9話 脱出
船が缶詰のように潰されようとしていた。その怪力はあまりにも凄まじく、船体の内部構造が暴力的に圧縮されたことで、下層のハイブリッド・エンジンが不規則な音を立てて火花を散らし始めた。凄まじい船酔いの不快感は、生存本能というアドレナリンの巨大な急上昇によって、一瞬にして完全に上書きされた。
「コラッサル(超巨大)級の絞殺魔だ!」
ラッキーが叫び、そのオッドアイを鋭く見開いた。吐き気はまだそこにあったが、圧死するという眼前の脅威が彼の精神を鋭い集中へと引き戻した。彼はジャンヌの手を掴み、ひしゃげていく壁から彼女を引き離した。「装甲が持たない! 締め付けを叩き割るぞ!」
指揮甲板では、巨大な触手が締め付けを強めるたびに、鉄の床板が激しく跳ね上がっていた。重いマストがミシミシと音を立て、その圧倒的な圧力の下で真っ二つに折れそうになっていた。
「外殻が突破されるぞ!」隊長は船体が苦悶に悶える中で辛うじて足場を保ちながら咆哮した。「**イージス・プロトコル発動**! コアを過負荷にしろ!」
船の装甲で守られた腹底深くで、機関士たちが緊急レバーを叩き落とした。巨大な魔導ハイブリッド・コアはただ出力を上げるだけでなく、意図的に暴走状態へと突入し、膨大な量の生の運動エネルギーを吸い上げた。
突如として、安宅船の中心から、金色の六角形のエネルギーで形成された目眩く半透明のドームが噴出した。
イージス・バリアは、爆発する爆弾のような勢いで外側へと拡張していった。この障壁はただ攻撃を防ぐだけではない。それは暴力的な「拒絶」を伴っていた。絶対的な運動拒絶の力が10本の巨大な触手へと叩きつけられ、その巨大な筋肉を強引に黒鉄の船体から引き剥がした。黄金に輝くドームを突破できず、その四肢を暴力的に押し戻された水面下の魔獣は、泡立つ凄まじい悲鳴を上げた。
船の悲鳴が即座に止んだ。押し潰されそうな圧力が消え去り、安宅船は巨大な金色の気泡の中で自由に浮遊した。
しかし、その障壁は激しく明滅していた。
「イージスは持たないぞ!」隊長が下の機関士たちに向かって叫んだ。「コアが焼き切れる! 障壁が完全に砕け散るまで、あと2分だ!」
ドームの外では、巨大な触手が狂ったように暴れ回り、金色の六角形へと何度も何度も叩きつけられていた。防壁が崩壊し、船を粉々に粉砕できるその正確な瞬間を待ち構えているかのように。
船室の中では、ラッキーとジャンヌが素早く立ち上がっていた。暴力的な圧殺の力は消え去り、代わりにイージス・バリアのブーンという激しい振動音が響いていた。
「緊急運動性フィールドか……」ラッキーは、強化窓の向こうで激しく明滅する金色の光をオッドアイでスキャンしながら言った。彼の鋭く、機械的な頭脳が即座にエネルギーの消費率を計算する。「出力が高すぎる。ハイブリッド・コアじゃ、あの質量の巨体に対する360度全方位の運動拒絶を、あと数分以上維持することは不可能だ」
ジャンヌは立ち上がり、身体を安定させるためにテーブルの端を掴んだ。激しい船酔いと妊娠初期の悪阻でその顔はまだ青ざめていたが、襲撃による純粋なアドレナリンが、彼女のBランクのオーラを強制的に再点火させた。彼女のピンク色の瞳が、危険で冷たい光を放つ。
「障壁が落ちれば、船は潰される」ジャンヌは、恐怖を完全に排した声で言った。彼女は片手で愛おしそうに、そして守るようにお腹を覆った。「それに、今の私たちは水中でアイツと戦える状態じゃない。船を射程圏外まで一気にブーストさせる必要があるわ」
「エンジンはすでに最大出力だ」ラッキーは眼鏡をかけ直し、こめかみのニューラルリグを調整しながら答えた。「だが、二次推進システムがある……**障壁の崩壊を兵器化するんだ**」
ラッキーはジャンヌの手を掴み、その瞳に絶対的な集中力を燃え上がらせた。「イージスが限界を迎える瞬間に、崩壊する運動エネルギーを手動で艦尾へとリダイレクトする。それを巨大な爆発的スラスターにするんだ。だが、その爆風の指向性を形作るには、君の生の『運動エネルギー操作』が必要だ。そうじゃないと、船の後半分が消し飛ぶ」
