53話 犠牲
ジャンヌの瞳に宿っていた温かく懐かしい光がゆっくりと翳り、重く痛々しい陰りが取って代わった。彼女は重ねられた二人の手を見下ろし、手を離せば彼が消えてしまうのではないかと恐れるように、その握りを微かに強めた。
「でも……その平穏な時間は長くは続かなかった」船室の空気が重く静まり返る中、彼女は囁いた。「世界がどれほど残酷になり得るのか、私達に見せつける日がやってきたの」
彼女は震える息を大きく吸い込んだ。
「森林での模擬演習試験に出ていた時のことだったわ。予告なしの大規模な襲撃がクローヴィス市全体を襲ったの。怪物たち、そして敵の軍勢……街は混乱の極みに陥った。学園の全ての教師や大人は、防衛線を維持して街を守るために出動せざるを得なくなって、A組は森の中に完全に孤立したの。大人は誰もいない。私達だけで」
ジャンヌは顔を上げた。そのピンク色の瞳は、絶大な誇りと深い悲痛が混ざり合い、潤んでいた。
「あなたは少しも躊躇わなかった。先頭に立って『千里眼』を使い、私達を導いてくれたの。敵の配置を描き出し、その動きを予測して、クラス全員が生き残るための安全なルートを見つけ出してくれた。でも……」彼女の声が微かに掠れた。「あなたは自らの精神を限界を超えて追い詰めたの。極限まで能力を使い過ぎてしまったのよ」
ラッキーの眉が微かに寄せられた。空白の記憶のまま、彼女が語る出来事の壮大さを理解しようと努めていた。ジャンヌが手を伸ばし、指先で彼の顔の側面を優しく撫でるのを、彼は静かに聞いていた。
「私たちがようやく安全な場所に辿り着いた時、私はあなたが支払った代償を知ったわ」彼女は静かに言った。「酷使の負荷によって、あなたの視力は焼き切れてしまっていた。あなたは完全に色覚を失っていたの。あなたは私に微笑みかけて『大丈夫だ』と強がり、私が心配しないように平気を装った。でも、私には分かっていたわ。それがどれほど苦しいことか。世界の『色』を感知し始めたばかりだったのに、それを奪われることがどれほど理不尽なことか、分かっていたのよ」
船体にぶつかる凍てつく波の規則正しい音を除けば、二人の間には重苦しい静寂が広がった。
「事件の後、街が復興するまでの数日間、学園は私たちに休暇を与えてくれたわ」ジャンヌは小さく、儚い笑みを口元に戻そうと努めながら続けた。「海への校外学習が企画されたの。二人にとって、海を見るのはそれが初めてだった。数日間、そこは本当に綺麗だった。砂浜で遊び、絆を深め……あなたが再び心から笑ってくれるのを見て、私は言葉にできないほど嬉しかったの。私たちはもう安全なのだと思っていた」
彼女の笑みは崩れ去り、その後に続いた苦い記憶に表情を硬く強張らせた。
「だけど運命は、あなたに対してあまりにも残酷だったのよ、ラッキー。何の前触れもなく、大規模な津波が沿岸を襲ったの。砂浜は大勢の一般市民で溢れかえっていた」
ジャンヌの息が詰まった。押し寄せる巨大な水の壁の記憶は、今なお彼女を苛んでいた。
「アンドまたしても、あなたは逃げなかった。自分から津波の前に立ち塞がったの。自分の『念動』を極限まで絞り出し、人々が避難できるように、押し寄せる大海の重みに対して障壁を築き上げた。あなたはあの砂浜にいたすべての一般市民を救ったのよ」
一滴の涙がジャンヌのまつ毛からこぼれ落ち、熱い一すじとなって頬を伝い、彼の手の上に落ちた。
「だけど、あなたの神経系への負担は壊滅的だった。それほどの力を食い止めるなんて……それは、あなたの中の別の何かを粉砕してしまったの。あなたが崩れ落ちた時、あなたの『嗅覚』は完全に失われていた」
過去の罪悪感が押し寄せ、甲冑を纏った身体を微かに震わせながら、彼女は彼の肩に額を預けた。
「あなたを守ると約束したのに」シャツに顔を埋め、声を押し殺しながら彼女は泣いた。「それなのに大きな災厄が襲うたび、みんなを救うために自分自身を少しずつ削っていたのは、いつだってあなたの方だった……!」
