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僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
拠点の拡充を始めよう
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53ー初めての大妖狐の縄張りー

 転生後310日程経過。ヴィエラさんが管理している大神の縄張りにも任意発動型転移陣を設置して来た。それからという物、大神の長老衆が拠点のバーカウンターに入り浸っているらしく、ガンテツさんからの是正要請が……。楽しく飲んでもらうのはいいのだが、あまり入り浸られても困る。僕らもの飲むし、住民からも避けは求められてるからね。

 という事で、ガンテツさんが任命した女性バーテンダーが、新設された来客用施設で新たに二号カウンターを受け持つことになった。基本的にお客さんはそちらに行ってもらう。現太守のメンバーは縄張り間の相談事などがある時は拠点の食堂側に来ることを許可してある。プライベートの場合は来客施設側を利用するようにルールを変えた。

 このような小さな変化があったことで、タマモさんの縄張りに行くのが少し遅くなったが、南に存在しているキツネの縄張りへも赴いた。魔物の森の南方は人類種も数多く侵入してくる場所で、魔物を狩り生計を立てる“魔物の狩人”が中心にある程度の人類種との接点がある。その他にもファンタジーにはよくありがちな“冒険者”という自由業の何でも屋も素材採取などに入って来るし、野生動物を狩る“狩人”や木材採取を目的に“木こり”などの姿も見られるそうだ。


「この縄張りは魔物がそれ程強くないからな。だからこそアチキらが生き残れたとも言える」

「確かにキツネだけ野生のキツネの割合が非常に多いですからね」

「くう……。痛いところを突いて来るが、これでも増えた方なんじゃ。アチキが長になってからテコ入れしてのう。それなりに尾の増えた妖狐も居る。それに貴殿が魔物の森の王となってからは野生のキツネから妖狐へ変異する個体も増えておるのでな。この縄張りも安定してきておるよ」


 魔物の森の南方は他の境界線と異なり、霊幻樹やきっりたった地形などに阻まれていない。境界付近はかなり魔素も薄まっているし、中央に拠点を構える僕からすると、この縄張りは魔素が薄く感じていた。たぶん、魔物化しない理由はここにある。魔物の森の野生動物が魔物へと至る理由は、魔素が滞留する場所で生活することで、体内の内包魔力量が増えるという段階を踏んで魔物に至る。魔物化と呼んではいるが、実際は存在進化と同じ現象が野生動物に起きているのだ。

 ちなみに、人類種は魔物化しないのか? と思うと思うが、人類種の魔物化はない。魔物化が無いと言うか、人類種は野生動物と異なり、元から高い魔力住管効率をもっているからだ。なので野生動物は魔法を使えないが、人類種は訓練さえすれば魔法が使用可能だ。野生動物は魔物化することで魔素などの氣類を操作する能力を新たに得ることで、魔物というクラスに生まれ変わり適応していく。

 その魔物化しにくい魔素の薄い縄張りだから防衛能力に難がある。そして、ここは僕からすると非常に重要な縄張りだ。高純度のミスリルがそれなりに露出している地点だから。冒険者の中でも実力のある物が何とか採掘しているという感じで、あまり奥地に入り込めないのが幸いだろう。だからこそキツネの縄張りは今の所荒されてはいないし、人類種との絶妙な均衡が保たれている。広い魔物の森だからこそだ。


「しかし、その内には“キリル王国”や“アロンカムル王国”などが勢力を拡げて来そうなのじゃな?」

「そうだね。神族に頼まれたとは言え、ハルドエン帝国の国力を削いじゃったから。人類種側の国家群のパワーバランスが崩れちゃったんだよね。これを期にハルドエン帝国の一強時代から抜け出そうと周辺国が動き出すのはごく普通の考え方だと思う」

「それはそうじゃのう。我々魔物もそじゃが、強者の縄張りに綻びが生まれれば周囲の主が削り取りに動く。それと同じという事」

「そうなんだよね。で、僕は何かされなければ人類種とは争うつもりはないけど、何かされたらばそれなりの報復をする。それはハルドエン帝国にも伝えたし、それはハルドエン帝国だけに限ったことじゃない。タマモさんの縄張りも僕からすれば大事な場所だ。だから、防衛の手は固めておこうと思うんだよ」


