83ーなんなんからの家畜魔物と植物魔物の報告ー
転生から555日くらい。僕は農業関連には最近はあまり関わっていなかった。あちこちから様々な種苗をかき集め、宝物のように愛でているなんなんパラダイス。キャラメル一号に任せっきりにしてしまっている。余程楽しいのかどんなに忙しくとも、蟻型ゴーレムに跨り『なんッなんッ♪ なんッなんッ♪』と鼻歌を歌いながらあちこちに出没していた。そのキャラメル一号からドカンとまとまった報告があると、今日は呼び出されている。
キャラメル一号が勝手に拠点にしている強化ガラス製の温室に、分厚い紙の束を持ったキャラメル一号が既に居た。かなりの長期戦になるようで、お茶や茶菓子まで用意している。相変わらず楽しそうに鼻歌を歌いながら僕が来るまでに準備をしておこうとしていたようだが、僕が少し早めに来たのに気づいて出迎えに来てくれた。
「お、ご主人なん! よく来てくれたなん!」
「うん。君がいろいろ報告してくれるって言うし。聞いた方が安全な気がしたから」
「なんッ?! 大丈夫なん! 僕のすることには何ら危険なことはないなん!」
それはどうだろうか? 僕は忘れていないぞ? この温室の中で特級災害指定種にあたる魔物や植物型の精霊を勝手に育ててこととか。なんなんパラダイスはそれすら危険なこととは考えていないのだろうな……。
そのキャラメル一号がまず紹介してくれたのが、その特定災害指定種にあたるドライアド・オリジンだ。そのドライアドは最初は小さな鉢植えに植わっていただけだったはずなのだが、今では中学生くらいの体格へ成長しており、二足歩行しお茶の準備や他の植物への水やりをしたりなどしている。この巨大なガラス温室内の管理を10個体のドライアド・オリジンが行っているらしい。しっかりと共通言語まで話すし、サテュロス給仕班と同じ給仕服を着て働いている。
見た目はかわいらしい女性だが、あまり軽視できない魔物なんだよな~……。
「お久しぶりにございます。ユウゼン様。私共ドライアド・オリジンキャラメル1号様の指示の下、お仕事をいただいております。今後ともよろしくお願いいたします」
「うん。よろしく。あんまり無理しないようにね」
そのドライアド・オリジンたちがキャラメル1号の指示の通りに家畜魔物達を連れてくる。結構初期からいるモヒカンチキンなのだが……。なんかすっごく逞しくなってないか? これがモヒカンチキンの存在進化種で、セイキマツジドリ。こちらは採卵よりも肉質の良さが売りらしい。数を増やすのにはそれなりに時間がかかるらしいけど、超美味いと言う事だ。
次に連れてきたのは僕の知らない内に家畜化していたウシ型魔物とイノシシ型魔物だった。一応、報告は受けているし、詳しくは知らないけどキャラメル一号がしっかりと調教し、管理していたそうで……。この拠点で生産される飼料で育てると、空腹になることが無いからか? その理由はよくわからないが気性の粗さは徐々になりを潜め、今では食肉加工できるくらいには数を増やしているらしい。
食料生産の中核であるキャラメル一号がいろいろ管理しているが、ここに持ち込める物は全部持ち込んで様々な説明をしてくれる。どこから系統育種の知識を持って来たのか知らんけど、そこそこの数の珍作が並んでいる。美味そうな物ももちろんあるのだが、どう見ても食欲が失せる色合いの野菜もあり、見ていて飽きないが……。困惑はする。
「いつの間にか存在進化してたんだね……。モヒカン」
「なん! かなり強くなったんなん! 筋肉マシマシで締まった肉質なん。脂身が少ないからヘルシーなん」
「いやまあ……。家畜だから強くなってもあんまり意味がないんだけどね。そんなに美味しいの?」
「めちゃくちゃ美味しいなん。だけど、レポートに書いてある通りなん。あんまりすぐに増えないなん」
「僕も楽しみにしておくよ」
ここ最近食卓にのぼるようになってたから、知ってはいたけどいつの間にか牧場まで作られ、飼育されていたのがウシ型魔物の“ボドスバイソン”。森林内に住むウシ型魔物でウシ型魔物なのに草食ではなく雑食。もちろん植物も食べるのだが、ある程度の大きさの動く物を見つけると、かなり厳ついツノでかちあげなくては気が済まないというヤバい魔物だったのだが……。キャラメル一号が作った作物さえ食べていれば、見た目が同じ別種の魔物ではないかと思う程度には別物になっている。