最初、ラッキーは一言も発しなかった。無骨で大きな両腕を彼女の甲冑の肩に回し、しっかりと引き寄せて、彼女が泣くのに身を委ねた。甲冑の冷たく固い感触を受け止めながら、その中にいる華奢で震える女性を感じつつ、彼は彼女の頭頂部に顎を載せた。
彼は目を閉じた。色覚の喪失。嗅覚の喪失。
当然、欠落には気づいていた。記憶を失った状態で目を覚まして以来、世界が灰色のグラデーションでしか描かれていないこと、乗組員たちが不平を言っていた海の潮風の匂いや金属的な臭いが自分には全く分からないことに気づいていた。記憶を奪った怪我の副産物だろうと高を括っていたのだ。
他者を救うために自分自身のそれらの欠片を差し出していたのだと知って――胸の奥深くで、静かで深い何かが揺さぶられた。悲しみでも、後悔でもない。ただ穏やかで、確かな『揺るぎなさ』だった。
ゆっくりと、ラッキーは手を伸ばして彼女の髪を撫でた。何時間も前に幻影のような筋肉の記憶が促した通りに、銀色の髪の束に優しく指を走らせた。
「ジャンヌ」彼の低い声が、彼女に心地よく響いた。
彼女は鼻をすすり、海が再び彼を連れ去ってしまうのを恐れるように彼のシャツを強く握りしめたまま、顔を上げようとしなかった。
「僕は森のことも覚えていない」ラッキーは穏やかに言った。「海のことも、怪物のことも、津波のことも覚えていない」
彼は彼女の肩を優しく掴み、身体を起こすよう促すのに十分な力を込めた。ジャンヌは気乗りしない様子で顔を上げた。ピンク色の瞳は潤み、目元を赤く腫らしていた。
ラッキーは手を伸ばし、親指で彼女の頬から涙を拭い去った。
「でも、僕は僕自身を知っている」彼の眼差しは、一切の揺らぎのない絶対的な平穏を宿して彼女を見つめた。「仲間たちが生き残るために世界の『色』を捨てる必要があったのなら……そして、大勢の無辜の人々が生きるために『匂い』を捨てる必要があったのなら……それは素晴らしい選択だったはずだ。今同じ状況になっても、僕は迷わずもう一度同じことをするよ」
ジャンヌの息が詰まった。彼女は彼の灰色の瞳を見つめ、怨嗟や躊躇いの色を探そうとしたが、そこには一切の欠片も存在しなかった。記憶を奪われ、過去を奪われても、彼の本質はまったく変わっていなかった。彼は今でも、彼女を守ると誓ったあの恐ろしいほど勇敢で無私無欲な少年のままだったのだ。
「君は僕を見捨てたり、失敗したりしていないよ、ジャンヌ」ラッキーの声は静かだったが、絶対的な確信を帯びて響いた。「そのすべてを通して君が僕の傍らにいて、僕が壊れそうになった時に繋ぎ止めてくれたのなら、君は約束を果たしてくれたんだ。君は僕の『心』を守ってくれた。それこそが、最も大切なことじゃないか」
ジャンヌの喉から新たな嗚咽が漏れたが、今度は深い安堵から来るものだった。何年もの間彼女を押し潰していた罪悪感――『お姉ちゃん』として失敗し続けているという感覚が、彼の寛大な言葉によってわずかに和らいでいった。
彼女は再び前傾姿勢になり、彼の首筋に顔をうずめ、深く揺れるような息を吐き出した。
「あなたは何ひとつ変わっていないのね」肌に顔を寄せたまま、涙混じりの笑いが彼女の唇からこぼれ出た。「あなたは相変わらず、この世界にはお人好しすぎるわ、ラッキー」
「僕を現実につなぎ留めてくれる君がいるからね」彼の腰の背中に手を添え、彼はシンプルに答えた。「それからどうなったんだい? 僕たちは津波を生き延びた。学園に戻った。それからは?」
ジャンヌは少しの間、彼の心臓の規則正しい鼓動に身を委ね、波立った神経を鎮めた。深呼吸をし、彼を見つめ返せる程度に身を引いた。その表情には、徐々に決意の光が戻ってきた。すべてを話すと約束したのだ、今さら止めるつもりはなかった。




