第四十五話 輪廻施錠習得訓練
ー前回のあらすじ
全員が力を合わせたことで、ペルソナとの決着がついた。
ペルソナとの戦いを終えた一同が中庭へ戻ってきた時、張り詰めていた空気がようやく緩み始めていた。砕けた石畳の上に転がっていた清の体が、小さく動く。
最初にそれに気付いたのは魔虎だった。額の汗を乱暴に拭いながら、慌てて駆け寄る。
「お!目ぇ覚ました!」
視界の焦点を合わせるように瞬きを繰り返しながら、清がゆっくりと上体を起こす。まだ状況が掴めていない顔だった。
「わ、悪い……気失ってたみたいだ」
その声に、少し離れた場所で壁にもたれていた迅が肩をすくめる。
「いやぁでも、あの爆音で起きなかったの逆に才能っすよ!」
冗談めかした口調だったが、心配していたのは明らかだった。清は申し訳なさそうに視線を落とす。
「俺……何の役にも……」
その言葉を遮るように、千智が前に出る。優しく、けれどはっきりとした声だった。
「そんなことないです。佐藤先輩の演技があったから、あいつを油断させることができたんですから」
清が目を見開く。その視界に、もう一人の影が飛び込んできた。
「さ、帰ろう!佐藤くん!」
無邪気に手を振る千弥の姿に、清の心臓が一瞬跳ね上がる。
――い、一ノ瀬 千弥!?
「は、はい……!」
裏返りそうな声で返事をし、慌てて立ち上がる清。その様子を見て、魔虎は小さく吹き出した。
戦闘の余韻と疲労を抱えたまま、その日はそれぞれの部屋へ戻り、泥のように眠りについた。
翌朝の演習場には、澄んだ冷気と朝露の匂いが漂っていた。今日の訓練内容は、輪廻施錠の習得。
生徒たちの前に立った千弥が、やる気満々の笑顔で手を叩く。
「僕が直接教えるよっ!」
予想外の宣言に、魔虎が思わず眉をひそめる。
「……え?」
その隣で脩が苦笑した。
「残念だけど、生憎僕は輪廻施錠が使えなくてね……」
迅が目を丸くする。
「永瀬先生でもダメなのか……」
軽い空気とは裏腹に、訓練はすぐに過酷さを見せ始めた。
すると鬼灯が――
「お前は俺だ!」
演習場から離れた平原エリア。魔虎は鬼灯に連れられてそこまで来ていた。
朝日を背に立つ鬼灯の姿は、いつもより厳しく見える。
「で、何すりゃいいんだよ」
魔虎が腕を組みながら問うと、鬼灯は自分の胸を指で叩いた。
「能力によって違うが、俺の能力の場合、まず全身に炎を巡らせろ。血管の一本、指先の末端までだ。行き渡った瞬間、タイミングを逃すな。その瞬間に全てを放出しろ」
魔虎は深く息を吸い、目を閉じる。
――集中しろ……集中……全身に……炎を……巡らせろ……
次の瞬間、魔虎の身体中に熱が籠った。
「ぐっ……!」
だが数秒も保たない。膝が崩れ、地面に手をつく。
「だはぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!たった数秒でこれかよ……!」
輪廻施錠はかなりの神経を使う。当然、そううまくはいかない。
全身が焼けるように熱い。心臓が暴れ回っているみたいだ。
「もう一回だ……!」
ふらつきながらも立ち上がる魔虎。再び目を閉じる。
――今度こそ……やってやる……全神経を……巡らせろ……!
だが結果は同じだった。体内の熱が制御不能になり、全身が内側から焼かれるような感覚に襲われる。
「がっ……! 心臓が……!鼓膜も……焼け爛れそうだ……」
ついに耐えきれず、その場に倒れ込む。
鬼灯は腕を組んだまま、それを見下ろしていた。
――そりゃあ、一朝一夕にはいかないわな
一方その頃、演習場では他の生徒たちも限界を迎えていた。
石の床に仰向けに倒れ込んだ迅が、荒い呼吸のまま空を見上げる。
「はぁ……はぁ……キッツ……」
少し離れた場所で摩稀がうずくまっている。
「無理……頭クラクラする……」
才牙は膝をついたまま地面を睨み続けていた。汗が顎から滴り落ちる。
「なぜだ……なぜできない……」
その様子を見ていた千弥が、少し困ったように首を傾げる。
「あぁ、梶くんはね、そもそもまだできないんじゃないかな?」
空気がピリつく。才牙の視線が鋭く跳ね上がる。
「――なに?」
静かな怒気が滲んでいた。
千弥は後ろに視線を向ける。
「ね?血酷」
振られた血酷が説明を始める。
「体の構造の問題だ。俺の輪廻施錠は、血を使いすぎる。今の器じゃ発動と同時に失血死だ」
才牙の奥歯が軋む。
「チッ……そういうことかよ」
拳を握り締め、爪が食い込む。
――なら……まず俺がやるべきことは……
それぞれが、それぞれの壁にぶつかっていた。
だが誰一人、立ち止まるつもりはない。
覚醒の扉は、まだ固く閉ざされたままだった。
ついに"内通者編"終了となります!




