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ざいあくひげき  作者: Balance
唐朝編
201/220

9話 嫁

ラッキーの目は輝かんばかりで、深紅の皮膚は文字通り熱を放っていた。瞳孔は開かれ、絶対的な暴力以外の何も映していなかった。


「手を離せ、小僧」ラッキーは低く唸った。その声は非人間的な恐ろしい残響を伴って振動していた。


「断る」ダンテは激しく囁き返し、青あざができるほど強く握りしめた。彼は身を乗り出し、軽薄な態度を完全に捨て、絶望的かつ必死の制止の響きを込めて言った。「今その剣を抜けば、組織全体が俺たちに襲いかかる。何千人もの男と戦う羽目になるんだぞ。そして親父が戦っている間に、奴らは双子を移動させる。二人を失うことになるんだ!」


ラッキーの胸が激しく上下し、柄の上の手は依然として激しく震えていた。殺意は自身を解き放とうとする物理的な嵐だった。


「おふくろのことを考えろ!」怒りを上書きできる唯一の琴線に触れ、ダンテは訴えた。「あの部屋で寝ているアーニャとフィンのことを考えろ! 今夜戦争を始めれば、あの子たちの背中に標的を狙わせることになる! トークンは手に入った。双子の居場所も分かった。明日の夜、俺たちのやり方で叩き込み、地下墓地カタコンベごと焼き払うんだ。だが、今夜じゃない。息を吸え!」


おふくろ。ジャンヌ。四つ子。アーニャとフィン。


ラッキーの脳裏で、赤いノイズを突き抜けてその名前が響いた。蒼白で疲れ果てながらも、無事に帰ってくると自分を信じてくれたジャンヌの姿が、猛火に注がれた氷水のように作用した。


ラッキーは目を閉じた。彼は強制的に柄から手を離させた。


ゆっくりと、痛々しいほど苦痛を伴いながら、彼は自らの怪物的な身体機能を鎮圧させた。胸を破らんばかりだった心拍数は減速し始め――200、そして150まで下がり、やがてドクンドクンと重いリズムへと落ち着いた。恐ろしい深紅の紅潮は皮膚から消え去り、窒息しそうな殺意の圧力は霧散して、賭博場に再び空気が流れ始めた。


ダンテは荒い息を吐き、ラッキーの腕を放すと、不可視の幻影を完璧な状態へと復元させた。


「大丈夫か?」暴走の残滓がないかラッキーの顔を覗き込みながら、ダンテが静かに尋ねた。


ラッキーは目を開けた。狂気じみたタガの外れた怒りは消え、より冷酷で、より永続的な何かに取って代わられていた。それは処刑予定を確定させたばかりの処刑人の、静かで虚無的な眼差しだった。


「ああ、大丈夫だ」ラッキーは死んだような感情のない声で呟いた。彼はVIPカーテンに背を向け、分厚いコートを整えた。「家に帰るぞ。明日、ぶち壊すオークションがある」


賭博場の息詰まるような絢爛な熱気とは対照的に、凍てつく通りへと滑り出た瞬間に刺すような北風が二人を襲った。二人は局所的な錯覚を維持し、重なり合う竜鱗の屋根が落とす深い影へと滑らかに溶け込み、『象牙の牌九館』から速やかに離脱した。


二人の間の静寂は重く、ラッキーの暴走寸前の残余アドレナリンで未だ波打っていた。


「お前のおふくろに聞かれなくて良かったよ」突風の音に消されそうな低いダミ声で、ラッキーがようやく口を開いた。振り返ることもせず、その目は『とぐろを巻く蛇亭』へと続く道に固定されていた。「俺でさえ完全に正気を失いかけた。もしジャンヌが一緒に来ていたら、どれだけの死体の山ができていたか想像もつかん」


ダンテは笑いとも身震いともつかない息を吐き、暗闇の中でぎこちない笑みを浮かべた。


崩壊した未来から来たダンテは、ジャンヌが手加減を止めた時に何が起こるかを身をもって知っていた。彼は『指揮官』の怒りが持つ、真の恐ろしいスケールを理解していた。もしジャンヌが、あの組織のボスが我が子を『生の荷』などと呼ぶのを聞いていたら、単に武器を抜くだけでは済まなかっただろう。崖一面を砕き、『象牙の牌九館』とその中の全員を何千トンもの瓦礫の下に埋め尽くしていたはずだ。


「ああ」トレンチコートのポケット深くに手を押し込みながら、ダンテは呟いた。「トークンを盗まれるどころの騒ぎじゃ済まなかったな。VIPどもを天井からこびりついた肉片ごと削り落とすハメになってたぜ。双子が安全になるまで、あの会話の詳細は絶対に秘密にしておこう」


