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僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
拠点の拡充を始めよう
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52ー初めての狼王の縄張りー

 転生から305日が経過。カナンさんとサンドラさん、二人の太守の縄張りに任意発動型転移陣を敷設した。元から施設があったカナンさんの縄張りはリメイクを。サンドラさんの大平原には新しい巨大建造物を建設。まあ、僕がしたのは任意発動型転移陣の敷設だけで、リメイクも建築もファットテール部隊ノーマル班の仕事だったけど。

 この二太守の縄張りの中心に任意発動型転移陣を敷設したとなれば、他の太守からも要望が来るのは分かり切っていた。最初は局地にも近い場所であるからと説明したのだが、そこは設置した側のカナンさんとサンドラさんからも願いがあって僕が折れた。それによくよく考えたら物資の運搬の観点を考えれば、任意発動型転移陣は便利なのだ。僕の側にも相手の側にも利がある。


「この悪路を毎度走って来てたんですか」

「悪路? この程度なら私の縄張りでは割と普通であるぞ?」

「マジかー……。これが悪路じゃないなら悪路ってどんなところのことを言うの?」

「カナン姐さんの縄張りとかだな。私レベルならあの峻険もちょっと走りにくい程度だが」


 朝から上機嫌なヴィエラさんの背に乗せてもらい、ヴィエラさんの縄張りの中心地へと一直線に走っている。この縄張りは脚力が高く起伏に対応し、悪路走破に長けた魔物でないと生き残れないな……。この魔物の森北部は“岩棘(がんきょく)の森”と呼ばれる森林地帯なのか岩山なのかわからない名前の土地だ。ただ、確かに“岩棘”はそこらかしこにあるし、それに巻き付いたり、時には岩の棘を砕きながら樹木が根を張り巡らせている。

 この樹木も特殊な樹木で“灰鋼樹(カイコウジュ)”と呼ばれる灰色の幹をし金属に似た延性と硬度を併せ持つ樹木らしい。これも素材としてはいいかもしれないが、ヴィエラさんが言うには扱いが難しと言っている。魔物の森北方よりさらに奥に住んでいるエルフ系統の種族が、細々とその加工技術を受け継いでいる程度なのだとか。

 そんな異質な森を越えていくと、大小の岩の鋲がどんどん灰色から緑色に変化していき、ヴィエラさんの拠点に到着する頃には岩棘と樹木の幹もいろを変えていた。この周辺の樹木は“碧剛樹(ヘキゴウジュ)”と呼ばれるさらに希少な樹木となるそうだ。この樹木も氣の流れを見ているとサンドラさんの縄張りに生えていた“竜宝樹”に類似した性質がある樹木で、どちらがどうなのかはわからないが亜種と考えてもいいかもしれない。ヴィエラさんに許可をとってから灰鋼樹と碧剛樹の若木を持ち帰ることにした。ついてに岩棘も。持ち帰ればなんなんやじゃんじゃんがかってに調べるから。


「ここが我らが拠点にしている洞窟だな」

「かなり大きな洞窟ですね。大昔からここを使われているんですか?」

「そうだな。私が物心ついた時から住んでいる。それより昔の事は私の母から聞けばわかるだろう」

「え? お母さん?」

「ぬ? どうかしたのか?」

「いや、お母さんが前の長で、お母さんが亡くなったから長になったのかと思ってたから」


 どうやら僕の認識は間違っていたらしい。大神の縄張りも母権制で、女性個体が優位に立ちやすい。過去に男性個体が長になったこともあるらしいが、基本的には大柄で膂力に優れた女性個体が長になることが多いという事だった。

 洞窟の中には白いモコモコがたくさんいた。ヴィエラさんも狼形態の時は白いもふもふだけど、この数がいると狼とは言え物凄くファンシーだ。

 僕の事はヴィエラさんが事前に伝えてくれているのか、面識もないのにすれ違う狼の全員が一礼してくれる。ヴィエラさんからしっかりと説明があったが、大神の群れに属する狼魔物や聖獣、神獣の類いはパワーオブジャスティス。生存能力がそのまま階級に直結し、強者の立場が高い。だからと言って立場を傘に着て高慢な態度を取るような者を出すことは無いように教育しているそうで。僕の場合は気配や佇まいから分かるらしい。自分達よりも圧倒的に強い存在であると。

 この縄張りでは環境から基本的には狼の姿で生活するらしい。どこを見回してもほぼほぼ狼しかいないから。そのまま、最奥の少し広い部屋に入ると、ヴィエラさんが急に止まり、体勢を低く取る。その奥に居たのは人の姿をしている女性達。その全員からヴィエラさんに近い強者の雰囲気を感じる。もうこの感じからなんとなくわかって来ていたが、この人の姿の女性達が歴代の長なのだろう。


