第四十四話 ジュラシック庭園
ー前回のあらすじ
内通者であるペルソナが逃亡した。
しかし、その後輪廻施錠を発動し、最強の恐竜・ティラノサウルスへと擬態してしまう。
咆哮が夜気を震わせ、鼓膜を叩いた。空気が波打ち、地面の小石が跳ねる。
「うる……さ……」
摩稀が耳を押さえて膝をつく。喉の奥まで振動が入り込み、呼吸が乱れる。
「なるほど……丸呑みか。単純すぎる。単純すぎて逆に気づかなかった……」
魔虎は歯を食いしばりながらも、目だけは冷静に敵を捉えている。
「そういうこと。あんたらもまとめて食ってやる」
長大な首が薙ぎ払われる。暴風のような衝撃に全員の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
肺の空気が一気に吐き出される。土煙の向こうで巨体が影を落とした。
巨大な顎が開く。闇の穴のような喉奥が迫る。
「あっぶねぇ……」
転がるように回避し、魔虎は間一髪でその場を離脱する。
「デカさは正義ってか……」
迅が顔をしかめながら立ち上がる。
魔虎は巨体の背後へ回り込む。地面が揺れ、足音ひとつで砂が跳ねる。
――でけぇ分、小回り効かねえだろ
「輪廻解錠――烈掌!」
蒼炎を帯びた拳が放たれる――その瞬間。
ペルソナの眼光がギロリと向いた。
――あ、やば……
再び口が開く。飲み込まれる軌道。
――クソ……!
しかし――
「輪廻解錠――赫翼」
低い姿勢のまま、才牙が地面すれすれを滑るように回転しながら突っ込む。背から噴き出した血の翼が、刃のように脚へ叩き込まれた。
巨体がわずかに傾く。
間一髪。
――赫翼だけじゃ斬り落とせねぇか
「断罪ノ剣」
一閃。
重い衝撃とともに片脚が切断され、地面へ激突した。地響きが走る。
「ティラノは映画じゃ走ってるが、あの図体であの脚だ。脚に相当な負荷がかかって実際には走れない。だからまず体勢を崩す」
だが次の瞬間――肉がうねり、脚が再生する。
才牙は即座にもう一度斬り落とした。
その隙に魔虎が前へ出る。
――ここらが火の海になるかもしれねえが……すまねえ水無瀬、頼んだ
蒼炎を摩稀に向かって放つ。
「凩!これ使え!」
摩稀の瞳が見開かれる。
魔虎の意思を汲み取った。
――合わせろってことね
「輪廻解錠――痙旋風・烈火!」
旋風が蒼炎を巻き上げ、火柱が渦となって巨体を包囲する。炎の竜巻が夜空を焦がす。
――炎で再生を遅らせろ……
その外側から迅が鉄パイプを投げ放つ。
「輪廻解錠――鋼縛!」
空中で形状を変えた鉄が炎を突き破り、巨体を締め上げる。焼けた鉄が皮膚に食い込み、焦げる音が響いた。
「熱いだろ?鉄と炎は相性抜群」
千智は魔虎の狙いを察し、千智の瞳が未来をなぞる。
「輪廻解錠――先見の明」
――爆発規模は……
「皆さん!十五メートルほど離れてください!速く!」
全員が一斉に走る。
「水無瀬!頼む!」
魔虎の掛け声と共に……
「はい!」
大量の水が放出され、炎の竜巻へ撃ち込まれる。
「伏せろ!」
次の瞬間――
爆発。衝撃。白い蒸気が視界を埋め尽くした。
火災旋風と水が合わさり、水蒸気爆発が起こった。
「はぁ……はぁ……お前ら、無事か……」
「あぁ……なんとかな……」
煙がゆっくり晴れていく。
そこには、四肢を失い横たわる姿。
「あれで死なねぇのかよ……でも輪廻施錠はかなり消耗するらしい。そろそろ限界だろ」
巨体が縮み、元の姿へ戻る。失った手足も再生していく。
「はぁ……はぁ……まだ……やれる……」
疲弊したペルソナに魔虎が歩み寄る。足音が静かに近づく。
「もう終わりだよ」
「は?」
魔虎が視線を横へ流す。
「"最強さん"のご登場だ」
空気が変わる。
ーーッ……!!
「やぁ……スパイちゃん。すごい物音がしたからね」
千弥がゆっくり歩いてくる。その足取りには一切の迷いがない。
――はぁ……終わった……すみません……霊閻様……
ペルソナは、霊閻とのやりとりを思い出す。
聖与内部は侵入の指示を受けたときのことを。
「すまない、こんなに危険なことを頼んで。だが、君にしかできない」
「構いません。貴方様の為なら」
「擬態する人間は基本誰でも良い」
「承知致しました」
「助かる。頼んだぞ」
「最後に言い残すことは?」
千弥は笑顔のまま首を傾げる。
「れ……れいぜ――」
「殲圧」
グシャッという音が短く響いた。
初めから何も言わせる気はなかった。
「ひっ……!」
雫が思わず後ずさる。
「ほんっと……強ぇ……」
「みんな、お疲れ様。もう夜遅いし、そろそろ寝よっか!」
「切り替え早ぇ……」
この時は、あんな悲劇が起こるなんて思いもしなかった……




