93ー魔物の森の伯爵は纏める(アカメ六号視点)ー
やっと帰還だな。ハルドエン帝都だ。我とホルスト氏、アルスター氏の3人と人型外装ゴーレムが多数。予定通りに各地に支店を開店させ、最後に本店を大々的に開業する。実は既にマスタングの商業ギルドから手を回してもらい、各都市での設営は非常に上手くいった。また、宰相代行の我が父と皇帝代理のステファニー殿下からも手が回っており、帝都での土地確保や開店までの道筋はできあがっていたのだ。
しかし、我も店舗が開業しているとまでは聞いていないのだが?
受け付けには先行していた人型外装ゴーレム達が立っており、我らがトカゲであった時の姿にベルを持たせた呼び鈴に触れるとこちらに来てくれる仕様のようだ。
一体誰が? とは考えたが、そんなことは決まっている。我とホルスト氏が来たことで執務室に案内されたのだが……。その隅に自前で用意した小卓で書類仕事をする母上が居た。
「おかえり、六号。物資運搬のルートと資金源は確保できたんだね」
「うむ。大枠は整えられたぞ。あとは実際に運用して粗探しをする段階だ」
「八割方コンプリートだね。言うて失敗はないでしょ。六号にしてはかなり時間かけて下準備したみたいだし」
「いろいろ予定外の事が多かったからな。我も疲れた……」
「その子達は…例のミニマムゴーレム部隊?」
「そうだ」
ホルスト商会はマスタングの商業ギルドからの推薦書と、皇帝代理、宰相代行が手を入れている。そんなホルスト商会は商業区のメインストリートの一等地に店を構えていた。
魔物の森の拠点が関わっているので、物資の搬送能力が段違いであるこ。後ろ盾の大きさ。商品の品質。これらの理由から既に元からの大店は戦々恐々状態らしい。ホルスト氏はあまり喧嘩腰な商売はしないが、彼は薄利多売から一点物の高級品まで様々な値段帯に対応。その上、様々な品目の商品を幅広く売り出している。どのようなジャンルの商品でも手広く扱うので王都の商人でも注目の的だ。
あと、戦々恐々状態の商会はハルドエン帝国に害がある。勢力と深い関係にある連中に限る話だがな。
ホルスト氏と友好関係を築くことができそうな大店や老舗などにはホルスト氏の仲介は必要だが、商品を流し、波に乗り遅れるようなことが無いようにと配慮もしている。我々はハルドエン帝国が失った勢力をある程度まで回復させること、皇帝家を護り陽神からの依頼を完遂すること……。これこそが我々が持つお題目であり、それ以上事を荒立てなくても良いならばそれに越したことはないのだ。
ただし、精力的摩擦が起これば必ず面倒事は起こって来る。それに見越した動きも既に対策はとっているのだがな。兄上達やクレス隠密班のヒノエとキノトがそれにあたり、敵の動きがあればすぐに彼らも動くだろう。
「人型外装チームはまだまだ余りそう?」
「どうでしょうな? こちらに残る者もいれば、森へ帰る者もいます。今のところは外部に残って仕事をしている者の方が多い割合にはありますがね」
「人型外装チームが手隙なら皇帝家の護衛に戦闘特化型が何体か欲しいんだけど」
「それこそ母上がご自身で各人と取り合ってください。我もあの自由人達とのやり取りは疲れました……。まあ、我の仕事は八割方片付いたので、その辺り必要なことはこれからはホルスト氏が執り行う事ですからね」
「そっかー……。まあ、その辺は自分でやるよ。六号もお疲れ様~」
これで我の仕事の8割が終了。残りの二割は少し待たせた形になるが、今から行く場所で顔合わせ程度ならできるだろう。我は父上にも要件があったので宮殿に向かい、その宮殿の付近にある練兵場の将軍達が居る場所を見たらばちゃんと居た。元は魔物の森開拓遠征軍に所属していた男で、数少ない生き残りの中で我々から見て優秀だった者を数名勧誘していたのだ。……七号の事だから数名は強引に引き込んだ可能性はあるがな。
我が一番気にしていたのはもう50歳近い男ではあるが、指揮官としてはとても有能な男。元は前線部隊の隊長格だった男でバームズという。この男は現職が天職の近接補助系戦闘下級職の“小隊長”だ。少人数の隊を率いる時に大きなポテンシャルを発揮する職であり、仲間を鼓舞しつつ戦闘力や統率能力を時間経過で上昇させるというかなり有用なスキル構成の良職だ。ただし、その先に存在する“中隊長”、“大隊長”、“特務隊長”、“師団長”、“軍団長”などから見ればかなり見劣りし、適性者の多さからあまり重用はされない。