 僕のこの発言に物凄く上機嫌なタマモさん。機嫌がいいのはいいことなので、深掘りせずに今回の要件について動こうと思う。今回はサンドラさんの縄張りのように、結界と建物一つ建てるだけでは解決しない。南方のタマモさんの縄張りは緩やかな山の山頂から中腹までの範囲を荒く主張している。この縄張りにはタマモさんなどの上位の魔物ならば問題ないが、中位や下位の魔物には対処しきれない多種の魔物も居るのだ。代表格が“鉱石トカゲ”。鉱石を主食にする蜥蜴で、人類種の間では主に“アイアンリザード”と呼ばれる個体が魔物の狩人や冒険者により討伐される。アイアンリザードならいいのだが、“ミスリルリザード”となると面倒個の上ないのだけどね……。

 それらも込みでキツネの縄張りを僕の縄張りで見つけた迷惑な樹木で主張することにした。

 その樹木は“幻惑樹”と呼ばれる食人植物だ。食人とは言うが、効果があるならば魔物も殺して養分にするので、野生動物はもちろん魔物も油断できない樹木になる。しかし、この幻惑樹には一定の生育条件があるのと、妖術が使えるキツネ達にはほぼほぼ影響がない。妖術が使えると幻惑系の術法にある程度の耐性がつくからだ。なのでちょうどいい。

 見た目は葉が青紫色の紅葉で、それに加えて僕からするとかなり不快な臭いを出している。アンモニア臭と言うか…ツンときて鼻に付く嫌な臭いだ。


「幻惑樹かえ……。まーた恐ろしい物を持ち込んでくれるのう」

「いや、これを植えるのは人類種の国家側にある魔物の森の外縁だよ。タマモさんの縄張りには植えない」

「それならいいんやが……。それやと人類種の国がざわめかんかえ?」

「大丈夫。幻惑樹の生育条件を僕が知ってるからね……。今回はアカメカブトトカゲ特殊部隊が各所に植えに行ってくれるよ。人類種側はこれで問題なし。それからタマモさんにも任意発動型転移陣を設置する建物を用意するんだけど、それに加えて妖狐の一族の生活環を聞いておきたかったんだよね」

「生活環?」

「うん。竜種で言えば、サンドラさん達は縄張りでは竜体のほうで過ごすことが多いみたいだけど、カナンさんは人の姿で集団生活してた。ヴィエラさんの所なら狼姿で集団生活してたし」

「そういうことならば、見に来るかえ?」


 タマモさんに案内され、たどり着いた場所を見てちょっと驚いた。妖狐の内、人の姿で生活できる者は人の姿で生活し、人と同じような建屋を作って生活していたのだ。茅葺屋根の昔懐かしな日本家屋が数軒の木を連ね、井戸もあれば畑もある……。普通に人類種と遜色ない生活をしている感じだった。道具も普通にあるし、僕の拠点から物々交換で持って行った布団なども、言った通りにちゃんと管理ができている。妖狐って本当に魔物と言っていいのだろうか?

 僕のこの感想には苦笑いするタマモさん。僕が思った通りで、人類種の中には妖狐の一族は亜人の一種と考えている層もあるそうで、亜人に属す獣人族からは同じく獣人と扱われ取引すらあるようだ。この村にある道具で品質の粗悪な物は人里で買って来たものなのだろう。品質がいい物は僕の拠点から物々交換でもらった物になる。

 ……これはちょっと予想外だったけど、人として生活できるならば都合がいい。僕はタマモさんが用意してくれていた広い土地へ向かい、まずは僕と一緒に来たファットテール部隊ノーマル班とで小さな社を作り、その中に任意発動型転移陣を設置。清浄な動作をしていることを確認したところで、転移陣から建築班の弟子たちがぞろぞろと現れる。


「うん? これで終わりじゃないんか?」

「もしかしてなんですけど、近くの集落と取引とかしてるんでしょ?」

「うっ……。ようわかったのう」

「それくらい見ればわかりますよ。なので、ここに九尾を祭る神殿…いや、神社を作ります」

「じん…じゃ? なんじゃそれは」

「ええ。地球で僕の出身地の文化圏にある神様のお社です。タマモさん達にはその管理をしている神職に扮してもらい、存在があっても問題ないように既成事実を作り上げようかと」


 かなり広いエリアを整地し直し、タマモさんの縄張りにランドマークとなる九尾を祭る神社を作り上げた。幻惑樹もあくまで侵入を抑える程度の効果しかないので、このように対人類種の窓口を設けてしまえばいいのだ。この神社に対して何か言って来るならば、僕が動けばいい。この神社とその周辺に生きるキツネ達は僕の大切な仲間だ。その居住権を脅かすことは何物であっても許さない。

