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僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
拠点の拡充を始めよう
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51ー地の王の大平原ー

 天王山の次は竜の大平原と呼ばれる広大な平原地帯。サンドラさんと魔宝石竜族が縄張りを構える広大な場所だ。この平原地帯を囲うように霊幻樹と呼ばれる強い魔力を放つ針葉樹の樹海が存在しており、竜族のような強大な魔力や聖氣を内包する生物でなければ方向感覚を狂わされてしまう。僕も問題ないけど、人類種は霊幻樹の魔力にやられて動くこともできなくなる。この大平原はそういう意味でも難攻不落の要塞だったのだが……。人類種は様々なことを考える物だ。詳しくは聞いていないが、仔竜を拉致した。

 まあ、その手が今も健在だったとして、もうここに来ることはできない。

 サンドラさんの縄張りへ入るのと同時に外縁に僕の縄張りと同じような聖結界を展開する魔道具を仕掛けてきた。サンドラさんに伝わることはないけど、聖結界は特殊な結界だからね。人類種の扱う術法での小細工程度では越えられない。どのようなものであれ術が不完全になり、人類種が打ち出す程度の策謀は聖結界の影響で破綻する。


「ほ、ほう……。移動中にもそんなことをしていたのだな」

「そうですね。これくらいしておけばもう外からの圧力はないでしょう。それでサンドラさんが僕を呼んだ要件ってこれの事ですか?」

「そうだ。ワシの領からは何も出しておらんからな。ワシら魔宝石竜族がこの大平原で何故生き残れているかの秘密だ。この“竜宝樹”があるからワシらは生き残っている。元はワシらもカナンの縄張りの出なのだ。しかし、竜も生き残るために縄張りの拡張を行い、ワシが長を務める魔宝石竜族の縄張りと飛竜族の縄張りが残った」

「他にもいろいろな竜が居たと言う事なんですか?」

「そうだな……。過去にはもっと多くの竜が存在した。いや、世界中くまなく探せばまた違う竜が残っているのだろうが、この近辺の種族は魔宝石竜と飛竜のみだ」


 竜族にもいろいろあるんだなと、思いつつ僕の目の前に聳え立つ不思議な樹木を見つめる。非常に特殊な樹木で魔素を世界樹並みに吸い込み、同時に地中の元素をゆっくりと取り込んでいるのもじっくり観察していて分かった。これは楽しい。人工宝石ならぬ樹工宝石って感じだ。この世界の化学技術や概念がどれくらい成長しているかわからない。だから知識爆弾の投下は控える。それもサンドラさんに聞いてみて判断するところだ。非常に楽しい樹木だから、苗木を持ち帰りいろいろと調べようと思う。

 他にもいろいろと気になる物がたくさんあったけど、今回は“竜宝樹”だけにターゲットを絞った。

 サンドラさんとその同胞が住んでいる大平原には興味深い植物が多い。異界樹もそうだったけど、目新しく珍しい植物は見ていて楽しいのだ。たぶん、キャラメル一号が居たらば猛烈な勢いで走り回ったかもしれない……。彼は趣味で植物図鑑を編纂している。僕から見てもあの図鑑の完成度は非常に高い。いずれは世に出してもいいと思う程だ。

 それからカナンさんの縄張りに任意発動型転移陣を敷設したので、他の繋がりのある太守の縄張りにも任意発動型転移陣を敷設することになっている。別にカナンさんの縄張りだけに任意発動型転移陣を敷設するだけなら、建設班ことファットテール部隊ノーマル班を随行させることはなかった。ここにも敷設するのだが、この大平原には隠れられるような場所がない。だから、一から神殿であり、集会場のような場所を建設する提案をしていたのだ。


「ほい……。任意発動型転移陣の敷設完了。動作も正常だよ」

「おーし! ほんじゃガッツリ行きますかーっ!」

「「「「「おーう!」」」」」

「本当に規格外の事をしよるな……」


 サンドラさんの縄張りのど真ん中に巨大建造物を建設ナウ。僕は基本的に触れてはいけない。棟梁はノーマル一号だし、職人の数は十分に足りている。ノー子隊員とマル子隊員だけでも問題ないが、人類種の女性職人達も装飾や細かい組みつけを中心の作業をしていた。僕が建築に参加してしまうと、完成度は上がるのだが弟子のお嬢さん組が成長しない。だから僕が手を入れることは拒まれ、僕にしかできない任意発動型転移陣の敷設作業だけを僕が行った。

