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魔天道  作者: 外野透哉
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第三十八話 輪廻施錠

ー前回のあらすじ

 犬飼 魔虎は磨骸に勝利したが、磨骸が起こした地震により、火山が大噴火の危機に陥ってしまう。

そこに聖与の校長であり戦闘部隊隊長の峨門 秀明が不死鳥の能力で噴火を抑える。

 一方その頃…ついに敵幹部である五芒衆が動き出す…

 アゾネ山での戦いが終わり、魔虎は保健室のベッドに腰掛けたまま、大きく息を吐いた。

 全身の痛みはまだ残っているが、致命的なものはすでに癒えている。


「はい、治療完了。よく頑張ったね」


 癒希はそう言って、最後に包帯の状態を確認する。

 その穏やかな声に、魔虎は少しだけ肩の力を抜いた。


「ありがとな」


 簡潔に礼を言い、魔虎は立ち上がる。

 保健室の扉を開けた、その瞬間だった。


 廊下の正面。

 壁にもたれるようにして、千弥が立っている。


「やあ!」


 やけに楽しそうな声に、魔虎は眉をひそめた。


「なんだ、出待ちか?」


「いやいや。ちょっと犬飼くんに見せておこうと思ってね!」


 意味深な言い方に、魔虎は首を傾げる。


「見せる……?」


「そうそう。まあ着いてきて!」


 半ば強引に背中を押され、魔虎はそのまま千弥の後を追うことになった。


 


 演習場。


 広い空間に足を踏み入れた瞬間、緊張を覚えた。


「ここは……?」


 問いかけに答える代わりに、千弥は壁に設置された二つのボタンへと歩み寄る。

 青と赤。

 そのうち、青い方を押した。


 低い駆動音と共に、戦闘訓練用ロボットが姿を現す。


――技術力……!!


 思わず内心で唸る魔虎をよそに、千弥は平然としている。


「で、見せたいものって……これのことか?」


「いや、違う」


 即答だった。


「輪廻解錠のさらに先のステージ。すなわち、能力の()()()()だ」


 その言葉に、魔虎は息を呑む。


「真の……領域……?」


「そう。その名も、輪廻解錠の対とも言える――輪廻施錠(りんねせじょう)


 聞き慣れない言葉に、魔虎は反射的に聞き返した。


輪廻施錠りんねせじょう?」


 千弥は頷き、歩きながら説明を始める。


「簡単に言うと、覚醒ってやつだね。ただし、一部の特別な能力だけが輪廻施錠(それ)を使えるわけじゃない。全ての能力に潜在能力は眠ってる。ただ、それを引き出せるかどうかは本人次第だけど」


 魔虎は顎に手を当てる。


「じゃあ、魔戒は全員使えるのか?」


「いや。魔戒は確かに能力をフル活用できる。でもそれは、人間で言えば"手足を動かす"程度の感覚だ」


 千弥はちらりと魔虎を見る。


「魔戒と特訓するときさ、『感覚で掴め』とか言われなかった?」


――合ってる……


 魔虎の脳裏に、鬼灯の姿が浮かぶ。


「人間に『手足の動かし方を教えろ』って言われても困るでしょ? 生まれた時から備わってるものだから。それと同じで、魔戒にとって能力は本能なんだ」


――鬼灯(あいつ)が教えるの下手だったわけじゃなかったのか……


「でも、字を書くとか、道具を使うとかは教わってできるようになったよね? それが輪廻施錠。覚醒って、本当は誰にでもできるものなんだ」


 千弥は静かに言葉を区切る。


「眠っていた能力が目覚める。それが覚醒。"誰にでもできるけど、誰にでもできない"。それが輪廻施錠だ」


 魔虎はゆっくりと理解を噛み締めた。


「じゃあ……現時点で魔戒が輪廻施錠を使えなくても、本人が覚醒すれば使えるってことか?」


「そういうこと。現にヴェクタは使えないし、下戒で使える魔戒も見たことがない。でも特戒で使えないのは見たことがないから……たぶん君の鬼灯も使えるよ」


「そうなのか……」


 だが、魔虎は素直に頷けなかった。


「でもさ、解錠と施錠だと……解錠の方が、なんか強そうじゃね?」


 千弥は吹き出す。


「確かに! "開く"と"閉じる"だもんね。でもね、解は"開く"。施は"施す"って意味なんだ」


 千弥は人差し指を立てる。


「つまり、能力に"解釈を付け加える"ってこと」


「なるほど……」


「まぁ百聞は一見に如かず。見た方が早いよ」


 千弥は赤いボタンを押した。


「起動……」


 停止していたロボットたちが一斉に動き出す。


動いた……!


 その瞬間、千弥の雰囲気が変わった。


輪廻施錠(りんねせじょう)……」


 空気が張り詰める。

 千弥は、左手の甲を外側にし、人差し指を軽く立てた。


零相終律(れいそうしゅうりつ)


 次の瞬間。

 ロボットたちは完全に停止し、そのまま存在ごと消滅した。


「……は?」


 魔虎は言葉を失う。

 何が起きたのか、理解が追いつかない。


「今……何が……」


「簡単に言うとね」


 千弥は軽い調子で言った。


「ベクトルがなくなったら、最終的にどうなると思う?」


「えっと――」


「相手は消滅する」


――自分で聞いといて先に言うなよ……!


「ただこれは体への影響ね?理論上は世界を消滅させることだってできる。でも範囲の問題があるから、できてもここら一帯が限界だけどね」


 そして一転、真剣な声になる。


「ただし、輪廻施錠は輪廻解錠とは比べ物にならないほど体力を使うから使い所が肝心」


「でも、なんで今このタイミングで?」


 千弥は珍しく、はっきりと魔虎を見据えた。


「君は佐藤くんと協力して最上戒に勝った。これは事実だ。でもこれからは、そのさらに上――特戒(とうかい)とも戦うことになる可能性がある」


 その一言に、魔虎の背筋が伸びる。


「彼らの強さは異次元だ。だから、能力の"先"があるってことは知っておいた方がいい」


「特戒……」


「まあ今回は見せるだけだから、時間取らせてごめんね!もう行っていいよ!」


「お、おう……」



 演習場を出た瞬間、魔虎ははっとした。


「あ、やべ……! 親父ん家行く約束忘れてた!」


 そのまま全力で走り出す。


 風を切りながら、魔虎は思う。


――俺たちは……もうそこまで来てるんだよな……

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