キャラメル一号が言うにはそれは他の魔物にも言えることで、この土地で作られる作物を食べさせていると、凶暴な魔物もそこそこ大人しくなるらしい。いつの間に実験したのか知らないけど、いつもの如く“ついでなん”といいつつレポートを見せてくれる。美味しい肉を求めていろんな魔物を試したようだ……。
いつの間にか用意されていた牧場の隅には鳥魔物の飼育用の建屋とブタ…もといイノシシ魔物の飼育用建屋が建っている。もちろん、ウシ魔物を入れておく牛舎もある。僕も完全にノータッチだったとは言え、これはかなり大規模にやったもんだな。ノーマル一号に依頼したらしく、それならこの規模とこのクオリティも分からんでもない。
「まだ増えてないけど、いろんな肉用の鳥型魔物とか、ブタ型魔物にしようとしてイノシシ魔物を集めたんだなん。特に鳥なん。それにブタ型魔物って見つからないなん。オークは見つけたなん……。だから今はフォレストボアを継代飼育してイノブタにしようと頑張ってるなん」
「正攻法に転じたわけか。でも、オークって……」
「そうなん。顔面がブタなだけで正体は鬼型魔物なん。美味しい魔物ではあるなん。だから、定期的にペロ助ニキに狩ってきてもらう程度でいいなん」
「そうだね。あの種類はちょっと面倒だしね。それと、レポートを見る限り鳥だけ結構な種類を集めたみたいだけどどうして?」
「鳥は地球でもいろいろな料理があったなん! 日本ではニワトリが多いけど、海外ではシチメンチョウやガチョウなんかも食べるなん! だから、僕も美味しい鳥型魔物をいろいろ探してみたなん!」
レポートを見る限り、まだまだ飼育開始してから期間が短いらしくそこまで増やせていないようだ。鳥型魔物の種類としてはモヒカンチキン、セイキマツジドリ、ガンガモ、キジャク、ダイガチョウ、ヤマタノキュウメンチョウとこの七種。他にもいろいろ調べたらしいのだが、危険すぎたり繁殖能力が悪いなどと飼育には適さなかったそうだ。あと、前記七種に加えて、もう少しで身になりそうなプロジェクトがあるらしく、それができたら超ハッピーらしい。
その鳥型魔物と言うのが…コカトリスだ。コカトリスは肉質もよく、素材としても素晴らしく、卵も美味いといういろいろハッピーな鳥なのだが……。凶暴過ぎるで飼育はかなり難しかったらしい。それも徐々に緩和されてきているので、もう一息なのだそうで。
ガンガモは大きさ的には普通のカモと変わらず。水中に潜り魚型魔物を捕食していた水鳥で、魔晶湖に行けばそこそこいるらしい。いるけど卵もそこそこ美味しいらしいし、肉質もカモ肉に似ているのでまた違う食肉として注目している。キジャクはキジとクジャクの中間のような種で、見た目が派手なキジと言う感じだ。味の程は正直他の種と比べ微妙なのだが、繁殖速度が速く、農園の雑草を食べてくれるらしくアイガモみたいな使い方ができるらしい。ダイガチョウはかなりデカいガチョウ。肉の量を取れるので飼育を開始。お味は中の中だそうだ。最後のなんか凄い名前のヤマタノキュウメンチョウなのだが、コカトリスレベルの危険種なのだが、とてつもなく美味な鳥型魔物らしい。繁殖速度が極めて遅いらしいが、その分だけ味がいいのでキャラメル一号の要望で増やしていくそうだ。
「ホントにいろいろしてたんだね」
「なん! 美味しい物のためなん! それに楽しいなん!」
「それはよかった。だけどさ……。奇妙奇天烈な野菜のオンパレードは何?」
「面白いなん! 中には美味しいのもあるなん!」
「それはいいけど、たまにヤバげなヤツもあるよね? これらはどう使うつもりなのさ」
「ほとんどは薬剤の材料なん。使い方は詳しく知らないけど、スーパータンジェロ一号がいろいろやってくれてるなん。スーパーマックスノー一号は最近はホワイトキャップにぎゃーすか言われてるから頼みにくいなん……」
食肉用の家畜の事はまあまだいいんだけど、僕として気になるのは野菜の方だ。
最初に気になったのはトマト。前までは糖度のかなり高い“ベリーベリーミニトマト”とか“アップルトマト”とかの見た目が他の作物に似ている物までならまだ良かったんだが……。まず、赤紫色の“インフェルノトマト”だね。キャラメル一号曰く、喉を焼く勢いで辛いらしい。能天気なじゃんじゃんがつまみ食いしたら大変な目に遭ったという。そんでもって白色のトマトが“コキュートストマト”。これは触っただけで冷たいので、食べるまでも無くヤバいのが分かる。
