94ー冒険者は歯ごたえのある依頼を受けたい1(太陽視点)ー
魔物の森は猛暑でも外の世界はそこまでなんだね。初めまして、僕は太陽。優しいご主人と一緒に地球から異世界へと渡ったトカゲだよ。今では進化に進化を重ね、人型の姿になって、人里でも何ら問題なく生活できる姿になっている。僕はご主人とは違って一点に留まるよりもあちこちを見て、聞いて、体験して、実践するのが大好き。美味しい物の話を聞くよりも、それを食べたいとか思う事ない? 百聞は一見に如かずって言うよね? だから、僕はこの世界の何でも屋のような職業である“冒険者”となって近隣の人里を行き来することにしたのだ。
この世界は地球という世界よりもスピリチュアルな能力が多い。地球では魔法なんて超常現象はなかったし、できることに制限が多かった。でもこの世界ではそこそこ自由度が高いし、法則性も完全に異なる。僕はもっとこの世界を満喫したいのだ。
僕はそれから前もって言っておくけど、この世界では実際に生計を立てるための職業とは別に、その生命体の生存能力と拡張性を高める“職業”という物がある。この職業がこの世界では重視され、中にはその職業で家から追放されてしまうようなケースさえあるそうだ。
「……え? 何この鑑定結果」
「何かおかしい事がありました?」
「いえ、その……、私もこの仕事をしてそこそこ経ちますけど、固有職の人って初めて見たのと……。貴方は種族まで固有種じゃないですか? こ、ここここ、これ、これは私では処理できません! 少しお待ちください! チーフを呼んできます!」
僕達の中では割と固有の種族や職業も見慣れているので、気にしていなかったけど外の世界ではそうでは無いようだ。僕ら転生組はご主人の影響からか特殊な変異をすることばかりなんだよね。奇抜な名前の固有職業に奇抜な名前の固有種族だからね。そりゃ珍しいか。今思い返せばそれも自然の事だよね?
僕達が受付で待たされて数分。先程の受付嬢さんが上役らしい男性や女性を連れてきた。
おお……。ペロ助君みたいなマッチョなおじさんと、褐色の肌のエルフ族?のお姉さん、それから数名の人族の男性。強そうなのはおじさんとお姉さんだけで、他は取るに足らないかな? まあ、それでも僕は面倒事にならなければ問題ないので、ちょっと警戒している感じのおじさん…ギルドマスターの後ろについて特別室に全員押し込まれた。
僕達は10名二組のパーティーで、主戦力パーティーと補助パーティーに分けられる。補助パーティーの方は種族的に珍しい程度で、そこまで大きな問題はない。しかし、主戦力パーティーの方は主に僕が問題らしく、特別室で再び鑑定魔法を疑似的に発動できる水晶のような魔道具に手をかざす。僕の天職であり職業は固有職“正義の勇者”だ。そして、僕は固有種の“剣勇竜人”という種族。確かに特殊な職業で種族かもしれないけど、それほどのこと?
「いや、お前さんは事の重大さが判ってねーだろッ!!? 勇者ッ! 勇者だぞッ?! しかも、勇者の特殊固有職なんて歴代でも二人しか発現してねーんだッ! しかも、少し前に開拓遠征で勇者が死んで、直後の勇者再来だとッ!!!! これは帝国も黙っちゃいねーだろーがッ!!」
「いやいや、落ち着いてくださいよ。面倒なら今の皇帝陛下に話せばいいのでは?」
「お前……事の重要さ、ホントにわかってんのか? お前は出身地はどこか分からん遠方、身よりもなし。連れ合いも居ない。国や貴族が無理やり拘束しにくい第一位の勇者だ。それを取り合いにあちこちから……」
「ぎ、ギルドマスター。来客です」
「あんッ?! 今は忙しいからあとま…」
「そ、それが、お客様は宰相代行様なのです」
「……。仕方ない。俺がおうた…」
「それには及ばん。我の要件は貴殿と太陽の2人にある」
「ぶっ!! アンタ勝手に入ってくんなよ!」
あ、アカメ一号君だ。今は宰相の代行をしてるんだね。まあ、皆でハルドエン帝国を盛り上げようとしてるわけだし、彼くらい仕事ができるなら引く手あまただよ。まあ、彼くらい仕事ができるなら、そういうポストにつけちゃった方が楽だもん。僕でも宰相とか大臣とかそういうポストにつけちゃうだろうな~。
ギルドマスターは僕とアカメ一号君が顔見知りなのに物凄く驚いているけど、冒険者ギルドはまだ魔物の森の勢力が中枢に入り込んで、ハルドエン帝国を護ってるって知らないのかな?
