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魔天道  作者: 外野透哉
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第五十七話 二人で一人

ー前回のあらすじ

 激闘を繰り広げるアナザーと禍輪。

 しかし、禍輪の能力が判明する。

それは、一度くらった技はもう効かないという強すぎる能力だった。

「適応……そんなのズルすぎるだろ……」


 迅が歯噛みするように吐き捨てた。


「なるほど……そういうことか」


 アナザーは短く息を整え、禍輪を真正面から睨み据える。


 次の瞬間、二人が同時に踏み込んだ。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――竜の顎(ワーム・アギト)」


 禍輪の足元から、骨で形作られた竜が出現する。

 顎を大きく開き、そのまま禍輪を飲み込んだ。


 だが――


「それはもう適応済みだって」


 軽い声と同時に、竜の内部から亀裂が走る。

 骨が悲鳴を上げるように砕け、粉塵となって夜空に散った。


 禍輪はそのまま踏み込んだ。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――適応変換《アダプトコンバート》」


 瞬間、禍輪の輪郭がぶれる。

 加速――否、跳躍的な身体能力の上昇。


 一瞬で距離を詰め、アナザーの腹部へ蹴りを叩き込む。


「ぐっ……!!」


 鈍く重い衝撃。

アナザーの身体が後方へ吹き飛び、デッキを削る。


「先生!」


 魔虎が叫ぶ。


「大丈夫だ……犬飼……」


 アナザーは歯を食いしばりながら立ち上がる。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――顎衝《がしょう》!」


 竜の口を模した黄色のオーラが咆哮し、衝撃波となって禍輪へ放たれる。


 しかし――


「適応完了……」


 その衝撃波も、一瞬で適応されてしまった。


 禍輪が猛スピードで拳を振るう。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――噛壁《ぎょうへき》!」


 咄嗟に骨の口がアナザーを包み込み、防御する。


 直後、とてつもない衝撃音が夜空に響いた。

 船体が大きく揺れ、魔虎たちの足元が軋む。


「へぇ……」


 禍輪は感心したように声を漏らす。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――咬合《こうごう》」


 黄色い竜の口を模したオーラが禍輪を捉え、閉じる。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――反射適応《アダプトリフレクト》」


 すると同質の衝撃波が逆流する。


――ッ……!!


 アナザーの身体が大きく弾かれ、血が散った。


「気をつけないと。この技はね……一度適応した技をくらえば、威力そのまま返す技だよ?」


 禍輪は楽しそうに続ける。


「威力は君依存。君の技が強ければ強いほど、自分の技で死ぬことになるからほんとに気をつけてね?」


 二人は再びぶつかり合う。

 激しい激闘、衝撃が走り、火花が散る。

 一撃一撃が必殺であり、空間そのものが歪んでいるみたいだ。


 魔虎たちは、ただ立ち尽くしていた。


――加勢したら……足手纏いになる……


 それが、誰の目にも明らかだった。


 だが押されているのは、確実にアナザー。

 禍輪は終始、笑みを浮かべている。



司令室では――


「おい……あれ……やばくないか?」


「負けるんじゃ……」


「もう……おしまいだ……」


 援護部隊の間に、不安が広がる。


「あなた方……本当に目、ついてるんですか……?」


 浦 真也の声が震える。


「でも……!流石にこれは……!」


 次の瞬間。


 バン!!


 真也がモニター台を両手で叩いた。


「ちゃんと見ろ!!!」


 司令室が静まり返る。


「それでも援護部隊ですか……僕たちが諦めてどうするんです……」


 真也はホログラムディスプレイを指差す。


「船の人たちはまだ誰一人諦めてない!!」


 空気が一変した。


「僕たちは……戦えない……でも、戦えないなら戦えないなりに、支えることくらいはできるんじゃないですか? 戦ってる人はまだ誰も諦めてないのに、僕らが先に諦めてどうするんですか……」


 真也は続ける。


「彼らが諦めてないのに、僕らに諦める権利なんてあるわけない……!」


 隊員の意識が変わる。


「……確かに」


「戦場に出てるやつらが諦めてないのに……」


 援護部隊隊長・西園寺 千洋が頷く。


「浦さん。貴方を副隊長に選んで本当に良かった」


 そして静かに告げる。


「彼らに、伝えてください」


――――――――――


「皆さん聞こえますか?陸に着くまで約10分」


「おそらく、そいつの目的は僕らを見定めること……つまり……あと10分です」


「10分、耐えてください!!」


――あと10分か


 アナザーは、息を吐く。


 だが次の瞬間、禍輪の一撃が直撃した。


「ぐはっ……!」


「君は能力二つ持ち。でもね」


 禍輪が囁く。


「それぞれ使うには、人格を切り替える必要がある。違う?」


――クソ……


 意識が沈む。


 深い、深い海底へ。



「――う……!」


――……なんだ……誰だ……


「脩!!」


 それはアナザーだった。


――アナザー……どうした……


「頼む。力を貸してくれ」


「分かった……じゃあ僕が出るね」


 一瞬の沈黙。


「いや、二人でだ」


「どういうこと……?」


「俺たちはもともと一つだ。だから一つの人格で……"お前として"!」


 その言葉に、脩は目を見開く。


「……そしたら、アナザーは?」


「……消えるだろうな。でも問題ない」


 アナザーは微笑む。


「だって俺たちは……二(・)人(・)で(・)一(・)人(・)、だろ?」


「俺がいなくなっても、お前は一人じゃない。そもそも、お前を慕ってる生徒や仲間がたくさんいるじゃねぇか。だから安心しろ、脩。もうしがらみに囚われる必要なんてない」


 アナザーは笑顔で言った。


「"俺がお前でお前が俺だ"」


 沈んでいた脩の身体が浮かび上がる。

 闇の先に、夜空が見えた。



 そして禍輪が攻撃をしようとしたその瞬間――


 バチンッ


 指が鳴る。


 時が止まった。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――クロノスタシス」


 停止した時間の中で、脩は禍輪を見る。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――竜の顎(ワーム・アギト)」


 しかし、一瞬で砕け散る。


「やっぱ効かないよね」


 すると禍輪が感心したように言う。


「その口調……へぇ……」


 禍輪は瞬時に理解した。


 入れ替わったのではない。

 一つになったのだと。


 そして――永瀬 脩とアナザーの影が重なる。


「僕たちは……二(・)人(・)で(・)一(・)人(・)だ」


 永瀬 脩は、決意の目でそう言った。

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