第三十四話 戦意喪失
ー前回のあらすじ
犬飼 魔虎は、最上戒の魔戒、磨骸と遭遇する。
あまりの強さに追い詰められてしまう。
過去最大の敵に勝つことはできるのかー
歯を食いしばり、魔虎は地面に手をついて身体を起こした。
「やってやる……!」
その声に、磨骸はほんのわずかに口角を上げた。
「輪廻解錠――烈鎚」
摩擦で発生した炎が拳を包み込み、視認できるほどの熱量を帯びて迫ってきた。
「ッ……!」
魔虎は反射的に身を捻る。
拳は紙一重でかわしたが、その拳はそのまま背後の木に直撃する。
爆音とともに木が砕け散り、木片が雨のように降り注いだ。
足元から背筋を冷たいものが駆け上がる。
――嘘だろ……あんなん食らったら、ひとたまりもねぇ……!
「よく避けたな」
感心したような声。
だが次の瞬間、磨骸の脚が唸りを上げる。
今度は回し蹴りで烈鎚を発動する。
魔虎は跳ぼうとするが、足裏が地面を捉えない。
摩擦を奪われ、踏み切れないまま直撃を受けた。
「ぐっ……!!」
身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。
肺から空気が抜け、視界が一瞬白く飛んだ。
「……はぁ……! はぁ……!」
身体を動かすたび、激痛が走る。
――強烈すぎる……!骨……何本折れた……?
磨骸が、ゆっくりと距離を詰めてくる。
――やべぇ……
「弱いな」
見下すような声。
「お前、向いてないぞ」
魔虎は唇を噛みしめ、血の味を感じながら言葉を絞り出す。
「わかってんだよ……周りより劣ってるってことくらい……」
「そこまで分かってるなら」
そう言いかけた磨骸の言葉を遮るように叫ぶ。
「でも……!」
声が、震えながらも強くなる。
「戦うって決めちまったんだよ……! 一度決めたんなら諦めねぇ……!」
息を荒くしながら、魔虎は睨み返す。
「霊閻って奴を……殺すまで……!!」
磨骸の足がピタリと止まった。
「お前が……霊閻様を?」
磨骸は鼻で笑った。
「笑わせるな。お前がどうやって霊閻様を殺る?」
そして、興味を失ったように続ける。
「まあいい。まだやれるな?」
魔虎は、ふらつく足で立ち上がる。
「……負け……ねぇ……!!」
炎を纏わせ、槍を形成する。
「輪廻解錠――灼槍……!」
「輪廻解錠――滑界」
地面との感触が消え、足が流れる。
槍の軌道がぶれ、攻撃は逸れた。
――クソッ……!
魔虎は歯を食いしばり、必死に考える。
――待て……地面に足がついてなけりゃ、関係ねぇんじゃねぇか……?
「輪廻解錠――灼槍・束!」
地面へ叩きつけるように放つ。
爆発の反動で身体が空中へ投げ出された。
視界が一気に開ける。
空中で体勢を整え、魔虎は磨骸を捉えた。
「輪廻解錠――灼槍!」
青い炎が一直線に突き刺さり、爆炎が巻き起こる。
衝撃波が森を揺らし、煙が立ち込めた。
だが――
――は……? 嘘……だろ……?
煙が晴れる。
そこに立つ磨骸には、傷ひとつない。
魔虎は、そのまま地面に落ちる。
「いやぁ、今のは良かったぞ」
「……自身の摩擦をゼロにして、攻撃を逸らしたのか?」
「いや、今のは、何もしてない」
「ってことは……」
「当たりさえすれば勝てると思ったか?」
淡々と、残酷に告げる。
「無理だ。お前の火力じゃ」
背筋が凍る。
――シンプルに……硬すぎる……
――当てても効かない……これが……最上戒……
同時に、身体の奥が異様に熱を帯びているのを感じる。
だが、原因を考える余裕はなかった。
――なんだ、この変な感じ……いや、そんなことは今はどうだっていい。まだ……死ぬわけにはいかねぇ……
鬼灯が、歯を食いしばって立ち上がる魔虎を見て思う。
――俺が出れば済む話だが……魔虎限界を知りたいと思ってしまう自分がいる
次の瞬間、磨骸が滑るように接近し、腹部に触れた。
「ッ……!」
「輪廻解錠――崩振」
内側から、身体が揺さぶられる。
内臓が共振し、破壊されていく感覚。
魔虎は声も出せず、その場に崩れ落ちた。
――ごめん……親父……
「結局、口だけか」
磨骸は冷たく言い放つ。
「弱いな。もう虫の息じゃないか」
――あぁ……死んだわ……俺……
「はぁ……死ね」
磨骸が拳を振り上げる。
「輪廻解錠――烈鎚」
その瞬間――
背後から、草を踏み分ける音が響いた。
ガサガサ、と。
「ん?」
磨骸が動きを止め、視線を向ける。
「だ……誰だ……?」
魔虎がかすれた声で問いかけた、その先。
現れた人物は、血にまみれ倒れる魔虎を見て目を見開いた。
「……かなり、まずい状況みたい……だな……?」