あ、そういうこと。僕達が来るのを待ってたんだ。僕たちが帝都で冒険者登録をすると話していたから、僕達が来るまで機密情報を伝えるのを控えていたのかも。アカメ一号君は凄く几帳面な仕事をするからね。彼の考え方ならそうだとしても何らおかしいとは感じないよ。アカメ一号君は黒いローブを纏っている状態で、筒袖から手を突っ込んで懐をガサゴソ言わせた。中から取り出したのは封筒が2つ。一1つはかなり豪華なデザインの封筒で封蝋には、たぶん皇帝家の印象が使われている物。もう1つはご主人様の印象が誂えられた比較的質素なデザインの封筒。
この2通の手紙の意味するところは、僕も細かいと頃まではよくわからない。でも、アカメ一号君が宰相代行の地位を着た状態で、ギルドマスターに面会を求めたと言う事はそういう要件なんだと思う。冒険者ギルド相手に必要な手紙となれば、僕が勇者である事に関して何らかの意思表示関連になるのかな? 勇者はこの世界では国防戦力として囲われる存在らしいし。
「これは……ステファニー殿下からの書状。こっちのは……見覚えが無い。それよりも宰相代行殿はこちらの固有職勇者の少年と顔見知りなのか?」
「ああ。それもそちらの貴殿が見覚えのないと言った方の手紙を読めばわかる事だ。先に両方とも読むことを勧める」
「……分かった。少し時間をいただこう」
それからのギルドマスターのおじさんのは反応はとても面白かった。先に読み始めた皇帝代理のステファニー殿下?の書状は冷や汗を流しながらも、なんとか呑み込み切れたらしい。だけど、ご主人様からの書状に関しては、何度も何度も読み直しているけど、よく意味が分からないのかな? 目を白黒させ、時折自分の頬をビンタしたり、摘まんだりしながらと変な行動をしている。面白いな、このおじさん。
ギルマスのおじさんは最終的に、全てを呑み込むのを諦めたようで、手紙を読みたそうにしていたサブギルドマスターだというダークエルフのお姉さんに手渡していた。ダークエルフのお姉さんは切れ長の目をまん丸に見開きながら無言で読み進めている。そんなに驚くような内容なんだ?
皇帝家からの手紙は僕達の身分証明に関してだ。ハルドエン帝国内での僕達は抱え込みを厳禁とし、帝国内での自由行動を認める旨がしるされていたらしい。同時に皇帝家から貸与される通行証になるエンブレムの魔道具が同封されており、僕に渡すようにと書きつけられていたらしい。問題のご主人からの手紙は……。ご主人の遠慮のないところが表面に出ていたらしくてかなり困惑したそうだ。書き出し早々に魔物の森の王である事や、僕達の庇護者である事、ハルドエン帝国の防衛戦力としてならば僕を貸し出すと言う文言が記されていた。そして、ハルドエン帝国の全冒険者ギルドに通達を出し、魔物の森の王はハルドエン帝国と友好関係にある事を明確に伝えるようにと。…記されていたらしい。
「なあ、つーことはだ。お前さんも魔物の王の配下になるのか?」
「そうですね。僕やアカメ一号伯爵もどちらもそうだよ」
「え゛……宰相代行もかよ。なあ、帝国を乗っ取るつもりなのか?」
「いや? そんな利の無い事はせぬ。我々はあくまでこの地に聖地を置く“陽神”から神託を受けた故に支援しておるのだ。神託を受けたのは主殿であるがな」
「そだね~。別にハルドエン帝国を手に入れてもいい事ないし……。逆に僕達と繋がった方が、ハルドエン帝国は利益になってるんじゃない?」
「利益どころかこの国は沈む寸前の泥船だ。我々が何とか外堀を固めた故に成り立って居おるがな。少しでも気を抜けば直ぐに傾く。今は我が子、六号が物資と資源の輸送ルートと、北から帝都までの通商路を作ろうと奔走しておる。ホルスト商店という店を使って、我らが拠点の生産品を売りさばくつもりのようだ」
そこからはギルマスのガッツおじさんとフェーダお姉さんがギルド側の担当者として、僕とアカメ一号君はハルドエン帝国の役人と魔物の森出身の冒険者として、かなり厳しい情報遮断を行い会話を始める。この場で必要な話し合いは、ガッツおじさんやフェーダお姉さんが所属する“共立人材職業斡旋協会”の立場を明確にすること。この世界では冒険者ギルドと呼ばれてはいるけど、正式には“職業斡旋協会”と呼ばれる団体になるそうで……。その職業斡旋協会=ギルドなわけだけど、そのギルドには大まかに3つの種別がある。
