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魔天道  作者: 外野透哉
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第三十六話 折れていても

ー前回のあらすじ

 三年の先輩、佐藤さとう きよしと共闘することになった犬飼 魔虎。

苦戦するも、勝利への兆しが見えた。

「俺の……力が?」


 清は自分の両手を見下ろし、声が震えていることに気づきながらも視線を外せずにいた。自分が放った光が、確かに磨骸の動きを止めた。その事実が、まだ飲み込めない。


「あぁ。とりあえず、俺の言う通り動いてくれ」


 魔虎は一度だけ清を横目で見て、すぐに正面へ向き直る。磨骸から目を離す余裕はない。肩で息をしながらも、その声には迷いがなかった。


「……分かった」


 清は短く答え、魔虎の背後に立つ。自分が支援役だという立ち位置を、無意識のうちに理解していた。


 地面を擦るような低い音と共に、磨骸がゆっくりと距離を詰めてくる。割れた地面の上を歩いているはずなのに、その足取りは異様なほど安定していた。


「よく受け身を取ったな」


 磨骸は二人を見下ろし、嘲るように口角を上げる。


「まぁ、腐っても聖与の人間か」


 その言葉に、魔虎は舌打ちしそうになるのを堪えた。


――さっきから体が不調だ……原因は分からねぇ

――けど、今は考えるな……!


「諦めろ」


 磨骸はそう言うと、片手を地面に触れた。


 直後、地の底から唸るような音が響き、大地が跳ね上がる。


「また来るぞ! 備えろ!」


 魔虎の叫びとほぼ同時に――


輪廻解錠りんねかいじょう――震骸しんがい


 地面が割れ、岩盤が隆起する。


「くっ……!」


 魔虎と清は吹き飛ばされたが、何とか受け身を取る。身体中が痛いが、立ち上がる。


「はぁ……はぁ……危ねぇ……」


 少し離れた場所で、清が荒い息をつきながら立ち上がる。顔色は悪いが、目はまだ死んでいない。


「なかなかにしぶといな」


 磨骸は感心したように言いながら、視線を魔虎に向ける。


――ッ……!

――また足が……動かねぇ!


 魔虎は地面を踏みしめようとして初めて異変に気づく。靴底が地面に吸い付いたように、びくともしない。


 次の瞬間、磨骸が地面を滑るように高速で接近する。


輪廻解錠りんねかいじょう……」


 技名を言い切る前に


「今だ!!」


 魔虎の声が、戦場に鋭く響いた。


「ッ……!!」


 清は反射的に前へ踏み出す。


輪廻解錠りんねかいじょう――グレアレイ!」


 炸裂するような強烈な光が、磨骸の視界を奪う。


「ぐっ……!」


 磨骸が目を瞑った、その一瞬を逃さず――


輪廻解錠りんねかいじょう――烈掌れっしょう!」


 魔虎の拳が、磨骸の胴体に叩き込まれる。


 鈍く、重い衝撃音が響く。


「ぐっ……!」


――コイツら……()()()()のか……?