 神社の敷地外縁には聖結界の応用で陰陽結界を張り巡らせてある。この結界は聖結界とは異なり、侵入者の撃退などの効果は弱いが、侵入者を極端に弱体化させるという嫌がらせ系のトラップになっている。さらに陰陽結界の内部は、余程の術者でもない限りは妖術しか使えなくなると言うめんどくさい仕掛けも施した。ちなみに、僕レベルの内包氣量になれば無理やり魔法や聖法、導術を使うことも可能だが、むちゃくちゃ疲れるので絶対やらない。

 あと、デザインにもかなり拘らせてもらった。

 今回は地球の神社のイメージを丸々持ち込んでいる。いつもならファットテール部隊ノーマル班に設計から建設の全てを丸投げしてしまう所だが、今回は外部勢力への威嚇の意味もあるので僕が全面的に製作に手を入れている。主にデザイン面。


「それにしてもやり過ぎではないか? 入口にいくつも並んでいる赤い柱?のような物には害意のある者を強制転移させる術式がほどこされているようじゃし。建物門前のあの九尾を模したゴーレムもえげつないじゃろ……。建屋にしても最外郭も含めば三枚の外壁と防衛施設に本殿が護られ、本殿と防衛施設の間には水堀の代わりなのだろう池まである。豪奢で良いのだが、朱色の柱や装具に白色の土壁かえ? これをアチキらで管理するんじゃろ?」

「それに関しては蟻型ゴーレムに任せればいいですから。対人の応対のみ妖狐の誰かにお願いしておけば特に問題ないようにできます」

「……そろそろ蟻だけじゃのうて人型は作らんのか?」

「それはスーパータンジェロ部隊に直訴してください。蟻にこだわってるのは彼らなので」

「それは面倒じゃな」


 流石はノーマル班と言う感じで、非常にいいできの神社が完成した。なんとなく平安貴族のお屋敷を彷彿とさせる見栄えではあるが、必要な設備は整っているので特に問題ないと思われる。神社やお寺のことに関しての知識はあまりないので、それこそ昔の古めかしい建物から想起される建物ができあがった感じかな?

 一番最初にイメージできたのは寺だけど…北山鹿苑寺と東山慈照寺。次に厳島神社。次は平等院鳳凰堂……。それ以外はアニメで見たことがあるような長い石段で上にあがると見えてくる神社だ。それだけならまあよかったんだけど、金閣寺のイメージが強かったのか? 瓦が全部金色になっていた。何をどう考えたらそうなったのか知らんが、黒い瓦に金箔を張ったわけではなく、何かの金属に金を混ぜ込んだ屋根材になっている。

 かなり重いはずなのだが、それでも特に建物に負担は見られない。どんな設計してどんな資材を使っているのかまでは詳しく知らんけど、これは後で調べておく必要があるだろうと思う。うん。朱色に塗った塗料からも何か魔力が放たれているし、絶対に希少な素材を使って贅の限りを尽くして作ったな……。


「ふむ……しかし、連中はどこへ消えた?」

「連中?」

「ああ、のーまる班だったか? 物凄い勢いでこの荘厳な建物を作り上げたまではアチキも見ていたのだが、それから物凄い勢いでどこかに消えて行ったのだ」

「ああ、たぶんどこかで何かを作ってると思うよ? あの連中は何か作ってないと落ち着かないってやつらだから」


 タマモさんがどうしても気になると言うので、僕が気配を氣の流動から読んで探した。

 その見つかった場所で、タマモさんが大絶叫を上げることとなる。まあ、絶叫ではないけど、僕もそれなりに驚かされた。タマモさんが目の前にしているのは先ほどまで質素な雰囲気を滲ませていた茅葺屋根の和風家屋だったのだが……。某ビフォーとアフターな番組も驚きな建て替えが行われていた。

 タマモさんの絶叫が悲しみによる物か喜びによる物かはわからないけど、武家屋敷風に作り変えられた家屋の中では人の姿を取れる妖狐たちが狂喜乱舞しながら走り回っている。僕からすれば便利になったしそれでいいと思う。崩れ落ちながら涙を流していたタマモさんも、いきなり駆け出して門扉を潜り、つっかけを脱ぎ飛ばしながら畳にダイブ。……ああ、あの絶叫と号泣は喜びからのものだったのか。ならこれで問題なさそうだな。

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