 ここにスーパーマックスノー一号が居たらば、その任意発動型転移陣の敷設作業すら僕がやらずに終わってしまうんだけどね。スーパーマックスノー一号は本拠地で個人認証魔道具の製造をしているので、こちらには来ないみたいだけど。

 サンドラさん、キファドラさん、メーオドラさんはヘルメットにツナギを身に着け、分厚い手袋に安全靴を装備した女性職人達の作業風景を眺めている。僕は鉢植えに移した小さめの竜宝樹を観察しながら、時たま神殿兼集会場の建設がどの程度進んでいるかを確認。その程度で問題ないのだ。

 科学の知識がこの世界の薬になるか毒になるかはわからないけど、この竜宝樹にはいろいろな可能性がある。僕個人だけでもできそうだけど、大気中の魔素を吸入し高密度に圧縮した上で、地下から吸い上げた元素によってできる鉱石が異なる。魔法を応用すればこの竜宝樹に思い通りの鉱石を作らせることができてしまう? まあ、狙っても必ず同じとは限らないみたいだけど。


「ユウゼン様は何をされておられるのでしょうか?」

「竜宝樹の鉢植えを抱えて何か術法を行使しておられるようですが」

「それが分かれば苦労はせんよ。あの鬼の王はワシらの考えの及ばぬところで何かを考えておる。何かしらわかるようになってから尋ねた方が楽であるぞ」

「なるほど、サンドラ様でも見通せないわけですか」

「ああ。あの男は多くの物を持ちすぎておる。故に全形が全く分からぬのだ。見通すなど夢のまた夢…外形すらつかめんよ」


 なんかサンドラさん達が僕の方を見て話してるけど、僕が振り向くと小さく手を振って来るだけで“気にするな”的な空気を出して来る。まあ、それなら僕は僕の世界にひたすら没頭させてもらえばいいと思う。竜宝樹を使った実験はいろいろやることがある。まずは竜宝樹で作れる鉱産物をある程度確かめる。この世界で使われている鉱石だけなのか、それ以外も知識と元素さえあれば作れるのか……。まずはここが焦点。次の焦点はそれがこの世界でのみ産出する魔宝石や、魔鉱石の類いとなるかどうか。最後にこちらの世界限定の元素物質があるかどうかの洗い出し。

 中には危険物を扱う事になるので、ちょっと神経質な作業になってるけど……。本気で危ない物もできるか作ってみなくてはいけない。ただ、僕の知識にも限界がある。確かに僕は高校在学時では理系だったけど、化学は苦手だったので科学の知識は不安も……ちょっとある。……ちょっとだよ? 

 中学生で学べるレベルの基本的な科学の知識は問題ないので、魔法を用いて純粋な元素を取り分けるなどが可能だ。魔法は魔力を用い、明確なイメージで魔力を操作することさえできれば、かなり無茶なこともできてしまう。土中の元素を脳内イメージで動かし、元素を結合させていく。今は比較的安全なやり方をしているけど、この方法は応用の幅が非常に広く、使い方によっては非常に危険だ。


「ん? クン……。匂う。匂うぞ? ダイヤモンドの匂いだ」

「……確かに。ですが、先程までは少しも……、まさか?」

「確認します」


 目を瞑りながらの作業だったので、メーオドラさんが近づいていることに気づけなかった。そして、この実感がかなり危険なことが浮き彫りになる。竜宝樹を介して任意の元素を結合させ、竜宝樹の果実にすればそこまで危険はない。しかし、僕個人が制御を行うとなると、微調整が非常に難しいのだ。メーオドラさんが僕の抱えていた竜宝樹の鉢植えをひょいっと持ち上げると……。

 僕の体を包むように巨大なダイヤモンドの柱ができあがってしまったのだ。人工ダイヤモンドになるのだろうけど、気づいて目を開けたらば大変なことになっていた。

 メーオドラさんは間一髪回避したみたいだけど、僕は魔法の中心に居たので少しの空間を残して閉じ込められている。魔宝石のダイヤモンドであるので魔法は通らない。仕方ないので……導術を使い、局所身体強化を施して一部を粉砕。そこから脱出。やはり思ったよりも扱いが非常に難しいな。ダイヤモンドの石柱を見上げていても始まらないのだが、これはどうすればいい物か?


