82ー北東領域からの移住者…人見知りなアルケニー
異世界転生後、550日。午前中に外へと出て行く部隊が出払ったところで、外壁の歩廊上で守衛をしていたミニマムゴーレムのミスリルヘルムから部下を介して連絡が来た。働き蟻型ゴーレムに跨ったミニマムゴーレムの戦闘員が小型スピーカーのような魔道具を抱え、ミスリルヘルムとの通信を中継ぎしているのだ。
ここでおさらいだが、ミニマムゴーレムはある程度の範囲の同族間では荒い念話のようなことができる。最近では◎〇△×だけではなく、OKやNO、顔文字などを手持ち札で表現するようになったのだが……。それだけでは意思疎通は完璧ではない。分かり易くはなっているんだけどね。
詳細な伝達が必要な場合は今ここに来たミニマムゴーレムのような伝令個体が、拠点のあちこちに動く体制を取っている。数だけならチビセイレーンと同じくらい居るので、暇人は必ずどこかに居るから喜び勇んで動いてくれのだよ。あまりに暇すぎて、僕が動いていると後ろをついて来る個体も居る。仕事が欲しいらしい。
『主殿。以前に話を聞き及んでいた“アルケニー”達が来訪した。同時にマサムネ氏にも連絡は通しているが、主殿にも伝えておく。今は我が応対しているが、直ぐに入れて問題ないであろうか?』
「うん。第一層の広場までなら何ら問題ないから入れちゃって。そこまで強い魔物は居ないと思うけど、完全に安全でもないから」
『御意。では、第一層広場でお待ちしている。よろしく頼む』
「了解。今から行くね」
今回の移住希望の種族は“アルケニー”。大蜘蛛の頭部部分に人族女性の上半身がくっ付いているような見た目の種族だ。ちなみに“アラクネ”と“アルケニー”は下位種と上位種の関係で、アラクネは魔物でアルケニーは魔人だ。一応魔物系統の種族である事は同様なのだけど、その戦闘力や生存能力は各段に違う。そして、アルケニーは魔人なので人類種と同等の自我と知恵を持ち合わせる。なので今回はそのアルケニーに条件付きの移入を認めたのだ。
今回のアルケニー族は蛇尾の一門と同様に、少数でコロニーをつくっている魔人の一族だ。事情は蛇尾の一門と似たり寄ったりなところがある。自族だけではコロニーを維持していくのが難しくなり、アルケニー族の場合は僕の庇護に入り働いて生きていくことを選んだのだ。それから過去に蛇尾の一門と縄張り争いをして負けている種族なので、北東の縄張りで大きな顔をできる立場にはないらしい。だからこそ魔物の王である僕の下に付いて労働することや、アルケニー族の文化を伝えつつ大人しく生きていくことでここに移入することとなったのだ。
「お初にお目にかかり恐悦至極にございます。わたくしがこのコロニーの代表でありますシルキーネにございます」
「ああ、そんなに畏まらなくていいよ。僕はゆるゆるとやりたい事をやらせてもらって生活しているから」
「あ、え、あ? は、はい。わかりました?」
「主殿。いきなりそのように言われてもすぐには受け入れられませぬ。ここはわたくしが受け持ちますので、様子をご覧になっていてください」
「おっけ。僕は様子を見させてもらうよ」
大人?のアルケニーが全部で15体。子供?のアルケニーが全部で40個体くらい。それよりも小さく、20㎝くらいのアルケニーが無数にいる。僕の後ろに居た我が拠点の小さき者達とばっちり視線が合っているので、遊んでよいと僕が言うと、ミニマムゴーレム、チビセイレーン、ママンドゴラ、ピグマエウスドラゴニカの若者、光球妖精族がワッと大人のアルケニーの背の上に居た小さなアルケニーを誘いに動く。
大人のアルケニーは困惑しているが、小さなアルケニー達は構わずウチの小さき者達と戯れに行った。この拠点はこんな物なのだ。僕が保証することを口頭で伝えたので、大人のアルケニー達は一応納得してくれたらしく、移入に際したいろいろな説明を再開した。