「ヴィエラ、ただいま帰還しました。本日はこの魔物の森の中央に縄張りを構える新たな太守にして“魔物の森の王”であらせられるユウゼン シロイ様をお連れしました」

「初めまして。ユウゼンです。以後、お見知りおきを」


 僕の態度に少し驚いたような表情をした女性達だったが、その中央の女性が錫杖のような物で地面を三回小突くと、ヴィエラさんが立ち上がり大きく伸びをした。

 なんとなく察したけど、形式的な儀礼を解けとのことだろう。

 そのヴィエラさんと話し始めた女性達の会話から物凄く驚かされた。今、僕の目の前には10人程の女性が雛段のような場所に座っているのだが、その全員がなんとヴィエラさんの血筋だと言うのだ。中央に座り、狼の頭蓋骨と牙、爪などで装飾されている錫杖をもっている女性が最長老らしいのだが……。見た目はいいとこ30代後半。この場で僕を除き最年少はヴィエラさんなのだが、そのヴィエラさんすら数千年を生きている。つまり最長老の女性は軽く数万年を生きていることになるのだろう。

 しかし、……口調は軽い。ヴィエラさんが11人居るようにしか感じられない。

 まあ、その辺りは気にしても仕方ないので、ヴィエラさんが思い出したように今回の要件を告げた。僕とヴィエラさんはそれなりに仲良く縄張りぐるみのお付き合いをさせてもらっている。そこでお互いの縄張りをもっと近づけるため、僕が任意発動型転移陣をこの拠点内部、もしくは施設を新設して付近に設置したいことを告げた。長老の皆さんは最初こそ訝し気な視線をヴィエラさんに向けたが、ヴィエラさんが保存食の関係でお世話になっていることや、度々持たせているお土産の出どころだと言うと……。


「なんじゃなんじゃ! そういう事なら早く言えばよかろうに」

「そうじゃぞ? いつまでもお主が渋るからワシらも友誼を結ぼうと考えておったのに、それが叶わなんだのだからのう」

「その通りですよ、ヴィエラ。私も是非ともお会いしてみたかったのですから。貴方が認める程の王者の資質を持つ殿方に」

「ってことで、長老議会は満場一致で問題ないよな?」

「「「「「「「「「「異議なし。むしろ早く」」」」」」」」」」


 いきなりフレンドリーな態度で接してくる長老衆の面々に驚きつつも、大神の洞と呼ばれるこの洞窟の倉庫近くに横穴を掘り、そこに任意発動型転移陣を設置した。事前に話しておいたが、そこからファットテール部隊ノーマル班と建築班の弟子衆がぞろぞろと現れ、トンテンカンと内装の美観を整える工事を開始。人族の出現には一瞬厳しい眼つきをした長老も居たが、その全員の体のどこか一部に僕がデザインした印象を掘り込んである事に気づいてからはそれも無くなった。

 人族のメンバーから聞いたのだけど、人族の中では組織の結束を高めるため、そのトップを示す家紋を体に刻んで忠誠を誓う風習が地方的にあるそうだ。それに加えて、その長の力が強ければ強いだけ拘束力が強く、入れ墨に僕の魔力を吸わせた魔晶石を混ぜ込んでいるので、さらに拘束力が高いらしい。これも一種の契約魔法で、下位契約魔法にい類する“忠誠契約”に含まれる。僕からするとここまでする必要はないと感じたのだが、“忠誠契約”は単に拘束力を持つだけの契約ではなく、かなり緩い眷属契約のような物でもあるという。契約者は対象者が持つ何らかの能力傾向を恩恵として受けることができるとかで、プラスの面があるならと僕はそれも今は認めている。


「のう、我らも貴殿の宮殿に足を運んでも構わぬか?」

「それは構いませんよ。ヴィエラさんも足繫く通ってくれていますし、縄張り間の交流は望むところです」

「……うむうむ。なるほど、なるほど、聞いていた通りの御仁であるな。本来“鬼”というのは粗暴で利己的なものだが、貴殿はそのような面が一切ない。むしろ友好的であり、害がないならば受け入れてくれる。そのような鬼がこの森の王ともなれば我らも安泰であるな」