まず、“国立職業斡旋協会”。これは国立とあるように、大国が国民の収入安定や人材不足の業界への人材派遣を目的に設立される公的機関。ハルドエン帝国には存在していない。
次に、“共立人材職業斡旋協会”。こちらがこれから関係を持つことになる団体で、様々な国家に渡り支部を持ち、自治体との協力関係で協会を運営している団体になる。広範囲に拠点を持つだけあり、支部によって特色や思想が異なるが、比較的差別思想が弱く、最も広範囲に展開している。
最後に“私立職業斡旋協会”。このギルドは私設ギルドであり、公的な面は一切なく会員登録制な上に会費まで存在している。しかし、コミュニティ意識が高く、団結力も高い傾向にあり、確かな実力の者は優遇される実力主義でもある。依頼の達成率も他2つの協会とは段違いで、優良な協会は国家にさえ影響力を持つ場合があるらしい。
「だから、俺達の所属する共立ギルドは全部が全部協力的になることはありえねえ。その点をアンタらの王様は認めてくれるのか?」
「そのような事情があるならば、貴殿らに無理を圧すことは絶対にない。ただし、同じ協会内でも差別的な態度を我らの身内にとったと知られたらば、その支部がどうなるかはわからぬがな」
「恐ろしい事をサラッというねえ……。このハルドエン帝国は実力主義だ。だから、種族差別は他の国よか緩いが差別がないわけじゃねえんだ。その辺は……どうだ?」
「程度に寄るだろうな。規模が小さければ個々人のやり取りで済ますであろう。しかし、国家ぐるみや自治体ぐるみとなれば……保証はできん」
「わかった。ウチは何とかしよう。それにハルドエン帝国は今、力が落ちて外から威圧的な動きをされると対処がしずらい。そこに勇者が現れたとなれば、俺達としちゃ仕事がし易いからな」
勇者ってそんなに影響力が高いのか……。現在、僕を含めると、この周辺国には勇者は全部で15名確認されていると言う。その中でもトップクラスの強さだったのが、ご主人が握り潰した雑魚勇者だったらしい。あれならば僕でも余裕で勝てたし…現状僕が最強になるのかな? それに僕はマサムネ君よりも単純な加護の数は多い。僕は4つの神の加護をもっている。“守護神”、“審判神”、“正義神”、“勇神”。この四柱の神様から一つずつ加護をもらっているんだよね。
ご主人様と仲がいいサンドラお姉さんも、ご主人が4つ目の加護をもらった時にかなり驚いているから、信用のできる仲間にしか言ってないけど。
神族の加護は、その当該神族よりも上位の神族が加護を与えている人物でなければ、他人が見ることはできない。僕が加護をもらっている神族は全員が高位の神族らしく、同等の能力を持っているマサムネ君達レベルからようやく見ることができる。“魔法神”の加護持ちが作る魔道具であるあの水晶玉では僕の加護は一つも見られない。だから、僕は加護無しの勇者と映るかもしれないけど、実はそれだけたくさんの加護があるんですよ。
「我々の加護は見えぬだろうな。我々のほぼ全員が高位神族から加護を受けておる」
「つまり、太陽のボウズも高位神族の加護持ちとなるわけだよな? ……パワーバランスひっくり返ったんじゃねーか?」
「うむ。そうだろうが、冒険者ギルドの仕事はランク制なのだろう? それだけ実力があろうとも、飛び級は余程の功績と実績が認められなければあり得ぬと聞く」
「それなんだよな~……。俺達が困ってんのはよお。おう、太陽のボウズ! お前、加護はいくつだ?」
「4つですね」
「はあ……。頭が痛いぜ。当分はばらさない方がいいかもな。つーことだ。しばらくは低ランクで冒険者のイロハに慣れろ。薬草採取とかの採取系からスタートだ」
まあ、理由はちゃんと理解できる物だったから、僕らはEランク冒険者ギルド証を受け取った。Eランク冒険者ギルド証からは、保護者無しでの活動が可能な最低レベルの冒険者を意味する。地味な仕事からスタートだけど、まあそれは仕方ないよね? 試験とかも無しだし、情報謝絶をちゃんとしときたいんだろう。……できれば、もっと派手な仕事をしたいんだけどなあ。