「おお、バームズ殿だな。我とは初めまして…となるが、調子はどうだ?」
「ん? ああ! お前さんが六号伯爵か? いきなり物騒な嬢ちゃんを送り込んできやがって……。おかげで大変な目に遭ったぞ」
「やはりか……。済まぬ。他の要件が無ければ我が直接赴こうと思っていたのだがな。ホルストと言う男を覚えておらぬか?」
「そりゃな! 自分の隊で一番かわいがってたんだ。今じゃ退役して商人をしてるみてーだが、アイツは優秀だった。何よりも敵を見て動けるからな。判断能力の高い兵士は貴重だしよ」
「その通りだ。そのホルスト氏の商店を商会の規模に押し上げるため、我は遠出をしていたのだ」
「商会に? そんな一気に何とかなるもんでもねーだろ?」
我はその場に居たこのバームズとも顔見知りで、七号にリストアップして勧誘するように言っておいた者を呼び集めて話した。この場に集めたのは元からのキャリア軍属ではなく、中途採用の前線指揮官になる将官だ。正直、末尾後方の指揮など余程の天才が務めねば大きな変化はない。それこそマサムネ氏が来て、若者を教育してしまえば現在のキャリア軍属などはお飾りとなり、役立たずとなっていくと思われる。
どのような手を使ったのか本当に知らんが、七号のヤツは我がリストアップしておいた有能なキャリア軍属候補を全員引きずり込んだようだ。“元前線隊長のバームズ”、“聖獣使いのアネット・リビル=フォン・レナン男爵”、“元開拓遠征軍の破壊将軍カラム・コベット”、“元開拓遠征軍将軍の演舞槍のミカ・ラディッシュ”。このほかにも十数名居るが、元開拓遠征軍で生き残った雑兵からのたたき上げになる。元開拓遠征軍の将軍級ユニットは腐敗の中で腐っていた者が多く、そのほとんどが落命しており、生き残りが二人だけなのは実に惜しい。しかし、戦闘と指揮だけが取り柄のカラムと、皇帝家への忠義が物凄く厚いミカはその実力もあり、重傷ながら生き残った。
他にもあの災厄を生き残った者は、何も運のみで生き残ったわけではないのだよ。
主殿にそこまでの狙いは無かっただろうが、あのシザーズアントでの津波は極めて有能な戦士や指揮官や、判断力の高い兵士を割り出した。あの凶事の中を生き残った兵卒は実力面、判断力、行動力、指揮統率力と様々な面に秀でているのだ。
「お? このボウズか。俺をボッコボコにした小娘やオオトカゲの連れってのは! 今度、お前ともやり合ってみたいもんだぜ!」
「カラム! 貴殿が六号伯爵閣下でありますね。ご挨拶が遅れました。ミカ・ラディッシュにございます。この度の登用推薦には感謝の…」
「ミカの姉御ながいっすよ。アタシはアネット。七号ちゃんのお兄さんなんでしょ? これからよろしくね~」
かなり自由な連中だが、代表格の連中から各々声かけがあった。
声掛けのあった連中は既に実力面や家柄もあったりとで、既にキャリア軍属に組み込まれている。もう少しでマサムネ氏が帝国元帥へと正式任命されるので、それを機に帝国軍内部も大幅な構造改革が行われる事だろう。本来ならば実力社会であったはずのハルドエン帝国だが、実力社会となってなかったのだよな。家柄や横繋がりのコネでの入隊、昇進、役職務めとよろしくない風潮が蔓延していた。これは今は亡き宰相一家が仕組んだ組織構造の支配構想でもある。確かに財力も力と言えばそうだが、軍属にそれを移し込むのはな。いささか無理があると言う物だ。現状でも割れが見ているだけで、能力の無い上官と能力のある部下という捻じれた構造があちこちに散見している。
それを正していくことも我が望んだ改革の一つだ。
主殿は陽神からの依頼でハルドエン帝国の沈みかけた船を、何とか再起させることを要望されている。それを成就させるためには、このような足場がしっかりしておらねばそこから崩れ落ちるのだ。船は竜骨という背骨にあたる部分がしっかりとしておらねば荒波を越えられぬ。もちろん、それ以外の部分も堅固である事にこしたことはないが、まずは背骨をしっかりとした物に入れ替えねば波に抗えずに瞬く間に沈む事だろう。我がしているのは父母や兄弟姉妹が環境的な保護や、穴の開いた部分の修繕をしている間に根本的な部分を作り変えること。そうせねばハルドエン帝国の未来はない。その度に我々を動員されても困る。
