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魔天道  作者: 外野透哉
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第五十一話 最後の増援

ー前回のあらすじ

 永瀬 脩のもう一つの人格、アナザーは、病罹は犬飼 魔虎と梶 才牙に任せ、禍輪と対峙することになった。

 魔虎と梶才牙は、病罹と向き合う。

 夜の室内に漂う薄い毒霧の中、互いの呼吸音だけが重く響いた。


 魔虎が一歩踏み込み、掌を青い炎が巻く。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――烈掌《れっしょう》!」


 爆音とともに放たれた炎の拳が、病罹の胸に直撃する。

 だが、病罹はびくともしない。

 そのまま無造作に魔虎の腕を掴んだ。


「……ッ!」


 引き寄せられる。


 直後、


 ――ガンッッ!!


 全力の頭突きが、魔虎のガスマスクを粉々に砕いた。


 瘴霧が一気に魔虎の呼吸と共に流れ込む。

 体が震え、膝が揺れ、胸が焼けるように苦しくなる。


「っ……ぁ、ぐ……ッ……は……!」


 魔虎は壁に手をつき、呼吸を乱しながら必死に耐える。

 視界は揺れ、手も震え、立っていることすら困難になる。


――犬飼……!


 才牙が息を呑んだ瞬間、病罹の姿が掻き消えた。


 背後――。


「っ……!」


 振り向いた時にはもう遅かった。


 鋼を蹴り割るような回し蹴りが、才牙の顔面へ叩き込まれ、ガスマスクが砕け散る。


 瘴霧が肺に入り込み、才牙の内側を焼いていく。

 視界が一瞬でぼやけ、世界が歪む。


 病罹はゆっくりと二人を見下ろしながら告げる。

 魔虎に対して


「君は……ペスト病。別名、黒死病」


 才牙に対して


「君には……エボラ出血熱のプレゼント」


 魔虎は地面に片膝をつき、苦痛に顔を歪めながらも立ち上がろうとする。

 才牙も呼吸が荒れ、全身が重く、意識が揺れている。


 だが――倒せば瘴霧も病気も消える。

 その事実を、二人は理解していた。


 ぼやけた視界の中、才牙の手に血が集まり、刃の形を成す。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――紅血刃(こうけつじん)……ッ!」


 赤い軌跡が数条、疾風のように病罹へ飛ぶ。


 しかし――。


 金属音のような硬質な衝撃が連続して鳴り、紅い刃はすべて弾かれた。


 病罹は微動だにせず、ただ薄く笑う。


「さて……どっちから壊そうか」



 梶才牙が赫翼を展開し、一気に距離を詰めた。

 赫い翼が夜の船内を裂くように飛行する。


 閃光のような軌道。


 断罪ノ剣が病罹の首元を掠め、脈を断つ。

 血が細く弾けるのも構わず、才牙はそのまま背後へ回り込んだ。


――今だ


 心臓部、核の位置へ。


 断罪ノ剣を突き立てようとした瞬間、病罹は身体を捻ってかわす。


「っ……!」


 空振り。


 次の瞬間、病罹の拳が黒い瘴気を纏いながら振り抜かれた。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――忌触《きしょく》」


 才牙は即座に赫翼を畳み、自身を包み込むように防御する。

 衝撃が赫翼を打ち、重く、鈍い音が響いた。


 才牙は少し笑いながら言い放つ。


「同じ手にはかかんねぇよ」


 その刹那。


 背後で、魔虎が静かに構えていた。

 両手を合わせ、突き出すように前へ。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》――焦天貫衝《しょうてんかんしょう》」


 合わさった手の隙間から、凝縮された青い炎が解き放たれる。

 一直線に伸びる灼熱の炎。


 病罹は反射的に体を引く。


 だが――間に合わない。


 炎が病罹の手首を撃ち抜き、次の瞬間、手首が弾け飛んだ。


 切断面から煙が立ち上り、焼け焦げた臭いが広がる。

 そしてその炎は船内の壁を貫通し、奥へ抜けていく。

 500円玉ほどの円形の穴が開いた。


――……チッ。狙いが外れた……


 魔虎は内心で舌打ちする。


――コイツ、俺を囮にしやがった


 才牙は理解していた。

 それでも、責める余裕はない。


 病罹は失った手首を一瞥し、乾いた声で笑う。


「やるなぁ」


 次の瞬間。


 そして手首は再生する。

 病罹の蹴りが、才牙を捉え、直後に魔虎も捉える。


 病に蝕まれた身体に容赦なく叩き込まれる衝撃。

魔虎と才牙は宙を舞い、廊下へ吹き飛ばされる。


 背中から壁へ激突。


 鈍い音が響き、視界が揺れ、肺から息が漏れる。

 床に転がりながらも、二人は必死に立ち上がろうとするが、身体が言うことをきかない。


 病罹が近づき、拳を振り上げる。


「もう死んどけ」


 拳が振り下ろされる――その瞬間。


 廊下の床と壁、その表面が剥がれ落ちた。

 内側の鉄骨などが剥き出しになり、バチバチ、と電流が流れた。

 そして鉄が歪み、うねり、再構築されていく。

 床が隆起し、壁がせり出し、病罹の拳と二人の間に立ちはだかった。

 その変形によって、ノアが揺れる。


「輪廻解錠《りんねかいじょう》……鋼域再編(こういきさいへん)」


――……鉄……この技、まさか……!


 魔虎が息を呑んだ、その声に反応して、病罹が横を向く。


――……なんだ?


 そしてその声は――


「待たせたな」


 現れたのは、遅れて到着した辛島 迅だった。


 だがその表情は、勝ち誇るものではなく、どこか切なさを帯びていた。

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