ジャンヌは躊躇わなかった。彼女は彼の手を強く握りしめ、白いウサギの耳を純粋な戦闘態勢へと真っ直ぐに直立させた。船酔いに苦しみ、妊娠し、深い悲しみの中にありながらも、二人のBランクの強者は完璧な連動を見せた。
「あの化け物を水面から吹き飛ばしてやりましょう」ジャンヌは言った。「指揮甲板へ。今すぐ」
ラッキーとジャンヌは、過負荷となった魔法コアの激しいハミングを突き破り、指揮甲板へと飛び出した。金色のドームの外では、巨大な触手が狂ったように暴れ回り、天地を揺るがすような力で障壁を叩きつけていた。六角形の光はひび割れ、今にも粉々に砕け散りそうだった。
「船長! 前方の障壁をカットしろ!」ラッキーは、自分が直々に設計したプライベートの制御舵へと猛進しながら叫んだ。彼の両手が、真鍮のダイヤルやルーンのインターフェースの上を素早く走る。「イージスから崩壊していくすべての運動エネルギーを、艦尾の主排気口へ直接ルート変更( reroute )しろ!」
先鋒隊の隊長が目を見開いた。「それほど圧縮されたエネルギーを一箇所に流し込めば、船の後半分が木っ端微塵になるぞ!」
「私がその爆風を抑え込めば問題ないわ!」
ジャンヌがラッキーの隣に並び立ちながら叫んだ。彼女の長袖のトラベルコートが足元で激しくはためき、彼女のBランクのオーラが爆発的に噴出した。輝くピンク色の瞳が船の最後方をロックオンし、生の運動エネルギーを操作するために両手を掲げた。
ラッキーは躊躇わずに、安全ロックを破壊しながら重厚な真鍮のレバーを完全に押し下げた。「ニトロ機構、始動! 障壁を単一の爆発的推進チャージへと圧縮する!」
安宅船を包んでいた金色のドームが、瞬時に縮小を始めた。数百万ジュールもの防御エネルギーが暴力的に逆流して吸い上げられ、船尾の一点へと集約されていくにつれ、魔法コアが悲鳴を上げた。それは純粋な運動エネルギーの、恐ろしいほど高密度に輝く球体へと変貌していった。
ジャンヌは歯を食いしばり、額に汗をにじませた。吐き気と疲労困憊の中にありながらも、彼女の母親としての本能と生存への渇望が、彼女のBランクのコアを極限のオーバードライブへと押し上げていた。彼女は船の艦尾の周囲に、運動エネルギーによる目に見えない、決して壊れない「網」を張り巡らせ、完璧で、破壊不可能な『漏斗』を作り出した。彼女は爆発を止めていたのではない――それを**成形**し、壊滅的な大爆発を巨大なロケットブースターへと変換していたのだ。
外では、クラーケンが障壁の消失を察知していた。10本の巨大な触手が後方へと引かれ、最後の一撃で船を粉砕せんと、その巨大な筋肉を限界まで引き絞った。
「シールドが消えるぞ!」隊長が刀を甲板に突き立てて身を構えながら咆哮した。「何かに掴まれ!!」
――パリィィィィィン!!
イージス・バリアが、脆いガラスのように完全に粉砕された。まさにその一瞬の隙に、巨大な触手たちが一斉に突き進み、この装甲要塞を真っ二つに引きちぎろうと暴力的に迫った。
「ニトロ、放て!!」ラッキーが咆哮した。
圧縮されたエネルギーが臨界点に達した。目眩く、世界の終わりのような閃光とともに、蓄積された運動エネルギーが起爆した。
――ドゴォォォォォォォォォン!!!
その大爆発は、耳を聾するものだった。ジャンヌの運動エネルギーの漏斗が爆風を完全に制御し、すべての壊滅的なエネルギーを**完全なる後方**へと強制的に指向させた。その爆発的な反動が、隕石のような衝撃となって安宅船へと叩きつけられた。
クラーケンの触手が鉄の船体に触れるよりも早く、巨大な装甲要塞は暴力的なまでの超加速で前方へと射出された。その瞬間的な加速はあまりにも凄まじく、船の舳先が実際に水面から完全に浮き上がった。安宅船は、金色の炎と沸騰する蒸気の凄まじい尾を引きながら、水面を跳ねる石のように大海原をロケットの如く激走した。
クラーケンの触手は虚空を激しく掴むだけに終わり、ニトロの爆風による衝撃波が、その巨大な魔獣を激しく渦巻く深海へとひっくり返した。