他にもいろいろあって“タマゴナス”と銘打たれた生卵が生るナス。“ニジイロパプリカ”は色が異なる場所で味が異なる。“ヒップホップコーン”はリズミカルに爆ぜてポップコーンができあがるし。“オバケカボチャ”はずっと浮遊している巨大カボチャ。次々に玉が重なるように育っていく“クラゲレタス”などなど。
前者はまだまともな品種で、もちろんヤバいヤツもある。熟した状態で触ると爆発する“ボンキャベツ”。五寸釘のようなイガが特徴的な“ゴスンクリ”。こちらもかなり攻撃的な種類で熟れると破裂する“レモネード”。この辺になるともう使い道が食品ではない。キャラメル一号に聞く限り、攻撃的な種は熟すと破裂してしまう。だから熟す少し前に収穫し、時間停止機能の付いたコンテナに厳重に保存されているそうで。何に使うかは既にだいたい決まっており、拠点防衛用のアイテムとして使うのだという。
「そういう作物はまだまだあるの?」
「あるなん! あるけど、その辺りの作物は副産物なん。意図的には増やさないなん」
「そうなんだ。てっきり面白がって増やしたものかと思ってたけど違うんだね」
「食べ物は粗末にしちゃいけないなん! 食べたらヤバい物はそれ相応に使うなん」
「毒性の高い品種とかはどうしてるの?」
「研究用に数株だけ残して研究してはいるなん。でも、他の作物みたいに量産はしていないなん」
「奥の鍵付きの部屋?」
「そうなん! あのブースに入れるのはご主人とかこの拠点の中心メンバーと、ここのドライアド・オリジンやニンフダフネだけなん」
いつも呑気で楽しそうなパラダイスではあるが、こういう所はしっかりしている。キャラメル一号はそういう所はちゃんとしてくれているので、完全に任せておけるんだけどね。
それからもう一つのブースを見せてもらった。毒草や危険な作物の管理ブースはまた今度じっくり見させてもらう事として、僕が個人的に一番ヤバいと思うブースを覗かせてもらう。そこは物凄くファンタジーな空間になっていた。地面をちょこちょこ歩く幼いドライアド・オリジンや、一番最初に生まれた植物妖精ニンフダフネの上位個体“マザーダフネ”が居る部屋だ。
ドライアド・オリジンは一定のタイミングで、頭頂部についている大きな花に受粉すると種を作ることができる。その種をキャラメル一号が監修して作ったらしい、魔素を強く吸着する植木鉢で育てることで増えていく。以前よりも生育速度が上がり、植木鉢に植わっている個体だけでなく、様々な大きさのドライアド・オリジンが居る。もう保育施設のような様相である。
その中央には特別性の巨大で豪華な花壇が。そこに横になっているのが、この拠点で生まれてしまった妖精族の中でも特殊な称号を持つ存在。彼女の名はマザーダフネのキャメル・ティターニアさん。彼女は植物妖精の女王だ。この拠点に定住しているルルエンシー・オベロンさんと同格になる妖精の王の一人となる。ルルエンシーさんは羽妖精の女王で、キャメルさんは植物妖精の女王。この世界にはまだまだたくさんの妖精が存在し、王や女王もその分だけ存在しているらしいよ。
「あら、お久しぶりですわね。我が君」
「キャメルさんも元気そうだね。それにしても……また増えたの?」
「うふふ……。この好環境すので、外からの者、我が子らと植物妖精のコロニーも充足しておりますので」
「まあ、ほどほどにね。あんまり増やし過ぎると、この温室だけでは入りきらなくなるよ?」
「大丈夫ですわ。異界樹の周囲ならば居心地はかわりませんの。わたくしはこの玉座でゆるりと過ごさせてもらいますけども」
「ママ、ずるーい!」
「「「「「ずるーい!」」」」」
「あらあら、うふふ…」
キャラメル一号でも唯一いう事を聞かないのがこのキャメルさんである。様々な妖精族が存在する中で、植物妖精の女王として生まれた彼女は並大抵の物の下にはつかない。その例外が魔物の森の王である僕だと言う事らしい。彼女も手の甲にキスをすることで、守護の契約を行っており、一族的にここに根付く気満々なのだ。僕は楽しそうになんなん言っているキャラメル一号を見て少し羨ましく思った。僕ももっと気楽に生きてみたいな……。