マサムネがその辺りを管理してくれているので、僕としては特に問題に感じないし、僕は僕に絡んで来るママンドゴラやピグマエウスドラゴニカの若者と戯れながらその様子の見ている。話を聞いている限り、僕の見立て通りで成体のアルケニーが15体。まだ生体でなく、成長中のアルケニーが40個体。現在無数にいる小さなアルケニーは今年生まれた子達だそうだ。アルケニー達の食料事情は相当悪かったらしく、これだけの数の仔蜘蛛が生まれても生き残るのは本当に僅かなのだそうだ。場合によっては大人のアルケニーも狩りの最中に死んだりするので、コロニーを維持するのにも四苦八苦しているらしい。
「我々は種族として“スパイダーシルク”を作ることができます。通常の蜘蛛糸とは違い、ねばつくこともなく、肌触りのいい良質で頑丈な繊維です」
「ほほう。これがスパイダーシルクで織られた布ですな。確かに手触りがよく、見た目の上品さとは裏腹にかなり頑丈ですね。刃物も通さない防刃性も高い。ですが吸水性は植物性の布の方が上のようですね」
「そうですね。吸水性に関してはマイナス点かと」
「ちょっと待ってマサムネ。今サラッと流しちゃったけど、アルケニーにはこんな上質な紡績と織布の技術があるってことだよね?」
突然の僕の乱入にビクッとしたアルケニー達だったけど、僕がスパイダーシルクを手に取り、穴が空きそうな程見つめているのを不安そうに見つめてくる。いや、そこまで心配しなくてもいいんだけどな……。このスパイダーシルクはこの拠点の機織り機で作る布よりも完成度が高いのだ。一見しただけではわからないと思うけど、ウチでも作っている魔物蚕のワームシルクと比較すれば品質の差が一目瞭然なのだ。素材の差もあるとは思う。けど、布地の織られ方に違いがあるのか、そもそもアルケニー達の特別なスキルなのか……。そこまでは知らんけど、アルケニー達が織布の部門だけでも担ってくれれば、布の品質が爆上がりする。
あとマサムネは魔法に詳しくないから気づかなかったと思うけど、このアルケニーのスパイダーシルクは属性付与への適性が非常に高い。同じ魔物から得られる蚕糸であるワームシルクと比べても大きな差がある。これは魔物としての位階の違いなのか、能力の違いか? その辺に関しては僕も直ぐには分からない。分からないけど、これは捨てがたい人員だと思う。
その辺りを僕がざっくり説明すると、アルケニー達はホッとしたのか、大きなため息をついていた。そこまで縮こまらなくていいのだが……。その辺りをアルケニーの代表に聞いたらば、単純に継代して来た技術の差だろうという。確かにアルケニーは魔人化した時に天職を得たらしいのだが、機織りの機材としてはたぶんウチの拠点の方が高性能だそうだ。
「やはり、主殿は生粋の職人であらせられるようですな」
「しょ、職人? 魔物の森の王、王の太守様は比類なき強者であると聞き及んでいるのですが」
「間違いではないぞ? 間違いではないが、このお方の天職は“製作者”だ。あらゆる生産物の生産能力を向上させ、品質の向上までもがついて来る破格の職ではあるのだが……。戦闘職ではないぞ」
「うん。僕は基本的に平和主義だよ。まあ、その分だけいろいろ背負わされてる面もあるから一口に言いきれないところはあるけど」
僕は多くの神族から加護を受けるこの世界初めてになる人族以外に生まれた稀人である。
それが根底にあり、この拠点には様々な神族からの関わりがあり、特に豊穣の加護が根強いと今は言える。戦闘系の加護が無い事もないが、僕個人は戦闘事よりも日がなゴソゴソDIYしている方が好ましいのだ。戦績? ああ、一応勇者を一人討伐しているので、口が裂けても弱いとは言えないとは思う。
勇者の討伐歴にはかなり驚かれたが、マサムネの注釈にはもっと驚かれた。僕は生産の効率化のため、内包魔力量や聖氣量をかなり増強している。それから緻密な魔力操作による魔法陣の書きつけなどもするから魔法の制御力も非常に高精度。一般的な生産職では使えない大魔法級の魔法も魔法系の加護無しで使えるくらいには日々訓練していた。日々努力である。
生産系の神装2つ。“地母神の農具レプリカ”、“偽核の心臓”を所有。
戦闘系の神装3つ。“アークバイズsocomMK23型”、“光神剣スプライトダガー”、“黒鬼王槍”を所有。
僕の事で直ぐにわかるぶっ飛んだことはこの程度かな?
