第三十二話 コンティニュー
ー前回のあらすじ
梶 才牙は反顛羅との戦いで、使える血が底を突いてしまう。
このまま死んでしまうのか
ザシュッ
「ッ……!!」
斬られたのは才牙ではなかった。
才牙の首を掴み上げていた反顛羅、その腕が肘から先ごと宙を舞う。
「輪廻解錠――……」
喉の奥から絞り出すような声で、才牙は続ける。
「紅血刃――……」
――斬られた……? 俺が……
反顛羅は一瞬、状況を理解できず目を見開いた。
才牙はその場で大きく咳き込み、赤黒い血を吐き散らす。
腕を切り落とされた反顛羅は、切断部が蠢き、瞬く間に元の形へと再生していった。
――あり得ねぇ…… こいつ、もう血は残ってないはずだ
反顛羅は息を呑む。
――まさか……骨髄……!
そう、才牙は博打に出た。
――あくまでこれ以上使える血液が残ってないだけ……だが、無いなら、作ればいい……
――血液を作る組織……骨髄から……!
才牙は血液を操る。
それはつまり、血を生み出す根源にまで干渉できるということだった。
骨髄の働きを無理やり早めることも可能。
だがその行為は、人体に常識外れの負荷を強いる。
反顛羅は、才牙の狂気に、初めて驚愕した。
――正気じゃねぇ……!
「ぐっ……!」
才牙の身体が震える。
皮膚の内側から熱が込み上げ、視界が白く滲む。
――体が……熱い……頭も割れそうだ……眩暈もする……
無理やり骨髄の働きを加速させている代償が、一気に表面化し始めていた。
――死ぬ前に……殺す……!
「死ぬ気ではやるが、死ぬつもりはねぇよ」
才牙は負荷に耐えながらそう言った。
「……は?」
そして才牙は、ニヤリと笑って人差し指で挑発した。
「さぁ……コンティニューだ」
――やるじゃねぇか
反顛羅は口角を吊り上げ、愉快そうに笑った。
――とはいえ……俺からは奴が見えねぇ。後ろ向きの視界に、上下反転……このままじゃ戦いづれぇ……
才牙の視界は依然として狂ったままだった。
前を向いているはずなのに、世界は背後を映し、上下の感覚も逆転している。
――……ッ!
――そうか……!
才牙は、静かに目を閉じた。
――なんだぁ? 目ぇ瞑って何の真似だ?
反顛羅は間合いを詰め、左拳を振るう。
だが――
「ッ……!」
拳は、才牙の右手によって正確に受け止められた。
「やっと……止められた」
――こいつ……!
「輪廻解錠――紅血刃」
才牙が踏み込み、斬撃を放つ。
反顛羅は掴まれた左腕ごと身体を捻り、紙一重でかわした。
「へぇ……」
捻じれた腕は、そのまま逆回転し、自然に元の形へと戻っていく。
「人間は、ほとんど目に頼ってる」
才牙は息を荒げながらも、言葉を紡ぐ。
「見ようとした時点で、俺はお前の術中だった。感覚が反転してるだけなら、左右を考える必要なんてなかったんだ」
「止めるか、避けるか。それだけで良かったんだ」
「……まぁ、右で止めたから左手はクソ痛ぇけど」
才牙は薄く笑う。
「"見る"んじゃなくて、"感じる"……それが正解だった」
「それを教えてくれたのは、お前だ」
――ッ……!
反顛羅の脳裏に、少し前のやり取りが蘇る。
『頭では分かってても、右から来たら右を守っちゃうよなぁ』
『仕方ないさ。本能なんだから』
――クソ……
才牙は煽り目で言う。
「礼を言う。ありがとな」
「面白ぇ……」
反顛羅は焦りを隠すように笑う。
「かかってこい。目を瞑ったままで、どこまでやれる?」
次の瞬間、嵐のような猛攻が始まった。
――右……左……右……下……回し蹴り……!
才牙は避けていく。
――コイツ……ただ勘じゃねぇで避けてるわけじゃねぇ……!
――腕や足を振る時の微かな風や音で方向を予測してやがる……!
「輪廻解錠――赫翼」
才牙の背に、血で形作られた翼が広がる。
反顛羅へと飛びかかり、翼で斬りつける。
――ッ……!目ぇ閉じたままでこの技……無茶にも程がある……!
才牙は飛び移った木の幹を蹴り、バネのように再び跳躍する。
――くっ……!
反顛羅が振り向き、迎撃の体勢を取る。
「輪廻解錠――断罪ノ剣」
刹那。
才牙と反顛羅は同時に攻撃し、二人は交錯し、背中合わせにすれ違った。
だが――
わずかに早かったのは、才牙だった。
反顛羅の核は、真っ二つに斬られてしまった。
反顛羅は体が崩れながら、才牙の方を振り向いて言う。
「嘘……だろ……」
その言葉を最後に、反顛羅の身体は塵となり、霧散した。
才牙は、ゆっくりと目を開ける。
「はぁ……っ……はぁ……っ……」
――いつもの……景色……
力が抜け、地面に崩れ落ちる。
「死んで……たまるか……」
這うようにして木へ向かい、幹に背を預ける。
そして脚を木に預けるように上げる。心臓より高い位置へ。
――呼吸は……浅く……酸素を……無駄にするな……
――医療部隊が来るまで……命を繋げ……
同じ頃、さらに奥の戦場では、別の気配がぶつかり合っていた。
「俺の相手は、お前だけか?」
相手がそう言うと、魔虎は答える。
「悪いかよ」
魔虎は不敵に笑い、拳を鳴らす。
「んなことより……さっさと終わらせようぜ」