ラッキーは深く頷いた。明日の奪還作戦にジャンヌを集中させる必要があり、今夜の不完全な大虐殺で気を散らさせるわけにはいかなかった。


絢爛な絹地区を抜け、金色のシルク提灯は住宅街の暗い血赤色の紙提灯へと変わっていった。こちらの通りは遥かに静かで、凍てつく霜と古代の竜骨建築の影の中に完全に打ち捨てられていた。


突然、ダンテの足取りが乱れた。


意識して止まったわけではない。それは生の原始的な本能――頭蓋骨の底部を襲った突如たる鋭い刺すような予感であり、腕の毛を逆立たせた。荒廃した未来を生き延びる中で研ぎ澄まされた彼の強化された感覚が、暴力的にはじけ飛んだ。それはラッキーのような窒息するような殺意の圧力ではなく、空気中の奇妙で不自然な共鳴――精神的な異変サイキック・アノマリーだった。


「どうした、小僧?」数歩先で立ち止まり、即座に刃へ手を伸ばして屋根の上の伏兵を警戒しながらラッキーが尋ねた。


「待て」深く眉をひそめ、強い集中をみせながらダンテが囁いた。


彼はゆっくりと首を巡らせ、二つの巨大な商人倉庫の間に挟まれた、霜に塞がれた狭い路地の暗がりを視線で射抜いた。揺れる街灯からの深紅の光は暗闇をほとんど照らしていなかったが、それだけで充分だった。


路地の奥、およそ二十フィートほどの場所に、一人の少女が立っていた。


アーニャやフィンと変わらない年格好に見えたが、彼女のすべてが根本的な異常さを叫んでいた。北国の夜を生き延びるために必要な分厚い毛皮や羊毛に身を包んでおらず、代わりに刺すような風の中で静かに揺れる、シンプルで破れた絹のドレスを一着着ているだけだった。髪は完全な白――老齢の銀白色ではなく、漂白された骨のような、あからさまな純白であり、蒼白な顔の周りに不揃いなカーテンとなって垂れ下がっていた。


だが、ダンテをその場に釘付けにしたのは彼女の目だった。この距離からでも、彼女の瞳は赤い提灯の光を反射し――瞳孔の周囲に不自然で微かな金の輪を輝かせていた。


彼女は震えていなかった。泣いてもいなかった。凍てつく夜の静寂の中にただ立ち、ダンテとラッキーが立つ空間をまっすぐに見つめていた。


彼女は、彼らの不可視の錯覚イリュージョンをまっすぐに透かして見つめていた。


ダンテは顎を強張らせ、投げナイフを握りしめるために手をゆっくりとコートの中へと滑り込ませた。「ボス……」奇妙な少女から視線を外さずに、彼は呟いた。「親父にもあの子が見えてるって言ってくれ」


ラッキーはダンテの視線を追い、凍てつく路地に立つ奇妙な白髪の少女を分析しながら、一瞬だけ目を細めた。


筋肉にまとわりついていた致命的な緊張が一気に消え去った。彼の強化された感覚は、心音の不在と、彼女の小さな身体の周りに渦巻く極めて濃密なマナの集積を捉えていた。二人が展開していた局所的な錯覚イリュージョンが彼女にまったく通用しなかったのは、彼女が物理的な目ではなく、彼らの「エネルギー」そのものを見ていたからだった。


ラッキーの唇が歪み、百戦錬磨の獰猛な佇まいは、我が子の視線を捉えた父親特有のニヤニヤとした意地の悪いからかいへと一瞬で溶けていった。


「若い精霊エレメンタルに見えるな」腕を組み、霜に覆われた石壁に気楽にもたれかかりながら、ラッキーが低く呟いた。彼は横目で、心底面白そうにダンテを盗み見た。「だが、間違いなく俺たち二人の年齢を足したよりも年上だ。……ふむ、好みか?」


ダンテの首がガバッとラッキーの方へ向き、いつもの冷酷で皮肉屋な面 free は木端微塵に砕け散った。彼の顔から一瞬血の気が引き、次の瞬間には焦りと狼狽で真っ赤に染まった。「はあ!? 違う! いや、つまり――まだだ!」


口を滑らせた息子に対し、ラッキーの笑みは完璧な勝利のニヤリ顔へと広がり、その目は父親としての歓喜で爛々と輝いた。「なるほどな。つまり、これが未来の俺の義理の娘ってわけだ。知れてよかったよ」


「ボス、神に誓ってそんな意味じゃ――!」弁明するように両手を振り回しながら、ダンテは必死に冷静さを取り戻そうと言い淀んだ。


だが、小さな少女が彼らに向かって歩き始めたことで、彼の言葉は遮られた。

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