「やっぱ、これじゃ核には届かねぇか」


 魔虎は拳を引き戻しながら呟く。


「硬ぇな……でも」


 磨骸の目を真っ直ぐ見据える。


「どうやらビンゴみたいだ」


「お前がさっき言った"うっかり"って言葉が、ずっと引っかかってた」


「ッ……!」


 磨骸の表情が一瞬だけ歪む。



 魔虎が清を庇った時――


「なんだ、まだ動けたのか」


 磨骸は少し意外そうに言う。


「もう動けないから地面に固定する必要もないかと思ってうっかり能力を解除してしまった」




「つまり必要なのは集中力だろ」


 魔虎は一歩前に出る。


「能力の効果を維持するための集中力」


「なるほど……」


 磨骸は小さく息を吐く。


「そういう理屈か」


「そこでうってつけだったのが強い光だ」


 魔虎は清の方を一瞬だけ見る。


「摩擦を操れても、視界を焼かれりゃ集中は切れる」


――コイツ……



 数分前――


「とりあえず、俺の言う通り動いてくれ」


「……分かった」


「俺が『今だ』って言ったら、光ブッパしてくれ」




「だから、この場で光は最適解だったってわけだ」


――俺の力を……ちゃんと、戦力として……


 清は魔虎を見つめる。


 磨骸が低く笑う。


「認識を改めよう」


 視線を魔虎に固定する。


「お前に向いていないなどと言ったこと」


「そりゃどうも」


「さあ、続けようか」


 磨骸が拳を構え、拳に熱を帯びる。


輪廻解錠りんねかいじょう――烈鎚れっつい!」


「炎の拳なら、こっちにもあるぜ」


 魔虎も拳を燃え上がらせる。


輪廻解錠りんねかいじょう――烈掌れっしょう!」


 青と赤の炎が激突し、衝撃波が周囲を揺らす。


――す、すごい……あいつ後輩なのに、俺なんかより周りをよく見てる……


輪廻解錠りんねかいじょう――滑界かっかい


 磨骸が地面の摩擦を消す。


 魔虎の体が傾いた瞬間――


輪廻解錠りんねかいじょう――グレアレイ!」


 清が即座に光を放つ。


「ッ……!」


 磨骸は集中を乱され、視線を清へ向け、地面を滑って一気に距離を詰める。


「やはり……お前から殺すべきだった」


「ッ……!」


 清が息を呑む。


 その背後、死角から魔虎が回り込む。


――しまった……!


「佐藤……"助かった"」


 魔虎の声が磨骸の背後から届く。


――犬飼……!


烈掌れっしょう!」


 磨骸は殴り飛ばされ、地面を抉りながら転がる。



「やるな」


 磨骸は立ち上がりながら言う。


「だが、やはりお前の火力じゃ足りない」


「本当にそうか?」


「なに?」


――俺の技は範囲技が多い。最も小規模な烈掌(れっしょう)でも、爆発で力が分散する。つまり俺に足りないのは……"貫通力"!それが分かってるなら……やってみる価値はある


 魔虎は目を閉じ、両手を合わせて前に突き出す。


――一点集中……


――こいつ……何をする気だ……?


 磨骸は魔虎を警戒するように見つめる。


――犬飼……?


 しかし激痛が走り、集中が乱れかける。


――クソ……!諦めるか……!死んでたまるか……!


――たとえ……"折れていても"……!!


――いくら骨が折れようと……心は折らねぇ……!


――殺るなら今のうちだ


 磨骸が距離を詰める。

 しかし――


輪廻解錠りんねかいじょう――焦天貫衝しょうてんかんしょう


 合わさった手の間から、凝縮された青い炎が一直線に放たれる。


「ッ……!!!」


 炎は磨骸の核を貫き、核にヒビが入り、砕け散る。



――俺が……負けた……?


