第四十八話 感染
ー前回のあらすじ
大型フェリー・ノアへ乗り込んだ犬飼 魔虎たち。
しかし想定外なことに、弐ノ楽・禍輪まで乗っていた。
ついに、戦闘が始まる……
犬飼 魔虎たちの気配を察知し、禍輪と病罹は合流する。足音と気配が確実に上へ向かっていることを、二人とも理解している。
「多分来たね。本命が」
「はい、おそらく」
病罹を倒せば病気は消える。それがこの戦場の絶対条件。だからこそ魔虎たちは最優先で病罹を捜索する。遠回りはしない。一直線に潰しに来るはず。
「魔戒は七階、操舵室です!」
真也の報告が入る。位置は特定された。
「輪廻解錠――クロノスタシス」
脩は迷わない。指を鳴らした瞬間、時間が引き延ばされる。音が低く歪み、空気が重くなる。
脩だけが加速する。階段を駆け上がり、壁を蹴り、手すりを掴み、ほぼ瞬間移動のように七階へ到達する。
時間が戻る。
操舵室前。
「お、来たかぁ」
禍輪が無邪気に笑う。
「お前たちが破壊しながら進んでくれたおかげで道がわかりやすくてね」
脩は周囲の壊された通路を一瞥しながら言う。
「それじゃあ頼んだよ、病罹」
「わかりました」
禍輪は素直に後ろへ下がる。
「んじゃ、俺は高みの見物でもしようかな」
操舵手が振り返ろうとした瞬間、禍輪の手が肩に触れる。
「ダメダメ、君は操舵に集中しなきゃ。じゃないと……殺っちゃうよー?」
操舵手は冷や汗を流しながらハンドルを握る。指先が震えている。
「輪廻解錠――忌触」
病罹が一瞬で距離を詰める。
脩は体を反らして避ける。だが完全には避けきれない。指先がかすかに触れる。
「俺の能力は、ガスを吸わなきゃ大丈夫と思ったか?それじゃあ、お前みたいにガスマスクしてる奴には効かないだろう。俺の能力は――触れても発動する」
触れられた箇所から熱が広がる。
――発熱……頭痛……倦怠感……筋肉痛……何の症状だ……これ……
脩の呼吸が荒くなる。視界がわずかに揺れる。
一方、船内を進む魔虎たち。
倒れている乗客や乗組員の様子を見て、魔虎は眉をひそめる。発症からの進行が異常に速い。
「進行が速すぎる……」
「そりゃ、能力による病気だ。進行速度が普通の病気と同じなわけねぇだろ」
「それはそうか……」
短いやり取りの後、迅が前を向く。
「俺たちも先生の後を追おう」
「先行くぞ」
才牙が赫翼を展開する。背から広がった翼で一気に上階へ飛ぶ。
――アイツ……!
階段を駆け上がりながら、魔虎は小さく舌打ちする。自分たちは階段なのに、才牙は飛べる。
鬼灯が脳内に直接言う。
「何してる。お前はこれくらい跳べるだろ」
「……え?」
一瞬きょとんとする魔虎。
――そうか!
脚を青く変化させる。筋力を強化し、床を強く蹴る。
軽く一っ飛びで七階へ到達する。
「お前もかよ!!」
下から迅の叫びが響く。三人の中で唯一飛べない迅は、必死に階段を駆け上がる……
操舵室内。
脩の症状は確実に悪化している。体が重い。頭が熱い。
クロノスタシスは体に負担をかける能力。症状が進んでいる状態で使えば危険が増す。
それでも脩は殴り、蹴り、何とか攻撃を試みる。しかし動きは鈍く、なかなか当たらない。
「おおー、やれやれー!」
禍輪は笑顔でその状況を楽しんでいる。戦いをゲームのように眺める姿勢に、狂気がにじむ。
病罹が一歩近づく。
「知りたいか?教えてやるよ、お前の病気」
脩の意識がわずかに揺らぐ。
「狂犬病」