「じゅるり……。おっと、ワシとしたことが。のう、貴殿は一体何をしていたのだ?」

「ああ、竜宝樹の能力を利用して、任意の鉱石を作れないか実験していたんです」

「……ん? 竜宝樹を介さずとも貴殿の法術でも扱えているではないか」

「いや、これは扱えているとは言わないよ」


 化学の知識を利用して…という部分を省いて説明するのは難しかった。

 僕の扱ったこの魔法は非常に扱いが難しい。例えば脳内に大きさや純度、透明度などをある程度イメージできれば、それを構築した方が簡単だと思う。実験的に作ってみたんだけど、そっちは魔宝石にはならなかった。魔宝石も作ることはできるんだけど、その場合は元素記号と現物のイメージを持ち、元素の段階からしっかりと順序立てた組みつけをした方が、消費魔力的にも品質的にも上質だった。それはサンドラさんの目を見ていればよくわかる。

 魔宝石竜は普通の宝石でも体内に取り込んで、長時間かければ魔宝石の外殻にすることができるらしい。だけど、魔宝石の方が僕らで言う味覚的な部分で美味しく感じるらしいのだ。

 天然ダイヤモンドか人工ダイヤモンドかは特に関係ない。どちらかというと重要なのは透明度や純度、魔素の含有量のようだ。それに複雑でない元素結合の鉱石はいい。だけど、複雑な配分で組み付いている原料などは難しいと思う。それからこれは構築する物質の構造の複雑さ加減では上手く行かない。ダイヤモンドはなんとかできたけど……。

 正直、家電製品に付き物の抵抗器の感覚だね。アレがないと、通ってはいけない部分に過剰な電圧がかかったりする。僕の場合は内包魔力量でゴリ押しはできるが、それが効率的であるかは……。竜宝樹の導くように魔力と魔法で選別した元素を流した方が効率的なのだ。


「おう、ご主人! 建築作業は終わったぜ!」

「相変わらずの速さとクオリティだね。それじゃ、内見に連れてってあげてよ」

「あーい。じゃ、アタイらが案内したるでー。サンドラの姉やん。こっちやでー」

「ほらほら、早く見る」

「お、おう。分かった。分かったから……」


 大平原の長もタジタジだな……。サンドラさんは僕みたいなタイプの扱いには慣れているみたいだけど、純粋な好意で振り回してくるタイプは苦手みたいだ。ノー子とマル子が両手を掴みながら引っ張り込んで行くのを、僕やキファドラさん、メーオドラさんも暖かく見守っている。サンドラさんは子供の扱いが苦手だと言うのは初めて知ったけど……。

 キファドラさんとメーオドラさん曰くそうではないらしい。サンドラさんは子供は好きらしいのだが、どう扱っていいかよくわからないだけなのだとか。それなのに子供からはとても好かれているらしい。今は来客中なので知覚に他の竜族の影はないが、この縄張りに居る時はいつも子供の竜に囲まれているらしい。

 ……うん、よく見るとちょっと視野を広げて見て見ると、結構な数の仔竜がいる。遠くから様子を見るように興味津々な様子でこちらを見ている。

 別にもう危ない事はないので、近くに寄って来ても問題なし。なので僕が仔竜達の近くに寄ってももう危なくないと言ってこちらに導いた。サンドラさんはあっという間に仔竜の群れに囲まれる。竜族も他の縄張りの魔物と同じくある程度のレベルになり、術練度にならないと人の姿を取れない。なので仔竜達はまだ竜の姿でサンドラさんやキファドラさん、メーオドラさん達に群がる。


「こらこら……。今はお客様がいらっしゃいますから」

「僕は構いませんよ。それにしても…お二人も大人気ですね」

「それはこの大平原での子育て方針によるところが理由かと。この子達は私共の子供ではないのですが、この縄張りでは性別や年齢関係なく皆で育てていくのです。ちょっ……やめなさい。この方は大事なお客様ですから」

「子育てになれている年代から、私共のような若手まで全員で育てることで、様々な面で学習する。それがこの縄張りでの習わしなのです」


 それはいいんだが……仔竜の数多くね? なんだかわからんけど、仔竜の皆は遠慮がない。遠慮がないと言うか、僕がサンドラさん達と親しい事を知ったことで、僕もこの縄張りの一因のように扱われているらしい。トリケラトプスのような姿をしている赤い魔宝石竜の子供が僕を背に乗っけて走り出す。……神殿兼集会場に連れていかれるが、僕はその神殿の設計図を見た事あるから内装、知ってるぞ?

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