「へえ、やっぱり六号伯爵君達は例の王様の上位眷属なんだ」
「そうだな。我らは忠臣衆と呼ばれている。我らは主殿の命により帝国を壊滅的状況より救わんとこの地へ参った」
「それはちと矛盾してないか? ならなんであの時あんなひでー事をしたんだよ」
「それは神族に問うてくれ。それを行えと命を出したのは神族だ。我らが主はこの世界初である鬼族の稀人。神族との関係は切っても切れぬ上、この国にはその神族が出張るような腐敗が定着しておった。我から言わせてもらえば、その災厄を舞い込ませたのはハルドエン帝国に根付いておったクズ共だ。我らが王は無駄な殺しは望まぬ性分なのだよ」
「そうだな……。軍の上層部に居た俺達は知って居るが、宰相派閥からの干渉により、軍部は大いに歪んでいた。あの遠征も何度となく撤退を望む声が上がっていたが、その声が通ることはなかった。その歪みを是正できなかったのは誰のせいでもなく、俺達一人一人の力の無さが原因なのだろう。魔物の森の王を責めるのは筋違いってわけだ」
カラムが言う程に自責することでもないがな。我も我らが君を侮辱されたような気分になり、少々熱くなってしまったが……。実態としては確かに我が主があのような凶事を巻き起こしたことも事実である。そこは我も認めねばならん。当時のハルドエン帝国に見せつけねばならなかったとは言え、あの事件はハルドエン帝国内に大きな恐怖を植え付けた事だろう。
だがしかし、以前は以前であり今は未だ。生き残った諸君の気持ちも分からなくはないが、これからはハルドエン帝国を生き残らせるために考え、行動に移していかねばならない。それ以上でも以下でもなく、過ぎた事の問答をしていても始まらぬ。これから牙を剥いて来るのは、元は同胞であった諸氏だ。その勢力が敵となった以上、以前は敵であったかもしれぬが、今の状況で味方となった我々と手を取り合わねばこの先はない。
我が行ってきたのはあくまで生命線の確保と、生存における防御能力の確保。まだまだここに居る諸君が成長し、これから部下となる者達を纏め戦わねばならない。軍人とは戦の場で矢面になることが仕事。死という概念が目の前に転がっている極めて苛烈な職業だ。それが攻め戦であろうが、守り戦であろうが変わらぬ。この場に居る諸君は自らの命はもちろん、誰かの命を守る事が本懐となる仕事をすることになるのだ。その為に、敵となった者の命は躊躇なく奪わねばならん。
「敵味方などはその時世により簡単にひっくり返るぞ? その時、貴殿らが何を考え、何を護ろうと考えるか。それこそが武をもって盤上を制す者達が見る答えだ」
「おお、マサムネ氏。よくぞおいでになったな」
「先ほど正式に皇帝代理より帝国元帥としての役職を仰せつかった。大層お若い皇帝代理で少々驚かされたが…、あの方は民草思いの賢君であらせられる。一時とはなろうが、我も全力を振るわせてもらうつもりだ」
「む? 一時と言うのはどういうことだ? 魔物の森とハルドエン帝国は同盟関係になったんじゃないのか?」
「……それは、どうだろうな。我々は助けたいと考えている。しかし…な」
そこが難しいところだな。確かに現在は我々が総力をもって補助しているが、この先の展望は我らのような者が決める事柄ではない。それこそ我らが至高の君主であらせられるユウゼン シロイ様と現皇帝のアレクサンドリア皇帝がどのような繋がりを築くかにもよる。また、今後の付き合いが良好でも、魔物の森の住民が大手を振ってこの地に残るかはその時次第となるだろう。
我はそうなってもよいように、幅広い策謀の選択肢を残し大動脈を築いた。しかし、それとて今後の選択次第で大きく変わるのだ。我が予想するにハルドエン帝国が健在となり、周辺との軋轢が収まっていけば主殿は手を引いて行かれる事だろう。その時に我々とハルドエン帝国が手を取りあっているか、背を向き合っているか……。はたまた友好の抱擁を交わせる程に親密になっているかは、その時の状況次第。
物事は全て時世に流され決まって行く物だ。しかし、決めていくのはあくまで我々のような個々人である。それを忘れてはならない。先行きは、その日その時の選択によって変わっていくのだから。