「鬼人族の稀人様……。わたくしも長く生きて参りましたがそれは初めて聞きました」
「へー。長く生きてるってことはクイーン個体だったりする?」
「陛下は我々のような魔物の知識にも明るいのですね。……はい。わたくし、コロニーの代表でありますシルキーネはただのアルケニーではなく、“クイーンアルケニー”であります」
「へ、陛下……。なんかこそばゆいから名前で呼んでくれたらいいよ。あ、僕はユウゼンって言うんだ。よろしく」
「このように我らが君は下々の者にも気さくに接するお優しいお方だ。そこまで警戒することはないぞ。貴殿らが置かれて来た状況から、過度に警戒してしまう事も理解している。しかし、ここで生活していくならば、もっと砕けねば疲れてしまうぞ?」
「そうじゃん! 新しい住民じゃん? よろしくじゃん!」
「なん? おっきい蜘蛛さんなん。蜘蛛さんは益虫なん。農家の僕は歓迎するなん!」
「この布材の生産者なんだな? 鍛冶班とも仲良くしてほしいんだな!」
「うむうむ。ここでは各縄張りの太守もそこらへんに普通に居るのじゃ! もっと楽しむといいのじゃ!」
五月蠅いのが集まって来た……。蒼穹の太守リンドブルムが現れたことでかなりビビッていたが、似非幼女姿に過剰に驚いている割合が多いかも。それから無駄にフレンドリーな“なんじゃんだなのじゃカルテット”の絡みにタジタジな感じがする。たぶん僕も初対面ならああなると思う。アイツらは本当にずけずけ行き過ぎなんだよな。人も魔物もその個人に距離感と言う物があるからね……。このカルテットにも少し抑えるように言わないといけないかも。
マサムネが移住者登録を行うとかで、アルケニーの大人とある程度の大きさになった子供のアルケニーを引き連れ、拠点内部に入って行った。
今年生まれた小さなアルケニー達は同じく小さき者達と戯れながら、あっちこっちへ散っていく。僕はマサムネとは別口で布をもってお針子班に新戦力の投入を伝えると……。しばらく耳が正常に働かない程度には高威力の高周波をくらった。狂喜乱舞するのはいいのだが、ここは小山の洞窟をリフォームし続けている地下施設だ。よく反響するので、女性の放つ嬉しい悲鳴は耳に突き刺さる。この生産道ではよくあることではあるのだが……。これは大ダメージ。たまたま近くを通りかかったスーパータンジェロ一号が伸びてしまった程度にはいい威力をしていたんだよ。
「大丈夫かい? スーパータンジェロ一号」
「お、おう……。今のは何だったんだ?」
「ああ、この前話してたアルケニーが今日来たんだよ。彼女らはかなり上質な糸や布を作れるって教えたらね……」
「なーる……。それは仕方ねーわな。俺達も“アロルライト”が手に入った時は狂喜乱舞したもんな」
「そろそろ防音魔道具つける?」
「そうだな。検討しとくぜ。じゃんじゃん辺りが喜んで作るんじゃないかな?」
「スーパータンジェロニキ! あんまじゃんニキに仕事をふらないでくれ! おいらが休む時間が無くなっちまう!」
「だそうだよ」
「しゃーないか。俺が時間のある時に考えとくよ」
錬金術関係や製薬、調薬関係の職務を遂行しているスーパータンジェロ班とスーパーマックスノー班は、高い技術が必要になるから一朝一夕に人員が増えないからね。ミニマムゴーレム達が加入し、手数は増えているけど……。とくにじゃんじゃんが風の向くまま気の向くままにアレコレと手を出すので、その助手のミニマムゴーレムであるホワイトキャップは大忙しなのだろう。
ホワイトキャップは生産道に出入りしている製造系の仕事をメインにしているミニマムゴーレムの統括をしている。ミニマムゴーレムが個人主義で元来から自由なところがあるので、作業員のムラなどが出たりするのをあちこちから、あちこちからかき集めるなどしていて苦労しているのだろう。先ほどまで僕の背後に居たミニマムゴーレム達がホワイトキャップの依頼を快諾し、魔道具製作のラインに加わっていった。まだまだ残っている個体も居るが、呼びかけに応じなかった個体は製造系に向かない個体らしい。
蟻型ゴーレムに跨った農業をするミニマムゴーレムのストローハットが掻っ攫って行った。そこにマサムネが現れ、後ろには大人のアルケニー15名を連れている。これはヤバい……。と思い、僕が防音魔法を行使、しかし、お針子班の女性陣の津波は抑えられない。若干人見知り気味なアルケニー達は物凄い勢いで逃げて行ってしまった……。彼女らが慣れるまでにはいろいろな苦難があるかもね。




