第三十七話 五芒衆
ー前回のあらすじ
犬飼 魔虎と佐藤 清は、最上戒魔戒、磨骸の討伐に成功する。
しかし……磨骸が起こした地震により、火山が大噴火の危機……
そこでついに、峨門 秀明が動きだす。
千智は噴煙の立ち上る火口を睨みつけ、少し先の未来を何度も確認していた。
地鳴りは断続的ではなく、もはや常に足元を揺らし続けている。
「にしても異常だ……」
千智は焦りを押し殺すように息を整え、周囲の仲間たちへ向けて声を張る。
「噴火するとしても、普通は地震が起きてから噴火までにはそれなりに時間がかかる……ちょっと早すぎます。あと数分で噴火します……!」
その言葉が終わるのとほぼ同時に、瓦礫を踏み越える複数の足音が近づいた。
白衣と医療装備に身を包んだ一団が、噴煙の向こうから姿を現す。
先頭に立つ癒希は、状況を一目で把握しながら口を開いた。
「みなさん、ご無事ですか?」
その声に反応し、才牙が振り返る。
「あ、アンタ……」
魔虎は顔を歪め、火口を見上げた。
「どうすんだよこれ……!」
張り詰めた空気の中、場違いなほど落ち着いた声が割り込む。
「私に任せなさい」
その声を聞いた瞬間、魔虎の背筋が凍りついた。
――ッ……この声は……!
全員が一斉に振り返る。
背後に立つ、赤い外套の男。
「峨門校長!!」
秀明は軽く手を上げ、静かに言った。
「戦場では隊長と呼んでくれ」
癒希の表情が明らかに緩む。
「あなたがいらしたなら、安心ですね」
だが才牙は警戒を解かず、疑問をぶつけた。
「そもそも、どうやってここまで来た」
魔虎も同意するように続ける。
「一ノ瀬と同じ能力ってわけじゃねぇだろ……?」
秀明は火口へ視線を向けたまま、あまりにも簡単に答えた。
「飛んで来た」
千智が思わず呆れた声を漏らす。
「そんな『チャリで来た』みたいなノリで言われても……」
秀明は振り返らず火山へ向かって歩み、短く告げる。
「話は後だ」
次の瞬間、背中から赤い炎が噴き上がった。
炎は翼の形を成し、空気を焼き裂く。
――ほんとに飛んだ……つか速っ!
魔虎がそう感じた直後、秀明の姿は火口の中へ消えていた。
「は!? いや、ちょ! 死ぬ気かよ!」
魔虎が思わずそう叫んだ後、才牙が思わず前に出る。
「何する気だ……」
摩稀は言葉を失い、火口を見つめることしかできなかった。
火山内部――
灼熱の空間で、秀明はマグマ溜まりを見下ろす。
――ここがマグマ溜まりか
――よし、始めるか
炎が身を包み、熱はすべて吸収されていく。
外では、不安と沈黙が支配していた。
「本当に大丈夫かよ……」
魔虎の呟きに、瞬が余裕のある表情で肩をすくめる。
「まあ見てな」
数分後。
火口から赤い光が噴き上がり、炎の翼を広げた秀明が姿を現した。
「出てきた!」
千智が身を乗り出す。
秀明の身体に傷は一切ない。
「マジかよ……」
才牙が呆然と呟く。
「もう終わった」
秀明の能力、その最も特筆すべき点は……死なない。
正確に言えば、超再生。
つまり不死鳥。
秀明が契約した魔戒は、紅凰。
特戒。
魔虎は、先ほど見た炎の翼を思い返す。
「さっきの炎の翼……フェニックスか……!?」
秀明は短く肯定する。
「そんなところだ」
清が納得したように頷いた。
「なるほど」
才牙も腕を組む。
「だからか」
千智は核心を突いた。
「でも……いくら超再生とはいえ、どうやって火山を止めたんですか?」
秀明は首を横に振る。
「止めたわけじゃない。正確には"噴火を遅らせた"の方が正しい。火山はいずれ噴火する。それを止めるのは不可能だからな」
そして淡々と続ける。
「私は不死鳥。マグマの熱エネルギーを吸収して冷やしただけだ」
美穂が深く頭を下げる。
「でも助かりました、峨門隊長」
「礼はいらない。上の者は、仲間のピンチに駆けつける責任がある」
秀明は癒希を見る。
「瀬名くん。無理のない範囲で皆を治療してやってくれ」
「わかりました」
治療が終わり、張り詰めていた空気がようやく緩む。
「ありがとうございます」
千智が礼を言うと、魔虎の治療をする。
「ごめんね、犬飼くん。私の能力は、一気に治せる限界があるから、完治までは出来なかった」
「いや、それでも助かる」
全員は聖与へ戻っていった。
聖与。
「疲れた……」
魔虎の前に、雫が駆け寄る。
「犬飼くーん!! 大丈夫だった!?」
「まあ……うん……」
摩稀は意味深な笑みを浮かべた。
「私たちは戻りましょ。疲れたしね〜」
二人きりになり、魔虎は小さく頭を下げる。
「心配かけて悪かったな……」
一方その頃。
五芒衆の空間で、霊閻が静かに告げる。
「磨骸が死んだ」
その言葉を皮切りに、空気がざわつく。
「少しだけ意外だったな」
「本当、会ってみたい。吸い尽くしてあげたい♡」
伍ノ欲・零と肆ノ喜・魅麗がそう言うと、参ノ哀・羅墜がニヤリと笑みを浮かべて言った。
「もしかすると……もうすぐかなぁ……」
そこへ、圧倒的に強烈な気配が近づく。
「まさか、磨骸がなぁ」
零が視線を向ける。
「遅い」
現れたのは、弐ノ楽・禍輪だった。
禍輪は、軽い調子で笑った。
「ごめんごめん、遅れた」
そして続ける。
「にしても勿体無いよなぁ。磨骸、かなり頑張れば特戒になれたかもしれない逸材だったのに。お前もそう思わないか?崩禍」
そう言って、壱ノ怒・崩禍へ視線を向けた。
崩禍は冷たく切り捨てる。
「どうでもいい。それまでの存在だっただけだ」
「冷たいなぁ」
霊閻が現れ、制止する。
「そこまでだ。磨骸はよくやってくれた」
禍輪が肩をすくめる。
「優しいなぁ、霊閻さんは」
「霊閻"様"だ」
零がそう言うと、霊閻は言った。
「構わん。好きに呼べ。そんなことより、これからのことについてだが……」
禍輪が一歩前に出る。
「次、俺にやらせてください」
魅麗が眉をひそめる。
「まだ霊閻様が話してるでしょう?」
しかし霊閻は承諾した。
「分かった。やってみろ」
「ありがとうございます」
羅墜が呆れたように言う。
「五芒衆五番手の零をスッ飛ばして、いきなりNo.2かよ」
「大丈夫だ。負けて2番手が欠けて秩序が乱れるなんてことは無い。負けないから、俺」
禍輪は背を向ける。
「行くよ、病罹」
「はい」
零がぼやく。
「五芒衆でアイツだけ直属の部下がいるの、ズルいよな」
禍輪は楽しげに笑った。
「磨骸を殺ったのがどんなやつか……楽しみだなぁ。心が躍る」
ついにアゾネ山編、終了です!
そして五芒衆のNo.2がいよいよ動き出しました