 磨骸は、体が消滅していくなかで言う。


「お前らに……」


 魔虎は静かに言う。


「強かったや、お前。圧倒的にな」


「ク……ソ……」


 磨骸は塵となり、完全に消滅した。



「はぁ……はぁ……」


 魔虎は膝をつき、荒い呼吸を繰り返していた。肺が焼けるように熱く、視界の端が白く滲む。それでも意識だけは途切れさせなかった。


「大丈夫か?」


 清がすぐそばまで駆け寄り、魔虎の腕を掴む。震えているのが、はっきりと分かった。


「悪い……肩、貸してくれ」


「分かった」


 清は魔虎の腕を自分の肩に回し、体重を支える。想像以上に重く感じ、そして傷だらけだった。


 その場に、ようやく静寂が戻る。地面は抉れ、空気には焦げた匂いが残っている。魔虎は遠くを見るような目で、磨骸が消えた場所を見つめていた。


――勝った……けど、ギリギリだな……




 一方――


「はぁ……はぁ……」


 才牙は岩に手をつき、必死に呼吸を整えていた。全身に走る痛みが、遅れて一気に押し寄せてくる。


 その時、複数の足音が近づいてきた。


「負傷者発見! 隊長!」


 医療部隊の隊員が声を上げる。


「間に合って良かったです」


 そう言って前に出てきたのは、瀬名 癒希だった。手際よく状況を確認していく。


「アンタは……保健室の……」


「医療部隊隊長、瀬名せな 癒希ゆきです」


 簡潔な自己紹介のあと、治療が始まる。応急処置とは思えないほど的確で、才牙の呼吸が徐々に落ち着いていった。


「歩けますか?」


「あぁ……なんとか」


「では、私たちは他の負傷者を探します。戦闘、お疲れ様でした」


 癒希はそう言い残し、部隊と共に去っていった。



 そして合流。


 山道を下りていた魔虎たちの前に、複数の人影が見えてくる。


「あ、お前ら……」


 魔虎が力なく声を出す。


「だ、大丈夫ですか!?」


 千智が駆け寄り、魔虎の顔色を見て息を呑む。


「だいじょばない……」


 冗談めかして言うが、声に覇気はない。


 摩稀が、清の方に視線を向ける。


「えっと……彼は?」


「あぁ」


 魔虎が答える。


「佐藤 清。三年だ。助けられた」


「よろしくな!」


 清は明るく手を挙げるが、その目には緊張と誇らしさが混じっていた。


「佐藤くん、無事だったんだね」


 瞬がほっとしたように笑う。


 全員で下山を始める。足元は不安定で、誰もが無言になりがちだった。


「なぁ、千智」


 沈黙を破ったのは魔虎だった。


「ちょっと気になってたんだが……なんで聖与に入った?」


「え?」


「いや、その……俺の部屋行く時にさ、お前の部屋の前通るだろ」


 少し言いづらそうに視線を逸らす。


「壁一面、魔戒の資料だらけだったから」


「え、そうなの?」


 摩稀が驚いた声を出す。


「あー……まぁ」


 千智は少し間を置いてから、息を吸った。


「そこまで見られてるなら、隠す意味ないですね。復讐です」


 一瞬、空気が凍る。


――復讐……?


 千智は淡々と、自分の過去を語った。魔戒に奪われた家族のこと、残された自分のこと。


「そうだったのか……」


 魔虎は低く呟く。


「悪いな、嫌なこと思い出させて」


「いいんです」


 千智は首を振る。


「でもさ」


 魔虎は少し考え込むように歩きながら続ける。


「部外者の俺が言うのも変だけど……その両親って、本当に復讐を望んでるのか?」


 千智が足を止める。


「お前が、自分のやりたいことやってほしいって……そう思ってるんじゃねぇのかな」


「でも……仇ですから」


「もちろん仇だ」


 魔虎は即答する。


「けど、目的の話だ。復讐として討つのか、両親の無念を晴らすために討つのか」


「意味は似てるけど、全然違う」


「関係ない俺が色々言って悪いな」


 千智はしばらく黙り込み、やがて小さく笑った。


「……そうですね」


「やっと、心のつっかかりが取れた気がします」


「そっか」


 魔虎も、少しだけ笑う。


「ならよかった」


「それにしても」


 美穂が周囲を見回す。


「地震、二回起きたよね……何だったんだろ」


「あー……それは……」


 清が言いかけた、その時。


 ゴゴ……と、地鳴りが響く。


「なんだ、これ」


 才牙が身構える。


「まさか……!」


 千智が歯を食いしばる。


輪廻解錠りんねかいじょう――先見せんけん(めい)


 千智の瞳が、僅かに揺れる。


「ッ……!」


「何が見えた!」


 魔虎がそう問いかけると、千智が答える。


「おそらくさっきの地震が原因です!」


 声が震える。


「火山が……噴火します!!」


「噴火!?」


「被害規模は……」


 千智の表情が凍りつく。


「九州……ほぼ全滅!!」


「はぁ!? 九州ほぼ全滅!?」


「どう……すれば……」



 聖与では――


「どうしましょう、峨門校長、西園寺副校長」


 真也が険しい顔で問いかける。


「火山が噴火……」


 千洋が腕を組む。


「私が行こう」


 秀明が静かに言った。


「確かに、峨門校長の能力が適任ですね」


「お願いします、峨門校長……いえ」


 真也は言い直す。


「峨門隊長」


「戦闘部隊隊長の出番だな」


 秀明はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。

次回明らかになる、戦闘部隊隊長・峨門 秀明の能力とは

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