑みが彼女の本心を裏切っていた。「呆れるほど過保護ね。でも……分かったわ」


ダンテはドアがカチリと閉まり、穴があくほど自分を見つめてくる氷の精霊と二人きりにされながら、呆れと安堵の混ざった様子で首を振って二人を見送った。


ラッキーは薄暗いきしむ木製の階段を、妻を抱かかえたまま下りて行った。『とぐろを巻く蛇亭』のメイン酒場はついに客が引いていた。傭兵や商人たちはとっくに自分の部屋に下がるか、凍てつく夜の中へと千鳥足で出て行っていた。中央の炉の消えかけた光の脇で、眠そうに重い木製テーブルを拭いている小太りの宿主だけが残っていた。


ラッキーは丁寧な挨拶も、前置きの遠回しな頼み方も面倒くさがった。


「おい」ラッキーの低く擦れた声が静かな部屋を切り裂き、宿主を小さく跳ね上がらせた。ラッキーはバーカウンターの近くでジャンヌを優しく立たせた。「厨房を使わせてもらうぞ」


宿主は瞬きし、重武装した大男と、その隣に立つ気品ある妊婦を交互に見やった。「厨房だと? ああ、今夜の火はもう落としたんだ、旅の人。料理人も寝てて――」


ラッキーはコートの中に手を伸ばし、磨かれたバーカウンターの木の上にずっしりとした銀貨を一瞬で叩きつけた。


「料理人はいらん。鍋と火があればいい」世辞を完全に省略して、ラッキーは淡々と言い放った。「妻が料理をしたいんだ」


宿主は銀貨を見つめ、それからラッキーの譲らない表情へと視線を戻した。真夜中に銀貨を放り出す男と議論するのは頭痛の種になるだけだと、彼は賢明にも判断した。彼はカウンターから滑らかに銀貨を浚い取った。


「中華鍋は左の鉄ラックの上だ。包丁はまな板のところにある」奥の部屋へと続く分厚いカーテンへと顎を向けながら、宿主は言った。「食料庫には新鮮なネギとラード、米がある。ただ……頼むから俺の宿を焼き払わないでくれよ」


「燃やさせやしないさ」口元をニヤリと歪めながら、ラッキーは約束した。


ジャンヌは分厚い毛皮のマントを外し、ラッキーに預けると、チュニックの広い袖をたくし上げた。彼女の『指揮官』としての顔は、使命を帯びた母親特有の集中力と情熱的な決意へと完全に取って代わられていた。


「階段を見張っていて、ラッキー」すでに髪を後ろで結びながら、カーテンをくぐり抜けつつジャンヌが指示を出した。「十分であの子にきちんとした料理を作ってみせるわ」


『とぐろを巻く蛇亭』の厨房は静まり返り、香ばしい胡麻、生姜、そして古い薪の煙の残香が重く漂っていた。巨大な石の炉と、長年の使用で滑らかに磨り減った重い木製の調理台が鎮座する、素朴で実用的な空間だった。


二人の背後で分厚いカーテンが閉じられた瞬間、街の緊張感も、明日に迫ったオークションの危険も溶け去っていくようだった。温かく薄暗い光の中に、二人だけが取り残されていた。


ラッキーは即座に炉へと歩み寄った。頼まれるまでもなく鉄の火かき棒を手に取ると、埋められていた残り火を器用に起こし、新しい木炭を数片くべて優しく息を吹きかけ、鮮やかな炎を立ち上がらせた。そして普通の料理人なら両手を要するような巨大で重い鋳鉄製の中華鍋を片手で持ち上げ、火の上に完璧に据えた。


「火の準備ができたぞ」一歩下がり、親指ですすの汚れを拭いながら、ラッキーが低く呟いた。


「ありがとう」すでに調理台に就いていたジャンヌが柔らかく微笑んだ。


彼女は小ぶりのニンニク、新鮮なネギ、そして固めの豆腐を見つけ出していた。料理という日常的な作業をしていても、ジャンヌの身こなしは息をのむほど優雅だった。彼女は重い中華包丁を手に取ると、刻み音も鮮やかに、プロの料理人が涙するほどの恐ろしく完璧な精密さでニンニクとネギを細かく刻んでいった。