 例の如く僕の仕事は任意発動型転移陣を設置までなので……。

 そこからはファットテール部隊ノーマル班と建築班の仕事だから、僕はヴィエラさん含めた大神の血統を引き継ぐ皆さんのお相手をする。詳しい話を聞くと、狼の群れでは最強の者が群れの長となるという。なので戦闘力としては現状の所ヴィエラさんが最強であるが、経験や知識の面ではそれが通用しない。それに長一人で決めるには重すぎる事案では、この代々の族長を務めた女性達が務める“長老議会”とヴィエラさんとで意見交換を行う。最終的に円満解決しない場合は多数決を取る。

 それから長老会議は必ず10人。それ以上になる場合は一番年上の個体が現役を退き、見守り役としての地位を確約され安穏とした老後を過ごすことになるそうだ。……ただ、長老議会の最長老はだいたい寿命で亡くなるので、これまで10人以上になったことは極稀だそうだけど。


「イガナエラ婆ちゃんはご隠居になりそうだけどな~」

「うむ。ワシはまだまだ現役じゃぞ! 本当ならば長老議会にも席は置かんでもいいのじゃがな」

「母上、それは流石にいけませんぞ。貴女の知恵には群れがいつも助けられておるのです」

「然り、おばあ様はまだまだ現役なのでしょう? でしたらばこれまで通り、我らと共に群れのために知恵を施すがよろしいかと」


 僕の目がおかしいなら話は別だけど、正直皆若く見える。……この世界では内包魔素が多ければ多い程長命になるし、肉体の劣化を抑える作用を持つので若く見えるそうだが。実年齢と外見年齢が懸け離れた集団だよな。この集団。

 最長老のイガナエラさんすらまだ30代後半の美魔女程度に見えるから……。皆さん何歳なのか知らんけど、地球生まれの元成人男性からすれば羨まし程の締まった美ボディをしている。ヴィエラさんもどう見たって高身長グラマラス大学生くらい。ボルダリングジムとかに通って体を動かすのが趣味って感じの適度に締まった体つきだ。ボディビル選手みたいな美筋肉ではなく、適度に締め込まれているというのがポイントなのだよ……。羨ましい。そんでもって出るとこ出てるから、地球に居たらば羨望の眼差しを受けたのではないだろうか?

 僕はまだその状態に至る前なのか、ようやく1mを越えたところだ。童子から若鬼へと存在進化したけど、ヴィエラさん曰く童子程ではないが、若鬼も幼い姿のままの鬼族らしい……。何だろうね? 何かが僕の成長を阻害しているのだろうか?


「ほう……。貴殿は固有派生の鬼人種なのか。しかも術法をかなり極めているのだな」

「アタシもユウゼン殿はどっちかというと術法特化の鬼人だと思うぜ。だけど別に格闘術もできなくないから怖いんだよな~」

「ほほう? ヴィエラがそこまで言うとはかなりの猛者なのだな。どれ、その内には組み手でも……」

「やめとけってシャカーラばあちゃん。プライドをボッコボコにされるぞ。ユウゼン殿はミラやゼラよりも既に強いんだから」


 若干の差異はあるが似た顔の女性の視線が僕に集中した。余程僕がミラさんやゼラさんに勝利していることに驚いたらしい。確かに体格を見る限りではまだまだ幼いと言うか、地球で言うなら幼稚園児だろうからね。その体躯からどのような動きあできるのか想像ができないのだろう。むしろ想像できる方が驚きである。それに勝ったとは言っても僕から攻めた訳ではない。どちらも相手の粗を突いた受け身戦法による勝利だ。正直かっこよくない勝ち方なので、僕も早く体を作って攻めの格闘術を行使できるようにしたいところなのである。


「いや、受け身戦法というがな? 初戦で相手の粗を突くことができるだけでも相当なものだぞ?」

「そうじゃ。しかも相手はあの変幻自在の足技を使うミラと、無尽蔵の体力で重撃乱打を撃ち込んで来るゼラじゃろ? その双方に勝つのはこれまた難しい事なのじゃ」

「な? アタシがいつも言う通りだろ? ユウゼン殿は外の見識が無いからだろうが、自己評価がかなり低めだ。だけど、アタシから言わせてもらえば、ユウゼン殿に勝とうと思えば、アタシだってかなり苦労すると思う。まだ、経験的な面でアタシは勝てるだろうけど……。それこそせこい戦い方になるからな。絶対にアタシは模擬戦なんぞしないぞ?」


 僕と族長一家で雑談している間に、ファットテール部隊ノーマル班と建築班のメンバーがそれなりの施設を完成させていた。それと同時に少し前にヴィエラさんがアダマンタイトをもってきてくれた分の交易品が転移陣側から荷車に乗せて運び込まれる。その途端に洞窟内が狼の遠吠えで沸き返ると言う事は……。皆、美味い燻製や干し肉に嵌ってるんだな。こりゃこれから大変だ。

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