19話 銀月狼
しかし、安堵は束の間だった。岩山の頂上から、鉄皮熊よりも遥かに巨大な影が現れた。その体は引き締まっていたが信じられないほど筋肉質で、森の紫色の光の下で銀色の毛並みがきらめいている。『銀月狼』。人間の知覚を超えるスピードで悪名高い、ランクD+のモンスターだった。
「速すぎてロックオンできないわ!」セリーナが警告した。彼女の手にはすでに凍てつく霧が渦巻いている。
「あいつのスピードは僕に任せろ」ローランドが突然、ラッキーの前に立った。銀髪の王子はもはやラッキーを軽蔑の目では見ておらず、競争相手としての仲間意識を持った目で見ていた。「ラッキー、君の目を使え。あいつがどこに動くか正確に教えてくれれば、僕の風であいつの退路を断つ」
ラッキーはローランドの背中を見つめ、薄く微笑んだ。「1秒先……左の崖を蹴って、上から僕たちを奇襲してくる」
「了解だ」ローランドは莫大な風のエネルギーを両脚に集中させた。
**シュンッ!**
狼が銀色の残像へとブレた。しかし、それが崖に向かって跳躍するほんのわずかな時間の前に、ローランドはラッキーが示した正確な座標に向けて巨大な『風の鎌』をすでに放っていた。
狼は真っ二つにされるのを避けるため、空中で強制的にジャンプをキャンセルせざるを得なくなり、完全にバランスと勢いを失った。
「今だ! ジャンヌ、止めを刺せ!」ローランドが叫んだ。
ジャンヌは弾丸のように動き、内部強化を最大まで引き上げた。全く同時に、ラッキーはランクDの念動力を使用し、狼の上に巨大で押し潰すような重力圧力をかけ、獣を大地に2秒間縫い付けた。
**ズバァァァァッ!**
ジャンヌのエネルギー短剣が、完璧で残忍な一撃で狼の首を切り裂いた。銀色のモンスターは、模擬の魔法粒子へと溶けて消え去った。
森に静寂が戻った。彼らは2時間生き延びたのだ。ラッキーは倒れ込み、頭が耐え難いほど重く感じられたが、千里眼を繰り返し極限まで使うほど、エネルギーの器が安定していくのを感じていた。
ローランドが振り返り、ラッキーに手を差し伸べた。「悪くないな……1分先の未来しか見えないリーダーにしては」
ラッキーは疲れた笑い声を上げてローランドの手をとった。「やっと命令に従う方法を覚えた貴族にしては、悪くないよ」
森の外では、魔法の監視モニターを通して見ていたサイラスとアーサー校長が畏敬の念に打たれていた。
「見たか、サイラス?」アーサーは髭を撫でた。「ラッキーはランクアップしただけでなく、この学園で最もエゴの強い10人を、3時間足らずで団結させてしまったぞ」
サイラスはニヤリと笑い、傷だらけの目を誇らしげに輝かせた。「だからこそあいつを選んだんだ。破壊的な力なら誰でも持てるが、他人を自発的に従わせる力……それは本物のバケモノだけのものだ」
シミュレーションの最後の1時間は、はぐれたモンスターを組織的に掃討することに費やされた。3時間が経過し、ついに鉄の門が開いた時、10人の生徒たちはもはや貴族と平民というバラバラの集団として歩いて出てくることはなかった。彼らは「1年Aクラス」として、疲れ果て、傷だらけになりながらも、団結して歩み出た。ラッキーは先頭に立ち、激しく息を切らし、服は泥だらけだったが、その瞳には絶対的な敬意を集める戦術的な知恵が宿っていた。
しかし、彼らが学園の美しい中庭に足を踏み入れ、歓喜に沸こうとしたその瞬間、気温が急降下した。
それは自然な寒さではなかった。腕の産毛が逆立つような、息が詰まるような不自然な冷気だった。誰かが口を開く前に、数百万個のガラスの破片がこすれ合うような、この世界とは全く無縁の異音の金切り声が上空から響き渡った。
ラッキーは見上げた。澄み切った青い午後の空に亀裂が入っていた。巨大でギザギザの黒いひび割れが天に広がり、病的な、脈打つような紫色の光が漏れ出している。
そして、学園の非常ベルが金切り声を上げ始めた。それは訓練用の規則正しい鐘の音ではない。大混乱を告げる、耳をつんざくような『レッドアラート(最高警戒態勢)』のサイレンだった。
「全生徒、直ちに地下シェルターへ退避しろ!!」すでに炎を纏った杖を構えた教官が、彼らの横を猛ダッシュで通り過ぎながら叫んだ。「都市境界の『ゲート』が完全に崩壊した!!」
