第四十六話 次の舞台は
ー前回のあらすじ
輪廻施錠の習得訓練をしていた犬飼 魔虎たち。
しかしそう簡単には行くはずもなく、苦戦を強いられる。
一週間後の夜。食堂には一日の訓練を終えた生徒たちの疲労と、温かい湯気の匂いが混ざっていた。
トレイを手に席へ着いた魔虎は、向かいに座る才牙の皿を見て、思わず眉をひそめる。
――あいつ、またレバーとほうれん草食ってる……毎日食ってんな
その皿の上には、明らかに鉄分を意識したメニューばかりが並んでいる。しかも量が異様に多い。
黙々とそれを口に運ぶ才牙の表情は真剣そのものだった。
――今の俺に足りないのは血液だ……やれることは全部やってやる――
無理やり詰め込むように咀嚼し、水で流し込む。その様子に、隣の迅が小声で魔虎に耳打ちする。
「梶のやつ……最近ずっとあのメニューだな」
「逆に体壊さなきゃいいけど」
魔虎の視線は自然と才牙の皿へ向かう。レバーとほうれん草ばかり。まるで身体が、それ以外を受け付けないみたいに。
その頃、校長室。
重厚な机を挟んで座る秀明の前に、脩が姿勢よく立っている。室内には千洋と真也の姿もあった。
「急に呼び出してすまない」
「いえ、用件は何でしょう」
秀明の表情はいつになく険しい。
「援護部隊から魔戒の出現予測が入った。階級は――最上戒相当だ」
空気が張り詰める。
「担当は君に任せたい」
「承知しました。場所は」
秀明は机の上の資料を指で押さえる。
「"大型フェリー・ノア"だ」
脩の目が見開かれる。
「船内戦闘……ですか」
「そうなる可能性が高い。ただし最上戒とはいえ、気をつけてくれ。別の大型フェリーで集団感染が発生し、乗客及び乗組員が全員亡くなったらしい」
言葉の重みが、部屋の温度を下げた。
「感染系能力……」
「おそらく。同行者の選定は任せる」
真也が静かに手を挙げる。
「船内の様子は僕の能力で船内カメラをハッキングして常に把握し、状況に応じて指示を送ります」
浦 真也が契約した魔戒は上戒のサイン。
主な能力はハッキングや、どんなに離れていても脳内に直接話しかけることができる。
千洋も深く頷く。
「どうかご無事で」
脩は小さく微笑んだ。
「必ず勝ちます」
踵を返し、校長室を出る。
扉の横の壁にもたれていた影に、脩は足を止めた。
「犬飼くん……聞いていたのかい」
「丸聞こえだったぞ」
腕を組んだまま、真っ直ぐ見上げる魔虎。
「同行者は任せるって言ってたよな。俺も行かせてくれ」
即答だった。
脩は数秒だけ目を閉じ、そして頷く。
「分かった」
――今度こそ近くで守る……
「ただ、もう少し人数が欲しいね」
魔虎が提案する。
「あ、ならあいつらはどうだ?」
「ん?」
脩はキョトンとした。
一方その頃、五芒衆の集う薄暗い空間。
紫煙のような霧の中で、魅麗が艶やかに笑う。
「本当に大丈夫かねぇ、禍輪」
「まぁ大丈夫でしょ、失敗者には何度もチャンスをお与えになるのが霊閻様だから」
羅墜が肩をすくめる。
「ほんと優しいよな、あの方は」
零がくすりと笑う。
「……」
沈黙していた崩禍に、零が言う。
「相変わらず口数少ないな」
すると崩禍が呟く。
「病罹をまともに扱えるのは禍輪だけだ」
「相性抜群だからねぇ」
「正直、禍輪の殺し方が分からない」
「確かにね」
五芒衆が揃うと、やはり異様な空気が漂う。
ついに五芒衆のNo.2――禍輪が動き出す。