ラッキーは調理台に腰を預け、腕を組んで彼女の作業を見つめた。凛々しく侵しがたい『指揮官』の姿は消え、火の光の温かな輝きの中にあるのは、家族のために料理を作りながら穏やかな表情でかすかなメロディを口ずさむ、一人の愛しい妻だった。


「夕飯には霜を食べるって言い切った子に、ずいぶん本格的だな」温かい笑みを浮かべ、ラッキーが優しくからかった。


ジュウという心地よい音とともに、ジャンヌは香味野菜を炒める中華鍋へと投入した。ニンニクの豊かな香りが一瞬で狭い厨房を満たした。彼女は顔を上げずに木べらで手際よく具材を炒めた。


「あの子、『温もりに興味がある』と言っていたでしょう?」ジャンヌの声は柔らかかったが、心の底からの真心がこもっていた。「それに、とても小さく見えたわ、ラッキー。何世紀も生きた精霊だろうと関係ない。どんな子供であれ、凍てつく暗闇の中に一人で立たせておいていい理由にはならないわ」


ラッキーは低く笑い、彼女の背後に忍び寄った。彼女のお腹に配慮しながら腰に優しく腕を回し、彼女の頭頂部に顎を乗せた。「分かってるさ。それも俺が君を愛してやまない理由の一つだ。俺が止めなきゃ、大陸全体の子供を引き取っちゃいそうだな」


ジャンヌは一瞬、彼の確かな温もりに寄りかかり、静かな笑いを漏らした。「あなたが連れて帰って来さえしなければ、そんな必要もないのけれどね。それにしても、ラッキー……『未来の義理の娘』だなんて。容赦ないわね。可哀想にダンテなんて、床に穴を掘って埋まりたそうな顔をしていたわ」


「おいおい、息子に恥をかかせるのは父親としての神聖な義務だぞ」背中で胸を揺らしながら、ラッキーはニヤリと笑った。「それに、あいつの態度を見たろ? 終末の怪物や時を超える軍閥と戦っても瞬き一つしない奴が、光る少女一人に『魂がうるさい』と言われただけで完全にショートしたんだ。面白すぎるだろ」


「あまりからかいすぎるもんじゃないわ」中華鍋に醤油ベースの出汁と豆腐を注ぎ入れ、グツグツと煮立たせながらジャンヌは嗜めたが、その顔には笑みが浮かんでいた。「あの子は責任感が強すぎるのよ。きっと今頃、上の部屋で太古の氷の精霊をどうもてなすべきか必死に頭を抱えているわ」


「大丈夫さ。逞しく育つ」ラッキーはあっけらかんと言い放った。


彼はそっと手を動かし、彼女のお腹の膨らみの上に自分の大きな手のひらを優しく重ねた。まるでタイミングを合わせたかのように、指の下で微かな、しかし確かな胎動を感じ取った。彼は完全に動きを止め、息を呑み、からかうような軽口は純粋で静かな畏敬の念へと溶けていった。


ジャンヌもそれを感じ取っていた。彼女は自分の手を彼の上に重ね、指を絡め合わせながら、二人で鍋から立ち上る湯気を見つめた。


「今夜は元気だな」彼女の頭の横に口づけを落としながら、ラッキーが囁いた。


「父親が近くにいるのが分かっているのよ」愛おしそうに呟き、ジャンヌは彼の目を見つめられる程度に首を巡らせた。ふざけた会話は消え去り、二人の間の深く無言の絆に取って代わられた。「必ず取り戻しましょうね、ラッキー。アーニャとフィンの双子を。明日の夜、あの子たちを家に連れて帰るのよ」


「ああ、分かっている」ラッキーは誓いを込めた低音で応じた。彼は彼女を少し強く抱きしめ、猛烈に保護的な夫としての調子が声に戻っていた。「明日、あのオークションを跡形もなくぶち壊す。……だが今は」


彼は彼女の横から手を伸ばし、箸で鍋から熱々の豆腐を一きれ器用に摘み上げると、フーフーと息を吹きかけてから彼女の口元へ差し出した。


「……今はまず、新しい家族のための夕飯を仕上げよう」


ジャンヌは笑った。それは静かな厨房に響く、美しく晴れやかな声だった。彼女は一口受け取り、コンロの上でスープがグツグツと煮える音の中、彼の抱擁に身を寄せた。嵐が訪れる前の、完璧でささやかな平和の数時間をもう少しだけ味わいながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