ラッキーは息を呑んだ。純粋な本能から、彼は千里眼を全開にし、たった30秒先の未来を見た。
そのビジョンは物理的な打撃のように彼を打ちのめした。空が完全に砕け散るのが見えた。学園の荘厳な時計塔が、黒い炎の流星の直撃を受けて粉砕されるのが見えた。そして、空間の裂け目から、異形の多肢を持つ『深淵』のモンスターどもが、イナゴの群れのように学園に降り注ぐのが見えた。
「これは……シミュレーションじゃない」ラッキーは囁き、その顔から全ての血の気が引いた。両足が突然、鉛のように重くなる。「侵略が、来たんだ」
他の生徒たちが彼の言葉を理解する前に、空が割れた。純粋で歪んだ重力の衝撃波がグラウンドに叩きつけられ、数人の生徒を吹き飛ばした。第一波の『アビス・クローラー』が寮に激突し、魔法が付与された石を濡れた紙のように引き裂くと、キャンパス中に悲鳴が巻き起こった。
「走れ! 闘技場の地下にある鋼鉄のシェルターへ、今すぐだ!」サイラスの声が混乱を切り裂いて轟き、ローランドとガルドの背中を物理的に前へと突き飛ばした。「生きたければ足を動かせ!!」
彼らはかろうじて間に合った。
シェルターの重い鋼鉄のドアがバタンと閉まり、ロックされ、1年Aクラスは薄暗い緊急通路の中に閉じ込められた。頭上では天井が激しく揺れている。爆発音、建物が崩壊する音、そして断末魔の悲鳴が、補強された壁をくぐり抜けてくぐもった音で聞こえてきた。
10人の子供たちは冷たい床に座り込み、喘ぎ、恐怖に震え、精魂尽き果てていた。彼らはたった今、3時間戦い抜いたばかりなのだ。エネルギーの蓄えは危険なほど少なくなっていた。フレイヤは静かに泣き、ローランドは震える自分の手を呆然と見つめていた。
突然、鋼鉄のドアが呻き声を上げた。外側から何か巨大なものが衝突したかのような、耳をつんざくような激突音が響く。金属が内側へたわみ、超高温の不吉な紫色に光り始めた。
「中に入ってこようとしてる」レオンは囁き、後ずさった。恐怖のあまり、彼の炎は弱々しくパチパチと音を立てていた。
ラッキーは背中を壁に押し付け、目をきつく閉じた。森で能力を使いすぎたせいで頭はすでにズキズキと痛んでいたが、このままここにいれば、檻の中で屠殺されるだけだと分かっていた。見なければならない。限界を超えて、目を酷使しなければ。
彼は千里眼を起動し、自分の意識をシェルターの外へ、頭上の学園のグラウンドへと強制的に押し出した。
痛み。焼け焦げるような、想像を絶する痛みが即座に目の奥を突き刺した。まるで誰かが脳に直接熱湯を注ぎ込んだかのようだった。鼻から血が絶え間なく滴り落ち、破れた襟を赤く染め始める。
「ラッキー! やめて!」ジャンヌがパニックになり、彼の肩を掴んだ。「血が出てる!」
「僕が……見なきゃ……」ラッキーはむせ返りながら言い、彼のオッドアイは眩く、そして不規則な青い光を放っていた。
痛みを通して、彼の視覚は拡張していく。40秒後にシェルターのドアが溶け落ちるのが見えた。外の道が見えた。300メートル離れたメインの中庭が見えた。そこでは、黒いエネルギーのそびえ立つ柱――『次元標』――が、空のポータルを繋ぎ止めていた。あのビーコンを破壊すれば、このセクターのモンスターは遮断される。
しかし、そのビーコンを守っていたのは、彼らがこれまで見たこともないような怪物だった。
ラッキーの視界が現実に引き戻された。彼は前に倒れ込み、激しく咳き込んだが、無理やり立ち上がった。
「みんな、聞いて」ラッキーは低く、かすれた声で言い、口元の血を拭った。彼は恐怖に怯えるクラスメイトたちを見渡した。「30秒後、あのドアは溶ける。闇雲に走れば僕たちは死ぬ。ここからメインの中庭までの距離は300メートル。僕が君たちの一歩一歩を導く。10秒間隔で指示を出す。『伏せろ』と言ったら、『なぜ』とは聞かずに、ただ伏せてくれ」
ローランドはラッキーの血まみれの顔を見て、それから溶けかけているドアを見た。彼は歯を食いしばり、チームの足音を和らげるための薄い風のベールを召喚した。「了解だ、ボス」
「走れ!!」




